小説2
- ナノ -





初めは浴室に逃げた我愛羅ではあるが、すぐさま声の主がナルト以外にもいることに気付き、寝室に戻り窓から逃げた。
実の所二人は別にバレてもよかったのだが、出来ることならこんな形だけは避けたかった。
というよりむしろ秘密の恋を楽しんでいたのである。バラす時は正式に、面と向かって皆に報告するつもりであった。
なのでこんな形で露見されるのは好ましくない。
我愛羅はサクラに押されるまま窓の外に逃げ、現在は宿泊先の部屋に向かって忍び足で逃げ帰っている途中であった。

(はぁ…やれやれ。散々な一日だった…)

しかし与えられた部屋の襖を開けた途端、そこに仁王立ちしていた人物に思わず喉が引きつった。

「やあ我愛羅…おかえり?随分遅かったじゃあないか…」
「て、テマリ…カンクロウ…」

朝帰りと呼ぶにはまだ早いが、しかし夜の散歩と称するにはあまりにも遅すぎる時間。
我愛羅は一難去ってまた一難、という言葉を心中で呟きつつ、自身の姉兄に視線を定めた。

「こんなところで何をやってるんだ?」

しかし冷静さを取り戻そうと選んだ台詞は、テマリによって打ち返された。

「それはこっちの台詞だよ!風影ともあろうものがなにをフラフラと夜遊びしてんだい!」
「ま、まぁまぁ…落ち着けよテマリ、我愛羅だって男なんだからよ…夜遊びぐらいするって、な?」
「あんたは黙ってな!」

別の意味で修羅場である。
こんなことならサクラの家にいればよかったか?いやそれはそれで問題か、と半ば現実逃避している間にもテマリは我愛羅へと近づき、ギロリと睨みつけてくる。

「おやおや〜?何だか随分といい匂いがするじゃあないか、我愛羅。一体どこの雌猫の家に遊びに行ってたんだい?」
「…口を慎め、テマリ。誰が聞いてるとも分からんのだぞ」

ここは同盟相手の木の葉の里である。例え娼婦の元に行っていたとしても、敵里ではないのだから誰かを貶めるような発言を控えるべきだ。
しかしテマリはこの日強かに飲んでいた。と言うより綱手に飲まされていたと言ってもいい。
普段よりストッパーが外れがテマリはフン、と鼻を鳴らすと、我愛羅に座りな。と座布団を指差し緊急家族会議を始めた。

「あたしはね、我愛羅。確かにお前が男だって知ってるよ?お前に好きな女が出来たってんならそれは止めない。そこまで無粋じゃあないからね」
「はあ…」

では先程の発言は一体何だったんだ、と言いそうになった我愛羅ではあるが、テマリが酔っているというのは既に理解している。
酔っ払いに何を言っても無駄なことだ。今は大人しく聞いておこうと大人しく正座する。

「別に上の奴等が言うように?家柄がどうの〜とか、里の利益につながるような人がどうの〜とか言わないよ?でもねぇ、物には順序ってもんがあるだろ?」
「ああ…そうだな…」

つらつらと並べられていく説教とも説法ともつかない話にウトウトしていると、テマリが聞いてんのかい?!と我愛羅の額を叩き強制的に起こす。

「第一お前は昔から〜!」

くどくどと始まった説教にカンクロウと同時に溜息を零した我愛羅は、しかし隣に座していたカンクロウの一言により完全に目が覚めた。

「あのよぉ我愛羅」
「何だ」
「すげえ言いにくいんだけどよ…」
「言ってみろ」
「…服、裏返しになってんぞ」

明らかに慌てて衣服を着たということがバレバレの状態に我愛羅は額に汗を浮かべ、ガクリと項垂れた。


そんな散々な夜を過ごした我愛羅とサクラは、翌日火影室で顔を合わせることになった。

「…よう、酷ぇ顔だな、我愛羅」
「…お前もな、ナルト…」

ナルトの頬には平手の跡。寝不足の我愛羅はぐったりと疲れた顔をしていた。
会議は既に終わっていたのだが、綱手とサスケ、テマリに根掘り葉掘り聞かれた我愛羅は、こうしてナルトの元を訪れソファーに座っていた。
そしてそこには眠たそうなサクラも座っていたが、何故か他の面々は席を外していた。
ナルト以外いないことに若干の疑問を抱きつつも、サクラは横目で我愛羅を伺い、呟く。

「まさかこんな目に合うとはね…」
「ああ…全くだ…」

同時に溜息を零す二人を前に、ナルトは思わず苦笑いをする。しかし張られた頬が痛いのか、すぐにイテテと情けない声を上げた。

ナルトの頬を叩いたのは確かにサクラであった。しかしそれはサスケが自分以外の全員もぶつべきだと主張したせいだ。実際一番酷い手形はサスケの頬についている。
一方テマリは昨夜のことを全て覚えているわけではなく、しかし都合よく我愛羅がいないという事実と、女の元にいたのでは?という推測だけが記憶に残っていた。

結果的に我愛羅はサクラとの仲を公言する羽目になり、午後から非番だというサクラを連れて火影邸に足を運んでいた。

「まぁ皆はいないけどさ、とりあえず確認な。我愛羅とサクラちゃんが付き合ってた、でOK?」

随分軽い聞き方ではあったが、そこに口を挟む余地はない。
二人は同時に頷いた。

「ああ、異論はない」
「その通りです」

本当ならもっと皆がビックリするような形で言いたかったなぁ〜と半ば肩を落としていたサクラではあったが、ナルトはそっかと頷くと突然指を鳴らした。
その場にそぐわぬその音に、二人が顔を上げると同時に勢いよく火影室のドアが開いた。

