異能変奏曲 | ナノ


▼ 05

『気持ち悪い子』

夢の中でその女性は確かに軽蔑の眼差しでこちらを見ていた。
小さな少年はその眼差しを幼いながらに理解していた。自分は気持ち悪い存在。だから夢の中の女性はあんな眼差しを向けてくるのだ。でも、そんなことを言われたってどうしようもない。小さな少年には異能力を完全に制御する事など出来はしないのだから。

「ママ……ぼく、そんなに気持ち悪い?」
「近寄らないで!!あと人の心を読まないでくれる!?だからアンタは気持ち悪いのよ!!」

女性……母親は、少年に向かって容赦のない言葉を放つ。
なんで、どうして、ママはぼくを気持ち悪がるの?ぼくがママの考えてる事が分かるから?それはいけない事なの?どうしてぼくはみんなの考えてる事がわかるの?ぼくは…………

ーーーーーバケモノなの?


05 神無月紫苑-Shion Kannaduki-


「ッ!?」

紫苑は飛び起きた。
冷や汗をかきながら少しの間呆ける。
やがて夢から覚めたのだと気付き、深いため息をついた。

「夢、か………」

また随分と昔の夢を見たものだ、と自嘲気味に笑う。
幼い頃。紫苑は異能都市の『外』で暮らしていた。異能力に理解のない『外』の世界。当然紫苑のような異能者は『外』の世界では異端だ。忌み嫌われ恐れられる。
紫苑の異能力は念話能力-テレパス-。この異能都市では然程珍しい異能力ではない。基本は自分の意思で対象と定めた人物と声を出さずに会話する異能力だ。
だが彼の異能力は他の念話能力より秀でており、10人以上の人物と繋ぎ合わせ、繋がり合ってる者同士で会話が出来る。そして繋いだ相手の考えている事を一方的に読み取る事も可能である為、読心系の異能も兼ね備えている極めて珍しいタイプの異能力である。

「…………」

『外』にいる異能力者は、異能都市に買い取られる形になる。忌み嫌う親も居れば、子供の異能力を悪事に使う親もいる。
家族揃って異能都市へ移住するパターンもあれば、早々に子供だけを手放すパターン、異能都市に来ることを拒み強制連行されるパターンなど、様々だ。
異能力を持つ者は、必ず異能都市へと移り住まわなければならない。それが異能力者を守る為にもなるからだ。
紫苑の母親は、大金を積まれあっさりと彼を売り払った。まだ紫苑が5歳の頃の出来事だった。

「(母さんは、今でも俺を売り飛ばした事、後悔してないのかな………するわけないか。バケモノが居なくなって大金が懐に入って来るんだもんな。むしろ最高にハッピーじゃん)」

内心で思いながらも、母親の愛情に飢えてる紫苑はまだ心の片隅で期待していた。いつかは、母親が自分に会いに来てくれるのではないか。自分を愛してくれるのではないか。そんな淡い期待を未だに捨てきれずにいる。

「(まぁ、今の俺じゃ、どのみち母さんに合わせる顔なんてないんだけどさ)」


****


その日、いつもの賑やかな暦家の朝食を終え学校に通っている者はそれぞれ登校する。椿、蓬、紫苑の三人は同じ学校に通っている為、一緒に登校する。そしてある場所で立ち止まった。そこにいた一人の少女がふわりと微笑んだ。

「おはようございます」
「はよ、彩星」

目を引く少女の雰囲気は、一言で言うなら大和撫子、だろうか。そんな彼女が紫苑の姿を見つけて笑顔で駆け寄って来た。

「暦くん、若葉くんもおはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」

少女の挨拶に二人も返す。
少女の名前は織神彩星(おりがみ あかり)。紫苑の幼馴染みだ。
そして暦、若葉というのは椿と蓬の本来の名字である。

「はい、紫苑。今日の分のお弁当です」
「ありがとう。いつもわりぃ」
「いいえ。私が好きでやっているんですもの」
「ん、そっか」

彩星の笑顔に紫苑も微笑みを返す。
こうして彩星と接している間は紫苑も普通の男子高校生だ。

「ところで紫苑、今日の放課後って予定はありますか?良かったら一緒に買い物に付き合って欲しいのですが……」
「今日の放課後?………あー、うん。大丈夫。いいよ」
「本当ですか!?じゃあ今日の放課後、ここで待ち合わせです!」

ぱぁっと周りに花を散らすかのように喜ぶ彩星。

「それではまた、放課後に!」

ペコリとお辞儀をすると彩星は自分の通う学校へと向かい出した。

「学校が違うのにほぼ毎日のように手作りのお弁当を持って来て下さるなんて、紫苑は幸せ者ですね?」

珍しくからかうような眼差しで蓬が言うと紫苑は途端に赤面し彼を睨んだ。

「う、うるさい!」
「今日の放課後はデートだね。楽しんで来て」
「つ、椿まで……!!」


****


昼休みに差し掛かり彩星の作ってくれた弁当を食べる。彼女の作ってくれる弁当が紫苑は好きだった。
彩星とは異能都市にやってきてすぐ、異能力を定める研究所で出会った。今まで他人と会話らしい会話をした事が無かった紫苑は他の異能力者の子供とも馴染めずにいた。そんな中話しかけてくれたのが彩星だったのだ。

『わたし、織神彩星って言います。あなたはのお名前は?』
『………しおん。なるかみ、しおん』
『紫苑くんですね。よろしくお願いします』

手を差し出す彩星。
だが紫苑はすぐにはその手を取れなかった。

『?』
『ぼくに、関わらないほうがいいよ。ぼくは、気持ち悪いバケモノだから』

そんな紫苑の言葉に彩星は優しく微笑む。

『大丈夫です。私たちはみんな、貴方と同じですから。だから、分かり合えます。紫苑くん、私とお友達になって下さい。私も、“バケモノ”の一員ですから』
『…………………』

不意に回想が途切れる。スマホから急な知らせが入った音が鳴ったからだ。
それは神流からの応援要請だった。他のやつを当たってくれと言いたい所だったが、内容を見て驚愕した。

『“外”に逃げた爆弾魔の異能力者を追ってたんだけど、ちょーっと面倒くさい事になってねぇ。ある会社の従業員を人質に取られちゃってさぁ。ヘルプミー』

そのメッセージに記された会社の名前に紫苑は見覚えがあった。

「これ、母さんの働いてるところじゃ……!?」

母親の近況を何度か調べた事がある。
その時見かけた勤務先の名前だ。間違いない。

『本当ですか!?じゃあ今日の放課後、ここで待ち合わせです!』

今朝約束をした彼女の笑顔が脳裏を過ぎる。
別に自分じゃなくても解決に導けるメンバーがいるのではないか?だがあの神流がわざわざ自分に応援要請をよこしたのだ。自分でなければならない何かがあるのだろう。

「間に合う、か?」

紫苑はメッセージアプリを立ち上げ彩星へと連絡を入れる。

『ごめん、ちょっと今日の放課後付き合えるかわかんなくなった。もし5時過ぎても連絡が無かったら、買い物はまた今度にしよう』

それだけを打ち込むと紫苑は急いで椿の元へと向かった。


to be continued...


[ back to top ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -