煉獄譚詩曲 | ナノ


▼ 01

「ゆーし!!頼む!!ヘルプ!!」
「はぁ、またなのか、春夜」

十六夜優詩(いざよい ゆうし)は目の前にいる幼馴染み・九条春夜(くじょう はるや)に哀れみの目を向けた。

「朝から人の部屋に押しかけて来て何の用かと思えば、何でキチンと期限内に課題がこなせないんだ?」
「し、仕方ねぇんだよ。この連休は親戚の手伝い事で潰れちまって……」
「ふーん。大体キミは計画性が無さすぎなんだよ。こうなる事くらい予想出来なかったのか?」
「うっ………」

優詩の正論に返す言葉もなく、春夜は捨てられた子犬のようにしょんぼりしてみせる。
そんな彼の姿に優詩はやれやれ、と肩を竦めた。

「あくまで手助けするだけだからね」
「!!………ゆ、ゆ〜し〜〜!!」
「ちょ!?抱きつくなッ」


01 兆候-Sign-


ここは異能都市。異能の力を持った人間が集まる人工都市だ。この都市にいる人間の8割以上が何らかの力を持っている。だが必ずしも異能者とは限らない。
ここ、月守高等学校は異能の力を持たない子供たちが集う学校の一つだ。

「はよーっす!!」
「おぉ、春夜に優詩、はよ」

教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わす。

「春夜、課題ちゃんとやって来たのか?」
「まぁな!ギリギリ、なんとか。優詩に手助けしてもらった」
「だろーな。そんな気がしたよ。お前が真面目に課題やってる姿とか逆に想像つかねーわ」
「うるせぇ!!俺だってやるときゃやるわ!!そう言う夏菊こそどうなんだよ!!」

春夜の問いかけにクラスメイトである彼、桐野夏菊(きりの なつき)はニヤリと笑って見せた。

「俺は優等生だからちゃんとやってるよ」
「デスヨネー」

くそぉ、と涙する春夜。

「あ、ところで夏菊、今日放課後空いてるか?」
「ん?今日?あー、うん、多分空いてる」
「もし良かったらゲーセン行こうぜ。この間のリベンジしてぇ」
「はっ、上等。かかってこいよ」

放課後の予定を立てたところで予鈴が鳴り、それぞれ席についた。


***


「悪いな、黒谷、付き合わせて」
「いいえ、俺は構わないですよ」

放課後。ゲームセンターへとやって来た春夜たち。
対戦ゲームで白熱する春夜と夏菊を見守るのは優詩と、夏菊の連れである黒谷侘助(くろたに わびすけ)。

「九条くんと遊んでる時の夏菊はホントに楽しそうです」
「何だかんだ話が合うみたいだしな」
「そうですね。ちょっと妬けちゃいます」

なんて、と苦笑いする侘助。
それは優詩も同じだった。春夜と夏菊は確かに仲がいい。それ故に春夜に淡い想いを寄せる身としては少なからず嫉妬の対象になってしまうのだ。
勿論そんなことは自分しか知らないわけだが。

「ん、そう、だな。何となく、わかるよ」
「え……??」
「わーびーすーけー!!お待たせ!!」

その時、対戦が終わったのか突然夏菊がギューッと侘助に抱きついた。

「わわ、夏菊っ」
「終わったのか」

優詩が問いかける。
夏菊の背後にいる春夜は項垂れていた。
結果は聞くまでもないようだ。

「まぁ春夜が俺に勝とうなんて100年早いって事だ」

侘助に抱きついたまま夏菊はニヤリとして言う。

「うるせー!!いつか必ず勝つからな!!」

春夜がそう言った直後、夏菊のスマホから着信音が鳴る。

「あ?………ういーっす、夏菊でーす………………はいはい、りょーかい。侘助と一緒にすぐ向かうわ」

少しだけ会話して通話を終えた。

「わりぃ春夜、十六夜。急用入ったから俺ら抜けるわ」
「くそー、勝ち逃げかよ」
「まぁ精々頑張りたまへ!侘助、行こうぜ」
「あ、はい。十六夜くん、九条くん、失礼します」

二人はこの場を去る。

「俺らもそろそろ寮に帰るか」
「そうだね」

春夜たちも寮へ帰る事にした。
ゲーセンを出て他愛のない会話しながら帰宅する。
人通りの少ない道へ差し掛かった時、二人の目の前に見知らぬ白髪の少年が現れ話しかけて来た。

