ら
幸村は乱暴だ。
「いたたたたた!!やばいっす幸村部長!やばいっす!血!!血出てませんか!耳もげます!!」
「ごめんなさいは?」
「すんませんでした!!!」
「うん。じゃ、一時間のロードワークに行っておいで。」
放課後、後輩を締め上げている幸村を見つけた。
テニスコートの前で正座させられたままぎゃーぎゃー泣き叫んでいるのは、学校でも有名なやんちゃな二年生だ。
ジャージの上着をはためかせて、涼しい顔で見下ろしている幸村はにこやかに笑って後輩の耳を捻り上げていた。
後輩が泣きながら走り去った後、幸村はテニスコートにいる赤い髪の子、確か同じ学年の丸井くん、を呼び出した。
「ブン太、ちょっと。」
「お、俺…?」
「赤也だけの仕業とは思えないんだ。心当たりないかな?」
「う…」
テニスコートから目をそらすと後ろから悲鳴が聞こえた。
まるで独裁者だ。
これで実力も考えも統率力もカリスマ性もあるんだから手に負えない。
「……帰りたい。」
ケータイの画面を開いて私はため息をついた。
一件のメールには、一緒に帰ろうよという旨と、勝手に帰ったら〜〜〜するから。という口に出すのもおぞましい脅迫文が書いてある。
差出人はもちろん幸村だ。
「ま…いっか…。」
未だにしょげた丸井くんの前で幸村は腕を組んで何か喋っている。
後ろ姿を見つめて、その美しい八頭身を数えながら私はのんびり部活の終わりを待った。
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