小説2
- ナノ -


嫉妬の話




昔の彼を知っている人ならば、どうして彼があそこまで変わることが出来たのだろうと疑問に思うはずだろう。
特に砂隠の人なんかは。

元々実の姉兄とも仲がよかったわけでもない。ずっと孤独だった彼。でも今ではすっかり里の人に信頼され、尊敬の眼差しを向けられている。
凄まじい快進撃である。ナルトが修行に出ていた数年で、彼は自らの足で道を切り開いたのだ。恵まれぬ体躯で、運命を背負いながら、それでも彼は茨の道を切り開き、己の足で突き進んだ。
そして進むべき道を照らす光となり、今では里の人たちを導いている。本当に、すごい人だと思う。

だから、そんな弟を姉兄たちが誇らしく思うのも当然のことなのだ。
そして彼も、そんな自分を支え、恐れていても決して見捨てなかった姉兄に信頼を寄せるのも当然なのだ。
見誤ってはいけない。ましてや姉兄に嫉妬など、それこそ醜い感情だ。

でもやっぱり私は人間で、ただの女で、どうしようもなく、彼が好きなのだ。



【嫉妬の話】



我愛羅くんはモテる。そりゃあもう、かつてのサスケくんみたいにモテる。それは分かる。彼は黙っていれば冷酷さが見えるが、喋ってみれば結構お茶目だ。
お茶目というか天然というか、正直え?って発言もするし、ちょっと、と突っ込みたくなるような行動もする。目が離せないというか、面倒を見てあげたいという気持ちにさせられるのだ。
庇護欲?というよりも母性?を刺激されるのだろうか…何にせよ彼は女性キラーな部分がある。
しかもそれは他人だけでなく身内にも発生するのだから正直なんだかなぁ、という気持ちになる。

「我愛羅、ほら、ちゃんと起きな。昨日頑張ったのは分かるけど、そんなんじゃ示しがつかないよ」
「ぅん………ん」

忙しい彼が夜遅くに帰宅することも少なくない。とすれば必然的に睡眠時間が削られ、彼の疲労は蓄積されたままとなる。
現に彼は食卓についたものの完全に覚醒しきっておらず、今にも睡魔に負けそうである。

「ったく、しょうがねえ弟じゃん。ほら我愛羅、口開けろ。食わせてやっから」
「ん…自分で…食べる…」

とか言いつつ彼の目は空いていない。
カクン、カクン、とリズムを取っているかのごとく上下に動く頭は幼児のようだ。
流石に見かねた彼の兄であるカンクロウさんが料理を口に運べば、文句を言いつつも放られた食べ物を咀嚼し始めた。

「我愛羅、美味しいか?」
「ん…うまい…」

姉のテマリさんの、呆れとも慈愛ともつかぬ眼差しと共に投げられた声音に彼はもごもごと言葉を返しつつ頷き、ようやくしょぼしょぼと目を瞬かせる。

「みそしる…」
「はいはい。零すなよーっ」

もはや介護だ。
一人で食べれるとむずがる姿は完全に幼子だが、結局大人しく食べさせて貰っている。何だこれは。どう突っ込めばいいのか分からない。

「サクラも早く食べちゃいな」
「あ、はいっ」

テマリさんに促され私も食事に手をつける。
私は数日前から彼の家に厄介になっていた。それは勿論仕事が理由ではあるのだが、彼とお付き合いしているというのも理由である。
元々は皆に内緒の、日陰の恋をしていた。けれどやはりというか何と言うか、これだけ彼の面倒を見ている二人には隠しきることが出来ず露見してしまった。
初めは驚かれたが、やはり彼を大切にしている二人なだけある。彼が幸せならそれでいいとそう言って嬉しそうに笑い、私を暖かく受け入れてくれた。

それはもう嬉しかった。本当に。
けれどいざ彼らと過ごしてみると、私はちょっとばかしモヤモヤした気持ちを抱いてしまうのだ。だって、私だって、

(彼を構いたいのに…っ!!!)