「ねぇ、貴方が九条春夜?」
「え?なんで俺の名前を……」
「見つけたーー」

刹那、少年の周りに白い炎が浮かび上がる。

「!?」
「貴方に恨みは無いけど、死んでもらいます」
「はぁ!?」

突然の事に春夜は当然混乱した。
だが少年は待つこと無く炎を春夜目掛けて放って来る。
咄嗟に反応したのは春夜ではなく優詩だった。

「ッ!!」

影を操り優詩は盾を作り出す。

「影の異能力…!?まさか、十六夜家の…!?」

少年は目を見開く。

「春夜、早くここから逃げろ」
「は!?お前はどうするんだよ!!」
「俺の事はいい。それよりキミの方が狙われてるんだ。だから早く逃げろ!」
「けどッ」
「お喋りするなんて、余裕ですね。僕も随分と舐められたものだ」

少年は異能力を更に使い、春夜と優詩の周囲を白い炎で囲う。

「ッ!!」
「春夜!!」

優詩は瞬時に反応し、春夜の手を取り己の能力を使う。影から影への瞬間移動だ。

「ほんとにチート級の異能力だ」

忌々しげに少年は呟く。

「何故春夜を狙うんだ…!」
「それが依頼だからですよ。僕は別に貴方と戦いたい訳じゃない。邪魔をしないで欲しいのですが」
「依頼って、誰に依頼されたんだ…!!」
「それは貴方には関係ないことだ。それにしてもその制服。異能力を持たない一般の人が通う学校の制服ですよね。何故そんな学校に貴方程の異能力者がいるんですか?」

確かに優詩の通う学校は異能力がない生徒が通う学校だ。優詩が能力者である事を知っているのは幼馴染みである春夜のみだろう。

「それこそキミには関係ない。話す必要もない」
「それもそうですね」

少年は再び異能力を使い、白い炎を周りに浮かべる。

「今度は逃がしません」

白い炎が二人の足元目掛けて放たれた。

「!?」
「あ、足元が凍った!?」
「僕の異能力、少し変わってるんです。異能力自体は特に珍しくない発火能力-パイロキネシス-なんですよ。ただ、僕の操る炎は絶対零度の白い炎……こうして相手の動きを封じる事も出来ます」
「くっ…!!絶対零度の白い炎……そうか、キミは音無の………」

優詩は心当たりがあるように呟く。

「貴方のような人に知られてるなんて、光栄だなぁ。特に有名な家って訳でもないのに」
「キミは長時間異能力を使えないはずだ」
「そんな事まで知られてるんですか?それは本当に極一部の人間しか知らない事のはずなんですが……まぁいいです。これでチェックメイトーー」

無数の白い炎が槍のように春夜へ向かって放たれたはずだった。

「!?」

だがその炎の槍は春夜に当たる直前、霧のように消えてしまった。少年は勿論、優詩も目を見開く。

「な、何が……」

続いて2人を拘束する氷も溶けるように消えた。

「!?僕は能力を解除してないのに……なんで!!」

動揺する少年を見て優詩は、今だ、と一気に間合いを詰める。
突然の出来事に少年は対応出来ず、優詩の能力で吹き飛ばされた。

「ぐっ!!」
「春夜!!逃げるよ!!」
「っ、あ、あぁ!!」

優詩は春夜の手を引き走り出す。
少年も何とか立ち上がろうとするが、金縛りにあったかのように動けない事に気がついた。優詩の能力のせいだと瞬時に理解する。

「!!」

優詩たちの姿が完全に見えなくなり暫くして、ようやく動けるようになった。ふぅ、と一息つき、立ち上がる。体を強打したせいで少し足取りが重い。

「ーーー睡蓮」
「!」

不意に背後から声をかけられ、睡蓮(すいれん)と呼ばれた少年は恐る恐る振り向いた。

「ッ、あ……ーーー」


***


「ッ、はぁ、はぁ……」

何とか少年から逃げ切った優詩と春夜は、走って乱れた呼吸を整える。

「春夜、大丈夫か…?」
「あ、あぁ、俺は平気だけど……優詩は?」
「俺も大した怪我はしていない。それよりも、さっきの……キミに放たれた攻撃が直前に消えた。もしかして、キミが何かしたのか?」
「いやいやいや!なんもしてねーよ!」

優詩に問われ春夜は大袈裟に手と首を振り否定してみせた。

「俺が無能力者なのはお前が一番知ってるだろ!?」
「まぁ、そうなんだけど」

ならば何故。相手は完全に春夜を殺す気でかかってきた。向こうが咄嗟に異能力を消すわけがない。

「てか、何で俺が殺されなきゃいけないんだ!?俺はただの一般人だっつーの!!」
「向こうの目的の真意は確かに分かりかねる。だがあれは本気だった。………春夜」

優詩は真剣な眼差しで春夜を見据える。

「油断していると、また襲いかかられるかもしれないよ」
「ッ……!!」

平凡だった春夜の日常が、確かに変わり始めたーーー


to be continued...

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