小説2
- ナノ -





あの後我愛羅は案の定怒られた。だが腕が痛むので少し席を外す、という理由にあまり文句はつけれなかったようで、お叱り自体は短時間で済んだ。
とはいえ結婚自体が先延ばしになったわけではない。この三日間の間でどうにかサクラの気持ちを自分の方へと傾けなくてはいけない。
我愛羅は一体どうすれば彼女の気持ちを惹けるのかと悩んでいると、自室の扉が軽快にノックされた。

「お坊ちゃま、お客様です」
「分かった。通してくれ」

開いてはいたが頭に入っていなかった本を閉じ、返事をした途端に扉が開いた。
そうして執事の奥から現れたのは見慣れた金髪姿だった。

「よぉ我愛羅!久しぶりだってばよ!」
「ナルトか!久しぶりだな」

軍人ではないナルトは先日の出征に参加していない。
帰ってきてからもまともに挨拶に行けていなかった我愛羅は友の登場に喜んだ。

「いやー、それにしても昨日はビックリしたってばよ。綱手のバアちゃん所の酒屋から帰ってきたら母ちゃんに怒られちまってよ」
「ああ、舞踏会の事か?お前は参加しなくてよかったと思うぞ。俺でさえ堅苦しくて死にそうだったからな」

ナルトは基本的に社交の場は苦手だ。
何せ目上も目下もない男である。誰に対しても同じ態度で「よっ!」と手を上げる男を目上の者は好まないし、目下の者は狼狽えてしまう。
それが美徳でもあり欠点でもあるのだが、それでもヒナタはそんなナルトの飾らない所が好きらしい。
我愛羅はそういえば仲を取り持つという約束をしていたな、と最近できたばかりの友人の顔を思い出し、話を振ってみた。

「ところでお前、俺が出征している間にイイ人は見つけたのか?」
「んげェ?!お前もその話かよ〜。俺まだ結婚したくねーっつーの!」

やはりナルトも婚儀の話で苦労しているらしい。我愛羅の家とは違いそこまで煩くはないだろうが、それでも辟易しているのだろう。
両親と言いあうナルトを想像し、思わず笑う我愛羅にナルトはんだよ、と唇を尖らせる。

「つか、そーいうお前はどうなんだよ!好きな人いんだろ?!」
「ああ…昨日結婚を申し込んできた」
「は?!結婚?!」

軽くからかおうとしたつもりが衝撃的な事実を引きずり出してしまった。
そう言わんばかりに口を開け、マジで?と問いかけてくるナルトに頷く。

「だが返事はまだ貰っていない。彼女は…貴族ではないからな」

貴族が市民と結婚するパターンは極めて少ない。
ないことはないが、やはり異例なのだ。しかも我愛羅の爵位は侯爵。侯爵が市民と結婚したことなど過去に一度もなかった。

「うわ〜、マジかよ。お前大胆なことしたなぁ」
「ああ…本当はもっとゆっくり時間をかけたかったんだがな。時間が無くなってしまって…」

苦笑い気味に頬を歪め、視線を手元に落とす我愛羅にナルトは何かあったのかと問いかけてくる。
ナルトはいい友人だ。どんな些細な悩み事でも真摯に聞いてくれるし、時には共に解決へと向かってくれる。
だがこればかりは自分でどうにかしなくてはいけない。何せナルトはサクラのことを知らないのだから。

しかし話してみれば意外なことにナルトは彼女のことを知っていた。

「あ、それってばサクラちゃんのことだろ?俺知ってるってばよ」
「何?!何故お前が彼女を…」

ナルトはあのオレンジ畑に興味本位で入ったとしても、盗みに入るようなことは考えられない。
散歩ついでに侵入したら見つかったのかと問いかければ、そんな不名誉な出会い方はしていないと小突かれる。

