長編U
- ナノ -

円 -10-



 我愛羅の登場により戦局は覆った。今まで散々苦しめられていた大砲は全て破壊され、銃は砂の粒子により弾詰まりを起こし、暴発しては多くの兵が武器を捨てて逃げて行く。
 だが武器を捨てた兵など敵ではない。すかさずカンクロウの傀儡が行く手を阻み、時にはテマリのかまいたちにより命が摘み取られていく。

 元より戦場など風向き一つで変わるものだ。
 正規軍の要塞を反乱軍がようやく制圧した頃には、残っていた正規軍人たちも身柄を拘束されていた。

「後は偽物を見つけたらお終いね」

 流石の大蛇丸も疲れたのだろう。珍しく汗を流し、肩で息をしている。カブトも内心では「珍しいな」と思いつつ、流れる汗を袖で拭った。

「初めてですよ、こんな大乱闘」
「本当にね」
「はぁ……はぁ……」

 実際我愛羅も守鶴と全力で戦ってからの戦場である。元より扱えるチャクラも大して残っていなかった。それを使い果たした今、我愛羅は今にも倒れそうなほどに疲れ果てていた。

(だが……これで、ようやく終わる。ようやくサクラを、木の葉に帰すことが出来る)

 今サクラが何処にいるのかは分からない。木の葉丸たちと共に収容されているはずだが、クーデターのことは風影にも報告されているはずだ。子供達共々無事だといいが。残念ながら我愛羅にそれを知る術もなければ風影に伝える術もない。

「くっ、」

 我愛羅は乗り込んでいた要塞から周囲を見渡す。我愛羅の他にも疲れたように座り込む者や、天を仰ぐ者、手を組み命の無事を喜ぶ者もいた。
 そんな中一度息を詰めると、力を振り絞って寄りかかっていた壁から背を離す。

 要塞の外では捕えた軍人たちをどうするのか。話し合う反乱軍の姿が見える。当然その中には大蛇丸も加わっており、テマリやカンクロウは新たに捉えた軍人たちを引きずってきていた。

「……終わった」

 ようやくここまで来た。長きに渡る戦争が、己やサクラを、多くの民を傷つけ苦しめた戦争が、もうすぐで完全に終わるのだ。
 フラフラと外に向かって歩く我愛羅が顔を上げれば、遠くの方から焦がれた薄紅が駆けてくる姿が目に入る。

「我愛羅くん!」

 何だか久しぶりに声を聞いた気がする。サクラの泣き出すような声を耳にしながら、我愛羅が名を呼ぼうと口を開いた時だった。

「我愛羅くん、後ろー!!」

 サクラの声に体が固まる。己の背後に忍び寄る人の気配にようやく気付いた我愛羅が振り向き、手を翳すよりも一足早く――相手の持つ刃が我愛羅の体を刺し貫いた。

「我愛羅くん!!」
「我愛羅!」
「あの男……!」

 サクラの声で気付いたのだろう。姉兄だけでなく、大蛇丸も聞こえる。だが我愛羅の視線は己の体を貫く一本の刃へと向けられていた。
 それは細く長い、真っすぐとした刀身が特徴的な――火の国でよく使われている『刀』だった。

「き、さま……は……っ」

 視線だけで振り返り――確認した先にいたのは、一人の痩せこけた男だった。砂隠の額を首に下げ、怒りと呪詛に濡れた瞳はまっすぐと我愛羅を射抜いている。

「うぐっ……!」

 我愛羅を守る砂は男の足首を掴んでいた。だがチャクラが足りなかったのだ。この要塞を落とす際、我愛羅は力を使い果たしていた。
 母のチャクラが混ざったその砂も、我愛羅が地に伏せると同時に勢いを失い、霧散してしまう。

