「A先輩!今から俺の試合なんスよ!」

「え?ほんと?」


基礎練が終わったら、幸村部長からコートに入るように言われた。
軽い返事をしてからラケットを取ってコートに向かう途中、マネージャーの仕事をしていたA先輩を見つけて走り寄った。


「先輩、俺の試合観てて下さいよ!」

「うん!わかった!」

「絶対っスからね!俺頑張ります!」

「頑張ってね!赤也くん!」


A先輩に大きく手を振りながらテニスコートへ入る。
笑顔で応援してくれるA先輩はやっぱりめちゃくちゃ可愛い。
にやけた顔のままコートに入ると、すぐに丸井先輩と仁王先輩がニヤニヤしながら俺のところにやって来た。


「あ・か・や・くーん。」

「ずいぶん張り切っとるのう。」


丸井先輩と仁王先輩は笑いながら俺の両端からからかった。
意味深にアイコンタクトをしながら笑い合う先輩たちに思わず「違いますよ!!」と噛みつくような言葉を叩きつけた。


「丸井先輩のバーカ!」

「てめっ!先輩に向かってバカってなんだよ!」

「いてててて!!冗談っすよ!軽いジョークですって!」


丸井先輩は俺の首に腕を回して本気で絞めてくる。
丸井先輩は容赦ってものがまるでない。
丸井先輩の腕をばしばし叩きながらギブを宣告してから少しおいて丸井先輩はようやく離してくれた。


「ひっでぇ…。」

「お前が悪いんだろぃ。」


素気なく言う丸井先輩を涙目で睨んでいると、仁王先輩が俺のラケットで俺の肩を軽く叩いた。
仁王先輩からラケットを受け取って仁王先輩を見る。
仁王先輩は立ち上がった俺の肩に腕を回して笑った。


「そんじゃ、頑張っていいところ見せんしゃい。赤也くん。」

「男見せろよ。赤也くん。」


先輩たちは嫌味な笑い方をしてコートの相手側に立った。


「え?ダブルスやるんスか?」

「ちげーよ。こっち二人、お前一人。」


丸井先輩はガムを膨らませながら、自分と仁王先輩を指した後コートにぽつんと一人で立つ俺を指さした。


「な、なんスかそれ!卑怯っスよ!!」

「幸村が決めたことじゃけぇのう。俺たちも可愛い後輩をいじめるのは心苦しいんじゃ…。」


(ぜってぇ嘘だ!!)


「文句があるなら幸村に言え。ほら、行くぜ!」

「言えるわけないじゃないスか!丸井先輩わかって言って…、…っ!」


先輩たちは意地悪だ。幸村部長は鬼だ。
つーか、最近俺の扱いってジャッカル先輩より酷くねぇ?


「俺かよ!!」


隣のコートで真田に小言を言っている柳から急に話を振られて焦っているジャッカル先輩のツッコミを聞きながら、何か身に覚えのある悪事を目まぐるしく考えていた。


(…遅刻し過ぎとか?部誌に落書きしたやつ?)


「赤也ー!走れー!」

「くそ…っ!」


言われなくても俺は走ってる。
ボールを必死に打ち返しても、先輩たちは余裕そうに前に打ったコースとは正反対の方へボールを打ち返した。
必然的に俺は広いコートを左右いっぱいに走らされることになる。


「ハァ…ハァ…ッ!」

「まぁよく頑張ったんじゃねぇの?」

「あ、スコア途中から数えるのめんどくさくてやめたんじゃ。さぁて何点やったかのう…。」

「いいんじゃね?どうせ赤也の負けなんだし。」

「くっそ…!むかつく…!」

「次行こーぜ、次。」

「まだやるんスか!?」

「当たり前じゃろ。幸村が止めるまでじゃ。」


がっくりと肩を落として、膝に手をつく俺の肩を仁王先輩と丸井先輩は軽く叩いた。


「よーしよしよし、サーブやるから元気だせよ?」

「……!!」


笑いながら犬をなだめるように言う丸井先輩の手からボールを奪い取るように掴んだ。


「潰す!!」

「コワイコワイ。」


位置に立ってサーブを構える。
そう言えば…と、A先輩のことを思い出した。
試合に必死になってよそ見する暇がなかったと後ろを振り返った。


悔しくないって言えば嘘になっちまう。
だけど悔しいのかって言われたら。


(ぜってー認めてやんねぇ…。)


俺は拗ねた顔でA先輩が幸村部長と仲良さそうに話しているのを見ていた。
テニスコートと部室なんてすぐなのに、こうしてコートに立って部室前を見ているとものすごく距離が離れているように見える。


「………。」


A先輩の嘘つき。
部活が始まる前に俺が「俺の試合観てて下さいね!」って言ったら、うんって言ったくせに。


「いって…!!」

「こら、赤也!よそ見すんなよ!」

「俺たち相手によそ見とはずいぶんと余裕じゃのう。」


いつまでもサーブを打たない俺に突然向こう側からボールが飛んできた。
ボールは見事に頭に当たった。
痛い箇所をさすりながら先輩たちを睨んだら、丸井先輩が再び投球のポーズに入ったので俺は仕方なくサーブを打った。
横目で見た時、A先輩は幸村部長とまだ話してる最中だった。
ボールを打ちながらも、耳は自然とそっちに向いて会話を拾う。


「そう。じゃあ今度映画でも観に行かない?」

「うん。みんなで行ったら楽しそう。」

「フフ…今のはわざとかな。デートに誘ったつもりだったんだけど。」

「え…!?」


ガシャンッと大きな音が鳴った。
飛んできたボールを大きくアウトにさせて先輩たちの後ろのフェンスに叩きつける。
頭をかすめてボールがすれ違ったらしく丸井先輩が「赤也!」と声をあげて怒鳴った。

でも俺はもうそんなのどうでも良い。

後ろを振り向いて、壊しそうな勢いでフェンスにぶつかる。
驚いたようにこっちを見るA先輩と目が合った。
幸村部長は邪魔されたのをよく思っていない表情で俺を見た。


「A先輩!」


所々が錆びた緑色のフェンスを握り締めると指が痛い。
金属のこの網を破って、今すぐA先輩のところに走って行きたかった。


「ちゃんと見てて下さいよ!」


後先考えずに、ただ思ったことを口から出した。

A先輩を好きな奴なんていっぱいいるし、俺が苦手な部長だってそうだし、そんな中からA先輩を俺のものにしちまう一番いい方法なんてこれっぽっちもわかんねぇ。
どう言ったらA先輩が喜んでくれるとか俺を好きになってくれるとか、いっぱいいっぱい考えたけど。
なんにも浮かばなかった。

A先輩が俺以外の男と喋ってるとすげーむかつく。
無理にでもこっち向かせたくなる。


「俺、A先輩のことめちゃくちゃ好きっス!!」


幸村部長が口元を歪めた。
後ろの方で丸井先輩と仁王先輩が茶化す言葉をあげていた。
隣のコートではジャッカル先輩と真田副部長が固まって、柳先輩は平然としていた。
A先輩は真っ赤になって口元を押さえている。

驚いた表情のままあたふたし出したA先輩からすぐに返事が聞き出せそうになくて俺は痺れを切らした。


「A先輩!今そっち行きますから!」


先輩は逃げようとしない。俺をじっと見てくれてる。
なんとなくだけど先輩の気持ちが伝わってきて、俺は急いで先輩のところに行きたくなった。
フェンスに手足をかけて登り始める。


今すぐ抱きしめてやりたい。強く強く。





(赤也アァ!!)
(げっ!真田副部長!)
(降りてこんか!!お前は部活をなんだと思っているのだ!!)





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