残りの5日間を私は神に祈るかのように過ごした。
いつもの平凡さも私にとっては嵐の前の静けさのようで恐ろしい。
無情にも時間は進み、世界はとうとう月曜日を迎えてしまった。
「A、おはよう。」
「おはよう…。朝から良い笑顔ですね…。」
「今日の放課後はデートじゃけぇのう。」
花でも飛ばしそうなほど機嫌がいい仁王は、ぶっちゃけ気持ち悪い。
うわ、なんか寒気が…。
「A、仁王、おはよう。」
「あ、ブン太。おはよう。」
「おはようブンちゃん。」
仁王の爽やかな挨拶にブン太は1、2歩後退った。
「今のは何の詐欺なんだよ?」
「酷いのう。今日という日に詐欺なんかしたら罰が当たるぜよ。」
「A…仁王になんかあったのか?」
「知らない。」
呆然とするブン太を残して、私と仁王は学校へ向かった。
仁王とクラスが違うのが唯一私の希望だった。
学校はいつものように過ぎていく。
いつものように居眠りで真田君に叩き起こされ、同罪らしい赤也と一緒に説教を受けて、仁王と一緒にお昼を食べて、他愛ない世間話をして…
あれ?
普通じゃん。
朝から続いている仁王の妙なテンションとなぜかお昼後に早退した真田君以外は全てが普通だった。
あれこれと考え込むうちに放課後になった。
仁王は幸村に事前に部活を休む許可を取っていたらしく、一緒に帰るために教室まで私を迎えに来た。
鬼と名高い幸村の許可を一体どうやって取ったのか不思議だったけれど、あまり聞かない方がいいと思って訊かなかった。
幸村に関わったらこの学校で生きていけない。
まあ仁王に関わった時点で私の立海ライフははちゃめちゃになってしまったわけだから今さらな話ではあるんだけど。
「お兄さん、今日のデートコースのご予定は?」
「Aが好きなお店にケーキ食べに行ったあと、俺の家に行く。」
「…ふうん。」
「楽しくないんか?」
「ううん。楽しい!」
良かった。普通だ。
私は仁王に笑顔を返した。
仁王の場合はこの普通さが怖いんだけどということはこの際考えないようにしよう。
今日はせっかくの記念日なんだし。
私たちは駅の近くのお店でケーキを食べた。
「おいしかったー!満足!」
「Aのその笑顔が見れただけでも来た甲斐があったのう。」
「ゲホ……仁王どうしたの?今日いつもにまして甘くない?」
「そうか?いつも通りじゃろ?」
「そうだね!じゃあもう夕方だしそろそろ帰ろっか!」
くるりと背を向けた私の肩を仁王が笑顔でがっしりと掴んだ。
それから私の腕を引っ張ると、仁王は再び上機嫌で仁王の家の方向に歩いて行った。
ずるずると引きずられていく私は静かに涙しながら微笑んでいた。
「相変わらずさっぱりしてるよね。」
私は仁王の部屋を見渡した。
もう見慣れてしまったけれど、初めてここに来た時は「引っ越しでもするの?」というような疑問すら浮かんでしまった。
この部屋には物がない。仁王らしいといえば仁王らしいんだけど。
「あ、そうだ。これプレゼント。」
私は思い出したようにカバンから綺麗に包装された箱を取り出した。
仁王は私からプレゼントを受け取ると中を開けた。
「ストラップ?」
「前にこういうの欲しいって言ってたでしょ。かっこいいの一つ。」
「覚えててくれたんか。嬉しいのう。」
「覚えてるよ。私も仁王に似合うなって思ってたから。」
仁王は私の頭を優しくなでると笑った。
その笑顔が好き、なんて口が裂けても言えないけど。
「俺もあるんじゃ。プレゼント。」
「ほんとに?」
「欲しいか?」
