「じゃ、Kの好きなタイプは?」

「背が高くて、がっしりしてて、不器用なひと!」

「Rは?」

「何が?」

「ちゃんと聞いてくださいよ。好みのタイプだよ。」

「あー……。」


中学一年、周りは恋愛話に花を咲かせているお年頃。
恋愛に興味がなかったわけではないけれど、このひねくれた性格に合う人がこの世界に存在するわけがないと諦めていたのも確かだ。


「なーR。これなんじゃと思う?」


友達とKちゃんを含め三人で話しているところに仁王が入ってきた。
よくそんなにナチュラルに女子の輪に入れるものだ。
隣の席から仁王は自分の机に入っていたらしい可愛らしい封筒を私に見せた。
ご丁寧にハートのシールがついている。


「ラブレターにしか見えないんだけど。」

「………。R、手出してみ。いいものがあるんじゃ。お前さんにプレゼント。」

「いらないよ。」


仁王はこの頃からよく絡んできてたっけ。
まあよくモテてたな。


「優しい人。」

「ん?」

「好みのタイプ。」

「へぇ…。なんか意外…。」

「いや、本当に必要なのは権力と財力だけどね!アッハ!」

「うわー!Rらしいけど、そんな現実聞きたくなかった!」


人に頼られるのは好きだけれど、べたべたに甘やかされるのも好き。
優しさという条件のなかには、こんなひねくれた私を受け入れてくれるという要望も含まれていた。


「ちょっと。何笑ってんのよ。」

「優しい人ねぇ…。」

「あのね…。」

「俺は?優しいじゃろ?」

「………。」


先ほど仁王にむりやり掴まされたラブレターを見せると、仁王は目をそらした。


そんな平凡な生活を送っていたある日のこと。
女子テニス部の物好きなお友達が男テニの大会の写真を見せてくれた。
お年頃だからそれはもちろん容姿端麗な人たちばかり。そこで目を奪われた。


それが、不二周助。


のまれそうになった。
綺麗なテニスのフォームもそうだけど、何よりもその雰囲気に。
どこまでも綺麗な優しさが彼の周囲を朧気に変える。


「この人好きかも。」

「あーこの人ね。凄まじくモテるらしいよ〜。」


不二の傍にいられたらどれだけ落ち着けることだろう。と、その姿から目が離せなかった。
だけどその一方で臆病になった。
一生かかったって、あの雰囲気に私は馴染めない。
どれだけ欲したところで、きっと叶わない。
傷つくのは嫌だ。

だから。
不二を見て、癒やされて、この距離を保って。
ただそれだけで良かった。


「キャアァ!やばいやばいやばい不二君かっこいいー!」

「Rちゃん…不二がかっこいいのはよくわかったけど、ちゃんと写真撮ってる?一応偵察で来てるんだから…。」

「キャアァ!!悩殺スマイル!!」

「…………幸村に怒られちゃうよ…。ちょ、泣いていい?」


臆病者が恋愛をした末路はストーカーだとか変態だとか。
まあ私もすっかりその類になったわけだけど。
不二のことになると私のあまりの変貌ぶりに、ブン太とかジャッカルとか赤也とかは引いてた。
でももう私は気にしない。


「ご苦労さま。偵察はどうだった?」

「ばっちりだよ☆」

「…ば、ばっちりだよ☆」

「R……ここにある写真、一人の選手の写真が一枚もないんだけど。どういうことかな。」

「すみません。撮り忘れました。」

「Rちゃん…出てる。鞄から束が出てる。」

「出して。」

「イヤアァァ!お代官さま!!勘弁してください!」


結局写真は不二の顔ばっかり撮っていたので(もちろん全身のもあったけれど)大した参考資料にはならず、私は幸村の説教をむくれた顔で聞いていた(写真はもらえた←幸村に呆れられた)

「幸村っ!お前はRを甘やかしすぎなのだ。青学の偵察から外すべきだろう!」

「残念ね。入部する条件はこれを踏まえていたのよ。」

「仕事はきちんとするのも条件だったはずだ。たるんどる!」

「うーん……じゃあ真田も偵察に行ってくれ。それなら文句はないだろう。」

「ゲ…」

「わかった。カメラは俺が持つ。」

「(大丈夫かなぁ…)」


Kちゃんの予感は当たって、私たちは無言のまま試合会場を後にする羽目になった。


「お帰り。どうだった?」

「……………。」

「………………。」

「真田?」

「……………。」

「R?」
 

じわりと涙を滲ませる私を見て、さすがの幸村も口を半開きにして無言になった。


「しゃ…写真は…奥が深いのだな…。」

「……………。」

「あのね…不二君、この試合で初めて白鯨って技だしたんだって。条件が揃わないと出ない大技らしいんだけど…その、この通りで………。」


Kちゃんが説明すると、幸村は黙って写真を受け取った。
そこには何が取りたかったのかわからないエキセントリックな写真があった。
最後の方は何やら苦しんでいる真田のドアップの写真も入っていた。
どうやら間違ってシャッターを押したらしい。
そう真田は写真が壊滅的に下手だったのである。
真田の手から永久にカメラが奪われた日であった。



不二の優しいところ。
顔が?動作が?言葉が?

わからないけど、ただその雰囲気が自分を満たしてくれるような気がした。
不二と直接会って話したこともない。それだけで好きになるなんておかしいのかもしれない。
でも恋愛なんてよくわからないから。



「あそこで騒いでるの、立海の真田だよね?」

「そう見えるが。」

「いつも来てる子たち、立海のマネージャーだったんだ。」

「なに?!あの有名な?!デ、データを…。」

「止めといた方がいいっスよ。」

「なぜ?これ以上ない機会だと思…、…………。」

「カメラを取り合ってるみたいだね。」

「真田さん、あれ絶対首締まってるっスよ。」

「…………ふ、ふむ。慎重さは重要だな…。」


そんな平凡な日々がこれからも続いていくと思ってた。
仁王があんなことを言うまでは。

実を言えば…今まで全く仁王の気持ちに気づかなかったわけじゃない。
友達以上恋人未満くらいに仲が良かったのは確かだし、なんとなく仁王ってそうなのかなぁと思うことはあっても、仁王は口に出さないだろうと勘違いしていた。

私たちはよく似ている。

傷つくのが怖いから、少し人とはズレたところにいる。
線を引いて、気持ちを隠して、強がって。

仁王はどうして私なんかを好きだと言うんだろう。


「やっぱりきちんと言わなきゃね…。」


叶えようとはしない恋を、恋と言えるのかはわからない。


だけど私は、不二が好きだ。




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