「いつだったかなー?去年かその前か覚えてねえけど、クリスマスの日に会ったんだってばよ。クッキーの材料が足りなくなった、って言ってた」
「ああ…それでか」

ナルトもきっと母君にお使いに走らされたのだろう。あそこは伯爵の爵位を持っているにも関わらず家族で買い物に出かけるという珍妙な家だ。
なので時にはナルトが買い物に走らされるという驚きの事実があるのだが、本人は特に気にせず、むしろ楽しんで街に出かけていた。

「まー確かにサクラちゃん可愛いしな!」
「ライバルになるならお前でも蹴落とすぞ?」
「冗談だよ!目をマジにすんなって!!」

一体どんな顔をしていたというのだろう。青褪めるナルトにそうか。と返しつつ、我愛羅はいつの前にか前のめりになっていた背を正した。

「ところでお前、ヒナタ嬢のことは知っているか?」
「んえ?あー…そーいや昔ちらっと顔を見たことがあるよーなないよーな?」

曖昧な返事をするナルトに覚えてないんだな。と思いつつ、我愛羅は先を続ける。

「先日彼女とお会いする機会があってな。是非ともお前と話がしてみたいと言っていた」
「ええ?!何で俺なんかと?確かにあそこの父ちゃんと俺ん所の父ちゃん顔見知りみてえだけどよ…俺ヒナタと会った事あんまりねーってばよ?」

首を傾けるナルトにヒナタ嬢の気持ちを打ち明けるのは憚られる。
なので我愛羅は貴族の間で良くも悪くも噂になるお前のことが気になるんだろう。と言葉を濁しておいた。

「成程〜。俺ってば有名人だから」
「そうだな」
「軽く流すのやめろよ!もっと突っ込んでくれってば!」
「…なんでやねん」
「雑!!!」

その後もくだらない会話を楽しんだ後、執事が入れた茶や菓子を嗜んでからナルトは席を立った。

「んじゃまあそろそろ行くわ。この後母ちゃんの料理手伝う予定になってるしよ」
「相変わらず妙な家だな、お前の所は」
「んだとー!俺の母ちゃん料理上手なんだぞ!」

結局ナルトには政略婚のことは言えなかったが、それよりも気になっていたサクラとのことを告げることが出来てよかったと思った。
それにヒナタとの約束も果たせそうである。
去っていくナルトに手を振った後、我愛羅はふうと吐息を零してから執事を呼んだ。

「少し出る。馬車を出してくれるか?」

この家の執事は昔から我愛羅のことをよく見ている。
だから何処へとも言わずとも、彼の行き先を理解していた。



殆ど眠れぬ夜を過ごしたサクラは母親に心配されつつもオレンジ畑に出て、日課である見回りをしていた。

「…コレも大丈夫そうね。収穫が楽しみだわ」

オレンジを収穫するにはまだ早いが、それでも虫がよりついていないか、日がちゃんと当たっているかどうかなど見て回ることは多い。
鼻先を近づければ甘酸っぱく、爽やかな香りが鼻腔を突き抜ける。
いい香り。
昔我愛羅がそう言ってくれたように、サクラもこのオレンジの香りが好きだった。

「…でも…」

我愛羅のことを拒めばきっとこのオレンジの匂いを嗅ぐのも辛くなるのだろう。
だがもし我愛羅と結婚したとして、果たして自分は彼の役に立てるのだろうか?子供を産むこともそうだが、農家の自分が貴族の世界に入り込めるとは思わない。
指だって女性らしくない、ささくれた手をしている。雑巾だって絞るし、モップだってかける。オレンジだけでなく他の果実や木の実を取ることだってあるし、場合によっては周囲の農家を手伝いに行ったりもする。
雑巾どころか包丁すら握ったことがないであろう令嬢たちと比べると、自分は遥かにみすぼらしく、汚かった。

