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我愛羅は無言のまま、サクラの手を握り家路へと急いだ。
引っ張られたままのサクラは少し小走りになりながらも、突然現れた夫の登場にまだ驚きを隠せないでいた。
「......っあの!....我愛羅くん!」
後ろからのサクラの呼び声に我愛羅は歩くのをぴたりとやめ、サクラへと振り替える。すると目線を泳がせたままもじもじとサクラは問いだした。
「.....その.....仕事.....戻らなくて平気なの?」
サクラとしては、確かに久々に会えたのは嬉しかった。
本人は抜けてきたと言うが、きっと3ヶ月も顔を合わせていない自分に、申し訳なくなったのだろうとも思う。
言い終わると、サクラは我愛羅におずおずと目線を合わせた。
すると我愛羅はなんの躊躇いもなく答えた。
「さすがの風影でも....愛する妻に会えずに仕事ばかりは少々堪える。.....作ってくれるんだろう?」
我愛羅はそう言うと、先程サクラから受け取った買い物カゴを持った手を少し上げ、サクラに分かるように見せつけた。
だがサクラは顔をポカンとしたまま何も返事を返そうとはしない。
それどころか、繋いでいた手をゆっくりと離され、目線も我愛羅から外れ、地面にへと向いてしまった。
愛想をつかれてしまったのだろうか。
.....無理もないだろう。
ずっと短い手紙だけを残して家を出ていたのだから。
夫婦という絆で結ばれたはずなのに、仕事と言えど単独行動を無断でしてしまった。妻は怒って当たり前だ。
「サクラ....今まで」
「.......もしも.....」
「ん?」
我愛羅がサクラに家庭を野放しにしてすまないと謝罪をしようとした時、我愛羅から目線を外したサクラは突然口を開いた。
「もしも....もしも、またすごい辛くなっちゃったら?!」
「....あ?あぁ。お前が作ったものなら食べる」
「すっごく甘くても?」
「....ん」
「じゃあ....」
「?」
「これからもしもまた会えない日が続いたら、今度は私が料理作って我愛羅くんに届けに行っちゃだめかな?」
「....!!」
最後の一言、サクラは頬を真っ赤に染めながら、上目遣いで我愛羅に問う。
我愛羅は恥じらいながらそう言うサクラの左手を再び握ったかと思いきや、今度は自分の元へと軽くひっぱり、うわっ!っと我愛羅へ持っていかれてしまうサクラをぎゅっと包み込むように、力強く抱き締めた。
「ひゃうっ!!.....がっ!!ががっ!あらくん?!」
「....」
「....?」
「お前が.....」
「へ?」
「俺の妻で良かった....」
「.....!!」
この日を境に、彼等は会えない日々を互いに工夫し、1日の内たった10分でも時間が合えば、顔を合わせる様に工夫することに決めた。
決まってサクラは新しく覚えた料理を“差し入れ”として我愛羅へ届け、それがどんな調味料を使おうが、我愛羅は心の籠った妻からの手料理を残すことなく食すのであった。
毎日毎日帰宅後、朝に置かれていく一枚の小さな手紙。
たった一言しか書かれない寂しい手紙を、彼女は今でも大切に引き出しにしまっている。
いつか、『こんな時もあったね』と笑い合える日は必ず来ると、小さな願いを込めて。
END
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