小説2
- ナノ -


話題のあの人、恋の噂とは




ガシャン、とサクラの手の無からコップが滑り落ちる。

「…え?何…コレ…」

落ちたコップは床にぶつかり、派手な音を立てて砕け散る。
けれどサクラの視線はそこへと向かず、驚きで見開かれた眼はとある新聞の一面を凝視していた。



「『ついに風影もゴールイン?!お相手は国の人気女優!禁忌の恋の行方は如何に?!』…か。へぇ〜我愛羅くんもやるもんね」

今朝方木の葉に届いた朝刊。そこの一面記事にはデカデカと木の葉の盟友である我愛羅の姿が写っている。
それは後姿ではあるのだが、ツンと立った髪と背丈、それから纏っている衣服から見ても我愛羅であることは間違いなかった。

「それにこーんなにバッチリキスシーン撮られちゃったら言い逃れも出来ないわよね」

いのとテンテン、それからヒナタを交えた女子会はこの話題で持ちきりだった。
何せ我愛羅は生真面目な男だ。周囲の同期が結婚に走る中、それでも我愛羅はその手の噂を一つも立てることなく日々を過ごしていた。
影や有名女優、男優が新聞の記事に載ることはさして珍しいことでもない。けれどそれが今まで何一つ噂を立てることが無かった風影だというのだから、里の関心は集中した。

「でも…何だか意外な気がするな。我愛羅くんがこんなあっさり写真撮られてるなんて…」
「それだけ彼女に集中してたんじゃない?キスの最中に余所事考えてる男なんてサイテーよ」

ヒナタの疑問をいのがすげなく一蹴する。
それに対しヒナタは苦笑いするだけに留めたが、サクラはぼんやりとあんみつを突きつつ閉口していた。

「それにしてもこの女優って本っ当美人よね〜。しかも家族全員芸能人なんでしょ?」
「みたいね〜。父親は有名な監督で、母親は今は引退してるけど元々大女優。一番上のお兄さんは打楽器の演奏者で二番目のお兄さんは俳優。それで一番下がモデルっていうんだから本当凄い家庭よね」
「才能に恵まれてる家系ってこういうことを言うのかしらね〜」

いのとテンテンの会話を聞きながら時折ヒナタが疑問であったりコメントであったりを挟んだりしている。
けれどサクラの耳はそれらを拾わず、ただ終始ぼんやりとあんみつを突いていた。

「ていうかサクラ、あんた今日まだ何も喋ってないじゃない。どうしたのよ?」

いつもならサクラもアレコレ口を挟む話題であるはずなのに、いつまでたっても何も言ってこない。
流石に気になったいのがサクラを呼ぶが、サクラはそれすら気付かず手元のあんみつに視線を落としていた。

「サクラ?おーいサクラー?サークーラー?」
「やーいデコりーん、ブスー不細工ー、脳内まっぴんくー…ダメだ。全然聞こえてないわ」
「サクラちゃん…どうしたのかな…」

普段であればいのの悪口に光の速さで反応するサクラではあるが、それさえ聞こえていないかのようにあんみつを突いている。
ヒナタがそれを覗き込めば、思わずひっと小さな悲鳴を上げた。

「さ、サクラちゃん…あんみつぐしゃぐしゃにしてる…」
「え?!」
「何それ怖っ!!」

そう、ヒナタが脅える通りサクラはただひたすらあんみつの具を潰していた。
木製のスプーンがごつごつと器の底を叩いているにも関わらず、それでも尚その手を辞めずに同じ動作を繰り返している。

「…私、帰る」

そうして器の中にある物体があんみつだったのかそれ以外だったのか分からなくなった頃、ようやくサクラはその一言を口にした。
しかし三人が驚く間もなく立ち上がると、一ミリたりとも表情を変えずに店を出て行った。

「…何、あれ…」
「さあ…?どっか悪かったんじゃない?」
「大丈夫かな…サクラちゃん…」

三人が心配する声も既に店を出てしまったサクラには届かない。
不思議に思いつつもまぁ放っておいたらそのうち元気になるだろうと結論付け、再び楽しい女子会を始めるのであった。


そうして一人店を後にしたサクラは周囲の人が忙しなく道中を行きかう中、俯き加減で歩んでいた。

(国の超人気女優と密会…キスしてる所まで激写された挙句宿屋から出てくるところも撮られてた…これって、浮気…よ、ね…?)

