「それで手塚がね〜…。リョーマ、聞いてる?」
「……聞いてるッス。」
「じゃあ今何の話してたか言ってみて。」
「……。…手塚部長の話。」
「ちっがーう!乾がメインの話!もうやっぱり聞いてなかった!!」
聞けるわけないじゃん、と呟いた声は彼女には聞こえていないようだった。
先輩の話はいつも色んな人が出てくる。知ってる人が出てきても嫌だし、知らない人が出てきても嫌になる。
拗ねる先輩を横目に見ながら、怒りたいのはこっちだって…と思ってもやっぱりこの人だけは怒れない。
「ねー、リョーマ。…好きなんだけど。」
「それ前にも聞いた…。」
「うわーん!!バカ!!浮気してやる!」
「してやるって…。まだ付き合ってないじゃん。」
表情を変えずにファンタを飲む俺の隣で先輩はしきりに泣きじゃくっている。
それを見て少し満足する俺も俺だけど。
それで?とそっけなく言うと先輩はちゃんと聞いてよ?と柔らかい笑顔を浮かべていた。
この笑顔に弱いとは絶対に言ってやんないけど。
「付き合って欲しい…です。」
「ふうん。…そう。」
「そう、って答えになってないし!リョーマ冷たいよ…。」
先輩は口を閉じて、それから俺の方を見た。
「私、本気なんだけど。」
突然真面目な顔をする先輩はちょっと意外だった。
遊びすぎたと反省してたらつい手が出て、先輩の頬に触れたと思ったらもう口付けていた。
「び…、びっくり…した…。」
赤くなって呟く先輩に悪戯心が芽生える。
もう一度唇を重ねると驚いた先輩と目が合った。わざとらしくにやりと笑うと、先輩は慌てたように目を閉じた。
「リョ…マ…。」
濡れた唇を指でなぞる。従うように少し開いた口の中に親指の先を入れて、舌先をなぞると先輩はびくりとした。
「浮気しないでよね、先輩。」
不敵に笑って親指を舐めると、先輩は真っ赤な顔で何度も頷いた。
共有した唇が甘い。
だけどそれ以上に、心まで強奪してしまったような。
4.指が熱い