「は――はっ、あはは……、あはははは……!」
「があぁっ! あぐ、うぅ……!」

 刀が己の内臓を引き上げていく感触がする。どうやら刀身を引き抜いたらしい。
 我愛羅は歯を食いしばろうとするが、想像を絶する痛みに思わず呻く。

「何しやがる、テメエ!」
「我愛羅から離れろ!」

 姉兄もチャクラを使い果たしているのだろう。すぐさま忍具を投げつけるが、男は我愛羅の血で濡れた刀身で全て弾き落とすと狂ったように笑いだす。

「はぁっ、はは、あはははっ、あはははははっ! あははははははは! やっと、やっとだ……! やっと、仇を討つことができた!」
「あなたは――!」

 ようやくテマリたちの元に駆けつけることが出来たサクラは、我愛羅を後ろから刺した人物に目を見開いた。

「あの時の……どうして……」

 真っ赤に染まった刀を下げ、笑う男は病院でサクラに『病棟は何処でしょうか』と問いかけてきた、片足を負傷していた男であった。歩き辛そうな背中を見てサクラは男を車椅子に乗せて病室近辺まで運んだ。気弱そうな笑みを浮かべた、『我愛羅に足を潰された』と語った男が何故こんなところに――。

「どうして、あなたがここに……!」
「あはははは! あ? あ〜、サクラちゃんじゃないですかぁ。あなたも此処にいたんですねェ。フフッ、大丈夫ですよ。僕と一緒に木の葉に帰りましょう」
「え? 木の葉……?」
「どういうことだい、サクラ?!」

 テマリたちの緊張がサクラにまで伝わってくる。だがサクラには何のことだかサッパリだった。男と話したのはあの一度きりで、その際自分が木の葉の出身であることも、男が何者なのかも聞いていない。
 ただ男が傀儡部隊で、戦の最中我愛羅の攻撃に巻き込まれ片足を潰されたことしか知らなかった。

「はあ?! あんな薄気味悪い奴、傀儡部隊にいねえじゃん!」
「何だって?!」

 カンクロウの言葉にテマリだけでなくサクラも「どういうこと?!」と目を見開く。そして再び視線を向ければ、男は蹲る我愛羅に向かって再度鋭い切っ先を向けていた。

「僕はねぇ、木の葉から送り込まれた“スパイ”だったんだよ」
「スパイ?!」
「可笑しいわね。自来也やミナトくんからはそんな話聞いてないわ」
「ええ、僕もそんな情報持っていませんね」

 男の発言に大蛇丸は眉間に皺を寄せ、カブトは必死に記憶を探る。だが二人の脳内にそんな話は何処を探しても見当たらなかった。

「当然ですよ。僕はもう“死人”扱いなんですから。火影様は関係ありません」
「成程。そういうこと」
「どこかの戦場で討ち死にした扱いになっているわけですね」
「でも木の葉のためにスパイになったと。自分勝手な男ね」

 男の少ない言葉で察したらしい。しかし困ったことになった。険しい顔をする大蛇丸に対し、男は楽しげに笑い続けている。

「僕はずっとこの男が憎かった……。僕の足を奪ったこの男が、僕の大切な妹を殺したこの男が! ずっとずっとずっと! 憎くて憎くて、仕方なかった」
「ぐうぅっ!」
「我愛羅!」
「我愛羅くん!」

 男の切っ先が再び我愛羅の体を貫こうとする。だがそれは暴れる砂により阻まれ、男は仕方なく刀身を肩に担ぎ、我愛羅の傷口を蹴りつけ地面に転がす。
 じわじわと、我愛羅の腹部から零れる血が砂に交じって流れて行く。
 勿論我愛羅とて今まで無傷でいられたわけではない。だがそれでも、こうして急所に近い場所を貫かれたのは初めてだった。
 火縄銃が掠った足など比にならない。呼吸することですら傷口に障るようで、我愛羅はただ噎せる。

「我愛羅くん! しっかりして!」
「まァいいや。この刀には毒が塗ってある。あと数十分もすれば死ぬよ。よかったね」
「き、さま……!」

 息も絶え絶えな我愛羅が見上げるようにして男を睨む。だが幾ら視界が霞んでいるとはいえ、どうしてもその顔に覚えが無かった。
 一体いつ自分がこの男と戦ったのか。そして男の妹とは誰のことなのか。さっぱり分からない。そんな我愛羅に気付いたのだろう。男は冷めた瞳で我愛羅を見下ろすと、再度傷口に足をのせて体重をかける。

「ぐぅう……!」
「はあ……。君は覚えてもいないんだろうね。僕のことも、僕の妹のことも。どうせ殺したやつのことなんて一々覚えていないんだろう? 嫌な奴だよなぁ、君って」
「なん、の……! こと、だ……!」

