再会 -05-
「やあ、皆さん。遠路はるばるお越し頂きありがとうございます」
「こちらこそ。お招き頂き感謝する」
辿り着いた火影邸の、執務室とは別にある客間にて火影であるミナトとバキが握手を交わす。そしてその隣では久方ぶりに木の葉へと訪れていた自来也が我愛羅の肩に両手を置いて笑みを浮かべていた。
「久しぶりだのぉ〜、我愛羅! 元気にしておったか? ええ?」
「はい。お久しぶりです、自来也殿。貴殿もお元気そうで、何よりです」
「ははは! 相変わらず堅苦しい男だのぉ。ほれ、もっと緊張を解かんか緊張を」
わしわしとまるで犬でも撫でるように我愛羅の頭を大きな手の平で撫で回す。そんな自来也にテマリとカンクロウはギョッとするが、我愛羅はどこか嬉しそうに目を閉じてそれを甘受していた。
どうやら我愛羅的に自来也は『伝説の三忍』であり、慕うべき気さくな好々爺でもあるらしい。髪をボサボサにされても抵抗することはなく、また自動的に動く絶対防御の砂も沈黙している。つまり我愛羅にとって自来也は“敵”ではないのだ。それが分かり、姉兄たちも肩の力を抜く。
「ところで、そこにいる兄ちゃんと姉ちゃんはお前さんの家族かの?」
「はい。姉のテマリと、兄のカンクロウです。二人とも、こちらは自来也殿だ」
「自来也って……あの伝説の三忍の?!」
「マジで?!」
「おぉ、そういえばあの時は自己紹介をする暇もなかったからのォ。驚くのも無理はないか」
実のところ初対面ではないのだが、我愛羅を救出すること、また戦争を止めることで頭がいっぱいだったテマリとカンクロウは自来也のことをはっきりと覚えていなかったのだ。
だからこそ改めて紹介されて驚く二人に自来也は快活に笑う。まさしく祖父と孫のようなほのぼのとした空気を漂わせる子供たちとは裏腹に、対峙したサソリとミナトは片や頬を引き攣らせ、片や爽やかな笑みを浮かべた状態で握手を交わしていた。
「いやぁ、まさか本当に来てくれるとは。嬉しいよ、傀儡使いのサソリさん」
「ケッ、わざわざ名指しで呼びつけてくるたぁ良い度胸じゃねえか。嫁さんに“浮気者”って罵られても知らねえぞ」
「ははは。大丈夫ですよ。相手がサソリさんなら」
「どういう意味だコラァ」
もう表情を取り繕うのも疲れたのだろう。途端に嫌そうな表情を浮かべるサソリに対し、ミナトはいつも以上に輝かんばかりの笑みを浮かべている。どうやらサソリを弄るのが楽しいらしい。
ミナトとしては二度もしてやられているのだ。終戦した今、サソリとは命を掛けたやり取りは出来ない。だがこうして小さな意趣返しは出来る。実際の所ミナトはそんな小さな男でもないのだが、サソリが嫌そうな顔を浮かべれば浮かべるほど楽しそうに笑う。意外といい根性をしているのだ。ミナトという男は。
半ばカオスな空間の中、好きなだけ自来也に撫で回された我愛羅は軽く目を回しつつサクラの元に近づいてくる。
「あら。自来也様との触れ合いはもういいの?」
「ああ。今はバキ先生と話をしているからな」
どうやらバキも自来也と会うのは初めてらしい。どこか恐縮した様子であいさつを交わしている。そこに一緒に立っていたテマリとカンクロウは我愛羅に視線だけで「行け!」「渡せ!」だのと訴えかけてくるが、我愛羅は「余計なお世話だ」と一瞬睨み返してから顔を背ける。
「どうしたの?」
「何でもない」
どこか疲れた様子の我愛羅にサクラは首を傾けるが、単に長旅で疲れただけだろうと判断する。そうして全員の挨拶が一通り終えると、ミナトと自来也に連れられ一行は予め予約を入れていた懐石料理店へと足を運んだ。
そこでも生ものは避けるよう指示していたため、木の葉の食事に不慣れな我愛羅たちも問題なく食すことが出来た。カンクロウだけはホウレン草のおひたしに苦戦していたが。
