異能変奏曲 | ナノ


▼ 01

この世には理不尽な事が蔓延している。
望みもしない力を手にし、汚れ仕事ばかり押し付けられる。そんなツマラナイ日常は僕の心から感情を奪っていった。
けれど、彼らと出会ってからはそのツマラナイ日常にも変化が訪れたんだ。
決して光の世界には生きていけない運命だとしても、僕は彼らと一緒ならそれでもいいとすら思い始めたんだ。


01 暦家-Koyomi family-


『あー、あー、夏菊、聞こえてるか?』
『バッチリ聞こえてるよ』

脳内に響くようにして聞こえるその声に夏菊と呼ばれた少年が返答を返す。

『ターゲットは現在裏路地を逃走中』
「このまま行くと夏菊さんの方へ出ます」
『夏菊、そっちに出会すらしい。ナイスタイミングだな』
『へいへい、りょーかい』

夏菊はその念話を受け取るとニヤリと笑ってみせた。
その直後、夏菊の前に一人の男性が現れる。

「ひっ!?」
「はーぁい、いらっしゃい、ネズミさん」

男性は手のひらをかざし真っ赤な炎を纏わす。彼の異能力のようだ。

「へぇ!アンタの異能力も発火能力なんだ!奇遇だな、俺もだよ。……でも」

次の瞬間、男性を囲うようにして黒い炎が燃え上がる。

「黒い炎…!?ま、まさか、黒の炎呪!?」
「大正解!正解者のおにーさんには、俺から死をプレゼントしてやるよ」
「や、やめ、ッーーーー」

黒い炎が男性を包んだ。
一瞬にして男性は消し炭となってしまった。


***


「たっだいまー!!」
「お帰りなさい、夏菊、紫苑、菫さん」

任務を終えて帰宅した三人を出迎えたのは、長身の少年。彼の名前は師走 蓬(しわす よもぎ)。

「お疲れ様です」
「大した仕事じゃなかったけどな」

肩を竦めながら答えたのは神無月紫苑(かんなづき しおん)。先程念話能力-テレパス-を使っていた少年だ。

「そうそう!もう少し骨のあるヤツかと思ってたんだけどな〜」

紫苑に続いて喋ったのが発火能力-パイロキネシス-を操る人物、文月夏菊(ふみづき なつき)。一般的な発火能力とは少し異なっており、その能力の特徴から『黒の炎呪-くろのえんじゅ-』という異名を持っている。

「相変わらず圧倒的な力でしたよ、夏菊さん」

夏菊を褒めたのは如月 菫(きさらぎ すみれ)。彼女の能力は透視能力-クレアボイアンス-。眼に頼らず視覚情報を得る能力だ。
先程は彼女の透視能力でターゲットの動きを追い、紫苑の念話能力で離れた場所にいた夏菊へ情報を伝えていたのだ。紫苑と菫は能力の関係で基本的にタッグを組まされる事が多い。

そう。ここは異能力者と呼ばれる、不思議な超能力を持つ人間が集う人工都市……異能都市と呼ばれる場所だ。
そして彼らはその異能力者の中でも闇に生きる人間の集まりーー所謂暗殺を担う一族である。

「お帰り」

そこへ新たにかかる声。
その声に四人は一斉に視線を向けた。

「椿様っ」

蓬が駆け寄る。
幼い顔をした小柄な少年という言い方がしっくり来るこの人物こそ、個性豊かな一族……暦(こよみ)家をまとめる現当主・睦月 椿(むつき つばき)。

「お疲れ様、夏菊、紫苑、菫」
「何て事なかったって!」
「もしかして起こしてしまいましたか?」

既に丑三つ時は過ぎている。
眠っているものだと思っていた為、椿の登場に驚きつつも嬉しそうな笑みを浮かべる三人。

「ううん。僕が勝手に待ってただけだから気にしなくていいよ」
「全く……私が出迎えるから先に眠って下さいと申し上げたのに……」

溜息を付きながら言う蓬に椿は「ふふ、ゴメンね?」と悪戯っぽい微笑みを浮かべた。


***


「お帰りなさい、夏菊」

夏菊が部屋に入ると待ちわびていたかのように嬉しそうな声をあげて少年が微笑みかけてきた。やれやれ、と肩を竦める夏菊も何処か嬉しそうだ。

「お前も夜更かしか?侘助」
「夏菊を待ってたんです」

むぅ、と不貞腐れたように言うのは水無月侘助(みなづき わびすけ)。

「はは、不貞腐れるなよ、冗談冗談。ただいま、侘助」

ぎゅっと侘助を抱きしめる夏菊。

「あ〜、侘助充〜」
「ふふ、何言ってるんですか」

彼らは幼馴染みであると同時に恋人でもある。
暦家全員が公認しているカップルだ。

「お疲れ様でした」
「おう、サンキュ」


***


椿は自室の窓から月を見上げていた。

「……………妙な胸騒ぎを感じる。杞憂で済めばいいんだけど」

机の上に飾られた写真に目を向ける。
暦家全員が幸せそうに笑顔を浮かべている写真。
暗殺という闇に生きている事を除けば彼らは結束の強い家族だ。

「…………もう寝よう」

そう呟く椿。
彼らの日常に変化が訪れるまで、あと少しーー

to be continued...


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