 我愛羅が殺した人間など何人いるか分かったもんじゃない。何年戦争をしてきたと思っているんだ。それこそ我愛羅はアカデミーを卒業すると同時に第一線に投入され、以来ずっとそこが持ち場だった。
 例え戦場でなくとも、我愛羅は常に暗部紛いの仕事を任されてきた。生易しい任務など与えられたことはない。特に昔は他人を殺すことに今ほど罪悪感は抱かなかった。そのツケが今、ここでやって来たというのか。
 睨む我愛羅に対し男は笑うと、サクラに向かって優しく微笑みかける。

「サクラちゃん。妹は言っていたよ。君はとても優秀な医療忍者なんだって。そんなキミと一緒に仕事が出来るなんて幸せだって、あの子はいつもそう言っていた」
「――もしかして、」

 あの夏の惨劇。サクラに向かって伸ばされた白い腕を、自分より幼い少女の、十五歳になったばかりの少女の腕が――蘇る。

「どうして……ああ……、どうしてなんだい? サクラちゃん。どうして君は生きているのに、妹は死ななきゃならなかったんだ?」
「ッ、」

 サクラはあの時我愛羅の砂で拘束されていた。だから目の前で繰り広げられた惨劇を止めることが出来なかった。ただの肉塊へと変わり果てた彼女たちを、助けることが出来なかった。
 こんなのただの言い訳だ。それでも――サクラに全く非がないわけではない。言葉で抵抗しても体が動かなかった。ただ茫然と、死に逝く彼らを見ていただけだ。

 そんなサクラと男のやり取りで我愛羅達も察しがついたのだろう。自分達がサクラを連れ去る際に殺した医療班の中に男の妹がいたのだと、彼女の苦しげな表情から理解することが出来た。

(つまり、自業自得ということか……。成程な。これこそ正しく『因果応報』というやつだな。情けない)

 表情は苦しくとも、内心で自嘲する我愛羅と違い、テマリとカンクロウの表情は苦々しい。それもそのはずだ。何せ彼らはあの時風影にこう命令を受けていたのだから。

『木の葉隠れにいる医療忍者――“春野サクラ”を生け捕りにし、砂隠に連れて来るのが今回のお前たちの任務だ。目撃者は一人残らず殺せ。証拠も残すな』

 あの日、我愛羅は『抵抗するならこの場にいる全員を殺す』と脅した。だが逆に言えば『抵抗しなければ命は奪わない』と伝えていたのだ。
 それを聞いていたのはサクラだけであったが、恐らく我愛羅は本当に――あの時誰も動かなければ、そのままサクラだけを連れて帰るつもりだったのだろう。
 無意味な殺生を心の奥では嫌っていた我愛羅の事だ。今のサクラならそれが理解出来る。

 ――だが、現実はそうはならなかった。ならなかったのだ。

 あの日、あの時。倒れた患者の一人が我愛羅の足を掴んでしまった。そしてそれを、同じ命令を受けていた姉兄に目撃されていた。故に見逃すことが出来なかったのだ。
 いっそのことあの場にいたのが我愛羅だけならば、我愛羅は見逃したかもしれない。全員の命を奪うまでは――あるいは、惨殺するまではしなかっただろう。

 だが実際に起きたのは惨劇だ。その事実が今、我愛羅達に重く圧し掛かってくる。

「でもいいさ。妹は君を守ったんだろう? そうだろう? だから君のことは助けてあげる。僕と一緒に木の葉に帰ろう」

 サクラに向かって手を伸ばす男の瞳は暗く濁り、淀んでいる。当時の我愛羅とはまた違う、狂人の瞳だった。
 だがそんな男と誰が共に里に帰りたいと思うだろうか。サクラは咄嗟に首を横に振った。

「いやっ……!」

 拒否の言葉は明確に零される。それは嫌悪にも恐怖にも濡れ、男を拒絶した。

「………………そう。イヤなの」

 男はサクラの拒絶に目を丸くし、悲しげな顔で俯く。だがすぐさま無表情に戻ると、伸ばした手を下した。

「じゃあいいや。僕だけで帰るよ。妹の所に、ね」

 男の様子はどこかおかしい。あの頃に比べ、明らかに情緒が不安定だった。
 
「ああ、でも妹にお土産を持って行かなくちゃ……。ねぇ、サクラちゃん。優しい君なら、分かってくれるよね?」

 男が浮かべた壮絶な笑みにゾッと、全身に鳥肌が立つ。
 それは直接笑みを向けられていないテマリやカンクロウたちにも怖気を覚えさせ、大蛇丸とカブトはほぼ反射的にクナイを構えた。