「はー、木の葉の飯は予想以上に美味かったじゃん」
「全くだ。砂隠ももう少し復興が進んだら美味い店紹介してやるよ」
「楽しみにしてます」
昼食会に参加したのは火影であるミナト、自来也。そしてシカマルの代わりに参加した奈良シカクとサクラの四名だ。シカクは当初「俺だけ敵陣に放り込まれる気分なんだが」とぼやいたらしいが、ミナトと自来也に強制参加を言い渡されていたらしい。そもそもにおいて初めにシカマルを指定したのも、シカクを呼べば理由をつけて断ることが予想出来ていたからだ。退路を断つために敢えてミナトは先にシカマルに昼食会に参加するように提言し、面倒くさがったシカマルが「代わりに親父を呼びました」と口にするのを待っていたのである。なんとも策士な大人たちた。
だがしかし、それを分かったうえで参加したシカクは結局のところ砂のご一行の思惑を知る必要があったのだろう。本当に“同盟国”として訪れたのか、それとも“敵里の忍”として訪れたのか。
シカクの目に彼らがどう映ったのかは分からない。だがサクラからしてみれば、昼食会の様子を思い出すにそんな仰々しさとは皆無だった。
何せ木の葉の料理など馴染みのない面子だ。大人であるバキとサソリはともかくとして、傀儡の使い手でもあるカンクロウは盛りつけの美しさだけでなく器にも興味を示し、我愛羅は聞き慣れない食材の数々に「世界は広い……」などとぼやいていたのだからシカクの予想は大いに裏切られたことだろう。
実際「警戒した俺がバカだった……」と言わんばかりに途中何度も視線を天井に向けていたのだから推して知るべし。というやつだ。
そして店を出た今も我愛羅は空を飛ぶ鳥たちを視線で追いかけ、テマリとカンクロウはアレが美味かったコレが好きだったと子供らしく笑みを浮かべている。バキに関してはいつも通りではあるが、ミナトの軽口に嫌そうな顔を浮かべるサソリを見ては口の端を上げている。どうやらミナト同様弄られるサソリを見て愉しんでいるらしい。
サクラから見てもサソリとミナトの相性は悪い。主にサソリ側から見ての話ではあるが。
そんなミナトにシカクは呆れたような視線を向けてはいるが、止める気はないようだ。腰に手を当てたまま自来也と何事かを話し合っており、サクラは意外にも平和な時間が流れていることに肩透かしを食らったような、安堵したような気持を抱いた。そうして今度は蝶々を目で追っていた我愛羅の隣に並び立つ。
「そんなに熱心に見つめて、どうしたの?」
「ああ。図鑑で見たことはあっても、こうしてマジマジと見たのは初めてでな」
「え。そうなの?」
「ああ。砂漠で蝶を見ることなどないからな。それに戦場に出れば蝶などいても気にしている暇などなかった」
もうすぐ冬が来るとはいえ、秋にも飛ぶ蝶はいる。ヒラヒラと美しい模様を描く翅を羽ばたかせながら飛ぶ蝶々を次から次へと目で追う姿は年の割に幼い。それもこれも昆虫すらまともに見ることの出来ない環境にいたことが原因だろう。
幼い頃は家族と隔離され、一人ぼっちで幼少時代を過ごし、アカデミーを卒業すればすぐさま戦場に向かわされたのだ。戦う以外の知識など蓄える暇もなかったのだろう。だからこそこうして様々なものを自らの目で見て、自分の手で触れて、食べて飲んで覚えることは大事なことなのだとサクラは改めて実感した。
「沢山学んで帰ってね」
「ああ」
頷いた後も蝶を目で追う我愛羅をサクラが見つめていると、どこかから「あ!!」と声が上がる。何事かとサクラが視線を向ければ、そこには赤丸と散歩中のキバが立っていた。
「砂隠の奴らじゃねえか! 何でいるんだ?」
「誰だい? 騒がしい奴だね」
