小説2
- ナノ -





一応世間一般での夏季休暇らしきものは彼にもある。
流石に影と言えど万能ではない。時には休養も必要だ。
と言っても何かあれば必ず出動せねばならないが、それでも特に何も起こらなければ彼も日頃の疲れを癒すべくのんびりできるのだ。
なのに休暇前に仕事をみっちり詰め込み昼時まで寝こけていた彼は、起動スイッチが入った途端私をベッドに押し倒してきた。

「いやいやいや!まだお昼!お昼だからね?!」
「ああ、そうだな」
「いや、そうだな。じゃなくて!!」

バタバタと手足をばたつかせて暴れてみるものの効果はない。
幾ら他の人も休暇中で出回っているとはいえ、ご近所に誰もいないわけでもないし、家の前を通りかかる人がいないとも言えない。
そんな状況で気づけばいつも翻弄される彼に抱かれたりなどしたら、それこそ外に声が漏れてしまう。

ああ、風影様も人間なんだな。
そう思ってくれるような人間ばかりならいいが、確実に少ないだろう。
夜ならばある程度皆寝入っているし、起きていたとしても任務だったり何だったりで結局出張るので長期戦に及んだとしても声を聞かれる心配は今より少ない。
彼とてそんなこと分かっているはずなのに、何故起動スイッチが入った途端あちらの方のスイッチも入るのか。
本当に彼はよく理解できない人間だった。

「誰かに聞かれたらどうするのよ!」
「安心しろ。窓なら閉めてやる。あとカーテンもな」
「だからそういう問題じゃないでしょ?!」

そもそも明るいうちに致すということはだ、普段は彼に見られない場所も見られるという訳で、処理を怠っているわけではないが幾らなんでもそれは恥ずかしすぎた。

「いやいやいーやあああ!!絶対にいやーっ!!」

昨夜はまともに会話できぬまま彼が先に寝入ったベッドで、私が今朝先に起きたベッドで、今は物理的に胃を満たしたばかりである彼に組み敷かれている。
もう一体どういうことなのだ。空いた腹を満たしたら今度はこっちなのか。本能に従いすぎだろう。もっと理性を持ってくれ。
そんなことを願っていても彼に通じるはずもなく、彼はむうと唇を尖らせると一体何が不満なんだと問いかけてくる。

「何言ってんの!不満しかないわよ!」
「今頃セックスがふしだらだなんて言うような関係でもないだろう」
「こんな明るいうちからするのが嫌だって言ってるのよ!」

勿論私とて彼との行為が嫌いなわけではない。
むしろどちらかと言えば好きではある。いや、彼と肌を合わせるのが好きなのであって別にセックスが好きという訳ではないのだ。
彼以外の人と体を結ぶなどそれこそ仕事以外では御免である。
そうは言っても存外嫉妬深い彼なので、その手の仕事は私には回ってこないのだが。

「明るいのが嫌なのか?」

首を傾ける彼に勿論だと頷けば、彼はふむと呟いたかと思うと猫のような瞳を泳がせ、数度瞬く。
ヤバい。この顔は何か企んでいる顔だ。
それが分かる程度には私だって彼との時間を多く共有している。

「分かった。では暗くすればいいんだな?」
「カーテンしたって無駄よ。お日様が出てるんだから」

天候を自在に操れる力を持っているなら別だが、流石に影である彼だって太陽を月に替えることはできない。
かと言ってカーテンを引いた所で遮られるほど砂隠の太陽は優しくない。
しかも今は真夏。木の葉よりも更に元気に力を発する太陽の力を遮るものなど、この家には存在しなかった。

「まぁたまにはこういうものも悪くないか」
「は?」

一体何を考え付いたのか。
彼はふふん、と楽しそうに目を細めて口の端を上げたかと思うと、突如強い力で私の両腕を一纏めにし、ベッドの上に縫い付ける。

「え、やだっ、ちょっと、何する気?!」

纏められた腕はどれだけ力を込めてもビクともしない。
最悪チャクラを込めて彼をぶっ飛ばそうと思えば出来るが、流石に愛する彼にそんな手荒な真似はしたくなかった。
だって所詮はセックスである。
言葉では嫌がっていても彼に怪我をさせてまで断るものでもないと、心のどこかで思う自分も確かに存在している。

「別に酷いことはしないから安心しろ。俺とてお前を傷つけるのは本意じゃない」
「そ、それは…そうしてもらわないと困るけど…」

彼の言葉に嘘はないだろう。
そもそも根は優しい男である。だが一体何をする気なのかと抵抗を僅かに緩め彼を伺えば、彼は私の服を一気にたくし上げるとそれを纏めた手首のところで硬く結びつけてきた。