「サクラちゃん、お願いだよ。俺と一緒に――――妹に、会いに行こう」

 男の顔が歪に歪む。笑みのような、泣き顔のような。顔の筋肉が崩壊したと言えなくもないその表情に、生理的嫌悪が沸き上がってくる。
 そして男が我愛羅の体を跨ぎ、サクラに向かって刀身を向けた瞬間――。

「――砂漠、柩!」
「ぐ、がああぁっ?!」

 倒れていた我愛羅が手の平を握りしめる。男の足首を掴んでいた砂が、我愛羅の動きに合わせて男の骨を完全に噛み砕いた。

「サクラに……サクラに、だけは……!」

 もうチャクラなど残っていない。体を蝕む毒のせいか、それとも流れ行く血が多いせいか。霞んでほぼ焦点が定まらない中、無理やり上げた腕は震え、動かぬ体は鉛のように重い。
 それでも『サクラだけは守らねば』と必死に腕を掲げ続ける我愛羅に、男の狂気に塗りつぶされた瞳が向けられる。

「お前なんか……! お前なんか死ねばいいんだぁあ!」

 砕かれた足で――骨が肉を突き破って飛び出していることも気に掛けず、男は出鱈目に刃を振るう。その切っ先が我愛羅の腕に到達する寸前――。今まで力の無かった砂が突如飛び跳ね、男の体を突き飛ばした。

「ぐふっ?!」
「?! どういう、ことだ?」

 自分にアレだけのスピードを出せるチャクラなど残っていない。疑問に思う我愛羅の腹の奥底で、今まで黙っていた守鶴が声を上げた。

(ったく、本当にてめェは手のかかるガキだよなァ〜)
「守鶴……」
(しょーがねえから俺様のチャクラ、ちっとばかし分けてやるよ)

 瞬いた瞬間、立っていたのは数刻前まで守鶴と戦っていた場所だった。
 どうやら深層心理に引きずり込まれたらしい。驚いたように守鶴を見上げる我愛羅に向かい、守鶴はフンと顔を背ける。

「今回だけだぞ、我愛羅」
「ああ……。恩に着る」

 どうやら先の砂は守鶴が操ったものらしい。天邪鬼な守鶴に我愛羅は軽く笑ったが、再度瞬けば、視界に入ったのは蹲る男をカンクロウが縛り上げる姿だった。

「全く、案外こういう男が一番厄介なのよね」
「二重スパイ疑惑もありますしね。徹底的に調べましょう」

 暴れる男にテマリが一蹴りいれる中、見慣れた白い手が我愛羅の傍に置かれ、薄紅が視界を覆う。

「我愛羅くん! しっかりして! すぐに治療するからね!」
「……サクラ、か……」

 随分と毒が回っているらしい。霞む視界の中、どうにかピントを合わせようと試みるが思ったより上手くいかず、加えて肉体的にも精神的にも限界が来ていた。我愛羅はそのまま瞼を閉じると、遂に己の血の海に頭を落とす。

「いや! ダメ!! 待って、いかないで、我愛羅くん!!」

 聞こえてくる悲鳴のような声に、我愛羅はいつものように「心配するな」と安心させてやる言葉もかけることが出来なかった。


 ◇ ◇ ◇


 風の国でもクーデターが成功したという報せを読み、ミナトと自来也はホッと安堵の吐息を零す。そんな二人は現在国から帰る途中である。
 木の葉の仲間たちは先に帰したが、二人は事後処理が残っていた。幾ら偽物を引きずり下ろし、軍に渡したとはいえ今後のことがある。軍人たちだけでなく、要人や有権者たちとの会議を繰り返し行い、休む暇などなかった。

 だがその間にある程度回復した大名との謁見も出来た。初めは随分と危なかったにも関わらず、大名の体は随分と回復していた。
 そうして現れた自来也とミナトに労わりの言葉をかけ、謝罪と同時に礼を述べたのだった。

