小説2
- ナノ -


6




結局あれから二人は陽が昇るまで互いを求めあい、満足した頃には空が白く染まっていた。

「………」
「………」

冷静になってみればとんでもない獣である。二人は互いにベッドの上で背を向けあいながら各自反省会を開いていた。
幾ら酒を飲んでいたとはいえ殆ど素面だった。何せ記憶は一度も飛ぶことなく残っている。
合意の上とはいえ互いの思いを確認しながらのセックスはいかがなものか。そう己を詰ってはいるのだが、それでも気持ちがよかったのだ。
サクラも、我愛羅も。心も体も満たされ、二人は実際後悔の念より幸福の気持ちの方が強かった。
現にサクラは恥ずかしいながらも頬がニヤニヤと緩んでしまいそうで仕方なく、我愛羅も我愛羅で嬉しさのあまり飛び出して木の葉の街を走り回りそうだった。

「あ、あのっ」

意を決してサクラが振り返れば、我愛羅がその声に弾かれたように振り返る。
そうして互いの翡翠の瞳が重なった瞬間、二人は同時に赤面した。

「だ、ちょっ…!なんで赤くなるのよっ!」
「お、お前こそっ…!」

顔を赤く染めたまま罵りあう二人に威力などない。もはや子猫同士の喧嘩のようなじゃれ合いのような、そんな体である。
現にふーふーっと息を荒げる二人ではあったが、すぐさま落ち着きを取り戻し正座で向き合った。

「その…昨夜は…襲ってすまなかった…」
「おそっ…いや、その…私も合意の上だったし…別にいいよ、それは…怒ってないし…」

むしろ気持ちよかったし、幸せだったし。
などとは流石に恥ずかしすぎて口には出来ず、下がっていく視線と反比例に体温は上昇していく。
もういっそ顔だけでなく耳まで赤くなっているだろうと目を閉じていると、サクラの額に突然柔らかな感触が落ちてくる。

「ふぇ?」

一体何事かと視線を上げれば、キョトンとした顔の我愛羅と至近距離で目が合う。
どうやら額に口づけられたらしかった。
え、でも何で?いや、嬉しいけども…
サクラのそんな思いが通じたのか、それともそんな表情をしていたのか。我愛羅は違うのか?と一人慌てて身を離す。

「いや、ちょっと!逃げないで!嫌がってるわけじゃないから!むしろ嬉しかったから!!」
「だ、だってお前、目の前で目を閉じられたら勘違いするだろう!!」

ほ、ほあああああああ!!!
思わず叫びだしそうになるサクラが思わずベッドに突っ伏せば、自分の勘違いだったという事実に撃沈した我愛羅もベッドの上に沈んだ。
朝から騒がしい二人である。

「本当に情けない…埋まりたい…」
「やだ…埋まらないで…一人にしたら追いかけて殺すから」
「やだ怖い」

互いに赤い顔を隠しながら軽口を交わし、それから同時に吹きだした。

「あー!もー…好きよ。本当に、大好きなの。自分でもびっくりするぐらい、私あなたのことが好きなのよ」
「ああ…俺もだ。何と言っていいのか…本当に、自分の人生で今が一番幸せなんじゃないかと思うぐらい、幸せだ」

狭いベッドの上で、伸ばされた腕の中に潜り込むようにして倒れ込む。
そのままぎゅうと我愛羅の体にしがみつけば、しっかりと筋肉のついた胸板の奥から忙しない鼓動の音が聞こえてくる。
本当に、この男が自分を愛してくれているのだ。
そう思うとサクラは緩める頬を制御することが出来ず、子供のような無邪気な顔で笑ってしまった。

「…やめろ。可愛すぎる。反則だ」
「ぎゃっ!何よーっ、不細工よりましでしょ〜?」

ぎゅうと痛いほどに抱きしめられ、けれどそれが嬉しくて仕方がない。
互いのぬくもりを感じていられる時間も残り僅かだが、二人はギリギリまでくっついていようと互いの体を抱きしめあった。

