幸村が二年になる頃、幸村はもうすでに部活の実質的な部長になっていた。
「マネージャー欲しいな。」
という幸村の一言で全校生徒の詳細が全て洗われ、マネージャー候補が数人選抜された。
RとKを除いた女子は喜んで参戦。
後の二人は探そうにも探し出せず、探しても逃げられ、真田とジャッカルは負傷して帰ってきた。
そんなわけで幸村出動。
放課後までもうあまり時間がなかった。
「ようやく捕まえたよ。フフ…いい足してるね。速いな。」
「キャー!」
Kは幸村が苦手らしい。
「マ、マネージャー?」
「正しくは候補だけどね。どうかな。今日の放課後、詳しい説明と試験があるんだ。」
「きょ、今日は用事があるから…!」
「残念だけど調べはついてる。逃がさないよ。」
「いやー!離して!だってRちゃんがテニス部に近づいたら絞め殺すって!」
「またRか。…困ったな。どこまで手回ししてるんだろうね。」
「あの、幸村くん…。とりあえず帰…。」
「人質確保。」
幸村はにっこりと笑って、Kはあっさりと誘拐されてしまった。
「幸村がお怒りじゃ。」
「私も怒ってるのよ。誘拐とはね…それもKちゃんを…。」
「お前さんもマネージャー候補にあがっとった。」
「うるさいのも面倒くさいのも嫌いなの知ってるくせに…。」
「ククッ。」
「か弱い女の子が追い回されてるっていうのに助けてくれないの?」
「俺はお前さんがマネージャーになることに賛成じゃけぇのう。面白くなりそうじゃ。ま、頑張りんしゃい。」
「はぁ…Kちゃんを取り戻したらすぐに帰るからね。」
「さあて。幸村は甘くないぜよ?」
くつくつと笑いながら仁王はRの髪の先をくるくるといじった。
それを少々不機嫌そうに見つめて、Rは部室の扉を開けた。
「あ、Rちゃん!」
「………何してんの?」
部室に入るとKと真田が仲良くお茶を飲んでいた。
「フフ…待ってたよ。」
「これどういう状況…?」
「君にもマネージャー選抜試験を受けてもらう。他の子たちならすでにテニスコートに行ってるよ。」
「私の質問はスルーですか?ていうか、マネージャーにはなりたくないから受けないって言ったじゃない。」
「ふうん…。」
幸村はツカツカとRの前まで歩いてくると、笑顔で圧倒した。
「な、なによ。」
「あれを見てもそんなことが言えるのかい?」
幸村が親指で後ろの二人を指した。
Kと真田の二人だけの世界ができている。
真田は妙に嬉しそうに饒舌になっているし、Kの目にハートの光が入っていたことは言うまでもなかった。
「フフ…一目惚れ、っていうのかな。ああいうの。」
「…まじで。」
予想外の出来事に頭を抱え込むR。
それに対して乙女全開のK。
「あの…Kちゃん、マネージャーの件なんだけど…。」
「私、真田くんのために頑張るね!」
「お前なら大丈夫だ。負けてはならん。自分を信じるのだ!」
ガツーン!
