鉛でも付けられているかのような体を引きずって、部室に向かうため廊下をずりずり歩いていると、目の前でふと誰かが足を止めたので私は顔を上げた。
このシューズには見覚えがある。
某有名ブランドの限定カラー、お洒落な新作デザインのこの靴は数が限られていたはずで、私の知る限りこの学校では財前光しか持っていない。


「なんすかソレ、ギャグっすか。」


ソレ、と言って光が指差したのは私の顔を半分以上覆っているマスクだった。
「風邪引いたんですか」くらい言ってくれれば可愛い後輩なのに、光はただ「マスクデカすぎですやろ」と失笑した。
最近のマスクは鼻まで覆えて顔にフィットするように大きいのが多いんだから仕方ない。
保健室でもらったこのマスクも例外じゃなかった。


「先輩、風邪とか引くんですね。」

「光、私のこと馬鹿だと思ってない?」

「…………。」

「否定しろよ。」

「………、…熱は?」


どうあっても生意気な反応をする光に風邪をうつしてやろうかと算段していると、ぶっきらぼうに光が尋ねた。
少しびっくりして思わず普通に答えてしまった。
「…熱はない。」

「部活出るんですか。」

「出るよ…。ケホケホ…私がいないと誰が雑用すんの…。」

「先輩おらんでも変わらへんですって。」

「なんだとコラ。」


もう光なんか知らない…と拗ねて横を通ろうとすると腕を掴まれた。
なに、と言おうとしてマスク越しに温かい物が触れた。


「今日はこれで帰ってください。」


わかりましたやろ、と念押しして光は部室の方角へと消えて行った。


「…!!ちゅーしやがった…!!」


なんでキスしたの前になんでマスク越しやねんというツッコミを脳内で激しく決めてしまい、風邪で痛い頭が更に痛くなった。
ムカつくから部活の帰りにゼリーでも持って見舞いに来いとメールを送ることにした。


私たちは、つい3日程前、彼氏彼女になった。
3日間、自分の告白を鮮明に思い出しては頭を冷やすために夜風が冷たいベランダで身悶えてたんだから、風邪を引いたのは光のせいだ。
光に直接責任を取ってもらおう。マスク越しではなく。

でもとりあえず私はこの顔の熱を覚ますことが優先事項だと顔を覆っていたマスクに更に顔を埋めた。








『新型インフルエンザの兆候』


(うわー!なんやねんお前それ!誰!?妖怪やん!!)
(どうしよう謙也…。私は今猛烈に熱が上がっている。頭痛いし目も喉も心臓も痛い。全身痛い。死んじゃう。今すぐ窓から飛び降りたい気分なんだけど。)
(おま…………タミ○ル飲んだん?)



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