「柳生…。」

「はい。」

「これ、どうしよ…。」


え?と頭に疑問符を浮かべてAさんの示すものを見れば、生々しい情事の跡に顔が赤くなった。


「す、すみません!」


私は制服のポケットからポケットティッシュを取り出して、Aさんの身体にかかった精液を拭いた。


「や、柳生っ!自分でするからっ!」

「いいえ。これは私の責任です。」

「…っ!」


Aさんは顔を赤らめて唇を噛んだ。
全く可愛らしい人ですねと私は笑う。


「な、なに笑ってるのよ…!やっぱり自分でします!」


Aさんは私からティッシュを取りあげると自分で拭いた。


「あ…」


もう一枚取ろうとし、Aさんは空になったポケットティッシュを見て青ざめた。
元々使いかけのティッシュだったのだからそんなに入っていなかったのだが。


「ご、ごめん!柳生の分…!」

「私よりもAさんを優先させてください。」


後でトイレに行けばいいだけですからと笑顔を浮かべると、「なんかキャラ違わない?」とAさんが言ったので私は首を傾げた。
お腹の上に吐き出された精液は綺麗にとれたものの、内股には愛液がべたべたとついたままだった。


「外に出れたら鞄にタオルがあるんだけど…。仕方ない。私も後でトイレに…」


私はしゃがむと、Aさんの足をするりと撫でて内股をべろりと舐めた。


「ひゃあっ!や、柳生っ!やめて!!」

「ん…どうしてですか?」

「どうしてって…!ん…!」


ふるふると震えるAさんの内股から足の付け根に舌を移動させると、茂みからまた愛液がとろりと溢れてきた。


「Aさん、これではきりがありませんよ。」

「だ、て柳生が…っ!んんっぁ!」


蜜が溢れるのを抑えるように舌をそこへひたりと当てると、Aさんはビクンと跳ねた。


「……!!」

「Aさん。」

「ま、やっ、喋らないで…!やだっ柳生…も、もういいからっ!」

「よくありません。」


私はため息をつくと、くちゅくちゅと舌を動かした。
とろりと流れてくる蜜を吸い上げて、中に舌を差し込む。
Aさんはぶるぶると身体を震わせて刺激に耐えていた。


「ん…、ん、っ、あっあぁ…あっ!!」


じゅると吸えばAさんは簡単にイッた。


「は、ぁ…柳生のいじわる!似非紳士っ!」

「酷い言われようですね。」


床に寝ころんだまま私を非難するAさんの顎を掴んで、ニヤリと笑うとAさんはむっとした。
その際に、書庫の壁に則すように並べられた本と本の間の床に落ちているポケットティッシュが目に入った。
上から見ただけじゃ気づかないような暗闇の中にぼんやりと浮き上がる白。
なぜ今まで気づかなかったのかと私はがっくりと肩を落とした。
一体誰が…と手を伸ばしてそのポケットティッシュを取ると、ティッシュの底に違和感を感じた。


「柳生?どうした?」


私は床に落ちていた眼鏡をかけなおした。
Aさんに見えないようにポケットティッシュの袋の中からその違和感を取り出す。


「いいえ。誰かの落とし物のようなのでいただきましょう。」


ティッシュの中に入っていたのは書庫の合い鍵だ。

ちゃりん―――・・・
鍵の鳴る音が頭の中で響いた。
この鍵の持ち主を私は知っている。




きちんと綺麗になったAさんを抱き締めてもう一度口づけたあと、誰かが昔落としたものでしょうと告げて私はAさんに合い鍵を渡した。

あなたに嘘をつくのはこれで最後にします。
だからどうか、私をこの詐欺に引っかかったままにしておいてください。


「ラッキーだったね!昔誰かがなくした鍵なのかな…?」

「そうかもしれませんね。」


書庫から出ると、長い時間書庫にいたような感覚がしてまるで浦島太郎のようだとAさんと私は笑い合った。

書庫に入る前と何の変わりもない図書室と、がらりと変わってしまった私たちは、とても静かで暖かな図書室に少し立ち尽くしていた。
窓から漏れる優しい夕陽の光に私は眼鏡の奥でうっすらと目を細める。

あなたと喧嘩しては仲直りした後の部活の帰りも、こんな夕陽を見ていましたね。


「Aさん、仁王くんと仲直りしました。」

「え?ほんと?」

「はい。解決しました。」


良かったね!と笑うAさんと自然と繋がった手がとても、とても温かかくて。

不覚にも、少し泣きそうになった。








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