サクラたちに近づいてきたテマリとカンクロウ、そしてキバにサクラは互いを紹介する。どうやらキバは砂隠との交流会について聞かされていなかったらしい。実際はカカシがアナウンスを入れていたはずなのだが、どうやらキバは忘れていたらしい。「そういやそんなこと言ってたな」などと呑気なことを口にしている。
そんな中、キバの足元にいた赤丸は警戒するように毛を逆立てている。それもそうだろう。何せ彼らは今まで敵だったのだ。匂いを覚えさせられていた赤丸にとっては今なお“敵”でしかない。しかし仲間であるサクラも立っているため、唸ることも飛び掛かることも出来ずにいるのだ。
テマリたちは日頃見ることのない小型犬に興味を示したようではあるが、ただ一人。我愛羅だけはススス、と後退していた。
「我愛羅くん? どうしたの?」
「いや……多分だが、こいつらは俺の匂いを覚えているのだろう? 争う気はないと示すにしても言葉が通じないのであれば姿を隠すしかないかと思ってな」
そう言って二歩も三歩も下がっていく我愛羅に、キバは首を傾けた後「分かったぜ!」と唐突に手を叩く。
「お前犬が怖いんだな?!」
「バカかコイツ」
「話になんねえじゃん」
話を聞いていなかったキバにテマリとカンクロウが辛辣な言葉を向ければ、途端に「何だとこの野郎!」とキバは食ってかかる。そんな三人を尻目に、我愛羅はそっとバキとサソリの間に挟まることで匂いを緩和させようとしたらしい。話を聞いていなかった二人からキョトンとした顔で見下されている。
「どうした我愛羅。犬が苦手なのか?」
「いや。敵意をないことを示そうと思って……」
「成程。我愛羅くんは優しい子だね」
「あれは犬塚家の者かのォ? ならばあの者に言えば警戒することは止めるだろう。心配することはないぞ」
ぽんぽんと自来也に頭を叩かれ、我愛羅は「そうですか」と素直に頷く。皆知ることがなかっただけで、我愛羅は一度『人を信じる』と決めた分かなり素直な子供になっている。
そんな我愛羅にミナトはニコニコと笑みを向け、サソリは「やれやれ」と肩を竦める。いつもならここぞとばかりに我愛羅を揶揄いに行くのだが、ミナトとの応酬でだいぶ体力も精神も削られたらしい。先程の自来也のようにグシャグシャとその頭を撫でるだけに留めていた。
そんな我愛羅をシカクだけは何を考えているのか分からない瞳で見下していた。だが我愛羅と視線が合うとすぐさま「躾られているから噛みついたりしねえよ」と赤丸について教えてやっていた。
キバも自来也に説明され、改めて同盟国となった彼らに吠えないよう赤丸に言いつけている。初め赤丸は困惑したようにキバを見上げたが、これでも忍犬として育てられた犬だ。すぐさまその指示に従った。
そんな一時的なハプニングはあったが、概ね予定通りプランは進んでいく。ミナトは午後の休暇を取っていたらしく、木の葉に幾つもある演習場の一つに来ると早速サソリに手合わせを申し込んでいた。
「傀儡師に勝負を吹っ掛けてくるたぁ、ボコボコにされる覚悟は出来てるんだろうなぁ」
「まさか! 今日こそリベンジさせてもらうよ、サソリさん!」
子供のように目を輝かせるミナトとサソリの勝負を、外周から戻ってきたガイが審判役を買って出る。それを見物していたサクラたちであったが、騒ぎを聞きつけたのか、それとも野生の勘か。飛び入り参加してきたナルトに我愛羅が体当たりを受け、そのまま組手が始まる。それを見て体が疼いたのだろう。面倒くさそうに座り込んでいたシカマルの首根っこをテマリが掴んで強制的に模擬戦闘が始まり、サソリとミナトの勝負に感化されたのか「傀儡使いと勝負がしたい」と言うサスケにカンクロウが応える。
そうして各場所で始まった模擬戦にいつしか人だかりができ、気づけば軽いお祭り騒ぎとなっていた。