「…はあ…」

考えれば考える程我愛羅と釣り合わない。そんな自身に溜息を零していると、突如後ろからスカートを捲られた。

「きゃあ!ちょっと、何するのよ!」

どうせ近所の悪戯小僧たちだろうと振り返ったサクラの目に写ったのは、片腕をギプスで固めた大きな悪戯小僧であった。

「そんな盛大に捲ったつもりはなかったんだがな。いい反応だ」
「〜っ!もう!何バカなことしてるのよ!」

昨日の今日でまともな会話が出来るとは思わなかったが、いざ会ってみれば口からはいつも通りの罵声が飛びだし、彼をきつく睨んでいた。

「悪かった。謝るからそろそろ降りてくれないか?キミみたいなお転婆が梯子に乗っていたら危なっかしくて見ていられない」
「あら、これでも十年以上此処に住んでるのよ?幾ら私がお転婆でも梯子から落ちたりはしないわよっ」

お転婆な癖に好奇心旺盛で迷子癖がある。本当に目が離せないレディだとからかいつつも我愛羅が手を差し出せば、サクラはそろりとその手に己のものを重ねた。

「…ところで、どうして此処に?」

昨日あんな話をしたばかりだ。てっきり返事を出すまで会うことはないだろうにと思っていたのに、我愛羅はいつもと変わらぬ様子で会いに来た。
服装もいつもと同じようにラフな格好だ。それに安心しつつも問いかければ、我愛羅は驚いたように目を開き、肩を竦めた。

「まさか今生の別れだと思っていたのか?止めてくれ。あと三日は猶予があるんだ。その間俺が何もしないとでも?」
「あ…いや、でも、その…まさか会いに来てくれるとは思ってなかったから…」

家のことで忙しいだろうし。
そう続けたサクラに我愛羅は曖昧に頷くが、すぐにサクラの腰に手を当て耳元に唇を寄せてくる。

「キミに振られた時のため、今のうちに愛を囁いておこうと思ってな」
「ひっ…!ちょ、耳元で話すの止めてよ…!」

我愛羅が背を屈めたため、昨夜と同じようにジャスミンの香りを強く感じる。
思わず頬に熱が昇っていくが、すぐさま背を軽く叩き抗議すればあっさりと体は離れていった。

「今日はバニラの香りがするな。お菓子でも焼いていたのか?」
「…違うわ。友達に…コロンを貰ったの。誕生日プレゼントに」

部屋に置いておくといい匂いがするわよ。と言って渡されたルームコロンはバニラの優しい香りで、サクラはその甘い匂いを好んでいた。

「ああ、成程。だからか」
「ええ、そうよ」

サクラが梯子を片付けつつ答えれば、片腕を怪我しているにも関わらず我愛羅がそれを軽々と抱え上げ、サクラに顔を寄せた。

「この後俺にお茶を出してくれる予定はある?」
「…失敗したクッキーを食べる覚悟があるならいいわよ」

実際失敗したのはマフィンの方ではあったが、サクラの神妙な顔に我愛羅は吹き出し、腹を括るよと返してから歩き出す。
サクラが両手で抱えなければ持ち運べない梯子も、我愛羅に掛かれば片腕で軽々と運ばれてしまう。
彼はやっぱり頼りになる、素敵な男性だ。
サクラはそう内心で呟きながらも彼を追いかけるように斜面を駆けだし、そのまま家に向かって駆け抜けた。


「そういえばご両親は?」
「市場に出かけてるわ。だから今日は私がお留守番」

梯子を倉庫に片づけて、泥を払って上がった居間のテーブルに紅茶を置く。
そうして今朝焼いたばかりのクッキーを並べれば、我愛羅は行儀よく礼を述べてから紅茶に手を伸ばした。

「思うんだけど、あなたのお家の方が美味しくていいお茶があるんじゃない?」
「別にいいじゃないか。俺はこの家のお茶が好きなんだ」

実際我愛羅はこの家の居間で、空けた窓の向こうから香ってくるオレンジの匂いをアクセントに飲む紅茶が好きだった。
さっぱりとした香りは心を落ち着けてくれるし、何より愛する女性が傍にいる。こんなにも心を落ち着かせてくれる場所が他にあるだろうか?
我愛羅はそう説明し、口籠る彼女の前でクッキーを頬張った。