「う、うん。」
一瞬ニコ!と効果音がつきそうなほど愛くるしい笑顔を浮かべたかと思うと、仁王はそのまま勢い良く私をベッドの上に押し倒した。
「仁王っ!」
「当ててみんしゃい。」
「明日体育あるから今日は…っ!離せコラ変態!」
「乱暴…まぁ当ったらやめてやるから、安心していいぜよ。」
仁王はそう言うなり私の首筋を舐めあげた。
「っ、」
抵抗が弱まったのを見越して、仁王は片手でプチプチとシャツのボタンを外していった。
器用すぎる。なんでこんなに脱がすのが早いんだ。
再び必死に抵抗すると、仁王は私の唇をぺろりと舐めた。
「うぅ…っ!」
「可愛いのう。早く当てんと止められんくなるかもしれん。」
仁王は私の髪をすいてそう言うと、胸元まで唇をずらしていった。
それがくすぐったくて身をよじる。
「ん…仁王、制服皺になっちゃう。」
「…誘っとるんか?じゃあ脱がせてって言ってみんしゃい。」
「誰がっ…ぁ!」
仁王はフロントホックを外して、露わになった胸の突起に舌を這わせた。
固くなった突起を転がしたり吸われたりして、私はびくびくと反応する。
「ん、はぁ…っ!」
「答えは?」
「ぁ、んっ!わかんな、…やっぁっ!」
仁王はスカートをたくしあげると、下着の中に手を入れ、すでに湿ったそこをするすると指で擦った。
ヌルヌルした愛液と指が接触してじんと熱い快感をもたらす。
「仁王…ん…っ!」
「ちゃんと考えよるんか?それともわざとかのう?」
仁王は意地悪そうに笑うと茂みの上の突起を人差し指と親指でキュウと摘んだ。
「あ、…っ!」
「早く。」
「やっ待ってっ!あっ、あぁっ!」
仁王は突起を指でぐりぐりとこね回した。
その度に強い刺激が走って足が跳ねる。
「っあ、んっ…ぁ…!」
愛液でぬめついた指にびりびりとより強い刺激が身体中を走って、私は背中をそらしながら刺激を止めようと仁王の腕を掴んだ。
「あっあぁ、ぁっだめ、にお…っ!」
「だめじゃ。答え以外受け付けん。」
「っ、…こんな状況で、か、っ考え、んんっ、あっ、られなぁ…っ、あっあぁあっ!」
「イッてしもうたか。」
ぶるぶると身体を震わせた後真っ赤な顔で仁王を睨むと、仁王はくつくつと笑った。
「答え言うなら今のうちぜよ。」
「か、かばん…?」
「ハズレ」
「ひぁっ!」
仁王は蜜が溢れるそこへ指を挿入した。
迷うことなく感じる場所に辿り着いた指が中で折れ曲がると腰に言い知れない感覚が広がる。
「う…ん…んっ!」
ぐじゅぐじゅと掻き回す指に耐えられなくて、私は逃げようと力の入らない身体をよじった。
視界に入った枕を本能的に掴んで必死に抱き締め、顔を押し付けて声を必死に殺した。
「んっ…んん…ぁ!」
「イイ格好じゃな。」
「あっあぁっこ、香水とか…っ」
「残念。」
「…んんっ!」
仁王が指を増やして中をぐちゃぐちゃに荒らすと、私は再びあっけなくイッてしまった。
「ほら、答えは?」
「…は…っ」
仁王の指がずるりと中から抜けた後、私は寝返りを打って仁王から逃げようとした。
うつ伏せになった私の上にすばやく仁王が乗り、上から両腕をシーツに押さえつけられた。
「こっちの体勢がいいんか?」
「ち、違うっ!どいてっ!」
ククッ…と仁王が私の耳元で笑った。
仁王はうつぶせになったままもがく私の腰だけを引き上げむりやり膝を立たせると、下着を下ろしてそこに舌を這わせた。
「きゃあぁっ!やっ…んっあぁっ!」
「腰揺らして…そんなにいいんか?」