そうなのだ。私が彼を好きになった理由は、見た目と言動に反し結構おっちょこちょいな所があって、そこについキュンと来てしまって、ああ何だか放っておけないな〜とか思ってたらいつの間にかハートキャッチされていたという訳だ。
別に後悔はしていないけれど、やっぱりなんていうか、どうして好きになったの〜?!なんて聞かれた時に返答に困るな、とは思ってる。
勿論その時は責任感が強くて自立心があるところ!とでも言おうかなとは思っているのだけれども。

あーでも実際は本当、結構彼はダメダメな所が多いのだ。ダメダメっていうかもう本当、あー可愛いなぁもう。と思わされることが多いのだ。

だってこの間なんて、サボテンを植え替えるから鉢を買いに行くって言って出掛けたのに、戻ってきた時には両手に沢山の紙袋を掲げていたのだ。
一体どうしたのかと問いつつ中身を確認すれば、様々な料理が所狭しと並んでいて驚いた。
当の本人はと言えば、傍目には分かり辛くともキラキラとした嬉しそうな顔をして、貰ったと言ったのだ。近所のおばちゃんに可愛がられてる孫かお前は。
思わず誰に?と続ければ、鉢を買いに行く際通りがかった奥様方に、だそうだ。
女性キラーというよりマダムキラーか?そう疑問に思いつつ結局鉢は買えたのかと聞けば、ハッとしたような顔をして忘れてた…と呟いたのだ。

ああもうバカワイイな!!
と私が思ったのは仕方のないことだと思う。正直何やってんだ、って気持ちも勿論あったんだけど、ハッとした後わたわたし始めた姿が可愛かったからもうしょうがない。
彼はそういう人なのだ。

「我愛羅、水は?」
「…のむ…」
「我愛羅、寝癖ついてる。直してやるから動くなよ」
「…ん…」

蝶よ花よと育てられる娘の如く面倒を見て貰っている彼は結局最後まで食事をカンクロウさんに食べさせて貰っていた。
そして彼はそのままもぞもぞと着替えはじめ、目元を擦りつつ洗面台へと足を運び諸々の準備をしてから出てくる。
ここまで来ると彼とて覚醒する。いつものようにアーモンド型の瞳が綺麗に開き、蝶の羽の如く開閉し始めたところでうぅーんと伸びをした。

「サクラ、おはよう」
「うん。おはよう」

言いつつぎゅうと抱き着いてきた彼にキュンと来るのはもうしょうがない。しょうがないんだこれはもう。一種の病だ。治る気配がない。治し方も分からない。治らなくてもいいとも思ってる。

「我愛羅、サクラといちゃいちゃしたい気持ちもわかるけど、そろそろ出ないと早朝会議に間に合わないよ!」
「ほら瓢箪。留めてやるから早く腕通すじゃん」
「それぐらい自分でできる」

言いつつそれをひったくることはせず、素直に背を預け瓢箪を背負うんだから素直じゃない。
懐いているのか懐いていないのか判断しかねる猫のようだとは思うけど、彼は割と犬っぽい所もある。

「…我愛羅くん」
「何だ?」

私が聞こえるか聞こえないかの小声で名前を呼んだにも関わらず、彼は何の疑いもなく私を見つめ首を傾ける。
可愛すぎかな?とは思うけど、彼は猫のような見た目に反して名前を呼べば必ず反応してくれる。何をしていても、だ。
例えば新聞や本を読んでいても、料理を作っていても、ウトウトしていても、我愛羅くん。と呼べばん?と振り向いたり目線を投げてよこしてきたり、近づいてきたりする。
ああもう本当に、何でこう見た目にそぐわず可愛いことをするんだこの男は。多分こういう姿に皆絆されたに違いない。絶対にそうだ。

「気を付けてね。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

瓢箪を留め終え、用意が整った彼に再度ぎゅっと抱きしめられ髪を梳かれる。
けれどすぐさま体を離した彼は靴を履くと颯爽と風影邸に向かって駆けてしまった。ちょっと寂しい。

「サクラも用意しなよ。私たちもそろそろ出るからね」
「はい」

だけどこの忙しい朝の時間に私の出番はない。
私だって彼のためにご飯を作ってあげたいし眠たそうな彼にご飯食べさせてあげたいしあわよくば寝癖を直して頭を撫でてやりたいけど、そのどれをも譲ってはくれないのだ。この姉兄は。
どれだけ私が早起きしてご飯を作ってあげたいと思っても、テマリさんに客人にそんなことはさせられないと断られる。
ご飯を食べさせてあげたいと思っても、カンクロウさんから意外と大変だから、と言って断られる。
大切にされているのかもしれないけれど、私だって彼の面倒を見てやりたいと思うのだ。勿論甘やかすだけが恋人じゃないことは分かってる。むしろ彼を叱るべきなのかもしれない。
けれど、ようやく彼と姉兄が手に入れた絆の一つなのかもしれないと思うと口を挟むことが出来ず、結局私はそんな彼を前にして一人でご飯を食べるしかないのだ。



