ち
体育が終わる前に、幸村はお昼を一緒に食べようと言った。
「俺は、一緒に食べたいんだけど?」
幸村が挑発的な目で笑った。
こうやって幸村はいつも私を試すのだ。
隣で食べるご飯はあまり味がしなかった。
いつもガツガツがっついてるくせに今日は大人しいんだね。と笑う幸村に、ウルサイ…とささやかな反抗をした。
横目で幸村を見る。
相変わらず綺麗な人がそこにいた。
幸村は食べ方まで綺麗だ。
多分口元にパン屑がついていてもかっこよく見えるんだろう。
「フフ…口にケチャップついてるよ。違う、ここ。」
「うっ…!」
「変な食べ方してるからだよ。フフ…俺を見ながら食べたいんだったらそうしたら?」
「見なくていい!!」
「食べさせてあげようか。」
「い、いい!いい!いらないっつってんでしょうがアァァ!!」
お腹を抱えて笑っている幸村に私は軽く殺意を覚えた。
幸村がまた変な行動に出る前に、私はご飯を必死に詰め込んだ。
幸村は私が食べ終わって一息つくまでぼんやりと待っていた。
耳に付けずに握ったままのイヤホンからは微かに音楽が流れている。
前に幸村が、音楽は試合前によく聞くと言っていたのを思い出した。
「もう次はないと思って、よく聞いて欲しいんだ。」
幸村は呼吸を置いて、私を見た。
私はペットボトルを握る手に力を込めた。
これが最後…私はその言葉を頭の中で繰り返した。
「俺と付き合って下さい。」
幸村の告白は、私の青春最大の挑戦のような気がした。
幸村の挑発的な目が好きだ。
私はMなのかもしれない。
「……よろしくお願いします。」
もう何も考えなくていいやと思った。
幸村と一緒にいると楽しいと思う自分の勘を私は信じることにする。
付き合った後のことを考えるとゾッとするけど。
私はもしかしたら人生丸投げにしようとしてるのかもしれないけど。
「……うん、良かった。断られたらどうしようかと思ったよ。」
「あはは!幸村でも不安になるんだね!」
「うん…断られたらどうやってイエスって言わせようか悩んでたから…。」
「……………そ…そっか。」
だけど幸村の隣から見る世界は、きっと絶景だろうと思った。
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幸村誕生日おめでとう!
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