長編U
- ナノ -

再会 -04-



 両里で色んな思惑、出来事があったが、無事木の葉と砂隠の交流会が開かれることになった。
 ナルトたちも開催される数日前に我愛羅たちがお呼ばれされていることを知り、余暇があれば我愛羅と手合わせなり観光なりしようと考えていた。そんな中サスケはと言うと、少なくともサクラやナルト程歓迎的ではなかった。何せ自分からサクラを奪った男が来るのである。面白いわけがない。
 だがカカシから「問題を起こさないように」と釘を刺されてもいる。尊敬する兄からも「争うことはやめなさい」と言われていることもあり、不貞腐れたように輪の中から外れるだけだった。

 懸念していた事態――砂隠に対し良い印象を抱いていない忍の殆どは任務に赴いており不在にすることは出来た。勿論いつまでもこの方法を取ることは出来ないが、今日は記念すべき第一回目なのだ。互いに穏便に済ませたかった。

「む! アレではないか?!」

 当初案内役はシカマルとサクラの二人だけだったのだが、どういうわけか大門の前にはナルトにカカシ、ガイにリーまで立っている。(カカシとガイは護衛やパトロールの任務もあるため正確には案内人ではないのだ)そしてその奥ではサスケまでいるのだから予定が狂うにも程がある。シカマルは「面倒くせぇ」とぼやき、サクラは苦笑いしつつもガイが真っ先に反応を示した一行に視線を向けた。

「あ。本当だ。我愛羅くーん! テマリさーん! カンクロウさーん!」

 サクラが大きく手を振れば、向こうも気づいたのだろう。テマリとカンクロウが片手を上げた後、我愛羅の手をそれぞれが掴んで上にあげさせる。途端に我愛羅は砂で作った両手で二人の頭を小突くが、そこには以前のような威力はなく、悪戯っ子を叱る親のようでもあった。

「あらまぁ。随分と微笑ましいじゃないの」
「うむ。戦場では恐ろしいが、やはりまだ子供だな」

 カカシとガイが僅かばかり抱いていた警戒心を解いたのを肌で感じ、一人先駆けるようにして一行に向かって駆けて行く。

「お久しぶりです!」
「よぉ、サクラ。久しぶりじゃん」
「変わりはなかったかい?」
「はい! お二人もお元気そうで何よりです」

 先に近付いてきた三姉弟の後ろからは、保護者兼火影との話し合いを受け持つバキとサソリが歩いてくる。バキはともかくとして、サソリは見るからに怠そうだ。実際隠すことなく欠伸を零しており、サクラは思わず白い目を向けてしまう。

「サソリさん。しっかりしてください」
「ふぁー……。あー、うーるせぇなぁ〜。しょうがねえだろ。来たくて来たわけじゃねえんだからよ」

 ガリガリと頭を掻くサソリではあったが、改めてサクラと向き合うとマジマジとその姿を頭の先から足先まで見つめ、はて。と言わんばかりに首を傾ける。

「小娘。お前太ったか?」
「んなっ! 失礼な!」

 確かに砂隠にいた頃に比べ、物資が多い分一度の食事の量は増えた。とはいえサクラは決して肥えているわけではない。むしろスリムな方だ。しかし物資が少なかった砂隠にいた頃に比べれば確かに肉付きはよくなっていた。

「はっはー、これだから生身の人間ってのはよぉ〜。どうだ小娘。この際傀儡になってみねえか? 傀儡になりゃあ老いは勿論怪我や病気ともおさらばだ! いつだって若々しく元気に――っとォ、」

 胡散臭いテレビショッピングのような勧誘を口にするサソリではあったが、それを最後まで口にする前に砂が飛んできて反射的に後退る。そこには案の定砂を操る我愛羅が鋭い視線でサソリを睨んでいた。

