小説2
- ナノ -


手紙



『aurora』管理人のnana様から頂きました!
新婚我サクちゃんですれ違い気味の二人。けど最終的にはイチャイチャ。といった私の趣味が大爆発したとんでもリクエストを形にしていただきました。





『またか....』


心の中でこう呟くようになってから、一体これで何度目だろう。

サクラは真新しい木製テーブルに置かれた小さな自分宛の手紙を手にし、たった一行書かれた文章を読む。


ーー『遅くなる。先に寝ていてくれ。いつもすまない』ーー


風影の嫁として、我愛羅と暮らすこの家に越してきてから今日で3ヶ月が経った。


我愛羅は砂隠れの風影として、里を守るために日々職務を全うしている。

わかっている。彼は忙しい。
里の長として、当然のことをしている。


頭ではわかっているつもりだ。
わかってはいるのに、どうしてもっと自分といられないのか。どうしてこうも顔を合わせることすら難しいのか。
胸の中で、毎日この矛盾した気持ちとサクラは格闘している。


大きなソファーの横にある棚の上には、今や懐かしい結婚式での晴れ姿に身を包んだ二人の写真が、今やどこにもそんな欠片も感じられない自分に向かって微笑んでいる。

あの頃は忙しくても、皆が集まってくれる式の為に、二人の愛を誓う為にどんなに仕事で忙しい我愛羅も無理矢理時間を作っては、二人で言い争うこともなく式の準備をする為に顔を合わせていた。


今はどうだろう。

式が終わりあれから3ヶ月。


二人は新婚生活を楽しむなどの時間もなければ、日中顔を合わせることも殆どなかった。
夜の営みなども、サクラは砂隠れの病院から帰ってくるのは日によってバラバラであったし、我愛羅もまた自宅へ帰って来れる時もあれば、泊まり込みの時もあったため、式を挙げた日以来こちらも勿論ご無沙汰である。


時間が合わない二人を繋ぎ止めるのは、この手紙だけだ。それも、何十行も時間をかけて書かれたものではなく、たった一行だけの短い文であった。


サクラはその手紙を、寝室の大きなベッドの横にある鏡台の引き出しに仕舞おうと取っ手を引くと、中からぶわっと今まで我愛羅からもらった自分宛の手紙が溢れだし、ハラハラと地面へと落ちていった。



『おはよう。先に出る』

『おかえり。晩飯は冷蔵庫に入っている』

『買い出しありがとう。行ってくる』

『今日は日差しが強い。気を付けて家を出ろよ』


どれも短い一行だけの手紙。


何も知らない人が読んだら、“素っ気ない”とか、“冷たい”だとか思うかもしれない。

でも、我愛羅はそうではないのはサクラはちゃんとわかっているのだ。



誰よりも人の痛みがわかり、
誰よりも愛する、愛されることの幸せさを知っている。


我愛羅はサクラと会えないことがわかると、決まってこの手紙を必ず書いてから家を空ける。

まるで、サクラが一人ではないと自覚させているかのように。

いつも俺は此処にいると、自分を安心させようとしているかのようにサクラは感じていた。


サクラは地面に落ちてしまった手紙を一枚一枚拾うと、再び引き出しにそれを仕舞い込み、そしてゆっくりと寝室のドアを締めた。



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