「…あ、そうだ。我愛羅くん、あの時綱手様と何話してたの?」
「ん?あの時?」

昨夜の三次会でのことをサクラが尋ねれば、我愛羅はああ…とどこか照れたように視線を逸らしてからざっくりと説明した。

「人生の先輩による教訓のご指導ご鞭撻…と言った所かな」
「何それ?」
「まぁ…いろいろだ」

流石にサクラのことが抱きたいです、という話をしていたなどと口が裂けても言えない。
綱手もその点は了承してくれているだろう。もしこの話をするとしたら将来、もっと歳を食ってからでなければ笑って話すことなど出来やしない。
それぐらい我愛羅にとってあの時間のあの話題は恥ずかしいものだった。

「そういうお前こそ他の男たちと楽しそうに話してたじゃないか」
「うふっ、嫉妬してくれてるの?大丈夫よ。大体が彼女持ち男子からの恋愛相談だったから」

あとはチョウジとカルイさんとでグルメな話かしら、と心中で付け足せば、安心したのか我愛羅がそうか…と呟く。
まるで今にも眠ってしまいそうな口調だったのでサクラが思わず視線を上げれば、案の定目の前の男はウトウトと瞼を落としていた。

「もーっ!安心したら眠くなるってあんたは子供かっ!」
「しょうがないだろう…出すもの出して安心すればあとは休憩…が、欲しくなる…」
「あ、コラ!寝るな!起きろ!もうすぐ用意して出なきゃでしょ!?ちょっと、ねえ?!我愛羅くん!おーい!!」

ぺちぺちとサクラが頬を叩くが睡魔に意識を持って行かれた我愛羅が起きる気配はない。
あちゃー。どうしよっかなぁ、とサクラも疲れた体で必死に起きていたのだが、もうこれは担いでいくしかないなと腹を決める。
だがもう暫くはこのぬくもりを堪能してもいいかと頬を緩めていたが、結局サクラもその後すぐに眠ってしまい、その後木の葉では時間になっても姿を現さない風影を捜索するため、全里共同で風影捜索命令が出たのであった。



end




〜おまけ〜


我サク+α


「いや別にさぁ、お前が無事だったんならそれでいいんだけどよぉ…」
「面目ない…」
「本当にご迷惑おかけしました…」

まさか火影の結婚式翌日に風影が行方不明になるとは思わなかっただろう。
何せ我愛羅に言われ先に宿に戻った忍達など顔面蒼白になって早朝から我愛羅を探していたのだ。もう迷惑どころの話ではない。

「全くだ!恋に現を抜かすのも大概にしな」
「恋慕に心まで食われたら元も子もねえじゃん、我愛羅」
「すまん…返す言葉もない…」

木の葉だけでなく他の里の人間にも迷惑をかけ、あまつさえその理由が“女の所で寝こけてました”じゃあまりにも格好がつかな過ぎる。
怒り心頭のテマリを見れば流石に怒る気も失せたのか、多少言葉を和らげ釘を刺すカンクロウに我愛羅は肩を落とした。

「ま!でも二人が無事ならそれでいいじゃん!問題なしだってばよ!」

朗らかに笑うナルトに二人が再度謝罪すれば、突如として火影室のドアが開かれる。

「で?!次の挙式はいつなんです、風影!!」
「美味い酒は出るんだろうな?!」
「まだまだワシとて参加できるんじゃぜ、風影!」
「いよーし!!我愛羅、日取りが決まったら連絡しな!私がとっときの酒を持ってきてやる!!」
「つ、綱手様!」
「それに水影殿に雷影殿…土影殿まで…」

いつから盗み聞きしていたのか。意気揚々と昨夜の酒が抜けていない様子の影たちに流石のナルトも肩を落とす。
もう早く引退してくれ…
どうやらそれぞれ引きずられて来たらしい。長十郎にダルイ、黒ツチが疲れた顔で廊下で伸びていた。

「…ま、お幸せに。な」
「それはお前だ」
「それはあんたよ」

っていうかまだ結婚するわけじゃないし。付き合いだしたばかりだし。
揃う二人の声にナルトはそうだっけ?と笑い飛ばし、酒の抜けていない影たちもやんややんやと二人をはやし立てるのであった。



おまけend




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