「そういえばお前を殺すのを忘れていた」
「おー、そういやそんな約束もしてたな。忘れてたわ」

 へらへらと笑うサソリに対し、我愛羅は割と本気で睨みを利かせている。だがそんな二人の間に割って入ったのはサクラではなく、傍観していたバキであった。

「サソリ。いい加減我愛羅を揶揄うのを止めろ。お前もだ、我愛羅。安い挑発に乗るんじゃない」
「へいへい。先生の言う通りにしますよーっとォ」
「………………」

 パンパンと衣服についた砂を払うサソリに対し、我愛羅も掲げていた腕を戻す。そして改めてサクラと向き合った。

「すまない。不躾な羽虫が……」
「だぁーれが羽虫だコラ。俺様はサソリだ。サーソーリー。へい、リピートアフタミー?」
「死ね」

 バキに注意されたにもかかわらず、再度ちょっかいをかけるように我愛羅の頭上に腕を乗せてもたれかかるサソリに我愛羅も辛辣な言葉を返す。そんな二人にバキは呆れたように吐息を零し、テマリとカンクロウは一通り笑ってからサソリから我愛羅を引き離した。

「……なんつーか、賑やかな人たちッスね」

 それを大門の所に立ち、静かに見守っていたシカマルがどこか拍子抜けしたように呟く。それに対し笑顔で「仲がいいことは素晴らしいことです」と返したのはリーだけで、ガイは無言で頷き、カカシは笑うだけだった。サスケは相変わらず顔を背けている。
 だがナルトはというと、いつまでもこちらに来ない一向に痺れを切らしたのかサクラと同じように駆けて行く。

「よぉ我愛羅! 元気だったか?」
「む。ナルトか。久しぶりだな。息災だったか?」
「ソクサイ? なんだそれ。新手の野菜か?」

 キョトンと首を傾けるナルトに、思わず「バカ」と呟きながら頭を抱えるサクラ。そしてそんなナルトのお勉強不足な頭に砂隠の一行は目を丸くし、すぐさまカンクロウが笑い出した。

「ぶははは! お前すげーバカじゃん!」
「あ?! んだとコラ!!」
「ったく。サクラ。木の葉の教育はどうなってんだい? コイツ確か火影の息子だろ? 大丈夫なのかい? 火影は」
「えーと、ミナトさんはそんなことないんですけど、ナルトはちょーっと勉強が苦手で……」
「いや、それ以前の話だろ。アイツ俺を呼ぶ前にガキの家庭教師呼べよ」

 それぞれが辛辣な反応を返す中、我愛羅は「異文化交流とはこういうことか……」と見当違いなことを考えていた。これで意外と天然なところがある我愛羅だ。しかも最近では姉兄が過保護になったこともあり、益々純粋培養されつつある。
 しかしいつまでもここに立っているわけにもいかない。気を取り直したサクラは改めて手を叩くと、我愛羅の手を取って歩き出す。

「さ、我愛羅くんこっちよ。皆さんも、そろそろ行きましょう」

 自然とサクラに手を握られた我愛羅は一瞬躓くように踏鞴を踏むが、すぐさま隣に並ぶようにして大きく一歩を踏み出す。それに目を丸くしたのは大門で待ち構えていた木の葉の面子だけであり、あのサソリでさえ「へいへい」とそれに続くだけである。バキに関してはサソリに向かって「子供たちより先にお前が粗相をしてどうする」と注意している最中である。つまりあの光景は砂隠にとって然程珍しいものではない、ということだ。
 ――だがそう思っているのはシカマルたちだけであり、実際の所バキは気付いていないだけで、サソリに関しては子供たちのお守りはバキに一任しているため無視。テマリとカンクロウは内心で「行け我愛羅!」「頑張れ我愛羅!」と盛大に応援している最中であった。

 当の我愛羅と言えば、久方ぶりに見るサクラが自分を厭うことなく迎えてくれたことに安堵しており、それどころではなかった。

 一歩進むどころか半歩進んでいるのかすら怪しい。初心な少年少女の関係に邪推するのは頭のいい奴らだけである。

(うーん。サクラがサスケ以外の男の子とああも好意的に接触するとは……。これは面白いことになりそうだ)
(かーっ。サクラああいうのがタイプなのか? つーかこの場合サスケはどうなるんだよ。不機嫌になったアイツの面倒なんて見たくねえんだが。あーもう面倒くせぇ)
(ま、まさか我愛羅くんまでサクラさんを巡るライバルだったとは……! 負けていられません!)
(うむ! 青春だな! いいぞぉ、砂隠にも青春パワーが溢れている!)