かくいうサクラもナルトと我愛羅の組手を見ていたのだが、最終的にテマリとカンクロウ、サスケとシカマルが加わり三対三の勝負に移行する。
一方ミナトとサソリの方も決着がつかないまま泥仕合と化しており、審判役のガイが熱く激昂を飛ばしてはサソリに「うるっせーぞクソ眉毛!」と切れられていた。
その間自来也は時に笑いながら、時に間延びした声で子供たちに「隙だらけだのぉ〜」だの「ほれ、そこ、手薄になっとるぞ〜」などとアドバイスを飛ばす。
バキはガイとは違い静かに審判役兼監督を務めており、サクラも怪我人が出た時のために大人しく控えに徹していた。
そうしていつの間にか辺りが夕暮れに染まる頃、それぞれが地面に寝転がり息を荒げる子供たちに混ざり、サソリとミナトも息を切らしていた。
「ぜぇ……はぁ……クソ……しつけえぞ火影ぇ……」
「はあ……ははっ、毒があるのとないのとじゃ、また戦法も違うだなんて、すごいなぁ……傀儡って」
互いに膝に手をついてはいるが、決して地面に膝をつけていない。そんなミナトとサソリに集まっていた野次馬衆は「火影様頑張れー!」と声を上げる。そんな周囲をサソリは鼻で笑い飛ばすが、突然聞こえた「ミナトー!」という叫び声にミナトとナルトが飛び上がるようにして背を正した。
「く、クシナ……」
「何やってるんだってばね! この人たち砂隠のお客様でしょう?! そんな人たちに喧嘩売るなんて、何を考えてるんだってばね!」
「ち、ちが、違うんだよクシナ、これは喧嘩じゃなくて……」
途端に始まる夫婦喧嘩、もとい嫁からの説教に周囲は「あー、火影様の負けだねこれは」と苦笑いし解散し始める。対するサソリは不完全燃焼ではあったが、あの烈火のごとく怒る火影の嫁ことクシナを止める義理もなければ勝負を続ける体力もない。どことなくふらつく足取りでバキの元へと戻り、「あれ俺の勝ちでよくね?」と疲れた顔で提案するだけだった。
当然バキは「無効試合だな」とすげなく一蹴したが。
そんな大人たちを尻目に、サクラは倒れ伏した我愛羅やナルトたちに向かって飲み物とタオルを持って行った。
「皆お疲れ様」
「おー……ありがとう、サクラちゃん」
「すまない……」
「どういたしまして」
汗を拭い、水分補給をし、一息ついたところで怪我をしたところをサクラが治療していく。それが終わる頃には既に日が暮れており、ナルトは約束通り我愛羅を一楽に連れて行こうとしたのだが――
「何言ってるのナルト! あんたは家に帰ってご飯を食べなさい!」
「えー! 俺ってば我愛羅と一緒に一楽のラーメン食うって約束したのに!」
「ダメったらダメ! 今度にしなさい!」
「うがーっ! 母ちゃんのケチっ!」
親子の姦しいやり取りに叱られたばかりのミナトは苦笑いするだけだ。本来ならミナトも夕餉を共にするはずだったのだが、こんな状態ではお客様に失礼だ。と憤るクシナに引きずられ、一家は退散することとなった。
勿論ナルトは最後まで我愛羅に「絶対今度は一緒にラーメン食いに行こうなー!」と叫んでいたが。
「しょうがないのぉ。ナルトの代わりにワシが一楽に連れて行ってやるか。そら、立てお前たち。木の葉が誇るラーメンをワシが奢ってやろう」
ガハハ、と笑う自来也の後を、カルガモの親子よろしくサクラたちは着いて行く。(途中でサスケはイタチが迎えに来たので別れたが)
道中、正直に「疲れたぁ」と零す子供たちと違い、ミナトと一戦を交えたサソリは文句ひとつ零さず歩き続ける。流石は一個隊を率いる上忍なだけある。疲れを微塵も感じさせぬ足取りで、ふらつく子供たちに「前見て歩けー」と存外引率らしい姿を見せる。
そしてようやく辿り着いた一楽の暖簾を潜れば、本日は「木の葉の客人をもてなすため」という名目で貸し切り状態となっていた。