「…うん。別に失敗しているようには思えないが?」
「さっき魔法をかけてきたの。あなたの舌が麻痺しますように、って」

その言葉に我愛羅は軽く笑い、確かに舌の感覚がないかもしれない。と乗っかってくれる。
サクラはその言葉に逆に笑ってしまい、あなたって本当にバカね。と我愛羅の腿を軽く叩いた。
だが傍目では和やかに過ごしていたとしても、胸中は未だに複雑なままで答えなど出ていない。
このまま我愛羅と結婚をするのか。それとも断り、友人としての関係も終わらせ全てを心の奥底に仕舞うのか。
幸せそうにクッキーを頬張る我愛羅を突き放すのは至難の業に思えた。

「そんなに見つめられると穴が開いてしまいそうだな。それとも顔に何かついてるのか?」

あまりにもサクラが熱心に見つめていたため、我愛羅は耐え切れず茶化してしまう。
いつもならサクラはふざけて目があって鼻があって…と続けてくるが、この日のサクラはそっと指先をのばすと我愛羅の口元に手を当てた。

「クッキーの粉がついてるの。じっとしてて」
「っ、」

サクラの指がそっと我愛羅の薄い唇をなぞり、粉を払っているのだろう。指先が左右に動く。
その度にサクラの指の腹は我愛羅の柔らかくも弾力のある唇を感じることになり、我愛羅もまた、サクラの白く美しい指から意識を逸らさなくてはならなかった。

「…取れたか?」
「……えぇ」

取れたと言ったにもかかわらず、サクラの指は未だに我愛羅の唇の上に置かれている。
それをどう取ればいいのか。考えあぐねる我愛羅の目の前でサクラはぼんやりと我愛羅の顔を、もしくは自身の指先を見つめていた。

もしや婚約者のことを思いだしているのではないか。

そう我愛羅が考えたところでサクラは指を離し、軽く手を拭った。

「…少し粉っぽかったかしら?」
「いや…どこの店のクッキーより美味しいよ」
「そう…ありがとう」

どこかぎこちない会話。出逢ってから十数年。ここまでぎこちない空間を味わったことはない。
互いが互いを意識しすぎている。分かっていても若い二人にこの状況を打破できるほどの経験も、余裕もなかった。

「…サクラ」
「っ、」

我愛羅の伸ばした手はサクラの細い指をぎゅっと握りしめ、そのまま己の方へと手繰り寄せる。
当然そうなればサクラは我愛羅の胸板に飛び込むことになり、バランスを取るため無意識に片腕を我愛羅の肩に当てていた。

「……サクラ」
「…ダメ…ダメよ…」

熱い視線を送ってくる我愛羅に首を横に振る。
けれどコバルトグリーンの瞳の中に苦しげな色が見えると、サクラは耐え切れず視線を逸らした。

「お願い…そんな瞳をしないで。そんな瞳で、私を見ないで…」

我愛羅は傷ついている。沢山、沢山。そしてサクラの行動によって傷つき、自身の葛藤に傷ついている。
ずっと器用だと思っていた男は今、誰よりも不器用に時間を過ごしている。
だが我愛羅は顔を逸らしたサクラの頬にそっと手を当てると、そのまま優しく誘導し瞳を重ねる。

「俺を拒まないでくれ」
「拒んでなんかいないわ。ただ…」
「ただ?」

私に、勇気がないだけ。
あなたの胸に飛び込む勇気がないだけ。
貴族の世界に飛び込む勇気がないだけ。
あなたを支えてあげる技量がないだけ。
あなたに幸せを与えてあげる力がないだけ。

自身の胸に木霊する沢山の欠けたものたちの声。
思わずサクラが苦しげに呻けば、我愛羅は自身の腕の力が強かったのだと勘違いし、握っていたサクラの手を離した。

「すまない、無意識のうちに力が入っていたのかもしれない」
「えぇ…いいえ、気にしないで…平気だから」

本当は違った。だがサクラはそれを理由にでっち上げ、我愛羅の体から離れようとした。
しかし我愛羅はサクラが体を離すよりも早く腰に手を当て、そのまま自身の方へと引き寄せた。