「これで戦争も無事終わったわけですね」
「そうだのォ。これでやっとワシも腰を落ち着けて執筆が出来るのォ〜」

 国と里は今後も良好な関係を結ぶよう、盟約が一新された。新たに増えた条約と撤廃された条約。今後は今まで以上に確固たる絆が結ばれることだろう。

「僕たちもいい条件で国と手を取ることが出来ましたし、とりあえずは一安心ですね」
「そうだの。ま、後はあちらさんとこちらがどうコンタクトを取るかが問題だの」
「ええ。そうですね」

 風の国のクーデターは随分と被害が出た。正規軍も反乱軍も共に数えきれないほどの死傷者を出し、砂隠も相変わらず多くの怪我人を抱えている。
 幾ら戦争を終わらせるためとはいえ、忍が国を裏切ったのだ。羅砂は胃が痛いだろう。

「大蛇丸の文の中には風影がクーデターに賛成した旨は書かれておらんからの。ワシらと同盟を組むかどうかは、正直難しい所だの」
「ですが、これ以上の戦争は無意味だと理解しているはずです。これ以上争えば里が潰れる。分からないほど風影も浅はかな人ではないでしょう」
「そうだといいがのォ」

 帰路の途中。立ち寄った茶屋で二人は薄い茶を啜る。この味ともようやくお別れなのだと思うと不思議と感慨深い。
 そんな二人の元へ、里へと続く一本道の向こうから見慣れた姿が近づいてきた。

「ちょっと、何やってんッスか。お二人さん」
「やぁシカク。散歩かい?」
「んあわけあるか。あんたらを迎えに来たんだよ。周りが遅ェ遅ェっていうから、俺が探しに来る羽目になったんじゃねえか」

 渋い顔をするシカクにミナトが謝りつつも立ち上がる。どうやらシカクは皆に急かされ渋々探しに来たらしい。

「火影の右腕も大変だのォ」

 笑いながらも自来也が再度茶を啜ると、呆れたような顔のシカクに「もう行きますよ」と声をかけられる。

「何? ワシもか?」
「とぼけんでください、自来也様。三代目も綱手様も自来也様を連れて来いとうるさ――、んんッ。御所望なんッスから」

 どうにか言葉を濁したシカクではあったが、明らかにうんざりとしている。出てくるまでに散々せっつかれたのだろう。それが分かる自来也は「しょうがないのォ」と言いつつも腰を上げ、共に歩き出す。

「んで、ミナト。砂隠とはいつ話し合いするつもりなんだ?」
「さぁ。まだ詳しいことは何も。何せ向こうは内戦が終わったばかりだ。暫くはごたつくはずだから、すぐに、というわけにはいかないんじゃないかな」
「向こうには大蛇丸がおるから、アイツが助力をしてくれれば国とのいざこざも最小限に済むはずだがの」

 三人の元にはクーデター成功の旨しか届いていない。現状砂隠が、風の国がどういう状況なのか。三人には見えてこなかった。

「あー……じゃあ、アレだ。お前が目をかけてた小僧。“砂漠の我愛羅”だが……アイツ、本当に信用に足る人物なのか?」

 シカクの言葉にミナトは困ったように眉根を寄せる。
 我愛羅の誤解はすぐに解けるものではない。だがミナトは知っている。あの小さな仲間がどんな思いで戦争に参加していたのかを。そしてそれを止めようと足掻いていたことも。だからこそミナトはシカクに「大丈夫」と続ける。

「今度彼と会って話してごらんよ。君の抱いている我愛羅くん像が覆るよ」
「ま、悪い奴ではないのォ。不器用なまっすぐさを持った、ただの子供だからのォ」

 笑うミナトと自来也に、シカクは困ったように顔を歪める。シカクとて戦場にいる我愛羅を見たことはあっても、普段どんな様子で過ごしているのかは知らない。勝手にイメージを決めつけることは簡単だが、その本意を探るとなると一筋縄ではいかない。
 更にはここにこうして、我愛羅を擁護する男が二人もいる。しかもどちらも里の英雄だ。ならば安易に「認めない」とも言えない。
 シカクは再度ため息を零すと、どこか呑気にも見える二人に向かって頷いた。

「んじゃまぁ、今度会うことがあったらそん時によく見てみますわ」
「ん! そうしてくれ」
「前向きに考えるんだのォ」

 三人の頭上を飛ぶ鳥が高らかに歌いだす。
 木の葉の大門が見える頃には既に日が高く昇っており、三人は立て直し始めた里に向かって大きく一歩を踏み出した。