「あっついわね〜!」


ある初夏の日のことだった。
気温はさほど高くはないが、刺すような日差しと湿気に水を被りたくなるような土曜日の午後。
どこから持ってきたのか、少しぼこぼこになった金属製のたらいの中では水と氷と人数分のスポーツドリンクが涼しげに泳いでいる。
その隣には同じようなたらいに水と氷と人数分のタオルが浮いていた。
部室の前に出された長机の上にたらいが2つ。
立海大付属中テニス部長机名物だった。


対照的な性格のRとKを学内で知らない者はいない。
あの真田を支配下におくRと違う意味で支配しているK。
二人に逆らうと何が起きるかわからない。そう暗黙の了解である。
超人クラブと言われていたテニス部がますます常識とかけ離れていったのはこの二人がマネージャーになってからだ。

人としてはどうなのかわからないが、マネージャーとしての質はピカイチである。
選手の体調管理はもちろんスポーツドリンクの濃淡の好みまで詳細に分析されている。
治療対処、スポーツ用品の知識、買い出しと値切り交渉、何をやらせても期待以上の偉業を成し遂げる。
それが全国区テニス部のマネージャーだった。

おまけに容姿が良い上にさらりと気がまわる。
他の部活はこぞって二人を勧誘したが、二人は頑として話を聞かなかったという。
環境や場合によって長机の上に乗るものが変わるのだ。

長机の後ろのイスに座りながら、二人は一息ついていた。
仕事の合間のつかの間の休みである。



「暑い…。Kちゃんなんとかして…。」

「えっ…。じゃあ…冷えたタオルは?」

「気温さげて。」

「…Rさん、無理だよ……。」


もうすぐ休憩の時間だ。


「ふぅ…今日は暑いのう…。R、タオルあるか?」

「お疲れ様。はい、タオル。ドリンクも。」

「ありがとさん。…ん?これ、いつもより甘いぜよ。」

「仁王って、あまり汗かかないでしょ。元々そういう体質なんだろうけど、今日みたいに急に気温が高くなったりすると一番体調が崩れやすいから…。ドリンク変えてみたの。仁王は低血圧だし、今日は一段とだるそうだけど大丈夫?日差しがきついならこまめに日陰に入って休んでね。真田の許可は取ってあるから。」

「……さすが。うちの部活の敏腕マネージャーはやるのう。他の部が欲しがるわけじゃ。」

「ふふ。ありがたい話よね。」

「弦一郎さん!お疲れさま。はい、タオル。」

「すまん。いつも助かる。」

「これくらい全然!何か欲しいものがあったら言ってね!それから…これは弦一郎さん専用。ドリンクの容器、ワンサイズ大きくしたんだよ。」

「俺はそんなには飲まないぞ。」

「そうなの…。無意識かもしれないけど、弦一郎さんあまり水分を取ろうとしないの。でも代謝はいいから水分をもっととらないと…。本当は今も少しきついでしょ?日差しと運動のせいじゃなくて、脱水症状の初期症状だと思うんだ…。」

「そ、そうか…。これから気をつけるようにしよう。」

「そういう時は心配かけてすみませんでした、でしょ。」

「もー!またいじめる!」


カラカラと笑うR、怒るK、落ち込む真田、面白そうに見ている仁王。
四人から少し離れた場所で、ラリーを終えた赤也がふと柳に尋ねた。


「柳先輩、あの二人っていつからうちのマネージャーやってるんスか?」

「二年の春からだ。赤也が入部する1ヶ月前だと記憶しているが。」

「あん時は大変だったよな〜。幸村が連れてきたんだっけ。」


あの時、を思い出して三人はなんとも言えない気分になった。




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