「膝の上に座って」
「っ、い、嫌よ」
「何故?」
「お、重いし、それに、こんなこと…“友人同士”ですることではないわ」

震えそうになる声を必死に抑え、無理やり作り上げた理由に我愛羅の瞳が殊更強く傷ついた色を見せる。
だがそれでも我愛羅は益々サクラの腰を引き寄せると、強制的にサクラの足を開かせ自身の足の上に座らせた。

「やっ…!」

当然だが身を捩るサクラではあるが、我愛羅の手にがっしりと腰を掴まれていれば抜け出すのは難しい。
それに加え我愛羅は甘えるようにサクラの肩口に額を押し当て、縋るように抱き着いていた。

そんな男を突き放せる女がいれば見てみたい。

結局サクラは抵抗することを諦め、沈む我愛羅の肩にそっと手を当てた。

「…重いでしょう?無理しなくていいのよ」
「キミを重いというのなら、俺は戦場で友を担いで駆けたりは出来ないよ」

肩口から返されるくぐもった声。泣いてはいなくとも、我愛羅は傷ついている。
戦場でのことを思いだしているのかもしれないし、親族から告げられた結婚相手との取引内容を思い出しているのかもしれない。
サクラに真意は分からなかったが、ただゆっくりと、我愛羅の髪に手を這わせ優しく撫でた。

今の彼にはきっと心を落ち着かせることのできる場所が少ないのだろう。
だからこうして自分を訪ねてくるのだ。

そう解釈しつつサクラは我愛羅の髪を何度も梳き、無言に耐えた。
そうしてある程度時間がたつと我愛羅も落ち着いたのか、サクラの肩口から顔を上げ、弱々しく唇の端を歪めた。

「すまない…幻滅したか?」
「いいえ。むしろ安心したわ。あなたも人の子だったんだって分かって」

どうやら自分は超人扱いされていたらしい。
我愛羅がそう言って柔らかく笑むのを間近で見ながら、サクラはそっと顔を近づけた。

「っ、さ、サクラ…?」

先程までは密着することを拒んでいたのに、突然額を合わせてきたサクラに我愛羅は狼狽える。
こんな時にスマートになれない自分に内心で舌打ちしたい気持ちに駆られながらも、それでもいつもよりずっと近くに感じられるオレンジとバニラの香りに頭がクラクラしそうだった。

「ねぇ…もしこのままあなたにキスをしたら、あなたはそれをYESと捕えるの?それともお別れのNOと捕えるの?」

サクラの言葉は狼狽えていた我愛羅に冷や水を浴びせた。
膝の上から感じる優しい重みも、落ち着く匂いも、たった一時の快楽に任せ唇を寄せれば一生の別れになるかもしれないのだ。
硬直する我愛羅にサクラは答えを促すように視線を合わせ、両手で我愛羅の頬を挟み込む。

「答えて」

サクラの瞳はいつもよりずっと艶めかしく、けれど薄暗く輝いている。
もしここで我愛羅が答えを出せば、NOと言えばNOと言うのだろうし、YESと言えば理由をつけてNOを口にするのかもしれなかった。
現状を考えればサクラが自分からYESという可能性は皆無に等しい。我愛羅はどうにかしてこの魅惑的な状況を打破しなくては、と頭を必死に巡らせようとしたところで玄関の扉が開いた。

「ただいまサクラー!」
「いやー遅くなっちゃったな、ごめんよ。って誰か来てるのかい?」

タイミングがいいのか悪いのか。
帰ってきた両親にサクラは朗らかな声で答えつつ体を離し、我愛羅はどっと全身から力を抜いて椅子に背を預けた。

「……天国と地獄だ…」

千載一遇のチャンスだったのか、それとも地獄へのカウントダウンだったのか。
悩む我愛羅の耳に聞こえた驚きの悲鳴に首を巡らせつつ、我愛羅は朗らかな笑みを彼女の両親に見せた。




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