真田を一発殴って、RはKの手を掴んだ。
「幸村…癪だけどそのお遊びに乗ってあげる。」
「Rちゃん一緒にマネージャーやろうね!」
「チッ。」
「うっ。」
「フフ…いいコンビだね。」
「ならん!あいつがマネージャーをやるのは断固反対だ!」
「真田…。」
「なんだ。」
「選抜試験は公平でなければならない。わかっているだろう?」
「う、うむ。」
「その調子で少し黙っていてくれないか。それじゃあみんなテニスコートへ行ってくれ。」
幸村の声で仁王と部室の隅で何かノートに書き込みをしていた柳が部室を出て行った。
「どう?天才的?」
「「「きゃー!天才的ー!」」」
「丸井!何をしているのだ!」
「さ、真田…!いや、俺の天才的妙技みたら静かになるって言うからさ…。」
「す、すまねぇ!真田!」
「それで。静かになったのか。」
「静かになったぜ。…ジャッカルが!」
「俺かよ!」
「「「きゃーーー!!」」」
「みんなちょっと静かにしてくれないか。騒音で頭が痛いよ。」
幸村の重い一言でその場は水をうったかのように静かになった。
「今から選抜試験の説明をする。真田、よろしく頼む。」
「うむ、任せておけ。」
「ああ…真田くんかっこいい…。」
「Kちゃん、あんなゴツくて老けたのがいいの?」
「かっこいいじゃん。」
「うそ〜…。」
「そこっ!私語をするな!」
「………チッ。」
「怒られちゃった…☆」
「…………。」
その時Rは思った。
Kが真田にベタ惚れしている。
Kはやると言ったらやる女だし、元々スポーツも勉強もよくできる。
マネージャー試験が何だろうと確実ハイスコアを叩き出すだろう。
マネージャーなんかやりたくないけれど、Kだけがマネージャーになった場合真田天国じゃないか。
真 田 天 国
「(なにか寒気がするな…気のせいか。)マネージャー選抜試験の内容はもちろんマネージャー業に沿ったものだ。テニスの知識はこれから覚えていけばいい。大切なのは気配り、観察力、真面目さだ。そこにタオルと数種類のドリンクとがある。くじ引きで当たった選手のために選んで持っていってやれ。」
「え…そんなの無理じゃない…?」
「なんかもう面倒になってきた…。」
「選手の好みを当てなきゃいけないの?わかんないよそんなの。」
「ねー。真田とかに当たったら最悪だしねー。」
「もう!Rちゃん!なに混ざってるの!」
そうして順番に名前が呼ばれていった。
「は、はい…。柳くん。」
「なぜこれを選んだ?理由を教えてくれないか。」
「う、薄いのが好きって聞いたことあったから…」
「確かに薄味の料理は好んでいるが、ドリンクが薄いのはいけないな。そもそもスポーツドリンクというのは水分と糖分が素早く体に吸収するためにスポーツ科学の…」
「すみません!無理です!」
「失格か。」
泣きながら去っていく女の子の名前を名簿から消しながら幸村が呟いた。
「すっげぇ甘い。ジュースみてぇ!うめぇ〜。」
「失格。」
「普通じゃな。」
「失格。」
「おう!サンキュ!」
「失格。」
「待て…幸村、今のは何が悪いんだ?」
「ジャッカル…マネージャー業の中には部長を退屈させないという仕事も含まれているんだ。大事だろう?」
「……………そうか。」
「あの…これ…どうぞ。」
「ああ、ありがとうございます。わざわざすみません。」
「失格。」
女の子たちはみんなうなだれて帰って行った。
残るはRとKだけだった。
真田はそわそわと待っていたが誰も真田のくじを引かなかった。
「お、柳くんか…。」
Kは柳のくじを引いてからスポーツドリンクを見てうーん…と悩んだ。
くじに外れた真田の肩をジャッカルがポンと叩いた。
Kはしばらく悩んでいたが部室へ走って戻るとスポーツドリンクを手にして戻ってきた。
「お疲れさまです!どうぞ。」
「これは?」
「そこにあったドリンクはもうぬるくなっちゃったから…冷やしてあったのを持ってきたんだよ。運動後にあまりに冷たすぎるドリンクはよくないけど、今は運動後じゃないし、今日は暑いからこれがいいと思う。」
「ふむ……妥当な判断だ。」
「フフ…柳の了承が出たから合格だよ。」
「やったー!真田くん!やったよ!Rちゃん頑張ってね!」
「うむ。たまらん判断だったぞ!」
「…………はぁ…。」
Kに軽く手を振ってから、Rは面倒くさそうにくじ引きの箱に手を突っ込むとだるそうに一枚取り出した。
「あ。」
真田だった。
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