ずっと考えてた。
どうしたらあなたは私のことを思ってくれるのかなって。
好きになって欲しいなんてもう思わないから、ちょっとだけでも私のこと。
でもいくらそう願っても、それは不毛という言葉に埋もれていくだけで、私を置いてあなたの時間だけが勝手に進んでしまうんだ。
針の進む音が私の歩みを止めている。
置いていかないでと手を伸ばしたいのに。
恋愛って残酷だから。
「宍戸。おはよう。」
「おー。」
はよ、と眠そうに返してくれる言葉さえ頭の中に残しておきたくなる。
「おはよ…」
「?ああ…。」
私はもう一度挨拶をして席についた。
今日提出の宿題をやっていなかったけど、そんな気分にはなれなかった。
宍戸の後ろ姿をぼんやりと眺める。
短くなった髪と最近たくましくなった背中。
テニス頑張ってたもんね。
全部見てきた。いつも追っていた。
大好きだった。
宍戸には好きな人がいて。
つい最近彼女になったらしい。
ついでに私が宍戸を好きだと気づいたのもその時。
もう一つついでに言うと、宍戸の彼女は私の親友。
だから余計にこの気持ちは居場所と存在意義を失った。
まだこんなに生きてるのに、そう訴えかけても。
きっともう生きていけない。
「亮、おはよう!」
「おー。おはよう。」
二人が仲良く話すのを私はいつも遠目に見ている。
友達も大切。
自分も大切。
苦しい恋愛ならいらないと思ってるし、そんな風に面倒くさいのは嫌だ。
でもどうして、好きだと思ってしまうんだろう。
見れば見るほど好きになっていく。
もう忘れてしまいたい。
そう思って何度泣いただろう。
「今日元気ねぇな。」
「え…?」
体育は出席番号順にペアを組んでの練習だった。
私のペアは宍戸で、これだけは私の特権。
「そうかな。」
「おう。」
「心配するのは彼女だけにしてよ。」
卑屈半分、素直に私はそう言った。
「なんだよ。人がせっかく心配してるってのによ。」
「心配は好きな人にするもんなんだよ。」
「あ?なに言ってんだよ。やっぱ今日お前変。」
ストレッチで体を曲げる宍戸の背中をぎゅうっと押した。
さすがテニス部レギュラー。
柔軟もばっちりか。
「心配してくれてありがとね。」
「おう。」
「私、好きな人がいたんだ。」
突然話し出す私に宍戸は目を丸めた。
「そうなのか。誰だ?」
「空気読んでよ。聞かないで。」
「わ、悪ィ…。」
相変わらずだ宍戸は。
いつまで経っても変わらないね。
そんな宍戸が大好きだったんだよ。
「失恋した…けど…。」
宍戸はさっき以上に目を丸めた。
「そっか…。元気出せよ。」
本気で心配してくれる宍戸に、涙をこらえて頷くだけで精一杯だった。
お願い、この気持ちをまだ殺さないで。
好きなんだよ。
大好きなんだよ。
言ってしまいたいのに、その勇気が私にはない。
宍戸も友達も自分も困ることになるとわかっていながら、この気持ちだけを優先させるわけにはいかない。
たった一つ残っている私の理性。
大好きなあなたを困らせたりなんか絶対にしない。
静かに色を失って、静かに死んでいく心に涙が止まらなかった。
「お、おい…大丈夫かよ?」
私はまたゆっくり頷いた。
同時にズキンと心が痛んだ。
困らせるのはこれが最後。
私は涙を拭くとむりやり笑顔を浮かべた。
「宍戸が友達で良かった…。大好き。」
宍戸は笑って、私を励ました。
傍にいて、私を見て、離さないで。
そんな「好き」はもう言えないけど。
ねえ、また一緒に笑ってくれるよね?