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『....いない?』
我愛羅は砂に乗り自宅へと真っ直ぐ向かうも、中からはサクラの気配はしなかった。
何処へ行ったのだろう。
本日サクラは非番であったはずだ。
このまま此処に居ても仕方がないと考え、我愛羅はそのまま里内を砂に乗り旋回した。
すると、まだ昼間の人々が賑わう商店街に、薄紅色の髪をした愛しい人物は一人買い物カゴを片手に、八百屋の亭主と楽しげに話しているのを見つけた。
我愛羅はすぐ近くへ降り立つも、二人の会話の邪魔にならないよう、近くの路地へと身を隠し、二人の会話に耳を寄せた。
「風影様はお忙しい人だから、しっかり栄養取ってもらわにゃ!」
「でも私、砂隠れの料理なかなか上手に作れなくて....前に我愛羅くんがいない時に何度も練習してみたんですけど.....」
「いやいや!!サクラ先生のご飯なら、きっとお喜びになられますって!!ほら!これが砂隠れの伝統のサボテンの果肉を使ったスープの作り方だ!!これあげるから、作ってごらんなさいよ!!」
「いいんですか?!ありがとう、おじさん!」
『.....』
サクラは亭主からもらった小さな用紙を見て、頬を染めながら喜んでいる。
サクラは木の葉の出身であったので、木の葉での料理しかほぼ作れず、砂隠れに来てからは砂隠れの料理を作れずに、付き合い始めの頃は我愛羅がよくキッチンに立っていたのだ。
そのことを気にしていたのだろう。
サクラが我愛羅の知らぬ間に、料理を練習していたなど、我愛羅は知らなかった。
元々家事の中でも料理が一番苦手だとは聞いていた。なので、結婚前の同棲生活も、我愛羅がご飯を作ることがほぼ当たり前になるほどであった。
だが我愛羅には家事をすること自体には特に不服に思うこともなかった。嫌いでもなければ好きでもない。やりたいわけでもなければやりたくないわけでもなかった。
なのでサクラが苦手だと言うのならば俺がやろうと言ったのは我愛羅にとってはなんともないことであったのだ。
そして我愛羅は、八百屋の亭主から受け取った料理の作り方が書いてあるであろうそれを受け取ったサクラが、頬を染めて喜ぶ姿を見て、ぎゅっと胸が何かに掴まれたように痛んだのを感じた。
ずっと会わずに仕事ばかりの出来損ないの夫である自分の為に、サクラは自分の為にと料理の練習をしてくれていたのだ。
我愛羅はサクラに悟られぬよう、気配を消しながらサクラの真後ろへと近付いた。
「サクラ」
「?!?!がっ!!!.....我愛羅くん!!?」
「ん?.......おやまぁ!!風影様!!」
サクラと亭主は里長の突然の登場に驚くも、一番驚いたのはサクラであった。
今の今まで我愛羅の話をしていたのに、当の本人がまさか突然現れた。
しかも、数ヵ月ぶりである。
「え?!?....は?!....え?!?!」
口をパクパクとさせ、言葉が思うように出てこないサクラに、何故そんなにも驚かれるのかわからなかった我愛羅は、ん?と首を傾げる。
「し、し、し........仕事!!そうよ!!仕事は?!我愛羅くん!!」
「あぁ....息抜きだ。.....で、お前が家にいなかったのでな」
「あ.......あぁ、夕飯の買い出しに....」
「そうか。なら荷物は俺が持とう」
そう言うとサクラから買い物カゴを受け取り、帰るぞとサクラに言うと、もう片方の手でサクラの左手を握る。
「ふぇ?....あ、あぁ....うん....あっ!!おじさん、ありがとうございました!!」
「お熱いねぇ!!また来てなっ!風影様!!サクラ先生!!」
亭主の太陽のように眩しい笑顔で送られ、サクラは我愛羅に手を引かれるまま、まだこの事態がわかっていないまま、我愛羅の進む方向へとついてくしかなかった。
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