ゆ
幸村は優秀だ。
「テニス部全国出場決まったって。」
「入学してからずっと特待生で学費免除されてるんだってさ。」
「幸村くん?かっこいいよねー!他校にまでファンクラブあるらしいよ。」
「入院してる時は10分置きに看護婦が様子見に来るから大変だったとか。」
「バレンタインにもらったチョコでテニスコートが埋まったのよ。幸村様は。」
本当に噂が絶えない人間だと思う。
「それで、その幸村様はなんで私に告白してるんですかね。」
「そう言えばそうだね。」
幸村は今気付いたとでも言うかのようなリアクションを取った。
屋上、まだ風が冷たい場所に呼び出されて、なんの用かと思ったら、あろうことか「付き合って欲しい」と笑顔で言われるとは。
あやうくフェンスを突き破って真っ逆様に落ちそうになった。
「それ、罰ゲーム?」
「俺が誰かに負けると思う?」
「あ、いえ、すみません。思いません。全く思いません。でも…」
「でも。なに?」
幸村は舌打ちをして私を見た。
怖い。知ってたけど、やっぱり幸村は怖い。
「私を騙しても良いことないよ…?」
「仁王じゃないし、俺はそんな面倒なことしないよ。」
「私と付き合っても幸村のプラスになることって、多分…ないよ…?」
「こう言えばわかる?」
幸村はため息をついて言った。
「好きだから付き合いたい。損得勘定なんかしない。」
「幸村……」
「付き合ってくれるよね。」
「無理っす。」
幸村は笑顔のまま固まった。
優秀な幸村でも、多分私が断るなんて予想できなかったに違いない。
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