この男はどこまで計算して動いているのだろう。



「A、ティッシュ。」

「持ってないわよ。」

「朝あげたじゃろ。」

「あ。」


私は朝スカートにむりやり突っ込まれたポケットティッシュを思い出した。


「…ちょっと待って。じゃあ私はこのために朝からティッシュを持ち歩いてたわけ!?」

「そうなるのう。」

「最悪…。」


私が頭を抱えている間に、仁王は笑いながら取り出したティッシュで私の身体を拭いていた。


「やっぱり後処理はポケットティッシュ1個じゃ足りんのう。」

「3つも入れといて何言ってんの。」

「それとこれとは話が別じゃ。」


頭の上にハテナを浮かべる私をよそに、仁王はポケットティッシュ2個分の空の袋を私のスカートに戻した。


「あっ、こらっ!」

「まあまあ。」


私が着替え終わると、仁王は書庫の合い鍵で扉を開けた。
ここの扉は内側でも外側でも鍵がないと開かない構造になっている。
仁王は合い鍵を残った一つのポケットティッシュの奥に入れて、書庫をぐるりと見渡すと、壁際に積まれた本の間に無造作に投げ捨てた。


「ああっ!捨てた!?」


散らばった本を一番始めに倒れてきた本棚に戻していた私は仁王の悪行を見つけて叱った。
仁王はケロッとした顔でティッシュを指差した。


「捨ててないぜよ。あれは柳生にあげたんじゃ。」

「は?」

「知らんのか。柳生は四次元ポケットを持っとるけぇ、あのティッシュもやがて柳生の四次元空間に吸い込まれる。」

「嘘つき。四次元ポケットを持つドラえもんはそんな吸い込むなんてことしなかった。」

「お前にドラえもんの何がわかるんじゃ。四次元ポケットの作り方でも知っとるんか?」

「うぐ…」

「柳生に聞きんしゃい。」

「な…!そんなこときいたら頭弱い子だと思われるじゃないの!」

「今さらじゃ…いてっ。」


外に出るとすでに授業が始まる時間になっていた。
まぁ仁王と一緒ならいいかと思う私はやっぱり仁王には甘いのだろうか。
同じクラスのブン太にまた何か言われるかもしれないと想像した。


「あ、A。」

「ん?」

「今日の放課後、俺は病気になる予定じゃけど気にせんでな。」

「はあ…。そうですか。」



(柳生のための詐欺、ね…)


仁王が大切にしている親友柳生は、ポケットには一つのポケットティッシュに一枚のハンカチを常備しているような模範的な紳士である。
仁王とは全く正反対なのに、何がそんなに気が合ったのか。
未だにこの二人はかなり謎に包まれているのだけれど、仁王が謎だらけなのは元より、ドラえもん説が浮上してしまった柳生の方が私にとっては謎だらけだ。





次の日、柳生が仁王のところに真新しいポケットティッシュと書庫の合い鍵を持ってきた。


「昨日はポケットティッシュをありがとうございました。鍵も。それから、酷いことを言ってすみませんでした。」

「律儀な奴じゃのう。」


開いた口がふさがらないとはこのことだ。
私は柳生のシャツをぎゅうぎゅう引っ張って訊ねた。


「や、柳生…」

「なんでしょう。」

「四次元ポケット見せて。」


仁王が吹き出した。
柳生はものすごく顔をしかめて私を見た。


「Aさん、何か悪いものでも食べた……ようですね。」


柳生の視線が私の首筋に注がれた。
うわあ!と変な声をあげて私はパッとそこを隠した。

紳士はそれから咎めるような視線を詐欺師に向けた。


「仁王くん…」

「プリッ」



食べましたとも。
食べて食べられましたとも。
横で笑いを抑えている動作さえ絵になるようなこの詐欺師に。

そんな詐欺師を説教している紳士を見ながら、昨日と顔つきが違うようだけど図書室の美少女となんかあったわけ?と言いそうになる口を閉ざし、仲の良い2人のやりとりを笑って見守っていた。










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