舐めたり吸ったりして仁王は刺激を与えるのをやめない。
ざらっとした温かい舌が下から上へと舐め上げる。
腰をおろして足を閉じようとすると逆に更に広げられて、茂みに隠れていた奥が晒され、そこを仁王の舌がぬるりと通った。
「あああっ!」
仁王は舌で舐めながら指で茂みの上の突起を弄んだ。
くにくにと敏感な突起が愛撫されて、私はビクビクと反応する。
「くっあぁっぁ!ん…っ!」
仁王は突起を弄るのをやめて、手の指を愛液と唾液でベタベタになったそこへ差し込んだ。
指をずぷずぷと抜き差ししながら蜜が溢れる周りを舌で舐める。
「ひ、あ、あ、ああっ、ぁっ!」
ビクンッと腰が跳ねて私はイッた。
へなへなと力が抜けていく腰を仁王が支えて、私の背中に乗ると仁王は荒い呼吸を繰り返す私の耳元で囁いた。
「答え。」
「はあっはぁ、は…っぁ」
「ククッ…気持ち良すぎたんか?」
「…っ、ア、アクセサリー…?」
「おしいのう。」
「あ、あぁっ!」
仁王はズブッとそれを中に差し込んだ。
固く熱を持つそれが与える刺激に私は背中をそらして耐える。
先ほど達したばかりの身体には甘過ぎる毒だった。
「待…ま…って…、」
「待てん。」
「あっ、あぁ…あっ!」
ぬぷっぬぷっと粘着質な感触にぞわぞわと鳥肌がたった。抜き差しによって接触する内壁や突き刺さされる奥から快感が沸き立つ。
卑猥な水音が響いて、愛液が太ももを伝うのがわかった。
「あ…ぁっあぁ…っう…!」
「いつもと違うじゃろ。は…気持ちいいか?」
「んっ、か、顔、見た…っ、あ…!」
「ん?」
「あ…仁王の、顔…っ見たい…っ」
生理的な涙が溢れて、この体勢じゃなくてもきっと仁王の顔なんて見れないけど。
それでもなんとなく仁王の顔を見て安心したかった。
途端に、仁王は無言で抜き差しを速めた。
「ひゃ、あぁぁっ!やっにお…っ!ん…!」
ずちゅずちゅと固いそれが柔らかい中を暴れ回る。
急激に増した刺激にずくんと身体中が疼いて震えて何も考えられなくなる。
「あっんっんんっんーっ!」
勢いよく奥を突かれて、私はびくんびくんと身体を震わせた。
中でじわじわと広がる温かさに仁王も同時に達したことを知る。
仁王はズルリと中から抜くと、私の肩を引いて仰向けに転がし、私をぎゅっと抱き締めた。
「はぁ…は、はぁ…にお…?」
「さっきのはきた…。」
「え…?」
「あんな顔であんなこと言うもんじゃけぇ…。」
仁王は私の涙を指でスッと拭うと、優しいキスをした。
それから仁王はベッド横の棚から小さな箱を取って中を開けると中身を取り出した。
「…指輪?」
「そう。」
私は仁王の指先でキラキラと光る指輪を見つめた。
仁王は私の左手を取ると恭しく薬指にはめた。
「予約したいんじゃけど、受け取ってくれるか?」
「…うん。」
私は薬指で輝く銀色の指輪を見た。
けだるさで落ちてくる瞼の隙間から見える指輪に自然と笑顔が浮かんでくる。
「…嬉しい。」
幸せってこういうことを言うんだろうなと思った。
小さなピンク色の水晶がついた指輪はデザインも可愛らしい。
仁王が企んでいたのはこれだったのかと、私はまた嬉しくて泣いた。
「さて、それじゃあ未来の予約を祝ってハネムーンに行くとするか。」
「は?」
仁王がニヤリと笑ったのを合図にまた上に押し乗ってくる仁王の頭を思いっきり殴ってやった。
この日、仁王が私から奪ったものは私の未来だった。
仁王に所持された私の未来は、遥か遠くまで輝いてみえたから。