いつもより数段遅い足取りで、それでも着実に出てきたばかりの家へと戻っていく。
新聞を目にしてからずっと頭の中で巡っていた考えはどこまでも終わりが見えず、小石に躓くように時折立ち止まりつつもその考えから抜け出せずにいた。

(そりゃあ初めはうっそだぁ〜、なんて思ったけど…でも最近彼から連絡来てないし、会うことも少なくなったし…手紙を出してもなかなか返事は来ないし…)

思い当るところは多々ある。
悩むサクラは辿り着いた自室の扉を開け、ベッドの前まで歩を進めるとゆっくりとそこに向かってダイブした。

「…浮気、か…」

サクラと我愛羅が密かに付き合いだしたのはもう三年も前からだった。
戦争が終わり各里が復興に向けて立ち上がる中、サスケを送り出したサクラの周囲では様々なことが変わった。

まず第一にナルトがヒナタと付き合うようになった。理由や問題は多々あったが、結局のところは落ち着いて交際が続いている。
続いていのとサイだ。元々いのはサイに気が合ったようだが、サイにはその素振りが無かった。けれど大戦が終わり里の復興に勤しむ中、二人は密かに距離を近づけ先日めでたくお付き合いが始まった。
キバにも思いを寄せる女性が現れ、シノは教師になるべくイルカの元に通うようになった。チョウジも最近自分を見初めてくれたらしい相手と文通を始めたらしく、シカマルはテマリと以前よりも密接な関係を結んでいる。
綱手は次なる影をカカシに任命し、席を下りた。とはいえまだカカシとて分からぬことが多い身である。暫くは引き継ぎの任で忙しいだろう。
それに対しガイは先の戦で体を壊し、ついに入院した。綱手を主力として行われた手術は長時間にも及び、その結果命は取り留めたが忍として任務を全うすることは難しいだろうということになった。
昔であればガイが倒れたことにより心中不安を抱えたであろうリーも、今では立派に成長し日々修行に励み己を鍛えている。
テンテンも戦で拾った武器や武具を修理してはいつか店を構えて売り出すのだと将来の目標を立てているし、皆それぞれ前に進み始めていた。

「なのに私ときたら…何やってんのかなぁ…」

ベッドに寝そべるサクラはぼんやりと天井を見上げながら呟く。けれどそれだけでは胸のつっかえが取れるはずもなく、何度も無意味に寝返りを打ってはため息を零した。

「何で我愛羅くん…何も言ってくれなかったんだろう…」

サクラと我愛羅の交際が始まったキッカケはとある任務だった。
それはサクラにとって初めての色の任務、遊郭への潜入調査だった。
その頃遊郭を中心に麻薬が広まっており、その被害は徐々に拡大し問題になっていた。そこで医療忍者であるサクラに白羽の矢が立ち、人生初の花街へと足を踏み入れたのである。
とはいえ花街などどんな場所か聞き及んでいても内情までは分からない。初めは四苦八苦していたサクラではあったが、日が立てば慣れていくものだ。
身を結ぶことはないとはいえ酒の席や演武ではある程度客を満足させられるようになり、空いた時間での捜査はそれなりに順調であった。
そんな中木の葉と砂の上役の会合の場にサクラが潜入している店が選ばれた。
とはいえ話の内容は仕事らしい仕事ではなく、言ってしまえば大人の厭らしい話であった。
勿論その場には火影になったばかりのカカシもいたし、風影である我愛羅もいた。当然カカシはサクラがその店にいることを知っている。
実際酒の席でサクラがカカシの傍によれば、少し気まずいねと小声で話しかけてきたほどだ。それに対しサクラは笑顔で答えたが、内心では全くだと頷いていた。

