小説2
- ナノ -





「…で?何で俺は殴られたんだ?」

サスケの頬を張っ倒したいのは痛みに悶えるサスケの首根っこを掴み、近くの喫茶店へと入ろうとしていた。
がそこで丁度道を横切ろうとしていたナルトにも出逢い、珍しくいのに引っ掴まれているサスケに驚くナルトにちょうどいいわ。と告げ、二人をそのまま店へと押し込んだ。
当然サスケは訳も分からぬまま殴られたのだから理由を話せと詰め寄るが、いのはその前に、とサスケに指を突きつけた。

「サスケくん、サクラを振ったって本当?」
「はあ?何のことだ?」

頬を張られたかと思うと今度は根も葉もない噂の真偽を問われる。
全くもって理解できないいのの行動に眉根を寄せるが、いいから答えて。といつもの数倍迫力のある真顔に迫られれば答えるよりほかない。

「そもそも何を勘違いしてるか知らねえが、俺はサクラに告白されてもいないし、振った記憶も当然ない」
「え?そうなの?」

サスケの返答にいのではなく隣に座っていたナルトが驚きの声を上げる。
ナルトはてっきりサスケがサクラを振ったからサクラがお見合いをし、結果我愛羅と結婚するに至ったのだと結論付けていた。

「じゃあお前ってば、サクラちゃん振ったわけじゃないわけ?」
「だからさっきからそう言ってんだろ。何度同じこと言わせるんだ、このウスラトンカチ」
「あ?!俺ってば今初めてお前に聞いたんだけど?!」
「さっきの答えで理解しろ阿呆!」

始まる口喧嘩にいのは煩い!と一喝し、口を噤んだ二人を交互に見つめる。

「でもサクラ言ったわよ?サスケくんに振られた。って」
「は?!」
「俺もそう聞いたってばよ。我愛羅と婚約した、って話聞いた時に」
「はあ?!婚約?!」

一体何のことだ。と珍しく目を白黒させるサスケにいのとナルトは顔を合わせると、もしかして…と互いに顎に手を当てる。

「サクラちゃん…勘違いしてる?」
「可能性はあるわね…」
「いや…いやいやいや、おい、ちょっと待てよ。誰と誰が誰と婚約したって?」

未だ頭がついてこないのだろう。もしくは信じたくないだけか。
問いかけてくるサスケに二人は再度顔を合わせると、若干焦り気味のサスケにゆっくりと言い聞かせてやる。

「だからー、サクラちゃんがー」
「我愛羅くんとー、」
「婚約しました」

最後は声を合わせてサスケに教え、間抜け面を晒すサスケにため息を零す。

「やばい…どうしよう…サクラ絶対勘違いしてるわ…」
「あー…どうすんだよサクラちゃーん…もう婚約解消できる時期じゃねえってばよ〜…」

教えられた事実にサスケが青い顔をしている間に二人は頭を抱え、未だどこかぼんやりとした表情で日々を過ごすサクラを思い浮かべた。

「なぁいの、このままサクラちゃんのこと嫁に出すのどうかと思うんだけど?」
「同感ね。サクラが心の底から我愛羅くんとの結婚に対して前向きだったならともかく、そうじゃないっぽいし…」
「サスケもこんなだしなぁ…」

初めこそナルトとてサスケと同じように狼狽え、困惑した。
しかし別に我愛羅が悪い相手だと思っているわけではない。だが全く思いもよらなかった人物がサクラを身請けると言うのだから、その驚きは頂点に達するものだった。

「まぁ俺だって今ヒナタと付き合ってから人のこと言えねえけど…我愛羅からサクラちゃんのこと好きだったなんて聞いたことねえし」
「何言ってんのよ。どうせ政略結婚か何かでしょ?今多いって聞くじゃない。木の葉や砂隠だけじゃなく、他の里でも」
「そうだっけ?」