「ちょ、ちょっと!!」

流石に血が止まるほどの力加減で結ばれてはいなかったが、簡単に外れてくれそうにはないそれはしかと私の腕を拘束している。
これは流石にやばいフラグである。

「痛いか?」
「痛くはないけど嫌よこんなの!」

早く解いて、と腕を蠢かせるが、彼は解いたら抵抗するだろうと至極真面目な顔をして嘯く。
本当今更だけど一発ぶん殴ってやりたいと思った。

「痛くないなら問題ないな。少し待っていろ」
「は?!ちょっと、何処行くのよ!」

まさかこのまま放置する気なのかと離れて行く彼を目線で追えば、すぐ戻ってくるからと答えて別の部屋へと行ってしまう。
本当に一体何なのだ、あの男は。

「ていうかこれ私の服だから破くこともできないし…本当妙な所で頭回るんだからあの人…」

彼が戻ってくる間にどうにかできないかと手首を動かしてみるも、団子になった服が僅かに揺れるだけで解ける気配はない。
そもそも結び目も見えないのだから解きようがなかった。
かと言って自分自身の衣服である。破るにはあまりにも理由がバカバカしすぎた。

「後で覚えてなさいよ…」

一人そう心に誓っていると彼がふらりと戻ってくる。

「待たせたな」
「待ってないけど…」

これが敵に捕まっている状況なら格好よく見えたであろう彼も、ベッドの上だと単なる雄である。
そうは言っても自分もまな板の上の鯛ではあるが。

「よし。窓もカーテンも閉めた。冷房も入れたしこれで文句はないな」
「何バカ言ってんの。文句しかないわよ」
「聞こえんな」

とぼけた顔して再び圧し掛かってくる彼を睨みあげれば、彼はズボンのポケットに入れていたらしい黒いストールを掲げる。
一体何をする気なのかと思わず瞬けば、彼はそれをピンと伸ばし私の目を塞いできた。

「は?!ちょ、何よコレ?!」

縛られた手と自由な足をばたつかせるが、彼はもろともせずに私の目をあっという間にぐるぐると覆い隠してしまう。
これでは何も見えないどころか漏れてくる太陽の光すら届いてこなかった。

「これなら何も見えないだろう」

真上から彼の得意げな声が聞こえてくるが、全くもってふざけんな!である。
誰がこんな物理的暗闇で安心すると思ったのか。
突飛な考えもいい加減にしろと言いたいところではあったが、突如首筋に生温い何かが這い、喉の奥から引きつったような声が漏れてしまった。

「ひっ?!な、何っ今の?!」

視覚が働かない分他の神経が過敏になる。
感覚的に舐められたのかもしれないとは思ったが、やはり何が起こっているか分からない状況では軽く頭が混乱した。

「舐めただけだぞ?」
「あぁそう…じゃなくて!!」

やっぱり彼の舌だったか。とのんびり思っている暇はない。
こんな状況でまともにセックスが出来るかと抗議しようと口を開けば、途端にそこを唇で塞がれてしまう。

「んっ、んぅっ!」

見えない分次に何がくるか分からない。
というよりも彼が何を考え、どんな表情で、どういった行動に出るかが分からなかった。
幾ら彼と肌を重ねた回数が多いとはいえ、視覚を奪われるのがこんなにも不安を煽るものだとは思わなかった。

「あっ…ね、これやだっ…」

口付けの合間、重なる舌と交ざる吐息の合間に懇願してみても、彼はダメ、と言って聞いてはくれない。
挙句に縛られた腕も彼の片手でシーツに縫い付けられ、唯一自由な足も既に彼が間に入っているため閉じることもできない。
完全に詰みである。

「あっ?!やっ!やだっ、やめてっ!」

唇が離れ、相手の体温が僅かに離れたかと思うと体の線をなぞられる。
幾ら相手が彼であったとしても、その存在を確かめることができないままの愛撫は酷く不安で恐ろしかった。
別に彼以外の人間がココにいると思っているわけじゃない。
けれどいつもは見上げることの出来る彼の表情を窺うことが出来ないのは、想像以上に心細かった。

「ね、ねぇ、するのはもういいからっ、抵抗しないから、だからこれ取って、お願いっ」

もういっそのこと腕は縛ったままでもいい。
けれど目隠しだけは取って欲しいと強請ってみたが、どうやら火がついたらしい彼は存外これが気に入ったらしく、まだダメと楽しそうに囁いてくる。

