「先輩!今日は暑いっスね!」

「そうだね。」

「俺もう汗でベタベタっス!」

「テニスしてたからね。」

「こんな暑い日は水浴びしたくなりませんか!?」

「そうだね。」

「先輩、俺の話聞いてます?」

「ああっ!分量間違えた!赤也のバカ!」


ゴウンゴウンと大きな音をたてて回る古ぼけた洗濯機の前で私は慌ただしく動き回っている。
全く、新しく買いなおしてくれればいいのに幸村が「まだ使えるんだろう?ならいいじゃないか。俺は洗濯機よりもネットを新しくしたい。」とか言うからこの有り様だ。
洗剤の分量を間違えて、アワアワとしている洗濯機が不憫に思えてきたけれどこんな場合の対処法が私の中にはない。
その間にも洗濯機からは泡が溢れてくる。


「イヤアァァ!!どうしよう!」

「水の量増やしたらいいんじゃないスか?洗剤薄まるかも。」

「え!?そうかな!?」


慌てていた私は洗濯機の蓋をあけてバケツに溜まっていた水をザバーッと追加した。
ゴフンと音をたてて洗濯機から水まで溢れだした。
それでも洗濯を続けようと洗濯機はガタガタと激しく揺れ始めた。


「ギャーーー!!やめて!止まって!ごめん私が悪かった!」


謝りながら洗濯機のボタンをバンバン押してみても洗濯機は止まらない。


「アハハハハハハ!!先輩サイコー!ギャハハハ!!」

「笑ってないで助けてよ!」

「あー…おっかし〜…。だって俺の全身砂被ってるし、せっかく洗濯してるのに触れないっスよ。」

「そうだよね!でも今は非常事態だからね!」


洗濯機の蓋を必死で押さえている私の後ろに立つと、赤也はぴっとりと私に密着した。


「あ、赤也…っ!」

「なんスか?」

「なんスか?じゃないっ!」

「せっかく手伝ってあげてるってのに。」


赤也は私の腕をなぞると耳元でフッと笑った。
ゾクリと背中が粟立つ。


「…っ、や。」

「先輩…。俺、先輩のこと好き…。」

「…………っ。」


「何してるんだい?お前たち。」


幸村がにっこりと微笑んで腕を組んでいた。






「それで、洗濯機が壊れるのをじっと見ていたわけか。」

「……すみません。」


部室で赤也と二人で並んで正座させられた。
幸村が怖くてさっきから顔があげられない。ちらっと隣を見ると、赤也も青ざめていた。
部室の外にある洗濯機からここへ来るまでに幸村に引っ張られていたため、赤也の右頬は可哀想なほど赤くなっている。


「赤也。」

「は、はい…。」

「練習メニュー増やすからね。朝はいつもより1時間早く来ること。」

「い…っ!?」

「わかったね。」

「…はい。」

「それじゃあ、部活に戻っていいよ。」

「へ?それだけ…っスか?」

「フフ…増やしてほしいのか?」

「なんでもないっス!」


赤也がバタバタと走っていくと、部室には私と幸村だけになった。


「幸村…、その、ごめん…。洗濯機壊しちゃって…。」

「ああ、いいよ。新しいのを買うから。」

「え…?でも…。」


後日、本当に新しい洗濯機が部室に届いた。
それと一緒に新しいネットも届いた。

赤也が一週間以内に私に告白できるかできないか、という賭けをして幸村がボロ勝ちしたという話を聞いたのは、私と赤也が恋人同士になった後のことだった。




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