******


サクラとの付き合いがバレた時、正直冷や汗を掻いた。テマリとカンクロウに何を言われるか、それが不安だった。
別に二人が反対すると思ったわけではない。何だかんだ言って俺にも彼女にも甘いのだ。だからそういう意味での不安は抱かなかった。
ただ、この二人は気を許した相手というか、守るべき相手に対してはやたらと過保護なのだ。

「お疲れ様、サクラ。今から休憩かい?」
「あ、はい。今我愛羅く…じゃなかった。風影様に報告書を提出してきたので、今からお昼に行こうかと…」
「そうか!じゃあ私も一緒にいいか?ようやく一段落ついたところでな、美味い店を紹介するよ」
「本当ですか?!ありがとうございます!」

別にこれ位どうってことはない。仲間外れにされたと悲観するほど柔いメンタルはしていないし、多分テマリが言っている美味い店も見当がついている。
だがだからといってだなテマリ、お前肩を抱くのはなしだろう!!俺だってまだそんなことしたことがないのに!!

うぐぐ、と唸る俺の横ではカンクロウがどうした?と首を傾けるがそんなこと気にしていられない。
テマリは男兄弟である俺たちと常に一緒にいるからか、言動も態度も男勝りだ。別に今更それを変えろとは言わない。姉の好きにすればいい。
だが男に対して厳しくとも、姉は同性である女に対しては甘い。というか、まるで彼女たちを守るとするかのように立ち振る舞う。
結果的にそれで彼女の支持が上がるのは問題ない。むしろ風影の親族として誇らしい限りだ。だが、だからといって、サクラは俺の恋人だっ!!

「…我愛羅、涙拭けよ…」
「…ないてない…」

ちょっと視界が悪いだけだ。
書類に埋もれつつ言葉を返せば、カンクロウに頭を撫でられた。止めろ。俺はもう子供じゃない。
だが跳ね除けるのも面倒くさい。だから俺はそのまま黙って撫でられた。別に嬉しいわけでもこんなことをされるのが好きというわけでもない。
ただ兄の優しさを踏みにじるのはよくないなと思っているだけだ。ただそれだけだ。

しかしカンクロウもカンクロウだ。こいつは時折サクラにあれこれと色んなことを教えている。
面倒見がいいとか、兄貴肌とかまぁそれなりの言葉を聞く時もあるが、正直お節介なんじゃないか?と思う時もある。
彼女に傀儡の説明をしてなんのメリットがあると言うんだ!これから先木の葉と対立するのであれば話は別だが、そんな予定はないし同盟を破棄するなんてよっぽどのことがない限り起こりえない。

それに何かとつけて彼女を連れ回すのもどうなんだ。俺が忙しいからと断ったのは確かに悪いなとは思ったが、二人で買い物に行くなんて狡いではないか。
途中でテマリも合流したとはいえ、それまでは二人きりだったのだろう?何度も言うがサクラは俺の恋人だ。俺が好きな人だ。例え姉兄でも取られたくない。
もっと一緒にいたいと思うのは罪なのだろうか?俺が仕事を放りだして彼女と共に遊びに行ける質ならよかったのか?いや、きっと彼女はそんな人間に惚れたりはしない。
彼女はとてもきちっとした、自立心のある美しい人なのだ。見た目だけでなく心根も、凛と伸びた背筋の下には強い意志が宿っている。その美しさに俺は惚れたのだ。
そんな彼女に誇ってもらえるよう、俺も頼りがいのある男だと思って欲しいのだ。

だが実際はこうして書類に埋もれ、ようやく和解することが出来た姉兄に対し醜い感情を抱いている。
どちらも大切なのだ。俺に残された最後の肉親と、俺が一生涯愛すると密かに誓った女性なのだ。天秤にかけることなど出来るはずがない。
けれどああ、何ということか!俺は確かに嫉妬の念を覚えているのだ、大事な姉兄に。

