キャアキャアと可愛い女の子たちの黄色い声が群がる中心にはいつだって跡部がいた。

遠くから互いにぶつかった視線は特に意味もなく、私はただ校門に向かってテニスコートを横切った。
強い視線から外れるように、動揺を隠してゆっくり歩く。
跡部に興味を持ったら終わりだ。
いや、興味を持たれても終わりなのだ。
最初からそう、理由はないのにそう思っていた。
生徒会が同じ、ただの友達。


「私なんで生徒会なんかに入っちゃったの…。」

「受験に有利だとか言ってたじゃん。」

「あの時はね!…結局そのまま高校も氷帝に進むって決めたし、ほんっと止めときゃ良かった…。」

「ま、あの跡部様と一緒なんだからいいじゃん。」


やっぱり近くで見るとますます綺麗なの?とキラキラした目の友人を適当にあしらって、私は今日も放課後の時間を生徒会に費やしにいく。

近くで見ると綺麗、なんじゃないかな。多分。

そこまで考えてようやく私は跡部をまともに見たことがないことに気付いた。
でも普通友達の顔をまじまじと見るだろうか。
見ないよな。
いや、見るかな。
そんなことを考えて首を傾げながら生徒会室に入ると跡部だけがいた。
跡部がふと顔を上げたので私はお疲れさまと声をかけて定位置に鞄を置く。


「…………。」

「……なにか。」

「こっちに来い。」

「えぇ!?…なんで!?」


つい拒否をすると跡部の綺麗な眉毛がつり上がった。


「つべこべ言わずにこっちに来い。」


私は諦めておずおずと生徒会長のデスクに近づいた。
相変わらず書類がつまれているけど、きっともうその過半数を捌き切っているのだろう。


「何か用?」

「この紙に見覚えないか。」

「うわあ!なくしたと思ってたのに!」

「59点か。」

「ぎゃー!やめて!」

「お前は本当に平々凡々だな。」

「い、いいよ別に平凡で。私は普通に生きて普通の人を好きになって普通に死にたいの!」

「フン。つまらねぇ人生だな。」

「ムカつく!」


一度生徒会室で鞄をひっくり返したことがあった。
なくなっていたけど特に気にしていなかった小テストの答案が、まさか重要書類に紛れ込んでいたとは。
このまま気付かれなかったら職員室のコピー機に回されて何十枚と増えたに違いない。
癪だったが跡部にお礼を言うと再び鼻で笑われてムカッとした。
睨みつけたまま、笑うために伏せられた跡部の長い睫が目に止まる。

近くで見ると益々綺麗に見える?

友達の言葉を思い出して改めてじっと見つめてみた。
透けるような白い肌は化粧をしている女の子顔負けだ。
色素の薄い跡部の髪の色が私は嫌いじゃなかった。
丁寧に手入れされているのか生まれつきなのか、さらさらの髪と同色の長い睫に縁取られた切れ長の瞳。
蒼の瞳孔、通った鼻筋、欠点一つ見当たらない。


「……。」


無言で見つめていれば何か言われると思ったが、跡部はいつもの憎まれ口すら叩かなかった。
ふと跡部が立って視線がズレると私はハッと我に返る。
跡部は不意打ちでぼけっとしていた私の頬に触れた。


「……!!!」


頬から顎に滑った指に顔を上に向けさせられる。
しかめた顔をした跡部と目がぶつかったら、跡部は私の目の奥を探るように小声で呟いた。


「興味なさそうな顔しやがって。」


何それ。そう言おうとしたのに跡部の手が離れたから喉で詰まってしまった。
跡部の言葉の意味も、なかなか止まない動悸の理由も、何もわからない。
黙り込んだ私を不思議に思ったのか、振り返った跡部の見開いた目から私は慌てて顔をそらした。


「………。」

「…私に聞いたってわかんないからね。」

「まだ何も言ってねぇだろうが。」


今顔が熱いことを自分でも自覚してしまったら、もうきっと二度と跡部を近くで見れないだろう。

無意識にせき止めていた気持ちがあっさりと堤防をこえる。
その指一つで卑怯にも、跡部は私を変えてしまう。

そうだ、最初から怖かった。
周りの女の子たちと同じになってしまうことがたまらなく嫌だった。
私は平凡だから、きっとどんどん綺麗で可愛い女の子たちの中に埋もれていってしまって、いつか跡部と目も合わなくなってしまう。
友達で良かった。
このままでいいのに。変わる必要なんかないのに。
好きにならないように、無意識に歯止めをかけてきたのに。


「…興味がないふりはもういいのか?」


いいわけない。


「じゃあ逃げんなよ。」
だから何もわからない顔をした。

跡部がニヒルな笑顔を浮かべて、私の唇に自分の唇を寄せるまでの、ほんの数秒間だけは。




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