酒の席は特に問題なく時間が過ぎた。
店の中で一番の女たちが踊り、歌い、演奏し、酒を注いで笑い声を上げる。
我愛羅はともかくカカシも会話に交ざっては適度に笑い、適度に相槌を打ち、のらりくらりと面倒な話題を避けていた。

だがそこは遊郭だ。酔いが回り、宵も落ちれば一気に店の中は色めき立つ。
案の定上役たちは気に入った娘を別の部屋へと誘い、赤ら顔を晒して宴会場を出ていく。勿論カカシにも我愛羅にも拒否権はない。
カカシは初めサクラを男たちの手から守ろうと指名しようとしていたが、木の葉の上役にお前はこのぐらいの歳の娘の方が似合うだろうと一人の女を宛がわれ、断ることが出来なかった。
結局サクラは残った我愛羅と共に過ごすことになり、内心ばれませんように…!と思いつつも共に部屋へと赴いた。

とはいえサクラとて今まで指名されなかったわけではない。
だが客に気付かれぬよう部屋の中に睡眠作用のある香を焚いておき、そこで酒を数度飲ませれば客は自然と寝落ちた。
そうして貞操を守っていたサクラではあったが、案の定それが我愛羅に利くことはなかった。

『…女、部屋を変えることは出来るか』
『へ?』

部屋の襖を開けた瞬間、我愛羅はピクリと眉を跳ねさせサクラを振り返る。
素知らぬ素振りでサクラが何故かと聞けば、我愛羅は口元に袖を当てて香を吸い込まぬようにしながら、妙な香が焚かれてある。と端的に答えた。
やはりと言うべきか流石と言うべきか。幾ら影になってから任務に赴くことが少なくなったとはいえ我愛羅も忍だ。嗅覚の衰えはないらしい。
サクラは内心やっぱりねと思いつつも我愛羅を別の部屋へと通し、暫く雑談に及んだ。

『風影様はお堅いお方だと耳にしておりんしたが、このような場にも足をお運びになるのでありんすね』
『まぁ…仕事だからな』

我愛羅の酒を飲むペースは落ちることがなかった。元々酒に強いのだろう。
サクラも綱手の酒に付き合わされることが多いのでそれなりに飲むことは出来たが、それにしたって我愛羅の飲む量は凄まじかった。
その癖視線も定まっているし口調もしっかりしている。動作も普段と変わらず流れるようであり、サクラは内心驚いていた。

『はあ…しかしお前たちも大変だな』
『何でありんしょう?』
『毎日こんなことに付き合わされているんだからな。感心する』

普通の男をものさしに考えると、大概は遊郭が好きでも女を擁護する者は少ない。
例え女に惚れたとしても、他の男に笑みをばら撒き股を開く女に男は嫉妬を覚える。
そうして初めは美しい、可愛らしいと褒めちぎっていたにも関わらず、自分意外の男とも身を結ぶ女に売女だ何だと騒ぎ立て、この仕事に誇りを持つ女たちをバカにする。
けれど我愛羅はそういったこと発言はせず、ただ淡々と店の女たちの働きぶりを評価していた。

『俺とて忍だ。一時の任務であるならば出来るだろう。だがそれが続くとなると…少しばかり思いやられるな』
『ふふっ、そうでありんしょうか』

いつもはかっちりとした我愛羅が、その時ばかりは僅かに砕けた様子で後ろ手をつき天井を見上げていた。
珍しい姿に驚きつつ、それでもサクラがくすりと笑えば我愛羅の視線が動く。

『…お前とは…何だか初めて会った気がしないな…』

そう言って我愛羅が触れてきたのはサクラの頬。
ゆっくりと指の腹で優しく触れられ、そのまま焦らすような、労わるような、探るような。そんな絶妙な力加減で撫でられ思わずサクラの肌は粟立った。

