異能変奏曲 | ナノ


▼ 04

椿はとある病院へとやってきていた。病院、と言うよりは研究所に近い施設だ。
厳重に警備されており中に入るのも一苦労する程である。
手続きを済ませ病室へ足を運ぶ。扉の横に貼られたネームプレートには『暦 薺(こよみ なずな)』と書かれていた。

「薺」
「!……椿!」

椿の声に反応してこちらを振り向く顔は、椿と瓜二つだ。

「来てくれたの?嬉しい!」

屈託のない笑顔を浮かべる少年・薺は椿の双子の弟である。
いつもは殆ど表情を変えない椿も薺につられてフッと笑みを浮かべた。


04 暦 薺-Nazuna Koyomi-


「調子はどう?」
「うん、最近は全然平気だよ!寧ろ元気かな!」

折りたたみ式の椅子に座りながら椿は尋ねる。
そんな椿へ薺はほら、と元気よく身振り手振りで答えた。

「そっか。なら良かった。でもあまり無理はしないで」
「椿は心配性だね。あーあ、早くうちに帰りたいなー……」
「薺の病気が治れば帰れるよ。だから頑張ろう?」

椿の言葉に今まで明るかった薺が少しだけ表情を曇らせる。

「……いつになったら、僕の病気は治るんだろ。そもそも、治るのかな………」
「薺………」

俯く弟に椿は何か言葉をかけようとして詰まる。無責任な事は言いたくないし、期待もさせたくなかった。こんな時、自分が代わってやれるのなら今すぐにでも変わってやりたい。悔しさから拳を強く握った。

「あは、ごめんね、椿に言っても仕方ないよね。お医者さん、早く僕の病気を直して〜!!」

明るく振舞ってはいるが、薺だって自分自身の事だ。嫌でもわかるだろう。

「(薺………必ず、必ず僕が君を助けてみせる。今はまだ無理だけど、その為に僕は、暦家はーーー)」
「ねぇ椿、最近の皆の様子聞かせてよ」
「……え?」

突然尋ねられ、椿は不意打ちをくらった表情を見せる。

「だから、蓬さんとか、神流さんとか!暦家の皆の話!聞かせて欲しいな」
「あ、あぁ……うん、そうだね。いいよ」

薺にせがまれ、椿はここ最近の暦家の面々の話を始めた。


***


施設を後にしたところで蓬が待っているのが見えた。少し不安気な表情の蓬に椿は微笑んでみせる。

「大丈夫、薺は元気だよ。最近の君たちの話を聞いて楽しそうにしてた」
「そうですか……なら、良かったです」
「あの施設にいれば、“異能力の暴走”だけは何とか抑えられる………」

少しだけ複雑そうに呟く椿に蓬も再び顔を曇らせた。

「椿様………」
「蓬、僕は薺が元の生活に戻れるなら何だってするつもりだ。その為ならどんなに蔑まれても異能都市の犬にだってなる」
「貴方が望むことは、私たちの望むことでもあります。だから椿様、どうか一人で背負い込まないで下さい」
「……ありがとう、蓬。君たちのおかげで僕は救われてるよ」

蓬の言葉に椿は小さく笑みを浮かべる。

「それは私たちだって同じですよ。いいえ、今の暦家の殆どの者が、貴方に出会わなければきっと死んでいたかもしれません。みな貴方に命を救われてる」
「……大袈裟だよ。僕は一緒に来て欲しいと声をかけただけだ」

首を左右に振る椿に蓬はそれ以上言葉をかけるのをやめた。

「(どんなに否定しようとも、貴方の存在は確かに大きいんです。だからこそ、我の強いあの面々が貴方に忠誠を誓っている。椿様、貴方は自分がどれだけの事を成したのか、そして慕われているのか、きっとわかってないのでしょうね)」


***


椿が帰って暫く。
日は沈み病室の窓から見える空も真っ暗になっていた。

「……………」
「キミは実に可哀想な存在だネ」
「!?」

月を見つめる薺へ突然声がかけられ、心臓が跳ねた。すぐに視線を向ける。
するといつ入って来たのか、見知らぬ少年がそこにいた。

「誰……どうやってここに……」

面会時間はとっくに終わっている。
一般の人間は入ってこれないはずだ。

「ボクの事は気にしないでいいヨ。そんなことより、暦 薺クン……キミはいつになったらこの檻から出られると思ウ?」
「檻って………僕の病気が治れば退院出来るって……」
「その病気って、いつ治るノ?」
「そ、それは……」

少年の問いかけに薺はたじろぐ。

「そもそもキミがここに閉じ込められてるのは、キミのお兄さんのせいでショ?」
「!!……ち、違う、椿のせいじゃ、ない…!」
「ウソツキ。ほんとはキミだって、少なからずお兄さんのせいだと思ってるんだロ?」
「そんなことない!!」
「キミはお兄さんのせいでこんなとこに閉じ込められて、そのお兄さんは外の世界で自由に生きてル。許せない……そう思うのが普通だヨ」
「ッ……!!!!」

少年の言葉に薺は何かに引き込まれるような感覚に陥る。椿のせいじゃない、頭では理解出来てる。しかし彼の言葉は心の奥底に眠る感情へ揺さぶりをかけてきていた。

椿の事は大好きだ。でも、もし自分たちが兄弟でなければ、双子でなければ、今自分はこんな生活を送ってなかったかもしれない。

「キミがこの檻から出ることなんて、一生出来はしないヨ。ダレもキミを助ける事なんて出来なイ。キミの大好きなお兄さんですらモ」
「そん、な………」
「でもボクなら、この檻からキミを連れ出してあげれるヨ」
「え……」

今まで無表情だった少年がフッと小さく笑みを浮かべた。


to be continued...



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