首を傾けるナルトに頷いて、いのはこうなったら、と腹を決める。

「ナルト!サクラに会いに行くわよ!」
「え?そ、それはいいんだけどさ、どうするつもりなんだ?お前」

未だにフリーズするサスケの隣で己を見上げるナルトに、いのはちょっとね。と答え、口の端を上げるのであった。



いのが何やら画策しているとは露知らず、砂隠では我愛羅がサクラとの婚約を決めたことを里内に知らせていた。

「まぁ!春野さんが我愛羅様のお嫁さんに?」
「サクラさんは医療のスペシャリストだからな。うちに来てくれるなんて有難い!」
「サクラさんが来てくれればうちも大助かりだわ!砂隠にも医療忍者が増えるでしょう」

あちこちから聞こえてくる声は肯定的なものが多い。
とはいえ中にはサクラの性格を知っているせいか、彼女が嫁になれば尻に敷かれるのでは…と戦々恐々とする声もあるにはあった。
だが我愛羅とてサクラの気性を知らぬわけではない。それでいて嫁に貰うのだからとその声は聞かぬふりをした。

「けど思い切った決断したじゃん」
「まぁ…な」

カンクロウはサクラが嫁に来ることに異論はないようだった。何だかんだ言って顔を合わせたことも共闘したこともある相手だ。
その人となりも気性の荒さも、医療の知恵や技術も身を以て知っている。実際一度命を助けられた身だ。厭う理由の方が見つからなかった。

「でもいいのか?サクラって確かナルトに好かれてただろ」
「ああ。ナルトは日向家のご息女と交際中らしい。サクラ本人が言っていた」
「へぇ。それは知らなかったぜ」

意外だな。と続けられた言葉にそうだなと返しつつ、我愛羅はどこかもやもやとした気持ちを抱えていた。

「それにしても浮かない顔じゃん。何か引っかかることでもあんのかよ」

流石に弟の表情の違いが読めるらしい。軽い口調で問うてきた割には真剣な目をしている兄の顔を見やり、我愛羅はいや、と答えてから視線を落とした。

「俺はさして問題ない。だが、サクラの方がどうか分からん」
「どういうことだ?」

首を傾けるカンクロウに、我愛羅は一つ吐息を零した。

「サクラは未だにうちはサスケのことを好いている。だからその気持ちを踏みにじってまで俺と共にいれるのかどうか…それが問題なんだ」

我愛羅とてサクラの心が未だに迷っていることを知っている。
婚約を決めた日、サクラはそれを受け入れたが視線が泳いでいた。楽しげに会話をし食事を終えたが、我愛羅が宿へと見送る間サクラの表情は暗かった。

「サクラは女だ。男の俺とじゃ考え方や価値観、物の捉え方も全て違う。そんなサクラに無理をしてまで俺と夫婦になれなど…流石に言えん」

我愛羅からしてみればサクラは気負いなく話せる珍しい女だった。だから自分自身はサクラとの結婚に異論はない。
しかしサクラにサスケへの未練が残っていると分かっている今、無理やりこの話を進めていいものかどうか悩んでいた。

「…はあ…こんな時テマリがいてくれればな…」

テマリがいればこんな時どうしただろうか。
サクラに本意を聞いて来いと尻を叩かれただろうか。それとも自分が聞いてくると一人で先に木の葉へと向かっただろうか。

「…そうか。テマリがいたな」

丁度いいとばかりに一度手を打った我愛羅ではあったが、テマリは既に木の葉の人間だ。
幾ら実姉といえどお互いいい歳なのだ。頼り切るのはよくないことだなと甘ったれた考えを改め、再度視線を落とせばカンクロウがおっ。と声を上げた。

「我愛羅、ナイスタイミングじゃん」
「…何がだ」

笑うカンクロウが差し出してきたのは一枚の手紙。
そこには嫁ぎに行ったばかりの姉の名が記されていた。

「アイツも未だにお前が心配みたいじゃん」

揶揄してくる兄に煩い黙れと短く返し、我愛羅は久方ぶりに見る姉の文字を目で追った。




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