『あ、あの…』

初めての行為に恐れをなしていたわけではない。と言いきれないのが実際ではあったが、それでもサクラが慌てた素振りを見せれば我愛羅は少しばかり笑った。

『随分初々しい反応をする。まるで生娘のようだな』

普段では絶対に見られない、酔っていないように見えて実は酔っていたのか、我愛羅は楽しげに目を細め口の端を上げると飽きずにサクラの頬に指を滑らせた。

『んっ、ぁっ…』

流石に初めてこういった行為をされたのだ。どうしていいか分からず戸惑い、縮こまれば頬を撫でていた指が首筋へと降りてきた。

『ふっ…』

普段なら笑ってしまうだろうくすぐったい動きに、けれどサクラはむずむずとした感覚を覚えてしまい無意識に目を瞑ってしまう。
けれどそれによって益々我愛羅の指の動きを感じる羽目になり、閉じていた目はすぐに開くことになってしまった。

『あ、あの…風影様…』

ふるふると勝手に震える唇で、恐る恐る吐息と共に零した声は自分でも驚くほどか細く震え、濡れていた。
それが自分の喉から発せられた物とは思えず動揺すれば、上体を後ろに反らしていた我愛羅が身を起こし、体を傾けてくる。

キスされる。
そう思いサクラは再度ぎゅっと目を閉じたが、いつまでたっても口付が来る気配はない。
思わずあれ、と思い上目で見上げれば、まるで小動物を見るかのような目で我愛羅がサクラを見下ろしていた。

『本当に初々しいな。こんな愛らしい女は初めてだ』
『なっ…!!』

からかわれた。
カッとサクラの頬に熱が走るが、その様が益々我愛羅を楽しませたようでついには笑われてしまう。

『そんなに脅えずとも取って食ったりはしない。安心しろ』
『は、はい…』

口ではそう言っても我愛羅の指は止まらない。何度も頬を滑っては首筋に下りて行き、そうしてサクラが体を震わせれば覗く鎖骨に向かって指が滑る。
けれどそれに驚き身を固めれば、その指はすぐさまそこを離れて首筋へと戻る。何度も何度も、頬と首と、時々うなじと鎖骨を撫でられていれば体から力が抜けて行き、終いには吐息も乱れていった。

『んっ…ふ、ぅ…』
『どうした。くすぐったいのか?』

問いかけてくる我愛羅の指先は何処までも優しい。けれど徐々に徐々に、その指先は着物の中に潜り込んでいききわどい部分を撫で始める。
初めは肩。それから脇。そうして二の腕へと滑ったあたりでサクラは思わず背に緊張を走らせた。着物は既に肩から滑り落ちていた。

『あ、あの…』
『ん?何だ。言ってみろ』

するすると、ゆっくりと肌から滑り落ちていく着物の裾を正したくても指が震えてまともに動かない。
短い間隔で行われる呼吸が恥ずかしく、逸る鼓動も収まる気配がない。それにその音が我愛羅の耳に届いてしまうのではないかと思うと余計に緊張を助長させてしまい、思考も乱れ始める。
結局サクラは何も言えず、ただ赤い頬を隠すようにして俯くしかなかった。

『っ、んっ…ひっ、う…』

肌の上を滑る指は飽きずに動く。何度も何度も、どれほど時が立ったのかも分からないほどに長く長く時間をかけてサクラの肌を撫でていく。
そのうちサクラの熱は頬にだけでなく全身にまで回っていき、脈打つ鼓動に急かされるようにして体は色づき吐息も濡れていく。
緊張していた体も程よく力が抜け、ただただ我愛羅の指がもたらす刺激を追っていた。
少し硬い、けれど優しい力加減の指が神経を直接撫でるかのように快楽を覚えさせていく。
くすぐったかったはずの動きも、全身を悶えさせ足を摺合せたくなるようなもどかしいものに感じ始めていく。

『か…ぜ、かげ…さま…』

震える吐息で、気付かぬうちに舐めていた唇から甘えた声が漏れる。
そうしていつしか間近に迫っていた我愛羅の顔を伺えば、我愛羅は何だと問いつつ僅かに首を傾けた。
触れるか触れないか、絶妙な距離。

焦らされている。
分かっていながらもサクラはそれがもどかしく、もういっそのこと早く、無理やりにでもいいから奪ってくれとさえ思った。
けれど我愛羅はいつまでもその微妙な距離を埋めることはせず、ただただ指先だけを動かすばかりだった。
結局耐え切れなくなったのはサクラの方で、サクラは肌を撫でていない、床についていた我愛羅の手を上から握りしめた。

