恋愛だとか一目惚れだとか。

周りがうるさく騒いでいた時も、俺は興味を示さなかった。
興味がなかったわけではないが、今はテニスで手がいっぱいだと自分を戒めていた。
だけど俺は出会ってしまった。
それは変えられないし、後悔などしていない。


「この子はマネージャー候補の一人だよ。」

「あの…こんにちは。」

「あれは副部長の真田だ。」


初めて見た瞬間、可愛いと素直に思った。
だけど反応を待ったところで、どうせ他の女子たちと同じに違いない。
女子たちはなぜかテニス部集中しているいけめぇんとかいうものが好きなのだ。
俺を見ては、恐そうとか老け顔だとかそんな思いを……。


「Kです…!よ、よろしくね…?」

「うむ…。」

「か」

「?」

「かっこいい………。」


小さな声で呟かれた聞き慣れない言葉を、俺は聞き逃さなかった。
幸村はおや、と笑っていた。
柳は部室の隅でほんの一瞬筆を止めたようだった。
それから俺とKは恋人になって、ついこの間見てもどこからどうみても順調だったのだ。





「暑いわね…。」

「Rちゃん…だ、大丈夫…?」

「独り言だから気にしないで。さっさと前を向く。真田を見る。」

「う、うん…。」


時間が進むにつれて気温はぐんぐん上がっていく。
雲一つない空の下、Kの視線の先、真田の試合が始まった。


(K…!見ていてくれ…!)


渾身の力を込めて打ったサーブが飛んでいく。
コートの向こう側で敵対している敵の姿は、まるで自分の心の闇だと思った。




「驚いたな。Kと喧嘩…?」

「うむ…。」

「どうして。」

「わ、わからんのだ…。」

「わからない、だって?」


そう言うと幸村は呆れたと顔をしかめた。
ずいぶん前からわかってはいた。
Kの嫉妬が自分に向いていること、それがいつこういった事態を引き起こすかもしれないこと。
だけど、だからといって幸村は職務放棄する人間ではないし、当人たちの問題だからと真田に話しかけるのを控えなかった。
青学との練習試合は初めてで、顧問が形式上のものである以上部長と副部長が話し合うべきことは山ほどあった。


「どうするも何も…お前たちの問題じゃないか。」

「それはそうだが…俺はこういうことにはなれておらんのだ…。お前ならばこんな時どうする?」

「フフ…俺に聞いたって参考にはならないよ。Kが好きなのは真田なんだから、真田が思ってることをやればいいじゃないか。」

ああ…と真田は思った。
まったくその通りだと。
その後柳に喧嘩の一部始終を話してみたところ、原因を遠回しにだが教えてくれた。

「なにやってんのよ。バカ。」

俺のしていることがどれだけKを不安にさせるかを、Rも遠回しにだが教えてくれた。


「Kは…お前の素直で不器用なところが、好きだと言っていた…。」


ああ、ありがとう蓮二。
すまなかったK…!!


「K!俺はお前を心から愛している!キエェーイ!!」


試合場の至る所から、勢い良く飲み物を吹き出す声が聞こえた。
それをものともせず、ドゴッと凄まじい音と共に真田はボールを相手コートにねじ込んだ。


「弦一郎さん…!!」

「K…!まだ試合中だぞ!」

「ごめん…。ごめんね!柳!でも私…弦一郎さんの所に行かなきゃ!」


笛が鳴って、試合の終了を知らせた。
結果は6-1で真田柳生ペアの圧勝。
乾・海堂ペアは真田の台詞戦意喪失した様子だった。

ベンチに帰ってきた真田に抱きつくK。
青学ベンチも立海ベンチも妙な沈黙に包まれていた。


「え、えっと……みんなタオル…いる?」


Rと幸村と柳以外が飲んでいたスポーツドリンクを吹き出して、真田とKを見ながら固まっていた。
それから割れたように笑い声が響き渡たる。


「真田副ぶちょ…ギャハハハハ!!」

「ま、…やべ…は、笑いすぎ、て…は、腹痛ぇ…!!」


笑い転げる赤也とブン太の隣で柳生が笑いをこらえて震えていた。


「フフ…ああいうの見てるとムカつかないか。」

「クックック…あの真田が…やりよるのう。」

「真田があとで後悔する確率は68%といったところか…。」


自分の中にある後悔を、柳は静かに鎮めた。
あの時無理にでも…なんて考えるだけ無駄だろう。
Kには始めから弦一郎しか見えていない。


「すまなかったな…K。これからは俺からお前に電話を…。」

「うん…うん…。でも無理しないで…。私からまたかけるから。」

「心配するな。俺にはお前だけしかいない。」


そう言って目を細めるように笑う真田の笑顔に、Kは見入って。
ありがとう…と呟くKの瞳にたまる涙を、真田はゆっくりと拭った。
騒がしい立海ベンチの中でRはうちわでぱたぱたと扇ぎながらうわごとのように呟いた。


「だから暑いってば…。」


それでもどこかほっとした顔で、もう大丈夫だと二人から目を離して空を見上げる。
一点の曇りもないスカイブルーがどこまでも爽快に広がっていた。



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