「サクラおめでとーっ!!」
「えっ?うわっ?!」

聞こえてきた祝福の声に当然驚きの声を上げ振り向けば、目の前で突如クラッカーが慣らされ紙ふぶきやテープが舞っていく。
一体何事かと入り込んできた面々を見つめれば、サクラは思わず口が開いていった。

「ったーく、知らない間に随分な相手を見つけたじゃない?デコリーンちゃん?」
「風影の好みがサクラだとは知らなかったよ。意外性NO.1だね」
「皆心配してたのよ〜?特にリーなんて昨日ずーっと泣き喚いてたんだから」
「ちょ、っとテンテンそれは秘密にしてくださいってあれほど…!!」
「何処の馬の骨とも分からん男であれば殴り倒していたが…まぁ我愛羅ならそこそこ安心できるからな」
「綱手様?それが昨日乗り込んだ人の台詞ですか?」
「サクラちゃん、おめでとう…!」
「よかったな、サクラ!すげーじゃんお前!」
「先生も今日聞いたばかりだからビックリしたよ〜、でもおめでとう。サクラ」

クラッカーを鳴らしたのはいのとテンテン、それからヒナタの女性陣だ。
そしてサイを始めとした男性陣、リーとキバはそれぞれの感想を口にし、綱手とシズネ、カカシはサクラに向かって笑いかけた。

一体いつから、と呆然とするサクラの背後でナルトは席を立つと、窓を開けおーい、と声をかける。

「サスケー、もうサクラちゃん怒ってねえっぽいから出てこいよー」
「…別に隠れてたわけじゃねえぞ」

窓に足をかけ、顔を覗かせてきたサスケに一同は吹き出す。
それもそのはず。サスケの片頬には見事な手形がついていた。しかしサスケはそれを咳払いで沈めると、中に入りサクラと対峙する。

「昨日は…悪かったな…」
「あ…いや、私も殴っちゃってごめん…」
「あと我愛羅」
「…何だ?」

我愛羅も一瞬サスケの真剣な眼差しとそぐわぬ平手の跡に吹きだしそうになったが、それを寸での所で堪え平常通りの返答をした。

「…ちょっと耳貸せ」
「…何だ…」

てっきりサクラを不幸にしたらなんとか〜と牽制されるのかと思ったが、サスケは我愛羅の肩を組むとぼそぼそと続けた。

「お前な、避妊ぐらいちゃんとしろよ?昨日シーツについてたぞ」

お前はどこの母親だ。
ゾッとするほど細かいところまで見ているサスケに青褪めつつも、我愛羅は気をつけておこう…と答えるのが精一杯であった。

結局二人の交際は円満に周囲に受け入れられることになり、木の葉の面々の後から顔を出したテマリとカンクロウからはお祝いにとケーキを差し出された。

「ほら、なんだっけ?夫婦初の共同作業ってやつ?」
「バカナルト!私たちまだ結婚なんてしてないわよ!」
「まぁ…そのうちな…」

楽しげに笑う面々にいいからいいからとはやし立てられ、二人は羞恥を感じつつも掌を重ねケーキにナイフを入れた。
それは昨夜のお詫びの印も込めてテマリとカンクロウが共同で焼いたものであり、シカマルは材料買いに走らされていた。
それで言うとシカマルが一番損な役割であったわけだが、本人は気にしてねえよの一言で片づけ、サクラと我愛羅に祝辞を送った。

別に結婚発表をしたわけじゃないんだけどなぁ、と思いつつも振り分けたケーキにフォークを刺し、口に運んだサクラは頬を綻ばせた。

「美味しい!」

木の葉の里は今日も穏やかに、友人達の幸福を願い、楽しげな笑い声に包まれていた。


end




〜おまけ〜



「つかよー、そのうち結婚するっつーならもうしてもいいんじゃね?」

振り分けたケーキを食べ終え、いのやサクラたちが皿を片付ける中なんとなしにキバが我愛羅に投げかける。
実際我愛羅もサクラも結婚したところで何の問題もない歳だ。
仕事だって私生活と両立出来ているし、何より思ったより周囲に障害がない。
ならば何をそんなに迷う必要があるのかとキバが問いかければ、我愛羅はケロリとした顔で返答した。

「…プロポーズの準備をしていない」

そういう問題なのか。
サクラが若干頬を染めつつも内心で呟いていると、綱手がバカもん!と我愛羅を一喝する。

「男たるものプロポーズの一つや二つ、常に用意しておかんか!」
「はあ…まぁそれもそうなんだがな…」

随分と歯切れの悪い我愛羅の言葉にナルトが何か問題でもあるんかよ、と尋ねれば、我愛羅はちらりとサクラを見やった後悪戯な色を瞳に浮かべた。

「そうだな…どの言葉を使えばサクラを夢中にできるか…まだ模索中なんだ」

投げられた爆弾に周囲はヒューッと冷やかしの声を上げ、サクラは頬どころか耳まで赤くして我愛羅の胸に拳を当てた。

「バカ、大バカ!」
「うん。サクラのことに関してはな」
「おバカ!!」

周囲のはやし立てる声に我愛羅も照れたような、それでいていたずらっ子のような笑みを口元に浮かべ、サクラは顔を真っ赤に染め上げ視線を逸らした。
若い二人の恋路はまだ続くか。
綱手はナルトに冷やかされ真っ赤に顔を染めるサクラを見つめながら、自身も昔の男に向かって想いを馳せたのだった。


end




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