「ほら、お前さんたちはカウンターに座るといい。ワシらは外で食うかのぉ」
「ええ。私どもはそれで構いません」
「へえ。砂が飛ばねえから入口に仕切りがねえのか。これも地理の差、ってやつだな」
マジマジと店舗を見回すサソリたちの元へ、店主の娘であるアヤメが机と椅子を用意する。注文は慣れている自来也とシカマルが行い、我愛羅たちは興味深そうに茹でられている麺や具材たちを見つめていた。
「これがラーメン、というやつか」
「そう。味も色々あってね、地域によって違うのよ」
「それに麺の太さや種類、具材のトッピングも千差万別でな。砂隠にはねえみたいだが、木の葉や火の国ではあちこちに店舗があるぜ」
「へぇ〜、いい匂いじゃん」
「ああ。なんだか突然食いたくなるようなジャンクな匂いだが、嫌いじゃないよ」
サクラとシカマルがそれぞれ補足を入れつつ、店主であるテウチがどこか寂し気に「昔はもっと色々具材があったんだがな」と肩を落とす。だがすぐさま豪快な笑みを浮かべると、初めてラーメンを食べるという客人に向かって「人生で一番美味いラーメンを食わせてやるからな!」と宣言する。そんなテウチに我愛羅たちは揃って「楽しみにしている」と返し、もうもうと湯気を立てて茹でられる麺を眺め続ける。
「やはり子供と言うのは順応が早いのぉ。羨ましい限りだわい」
「ええ。本当に」
「ま、ガキだからな。なーんも考えてねえんだろうよ」
用意されたランタンの灯りに照らされながら悪態をつくサソリではあるが、その実子供たちが見ていないのをいいことに完全にだらけきっていた。
如何にやせ我慢したところでミナトとの勝負でかなり体力が削られていたのだ。ここが砂隠であれば即座に帰宅して眠っていた所だ。
だが傀儡師といえど忍は忍。耐えることには慣れている。だから眠りはしないが、それでも肉体を休めるために全身から力を抜いていた。
そんなサソリに「行儀が悪い」とバキは顔を顰めたが、自来也は「気にすることはない」と笑い飛ばす。
「むしろミナト相手によくぞ奮闘したものだ。アレは面倒な相手だったろう」
「ああ。三度目の正直、にはならなかったがな。くっそ。仕込みのねえ傀儡で火影とやり合うのはもうごめんだぜ」
机に伏せるサソリにバキは口角を上げるだけに留め、自来也はカッカッと笑う。
子供には子供、大人には大人の会話がある。忍といえど我愛羅たちはまだ十代だ。あちこちに飛ぶ話題を耳に入れながら大人たちはゆっくりと杯を傾け、運ばれてきたラーメンを物珍しそうに観察しつつも自来也と共に啜りだす。
その頃には我愛羅たちも初めて口にするというラーメンをお上品に口に入れては「美味い!」だの「もうちょっと胡椒が欲しいね」などと声を上げていた。
その声が聞こえていたのだろう。サソリが即座に「同感」と続ければ、ここぞとばかりに我愛羅が胡椒瓶を投げつけ慌ててキャッチする。だがキャッチしたのはいいが、その衝撃で蓋が外れて大量の胡椒がサソリのラーメンに投入されることとなった。
これには流石のサソリも叫ばずにはいられなかったらしい。上忍といえど人。咄嗟に上げた悲鳴に姉兄は吹き出し、我愛羅は「ざまあみろ」と鼻で笑う。どうやらずっと意趣返しをしたかったらしい。
当然この後バキに叱られるのだが、幾ら素直な面があるとは言え我愛羅も男の子である。多少の悪さはするものだとテウチが笑って許してくれたため、バキはそれ以上の説教は「里に帰ってからだ」と苦々しく告げた。
同時に、サソリの今までに聞いたことがない無様な悲鳴に涙を浮かべてまで爆笑する姉兄にも拳骨を一発ずつ食らわせ、その日は賑やかなまま夜が更けていくのであった。
第一章【再会】……終わり