3日目!

「まあまあだな」
「まあまあかぁ」

今日はピザトースト、野菜スープ、エッグスラット、洋食だ。
おいしいは貰えなかったけど、箸は進んでいるようなので良しとしよう。
職場体験3日目、さぁ頑張るぞ。



「はぁ〜……」
いつもより長く湯船に浸かってからお風呂を出る。
瞑想も、長めにしよう、明日まで引きずるのは良くない。
そう思ってもなかなか浮き上がらない気持ちに思わずため息をついた。

よし、今日は奮発だ、1番高かった羊羹食べてやる。
お茶とお菓子の準備を終えたところで携帯が震える。

「……緑谷君?」

位置情報だけの一斉送信。
なんとなく、嫌な予感がする、念のため警察に通報しておこう。

「あの、何か争うような声が聞こえて、尋常じゃないみたいで通報しました。……はい、場所はーーー」

電話し終わってメールを送っているところで爆豪君が出てきた。
携帯を見ながらムスっとしているところを見ると彼もメールを見たみたい。

「わざわざ通報したんか」
「うん。何もなければそれが良いし、何かあれば何人か重なって通報すればイタズラだと思わないだろうし」
「ケッ、何かあってもテメェでどうにかしろよクソデクが」

ひっくい声で言い捨てる爆豪君。
ほんとに緑谷君そのものが、もう地雷なんだろうなぁ。
苦笑いしながら、羊羹を食べる、ん、おいしい。
それを彼はやっぱり頬杖をつきながら、私を睨んで、ううん、凝視している。
今日はどうしたんだろうか、昨日の続きは、正直気分じゃないな。

「爆豪君もいる?」
「……いや」
「そっか」
「…………なぁ」
「ん?」
「幼稚園で何かあったんか」
「っ!……そんな目に見えて落ち込んでる?」
「あぁ」
「そっか……」


今日は地域への福祉活動、幼稚園の特別行事「プロヒーローと触れ合おう会」のお手伝いだった。
メインはNo.4ヒーローで私達はおまけだったけど、雄英体育祭を見ていた子達がいて、とても喜んでもらえた。
子どもと触れ合えて楽しかったし、個性自体も、個性ゆえ得意な折り紙も、読み聞かせも楽しんでもらえたし、活動自体は大成功に終わったと思う。
ちなみに爆豪君は、恐いもの知らずのワンパク達とヒーローごっこ(バクゴーヒーロー事務所)をしていた、意外と楽しそうだった。
その活動中に、何気なしに言われた言葉が引っかかっていた。

「保育士さんやサイドキックの人にね、『良い保育士になれる』って言われたんだ」

何の裏もない、褒め言葉だったのは分かっている。
それがこうも胸をモヤモヤさせるのは両親のことを思い出させるから。

「実はヒーローになることを両親に大反対されててね、勧めらてる仕事が保育士とか教師なの」

母は元保育士で、女の子の私に危ない仕事をしてほしくないから。
父は警察官で、ヒーローという仕事の、華やかなだけでない大変な一面を、そして、実際に命を落としていったヒーロー達を、知っているから。
でも、他の人より、少しだけ近くで見てきたからこそ、より強く思った。
命をかけて人を救うヒーロー、なんて、カッコいいんだろう、って。

「大変で危ない仕事だって散々言われた。それでも、諦められなくて、憧れて……。絶対なるって決めたはずなのに、両親のことを思うと、揺らぐ」

一緒にヒーローを目指しているからこそ、クラスのみんなには言えなかった弱音。
爆豪君に言ったのは、タイミングもあるけど、揺らいだ私を見つけてくれた君に、

「ハッ、くだんねぇ」

誰より、自分にも他人にも厳しい君に、

「雄英まで来といて、何ふざけたこと言ってんだ」

そう、こうやって、

「決めたんなら貫き通せ、うだうだしてる方が迷惑だ」

ぶった切ってほしかったんだ。
欲しい言葉を汲んでくれた彼は、期待以上の言葉をくれた。

「〜〜〜っうん……!」
「文句言われねぇくれぇ上目指せ、俺はその上を行くけどな」

今にも落ちそうな涙を必死に止めてたのに、最後の言葉が爆豪君らしくて笑ってしまう。
笑った拍子に、ぽろり、落ちてしまった。
さっきまで真っ直ぐこちらを見ていた彼は、そっぽ向いて涙に気づかない振りをしてくれた。
そのことに甘えて、俯いて、涙を拭う。
2粒、3粒、涙が落ち着いて、顔を上げるまで静かにそこにいてくれた。

「爆豪君、意外と紳士だね、そういうところ、全面的に出したら人気出ると思うよ」
「意外とは余計だ、人気出るに決まってんだろ」

いや、意外すぎるよ、普段の態度からじゃ想像つかないって。うっせぇ。
鼻声なことに突っ込まず、会話に乗ってくれる爆豪君は本当に紳士で優しい。

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2017/08/20



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