い
幸村はいつでも一番だ。
幸村を避けて4日目。
忘れよう忘れようと頭が頑張っているのか、幸村と目も合わせなくなってたった4日で記憶の中の幸村の顔も朧気になってきた。…気がする。
思い込みのような気もする。
このまま忘れてしまえと私は腹黒い笑顔を浮かべていた。
「フッフッフッフッ…」
「変な笑い声。」
「これが笑わずにいられますかってんぎゃあああああ!!ゆ、ゆき、む」
「早く着替えないと、次体育だよ。」
幸村はふわりと笑ってどこかへ行ってしまった。
なにそれ。
4日ぶりの会話がそれってどういうこと。
屈辱にも幸村の第一印象は、鮮烈だった。
世の中にはこんな超人がいるんだ!中学校ってすげー!と誰もがソワソワしたものである。
容姿端麗、才色兼備、完全無欠、周りとは別格の存在、私たちとは違う、神様に選ばれた人間なんだとすら思えた。
何をやらせても、どんな困難も、笑いながら期待以上の成果で返した。
幸村は全てを超越していた。
でも、幸村は、弱さを見せるのが下手なだけ。
強くなろうとすればするほど、弱さに蓋をしなければいけなかった。
幸村は努力をする。
周りは期待する。
幸村は更に努力をする。
周りはそれを当たり前のように見る。
幸村だからできて当たり前だって言う。
体育館の隅っこに座って私はしかめっ面をしていた。
今日の体育はバスケだ。
今は男子グループが試合をしている。
コートの横からは女の子たちが黄色い声援を送っていた。
「幸村くん頑張って―!!」
幸村は涼しい顔でバスケ部の男の子のマークをかわしてポイントを決めた。
周りから肩を叩かれ、幸村は嬉しそうな笑顔で応えた。
一層女の子の歓声が上がった。
誰が見ても文句なくかっこいい。
幸村の腕にいつもつけているパワーリストが見えた。
相変わらず努力しているらしい。
遠目に幸村と目が合った。
ぼーっとしていた私はそのまま幸村と見つめ合った。
幸村は何も言わない。
幸村を避けていたのを忘れ、私はいつの間にかずっと幸村を目で追っていた。
幸村と話したい会いたいと無意識に思ったところで、私はようやく我に返った。
幸村は交替でコート外に出た。
集まってくる女の子たちにお礼を言いながら幸村は一人分隙間を空けて私の隣に座った。
「…………。」
「……………。」
何か言わないといけないのに何を言っていいかわからない。
私はもぐもぐとしばらく無言で口を動かしてから根暗な顔で話しかけた。
「バ、バスケうまいんだね…。」
私は小さな声で当たり障りないことを呟いた。
「…テニスよりは下手だよ。」
「そりゃ…テニスは努力してる量が違うでしょ。」
「…うん。そうだな。そうだ。」
「…………。」
「……………。」
幸村は一つ詰めて私の真横に座り直した。
「Aと一緒にいる時が一番楽しいよ。俺の一番。」
「一番…。」
「Aが一番好きだよ。」
びっくりして幸村を見た。
幸村はフフ…と笑って真正面から私を見た。
今までで一番かっこいいと思ってしまった。
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