 こちらもこちらで様々な感想を抱いているが、的を射た感想を抱いている者はいない。サスケに関しては何でもないような顔をしているが、その実頬は引き攣っている。やはりサクラと我愛羅が仲良くしているのが面白くないらしい。これで意外と心の狭い男である。そんなサスケとは違い、ナルトはサクラとは反対方向から我愛羅を挟んで隣に並ぶ。

「なーなー我愛羅。もし時間が余ればさー、一回勝負してみねえ?」
「勝負? 俺とお前でか?」
「そう! どっちかが“参った”! って言ったら負けな!」

 我愛羅に対し勝負を挑んでくる者など、それこそ暗殺の命を受けた者ぐらいしかいない。だがナルトが言っていることはそういうことではないのだろう。恐らくアカデミー生がするような戦闘訓練、もとい組手をしたいと言っているのだ。それがどこかくすぐったく、また我愛羅にとっては嬉しいことでもあった。

「ああ。俺でよければ」
「っしゃあ! 楽しみにしてるってばよ!」

 ニッと歯を見せて笑うナルトに我愛羅も目元を和らげる。そんな弟の後姿を見つめながらテマリとカンクロウは感慨深そうに頷き、バキもやれやれ。と肩を竦めつつもその口元は緩んでいた。唯一サソリだけが欠伸を再度零し、同じく保護者兼案内役として立っていたカカシとガイに「きょーはよろしくー」とやる気なさそうに片手を上げた。
 勿論即座にバキに小突かれたが。


 ◇ ◇ ◇


 今日は交流会ということもあるが、木の葉がどういった里か知ってもらう意図も含まれている。これが戦時中であれば相手に腹を見せる自殺行為になるが、今はもう同盟国だ。それに子供たちの活躍のおかげもあり、互いに牽制し合うことも、喰い合う条件もない対等な立場としての盟約を新たに結んだうえでの同盟となった。となれば互いに里の門を開くことでそれを強く示すことが出来る。だからこそ観光案内をサクラたちに任せたのであった。

「しかし交流会とはよく考えたものだのぉ、ミナト」
「ははは。子供たちが早くから仲良くなってくれたおかげですよ、自来也先生」

 火影邸から辿り着いた一行を見下すのは、四代目火影であるミナトとその師である自来也だ。自来也は既に火の国から退き悠々自適な一人旅を満喫していたのだが、ミナトから砂隠の忍を招くと便りを受けこうして顔を出していた。

「ほほーう。サクラはともかくとして、ナルトは既に我愛羅と友達か。あやつらしいのぉ」
「ええ。砂隠に同盟を結びに行ってすぐ友人になったみたいです。ナルトの分け隔てなさには本当、助かりますよ」

 親としても火影としても。そう言葉の裏に滲ませたミナトに自来也は口角を上げることで答える。自来也も忍だ。他人の懐に入り込み、油断させ懐柔させることなど造作もない。だが純粋に、それこそナルトのように“友人”を作るのは存外難しい。それが分かるからこそ自来也もミナトも、眩しそうに子供たちの笑い合う姿を見下す。

「若さだのぉ〜」
「ええ。本当に」

 そんな木の葉のトップたちが自分たちを見ているとは露知らず、我愛羅たち砂のご一行はシカマルを先頭に、サクラのナビゲーションを受けながら里の中を突き進んでいた。

「こっちが忍具を取り扱っている店で、こっちは質のいい墨や巻物なんかをメインに扱っています。食事処があるのはもう少し先で、今は旬の栗や芋を使ったお菓子や料理がメインになっています」
「へぇ〜。知識としては知ってたけど、やっぱ木の葉は食に関して優秀じゃん」
「カンクロウが木の葉で育ったら腹が前に出てただろうな」
「んだとテマリ! 幾らなんでもそこまで食わねえじゃん!」

 すぐさま始まる軽口の応酬に我愛羅はやれやれと頭を振る。だが今までのように睨むことも、どすの利いた声で「うるさい」と一蹴することもない。代わりにクスクスと笑うサクラに視線を向け、随分と健康的な顔色になっていることに安堵する。

(やはりサクラを木の葉に帰してよかった。彼女はここにいるべきだ)