『もっと…ちゃんと…さ、触って…ください…』

廓言葉を使うことすら忘れ、強請ったサクラの言葉に我愛羅は目を細めた。
そうして肌を撫でていた手を離すと、その手をサクラの後頭部に回し引き寄せてきた。

『んっ…』

ようやく重ねられた唇は柔らかく、そっと触れてはすぐに離れる。
それでは物足りずにサクラが唇を追いかければ、我愛羅は少し笑ってから少しばかり強く吸い付いてきた。

『んっ…ふっ…』

サクラはこの時まで我愛羅のことを異性としてまともに意識したことがなかった。それなのに今では全身が我愛羅の指を、息遣いを感じている。
小さな体の奥で煩いほどに駆け巡る鼓動は嫌と言うほどにサクラの体温を上げ、撫でられ続けた肌は敏感に我愛羅の動きを感じ取る。

『もっと…触ってください…もっと…』

その頃にはもうサクラの脳内は蕩けきっていた。欲しくて欲しくて仕方がなかった。
初めての男は出来ればサスケがいいと思っていたはずなのに、サクラの意識は既に我愛羅にしか向けられておらず、頭の中にいつまでも居座っていたサスケの姿はちらりとも姿を現さなかった。

そうしてもつれるようにして連れ込まれた閨の中でもじっくりと我愛羅に責められ、焦らされ、自らが懇願するまで体を愛撫され、純潔を散らした。

だがその際サクラは完全に任務で身分を偽って潜入していることを忘れ去っており、行為の最中何度も我愛羅の名を呼んだ。
おかげで終わった後我愛羅に問い質されることになり、サクラは自身の失態を改めて省みつつ事情を説明した。

『成程…そういうことだったのか』
『ごめんなさい…騙してて…』

我愛羅の腕の中で、初めて間近に感じる男の肌に恥ずかしさを覚えつつも視線を伏せれば、優しい口付が額に落ちてくる。
何かと思い目線を上げれば、我愛羅は慈しみすら覚える視線をサクラに向けたまま口を開いた。

『ならば責任は取ろう。俺と付き合わないか?』
『え…べ、別に責任なんか取らなくてもいいよ…赤ちゃんが出来たわけでもないし…その…ちゃんとゴム…つけてくれたし…』

責任で、とは言われたものの我愛羅から交際を申し込まれたのは正直嬉しかった。
だが言ってしまえばたかが任務で相手をしただけなのだ。途中でそれを忘れてしまっていたとはいえ、わざわざ我愛羅が責任を負う必要はない。
気持ちは有難いが…とサクラが断れば、我愛羅はふむと思案した後サクラの手を取り指先に口付た。

『ほあっ?!』
『では本心を口にしよう。お前に惚れた。だから付き合ってほしい』

そう言ってサクラの指先から唇を離し、共に横になっていた体を起こして再びサクラをシーツの上に縫い付けてくる。

『答えは?』

上から覗きこまれた瞳はどこまでも美しく、けれど強かに雄の匂いを感じさせギラついている。
サクラはその瞳に肌を粟立たせつつもコクリと唾を飲み込み、それから濡れた唇を開いた。


結果、サクラはこうして今の今まで我愛羅との関係を築いてきた。
とはいえ周囲に公言できる身ではない。サクラとて今でこそ他里に名が通るようにはなってきたが、大戦前まではまったくだった。
我愛羅の隣に並ぶにはまだ自分の力が足りなさすぎる。
自覚したサクラは今までよりも一層職務に励むようになり、徐々に徐々に、周囲に名を広げていった。

「でも結果がコレ…か」

撮られた写真は嘘をつかない。
我愛羅が自分とは違う女に口付ている所も、宿から並んで出てくる所も撮られている。サクラは見上げていた天井から目を逸らし、ついには枕に顔を埋めた。
呼吸をすることすら面倒臭い。
まるでそう言わんばかりにサクラは力なく枕を掴み、溢れる涙をそこに染み込ませた。



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