本日は真田の誕生日である。
厳格な真田も誕生日となれば一味違う。
大量のプレゼントをもらうそうだ(Kちゃん談)
多分、嘘だ。
もちろん放課後の部室でも様々な思惑が渦巻いていた。
「サプライズパーティーがいい。」
相も変わらず傍若無人な発言をしてRは笑顔を浮かべた。
「今日は全員部活中は真田を無視するってのはどうかな?」
「だからっ!そんな笑顔でいじめないで!RちゃんのS!」
真田へのプレゼントなのか可愛らしいリボンを肉に巻きつけながらKが怒鳴った。
なんともダイナミックなプレゼントである。
部室の奥では大量の鍋に大量のなめこのお味噌汁がぐつぐつと音をたてていた。
「あのねKちゃん。これは真田を喜ばせるためのパーティーなんだよ?…次Sって言ったら真田じゃなくてKちゃんをいじめるからね。」
後半ドスのきいた低い声でRが呟くと、Kはしゅんとうなだれて「……ごめん。」と謝った。
それを見ていた赤也はブン太に小声で尋ねた。
「あの二人って本当に仲良いんすか?」
「SとMなんだから良いんじゃねぇの?」
「そっすね…。」
「余ってるリボン貸して。Kちゃん頭に巻いてあげるよ。わあ可愛い!真田もめろめろだね!」
「いい!いいって!いらないってば!」
「あれやって。私がプレゼントってやつ。」
「やらない!!」
そんなわけで誰の反対もでなかったのでサプライズパーティーが実行されることになったのである。
恐怖の部活が始まった。
「今日の練習メニューは各自見て行動しろ。レギュラーは全員集合!」
いつもなら校内に響き渡るほどの声で返事をするテニス部員だが、誰一人返事をしなかったため、辺りはシーンと静まり返っていた。
みんな無言でそれぞれ行動し始める。
「なんだお前たち…なにかあったのか?」
あまりに異様な反応に、怒るどころか心配した様子の真田が話しかけるも、やはり誰も何も答えない。
「…………。」
そんな真田を影から見つめるK。
「真田…………。可哀想…」
「はいはい。仕事するよ。」
Kはうっとりとした声で「カワイソウ」と嘆いた。
そんなKに呆れてRはKの襟首を掴んだ。
ずるずると引きずられていくKの熱い視線の先にはしょんぼりとうなだれる真田の姿があった。
部活の時間は黙々と過ぎていく。
未だかつてないほど静かな部活だった。
「真田副部長、参ってるみたいっスね。」
「真田が哀れになってきたぜ…。」
「真田が怒りだすまで、あと5分21秒といったところか。」
「5分21秒ねぇ…。ククッ…この数字に呪われちょるな真田は。」
「幸村くんがいたらもっと凄惨だったのでしょうね。可愛らしいものです。」
「可愛らしいか…?あれ。」
ブン太につられて全員で真田を見ると、タイミング良く真田と目があった。
「あ、こっち見た。」
「部活中に集まって談話とは。たるんどる!」
いつもならこれで平謝りするはずの部員たちが無表情で散っていくのを見て真田は再び口を噤んだ。
「ああ…真田怒ってる…。」
語尾にハートがつきそうな声音でKは呟く。
しゅんとした真田の様子を陰から見ながらKはドキドキと胸を高鳴らせた。
「そろそろ部室にスタンバイしといてよ。」
マネージャーの仕事が一段落ついてから、いよいよ本日最大のイベント、サプライズのネタばらしを決行するためにKは再びずるずると引きずられて部室へ連れて行かれた。
彼女の熱視線の先には怒りと悲しみにうち震える真田の姿があった。
Kは今回のサプライズパーティーの要だった。
Rが部室に押し込んだ瞬間、グラウンドでは真田の怒りゲージがとうとうマックスになった。
「お前たちッ!!!そこになおれ!!!」
あまりの迫力に圧倒されてレギュラー陣は素直に真田の前で横一列に正座した。
「なぜ俺を無視するのだ!はっきりと理由を言え!」
あまりの恐さにグラウンドは静まり返る。
レギュラー陣もどうしていいのかわからず茫然と真田を見ていた。
「この期に及んでまだ無視を続けるつもりか!」
お前が恐ぇんだよ…!と全員が心で思った。
今ここで計画をバラさないと殺される。
誰もがそう思ったその時、彼らは見た。
真田の後ろに立つ修羅を。
彼女の性格を考えれば言うまでもないだろう。
彼女は自分の計画が狂うのを良く思わない。
うるさいのを好まない。
そして何より、真田をいじめるのがある種彼女のアイデンティティなのである。
「真田…誕生日おめでとう」
「…わざわざすまんな。そのリボンにそのエプロンお前によく似合っているぞ。K。」
「真田もリボン似合ってるよ。」
「お前とおそろいならば毎日でもつけるぞ。うむ、この味噌汁は最高にうまい。」
「弦一郎さん…。」
「K…俺のために毎朝味噌汁を作ってくれないか。」
「…!喜んで!」
表現的になってしまうが、人間は何かの衝撃により頭からネジが一本はずれると別人のようになってしまうのである。
おとなしくリボンに巻かれる真田を見て、一体何のサプライズパーティーだったのかすらももうよくわからなくなってしまったレギュラー陣。
恐怖体験によって外されたネジはそのうち元に戻るだろう。
しかし、部室を開けたら自分の好物料理が並べられた食卓とエプロンをつけた可愛らしい奥さんがいたあの衝撃で抜けてしまったネジはもう元に戻ることはないだろう。
中途半端に盛り上がったパーティーはすぐにお開きになって、RがKに部室の鍵をそっと握らせたところで真田とKをのぞく全員が帰宅。
その後部室で何があったのか誰も知らない。
誰も知らないのである。
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