 テマリたちに無理矢理持たされたプレゼントは、実のところ渡す気はなかった。元より頃合いを見て処分するつもりだったのだ。
 何せ購入したのは砂除けの外套と襟巻だ。木の葉にいるサクラには不要と言っても過言ではない。
 マフラーと呼ぶには薄く、ストールと呼ぶには厚すぎる。外套も、異国である風のものより慣れ親しんだ木の葉のものがいいだろう。
 そう考えていたが故に二人に見つかった時は「面倒なことになった」と思ったのだが、結局のところ渡さずに持ち帰り、バレないよう処分すればいいのだ。
 つまるところ我愛羅はサクラに対しこれと言って何かする気は更々なかった。だがテマリとカンクロウは必死に我愛羅の恋路――と呼んでいいかもまだ定かではないのだが――変わりつつある弟の気持ちを応援しようとアレコレ動き回っている。それが鬱陶しいような面映ゆいような。複雑な感情を抱きながらサスケに引きはがされた手を見遣る。

「あ。そうだ我愛羅。昼飯まだならラーメン食いに行こうぜ」
「らー、めん? なんだ、それは」

 忍具売場でカンクロウと共に店を見ていたサソリとテマリは、ナルトの「お前ってばラーメン知らねえの?!」という叫び声に顔を上げた。

「そんなに有名な食い物なのか?」
「有名って……有名どころじゃねえってばよ! ラーメンって言えば母ちゃんの飯の次にうまい食い物だってばよ!」
「お前の母君の料理についても、その……らーめん? とやらについても俺は知らんのだが……」

 サクラもナルトに言われてから「そういえば砂隠にはラーメンなんてなかったわね」と思い出す。とはいえラーメンはここ数年物資不足だったこともあり、ナルトが行きつけの一楽もようやく営業を再開させたばかりだ。あそこの常連は「ようやく一楽のラーメンが食べられる!」と営業再開してから連日行列を作るほどの人気店だ。ナルトにとってはクシナが作った料理の次に沢山食べた味だが、我愛羅にとっては初めて見聞きする未知の料理でしかない。

「サクラも食べたかったのか?」
「え? 別に。ナルト程好きでもなかったし……」
「んな! サクラちゃんってばひでーの! よし我愛羅! お前に日本一うまいラーメンを食わせてやるってばよ!」

 作るのはナルトではないのだが、当のナルトからしてみれば一楽の味はソウルフードとも呼べる代物だ。それを我愛羅にご馳走することこそ、ナルトにとって最大限の『おもてなし』であった。
 だが生憎と予定されたプランがある。シカマルは「面倒くせぇ」と頭を掻きながらも、早速走り出そうとするナルトの首根っこを掴んでそれを止める。

「あー、ナルト。気持ちは分るがステイだ。こっちにも用事があるし、何より今回は砂の上忍たちがいるんだ。ジャンクなフードはお断りなんだよ」
「は?! お前までそんなこと言うのかよ、シカマル!」
「しょーがねえだろ! 第一客人にラーメン出す奴がいるか! そういうのはあと三回ぐらい遊びに来てから食わせるものなんだよ!」

 暴れるナルトを諫めるシカマルに、我愛羅は「成程」と頷く。当然それに「え」という反応を示したのはナルトとシカマルだけではない。いつの間にかガイと共に走り込みに向かって不在となったリーを覗く面子――カカシとサスケも少なからず固まっていた。

「らーめん、というものには作法があるのだな。覚えておこう」
「いやいやいやいや。違う。我愛羅くん果てしなく違うから。それ間違った知識だから。インプットしないで。忘れて。破棄して」

 即座に否定するサクラではあるが、我愛羅は困ったように眉根を寄せて首を傾ける。その姿はどこか幼い子供のようであり、テマリは思わず「うちの弟可愛いな?」と呟いた。

「だが……奈良シカマルがあと三回は来てからではないと出せないと……」
「だぁー!! これだから案内役なんて面倒くせえんだ!!!」
「ははは! 我愛羅ってば、お前おもしれー冗談思いつくんだな!」
「じょうだん……?」

 頭の中だけでなく、頭上にまでクエスチョンマークを飛ばす我愛羅にシカマルが思わず蹲って頭を抱える。そんなシカマルの肩に腕を回して笑うのはナルトだけで、サソリとバキは「あちゃー」と言わんばかりに顔に片手を当てて空を仰いだり、下を向いたりと陰ながらリアクションを取る。
 そんなバキの背をカカシが労わるようにポン、と叩き、カンクロウは「我愛羅意外と天然だもんなー」と遠い目をして呟いた。サスケはそんなカンクロウに「そういう問題じゃねえだろ」と律義に突っ込んでいたが、我愛羅に届くことはなかった。