「怖がる必要はないぞ、サクラ。俺しかいない」
「そんなこと分かってるわよ!でも不安なのっ」

姿が見えないことがこんなにも恐ろしいと思わなかった。
これで興奮するにはあまりにも私の心が追いついていない。

「そうは言ってもだな…サクラ。お前気づいてるか?」
「な…何を…?」

声が聞こえてくる方向に顔を向け、問いかければ彼の熱が近づき突如乳首を強く抓まれる。

「ああっ!」
「嫌がる割には随分と厭らしく主張してきてるぞ。案外乗り気なんじゃないのか?」

それはお前だけだ。
言いたくとも彼の指先に挟まれた乳首を指の腹で転がされ抓まれ、走る刺激に震えてしまう。

「そ、なわけっ、ぅんんっ!!」

今度は指先だけでなく、ぬるりと生き物のような舌が這ってくる。
いつもと同じ行為のはずなのに、見えない、分からない。ただそれだけで私の肌は敏感に反応した。

「ぁっ…んっ、んぅ…!」

彼との度重なる行為で敏感になった肌は与えられる刺激を貪欲に受け取ってしまう。
ビリビリと指先にまで走る電撃のような快楽に、いつしか体の奥がじわじわと熱を持ってくる。

「はぁ…はっ、うっ、んっ」

胸だけでなく、汗が浮かぶ肌を舐められ愛撫され、いつも以上にどう触られるか分からない体は過剰にその刺激を傍受し、体が跳ねてしまう。
加えて肌だけでなく、無意識のうちに鋭くなった聴覚から彼が私の肌を舐め啜る音や、口付の際漏れるリップ音さえ逃さず拾い上げる。
それが益々自身の熱を追い上げていることに気付いていても、それを止める術を私は持っていなかった。

「あっ…や、やだっ、やだぁ…!」

彼の掌が突如乳房全体を包み込んだかと思えば揉み扱かれ、いつの間にか荒くなった呼吸を整える間もなく指の間で尖った乳首を挟まれ刺激される。
絶えずもたらされる刺激に腰が勝手に跳ね、いつもと同じように見えて全く別物のような愛撫はいつも以上に私を翻弄していく。

「やだっ、やだ、我愛羅くん、ねえ、やだぁ…!」

行為の最中、時折彼が無言になることを私は知っている。
最初は不満であったその行為も、慣れた今では大して気に留めてはいなかった。
けれど視覚を奪われた今、無言のままの行為は酷く恐ろしく、また不安であった。

「我愛羅くん、我愛羅くんっ」

何処にいるかハッキリと分からない。
足の間にいるであろう彼の体を探して足を閉じてみるも、そこに彼の体はなく余計に不安になってしまう。
一体どこに行ったのかと名を呼べば、彼の指先が頬に触れてくる。

「俺ならここにいるぞ」
「んっ!」

言葉と同時に重ねられた唇は確かに彼のもので、悔しいけれど安心してしまう。
入り込んでくる舌の動きは厭らしいくせに優しく、けれどまだ目隠しを外してくれる様子はない。
濡れた音を立てて口内を嬲られ舌先を吸い上げられ、じわじわと浮かぶ汗が額を流れていく。

「ふっ…サクラ、分かるか?もうこんなに濡れてる」
「あっ!!」

ずっと胸を愛撫していた指先があっけなく離れて行ったかと思うと、何の脈絡もなく足の真ん中、スカートの中に掌が潜り込みショーツ越しに秘部を撫でてくる。
途端に自分でも気づかなかった、いつもより確かに濡れそぼったそこが音を立てて彼の指に吸い付いた。

「本当に今日は凄いぞ。下着越しなのに指に吸い付いて…ひくついてるのがよく分かる」
「やだっ、そんなこと言わないでっ…!」

閉じていた足の間、太ももに手を這わされ開かされた足に彼の肌が触れる。
何時の間に服を脱いだのかは知らなかったが、確かに彼の皮膚の感触を知ることができ安堵する。
けれど一体それがどこの部位なのかが分からず太ももを動かせば、彼の手が内腿に這わされ撫でられる。

「いい匂いがする」
「え?!ちょっとやだ、何してるの?!」

ごそごそと彼の体が動いたかと思うと、唇とも指とも違う何かがショーツ越しに秘部に触れる。
一体何をしているのかと問いかけつつ腰を動かせば、ちゅうと音を立ててそこに口付られる。

「突然動くな。鼻を打ったらどうするつもりだ」
「な、何バカ言ってんのよ!」

もしや匂いを嗅いでいたのかこの男は?!
私が見えないのをいいことに普段よりも変態行動に走る彼に声を上げれば、彼の指先が厭らしい動きで足の付け根を撫でまわしてくる。