あげてしまっても後悔なんかこれっぽっちもしてないけど。
一つだけ後悔したのは。
「…腰痛い。」
「だから火曜日休むように言ったじゃろ。」
翌朝仁王にかばんを持ってもらいながら、私は根性で登校した。
「ここで休んだら相談した柳にバレるでしょ…!」
「参謀にはもうどうせバレちょる。」
「なんで!?」
「指輪買う前に、Aの薬指のサイズのデータを取ってもらったけぇのう。ぴったりじゃろ?参謀の目は確かぜよ。」
「そんなのいつ取ったのよ!?」
「Aがお昼に相談に行った時じゃ。柳が一人になるのはお昼だけじゃからな。お前さんが来るのは予測できた。何のために5日も前からモーションをかけてたと思っとる。」
全部計算済みじゃと仁王は満足そうに言った。
5日前のお昼が頭にフラッシュバックした。
そういえば、手を出せとか言ってたな…。
「お団子くれたのも、右利きの私が手を出せって言われた時に左手が出るようにしたかったから…?」
「参謀もやりよるのう。」
仁王はケタケタと笑った。
私は相談に行ったあげく、ご丁寧にサイズまではかられて。
学校に来たのが今日でも明日でも、これを見れば何があったかなんて一目瞭然だ。
私は左手の薬指で光る指輪を見て、ため息をついた。
それでも嬉しさに自然とにやける顔を仁王に見えないようにそらしたら、仁王は笑って私の頭を撫でた。
余談。
後日、幸村に会った。
「あ、A、仁王にプロポーズされたんだって?
フフ…その指輪、よく似合ってるよ。
違うよ。今日はからかいに来たんじゃなくて御礼を言いに来たんだ。
食べかけのお団子をありがとう。
柳の証言もあったし、オークションに出したら高値で売れてさ。
さすが立海の華と称されることだけはあるな。え?なにそれって?
まあAは知らなくていいことだ。仁王に大事にされてるんだろう?
それで、部費も潤ったし新しいネット買おうかと思って。フフ。
お団子は誰が買ったかって?いくら商品提供者のお願いでもそれは言えない規則になってるんだ。ごめんね。
お団子一個じゃなくて二個くらいあればもっと高額に…ん?嫌だな。何でもないったら。
フフ…でも売れた時にはもうお団子の賞味期限とっくに切れてたからバイヤーが平気だったかは知らないけどね。
じゃあまたよろしく頼む。仁王にもよろしくね。」
仁王があの日どうやって部活を休む許可を取ったのかわかった気がした。
ついでにお団子はもともと串に四つあって、私が食べたのは一つ半だったから。
あとの一つ半を誰が食べて、高値で買われたらしいお団子が本当は誰の食べかけになっていたのかなんて知らないふりをしておくけど。
あの日お団子を持っていった提供者本人も、多分幸村も柳もわかってやってるんだろう。
オークションって…。
あいつら裏で何やってるんだ…。
これ以降、私はなんとなく授業中に居眠りをできなくなったし、むしろ早く席替えしてくれと思うようになった。
私がこう思うようになったのも仁王の計算のうちなんだろうけど、今回は仕方なく乗ってあげておくことにする。
居眠り後にいつも怒られていたのを、仁王が良いように思っていなかったのは、きっとこういうことだったからなんだろう。
「最近お前は居眠りをしないな。感心だ。」
「なんでそんなに笑顔なのよ。…まあいいけどさ。あ、この前のことなんだけど…なんで早退したか聞いていい?」
「む、お前がわざわざ案ずることではないぞ!ただの腹痛だ。」
「………お大事に。」
for 梨那さん 2222番