「とにかく、ラーメンは今度だ今度。あとラーメン食うのに作法とかねえから。強いていうなら汁が服に飛ばねえよう気を付けるぐらいだから」
「汁が、服に飛ぶ……?」

 全く想像が出来ないのだろう。益々困惑した表情を見せる我愛羅に、呆れたようにサソリが声を掛ける。

「おい坊ちゃん。そんなに気になるなら夜連れて行って貰え。バキを貸すからよ」
「何を勝手に」
「いいから行っとけ。火影の相手は俺がしてやらあ」

 実際名指しで指名されたのは実のところサソリと我愛羅だけである。しかし木の葉に滞在するのは何も一日だけではない。だから初日の夜ぐらいは子供たちに自由を与えろと滲ませるサソリに、バキは「仕方ない」と言わんばかりにため息一つで受け入れた。

「分かった。では我愛羅。うずまきナルトが紹介してくれる店には夜になってから向かおう。それでいいな?」
「ああ。俺は構わん」
「俺らも楽しみにしとくじゃん」
「そうだな。おい、奈良シカマル。お前も逃げるんじゃないよ?」
「げぇっ、夜まで延長かよ……面倒くせぇ……」

 肩を落とすシカマルではあるが、何だかんだと言いつつ請け負った仕事は全うする男だ。実際「一楽にはあとで予約入れとくよ」と告げてから観光案内を再開させる。
 そんな中、自ら面倒事を買って出たサソリにサクラは声を掛けた。

「意外ですね。サソリさんが面倒事を自分から請け負うなんて」
「しょうがねえだろ。これでも一応上忍なんだからよ。ガキ共のお守りはバキに一任させちゃあいるが、監督不行き届きと責められるのも面倒だ。それなら火影の相手ぐらいしてやるっつーの」

 実際火影と風影、どちらを相手にするのが面倒なのかと聞かれたら圧倒的に火影ではあるのだが、夜叉丸に頼まれた手前我愛羅の事となると首を突っ込まざるを得ないのも事実だ。そんなことおくびにも出さないサソリだが、意外と律義な男なのだ。
 それに元より陰に潜んで活動することなど忍にとって基本中の基本である。だからこそ敢えて――いや。半分は本人の性格上仕方ないのだが――憎まれ役を買って出ても我愛羅たちを支える気でいる。天邪鬼な本人は決して認めはしないだろうが、我愛羅を放り出すほど薄情な男でもない。だがそれを素直に口にしないから嫌われるだけなのだ。

「ま、いざとなったら毒針でブスっと一発寝かせてやるよ」
「やめてください。また戦争になっても知りませんよ?」

 ククク、と悪人面で笑うサソリに引きつつも釘をさせば、サソリは「相手次第だな」と相変わらずな発言をするばかりだ。
 そんなサソリにサクラが呆れたように吐息を零せば、カカシと話していたバキが「サソリ」と声を掛けてくる。

「この後我々は火影たちと昼食会だ。粗相をするなよ」
「おい。何でいの一番に俺に注意すんだよ。ガキ共に言うのが先だろうが」
「子供たち以上に子供なのはお前だろうが」

 呆れた顔で言い返されるサソリにサクラがクスリと笑う。当のサソリは恨めしそうにバキを睨むが、砂かけ論だと分かっているのだろう。結局は「ケッ」と面白くなさそうに吐き捨てるだけだった。
 そうしてサクラがサソリから離れ、再度我愛羅の元に向かおうとすればサスケに「サクラ」と呼び止められ振り返る。

「お前も昼食会に参加するのか?」
「ええ。火影様から出席するよう言われているの」
「そう。じゃあサクラとは火影邸についたら一旦お別れだね。ナルト。サクラは昼食会に呼ばれているみたいだから、俺たちはどこかに食べに行くよ」

 サスケに返答をしたにも関わらず、返事をしたのはカカシだった。どうやらサクラ以外は昼食会に呼ばれていないらしい。シカマルは自分から辞退したそうだ。シカマルらしい選択に苦笑いするが、代わりに彼の父親であるシカクが参加するとのことで、何だか仰々しい昼食会になりそうだ。とサクラは一瞬不安がよぎる。
 それでも争いに来たわけではないのだ。きっと何とかなるだろう。と気分を変え、サクラは火影邸へと辿り着いた面々に「火影様に連絡してきますね」と声を掛けるのであった。