「普段させて貰えんからな」
「当たり前でしょ?!そんなとこ匂わないでよ!」

シャワーを浴びた後ならまだしも、昼餉を摂り終わって速攻ベッドに押し倒されたのだ。
正直汚い。
なのに彼は気にした様子もなく、むしろ普段できないからと行為を楽しんでいた。

「安心しろ。お前はどこもかしこもいい匂いだ。むしろ風呂に入れば薄れてしまうからな。俺はこのままがいい」
「こ、のっ…!変態!変態!!大変態!!」

あまりの発言の酷さに声の限りに罵倒してみるも、彼ははいはいと意に介した様子もなく私の足に口付けを繰り返し、舌を這わせてくる。
匂いだけじゃない。真夏故に全身に掻いた汗も舐められているのだ。
そう思うと尋常ではないレベルで私の全身を羞恥が襲い、全力で逃げ出したくなった。

「せめてお風呂ぐらい入りたかった…」
「そんなもん後でいい。俺は今すぐお前を食いたい。シャワーなど浴びてられるか」
「こんのド変態!!」

何故この男はこんなにもなりふり構わず我が道を突き進めるのか。
分からなかったが現状私の体からは絶えず冷や汗ともいえる汗が溢れ続けている。
それを肌越しに舐められ啜られるのは耐えがたい羞恥であった。

「んっ、もう、やだぁっ…!」

肌に口付られ舐められ啜られて、溢れる音が恥ずかしくて何度も首を横に振れば彼の笑うような吐息が秘部に触れる。
もしやと思うのも束の間、彼の唇が再度ショーツ越しに秘部に触れ、肉厚な舌が割れ目を撫で上げていく。

「ふぅんんんっ…!」

どうされるか分からない。
どんな愛撫が次に来るか分からない。
そんな状況では慣れた愛撫でも過剰に反応してしまう。
たった一度舐められただけだというのに私の子宮はきゅうと唸り声をあげて腹筋を震わせる。
全身に行き渡る血潮も熱を上げ、ドクドクと跳ねる心臓は呼吸に合わせ益々熱く脈打っていく。

「はぁ…凄いなサクラ。ショーツが透けてるぞ。最高に厭らしいな」
「っ…!もうやだぁ…!」

しかも何故今日に限ってこうも言葉攻めをしてくるのだ、この男は。
自分だってどうしようもできない体をなじられるのは酷く堪える。

「が、らくっ、んぅ!」

名前を呼んでも、抵抗する言葉を言わせないかのように口付られ長く口内を嬲られる。
溢れる唾液を飲み込むことが出来ずに口の端から流れるが、両手を縛られているため拭うこともできない。
代わりに彼の舌先がそれを拭い、そのまま頬を舐められ鼻先に口付られる。

必死に荒くなる呼吸を落ち着ける合間にも愛撫は絶えず与えられ、髪を撫でられ額にあやすように口付られると自分の意思とは関係なく体が溶けてしまう。
酷いことをされているのに、同意の上での行為ではないのに、こうして優しくされてしまうと抱かれ慣れた体は簡単に彼を許してしまう。

「あぁっ…!やっ、んぅう!!」

身悶える私の脚に再び彼の指先が触れ、つぅと絶妙な指圧で付け根に向かって撫でられる。
勝手に震える体がベッドの上で何度も跳ね、逃げられない熱から逃げたくて頭を振れば、乱れた髪がぱさぱさと音を立ててシーツの波を叩く。

「気持ちいいか?サクラ」
「ぁんっ!ふっ、んん〜!!」

ゆっくりと足の付け根を撫でまわしていた指先が、再度私の秘部に触れる。
そしてそのまま何度も、揃えた指の腹で優しく擦られる。
それだけでたまらない快感を感じてしまう私の体は、既に恐怖よりも快楽に支配されつつある。

「ショーツ越しなのにもうぐしょぐしょだ」
「イジワルぅ…」

ひくつく腹筋の下、自身でもどれほど濡れているのか分からないあそこを揶揄され顔に熱が籠る。
そんな私に彼は軽く笑った後、ずっとショーツの上から触れていた指先を中に潜らせてきた。

「はう!」

濡れたショーツが吸った愛液のせいで茂みまで濡れそぼり、彼の指が動く度に嫌らしい音を奏でる。

「んっ!ぅ、んんっ、うぅ〜…!」

くしゃくしゃと彼の指先が茂みを撫でる。
それだけで堪らず腰が揺れ、いやいやと首を横に振ればするりと指先がその下に下りてくる。

「トロトロだな」
「んぅ…!はぁ、ああっ、」

溶けた頭では彼の言葉に反論することもできず、ただ荒い呼吸と嬌声だけを繰り返す。
彼はそんな私に軽く笑った後、ついにショーツに指を掛けた。




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