見た目にはそう出ているとは思わないが、こんなにも取り乱す自分なんて初めてだ。
どうしていいか分からない。姉兄も、彼女も大切なのに。心が上手く制御できない。サクラに会いたい。もっと抱きしめて、手を繋いで、ゆっくり町中を歩きたい。
どんなことでもいい。彼女の話が聞きたい。楽しいことでも、悲しいことでも、怒ったことでも、泣いたことでも、何だっていいんだ。彼女と時間を共有したい。
こんなにも誰かを好きになったことがない。だからどうしていいか分からない。
今すぐこの書類を投げ出して彼女に会いにいけばいいのだろうか?けれどそんなことが出来ない自分の質が憎らしい。
けれど姉兄と彼女を大切に思うように、俺は里の皆を愛している。無責任なことは出来ない。皆の命は俺の背にかかっているのだ。
だから泣き言を言うのは間違いだ。里の皆と彼女を天秤にかけることだって出来ない。
俺は、俺の力でこの里を守るんだ。そう決めた。

「…もういい。カンクロウ。休憩は終わりにする」
「おう。無理すんなよ、我愛羅」

またぐしゃぐしゃと髪を掻きまわされ顔を顰める。折角テマリがセットしてくれたのに、これでは崩れてしまうではないか。
ああ、でも、カンクロウも時折寝癖を直してくれる。だからあまりにも酷かったら頼めばいいのだ。
そう判断しつつ乱れた髪を手櫛で直し、俺は読みかけだった書類に視線を走らせた。
心のモヤモヤはまだ渦巻いたままだったけれど、俺も先に進まねばならない。いつまでも姉兄や彼女に甘えるわけにはいかないのだ。
よし。と気合を入れなおした俺は判を手に取り、音を立ててその書類に判を押した。


******


仕事を終え、戻ってきた彼の自宅は冷え切っている。それもそのはず。今日は姉兄も彼も大層忙しそうだったからだ。
私は珍しく仕事が早めに終わり(といっても軽く残業はしたが)預かった合鍵で扉を開ければ誰も居ない世界が私を包む。
静寂が耳に痛いってこういうことなんだろうな〜と思いつつ、私はこの際だからということで久しぶりに料理をすることにした。

母親から受け取ったレシピ本をなぞり、食材を用意する。
普段はしないから不安だが、まぁ母は料理上手だ。何とかなるだろう。と、甘く考えていた私は見事にテンパっていた。

「ちょ、お母さん?!“塩適量”って、その適量を教えてよ!“みりん、勘”って何よおおおおお!!」

全然参考にならなーい!と喚きつつも泡を吹く鍋の火を消し、蓋を取り、ぐつぐつと煮立つ中身に顔を顰め、味を見る。

…うん。どーしよっかな。

「どう修正すればいいのか分からない…うぅ…これじゃあテマリさんの帰りを待ってた方がよかったわよ〜…」

思っていた以上に自分が料理下手だということを認識し、しかし使ってしまった食材を無碍に捨てるわけにもいかない。
責任を持って全て自分で食べなければ、と妙な味がするそれを鍋から皿に移し替えていれば、ただいま。と彼の声がする。

え?!早くない?!
そう思った私ではあるけれど、時計を見れば私が帰宅してから既に三時間も経過している。そりゃあ帰ってくるわけだ。

「サクラ…?何だか不思議な匂いがするが…大丈夫か?」
「あ、あははは!おかえり我愛羅くん!お疲れ様ーっ!」

あまり被害は大きくないが、台所の惨状を見せたくなくて大げさなリアクションを取る私に彼が小首を傾ける。だから、小動物かお前は。
私より背が高いくせに可愛いとはどういうことだと思いつつ、けれどその身長差のせいで彼は私が作ったモノを発見したようだ。猫のような瞳がぱかりと開き数度瞬いた。

「…サクラが作ったのか?」
「うん…」

流石に誤魔化せないよね、と俯けば、彼は暫し無言を貫いた後突如私を抱きしめてくる。
もしや怖がらせてしまったのだろうかと顔を上げれば、どこか機嫌よさそうな彼の声が耳元に優しく響いた。

「サクラ、お腹が減った。ご飯にしよう」
「…うん」

でも美味しくないから期待しないでね。とは口にできず、私は彼の背中に腕を回しぎゅっと抱き着いてから体を離した。

「そう言えばテマリさんが作った残り物もあるから!勝手に食べていいか分かんないけど、怒られないよね!」

努めて明るく振る舞いながら用意を整え二人で向かい合って手を合わせる。
いつも一緒にいるテマリさんとカンクロウさんは仕事が片付いたら外で食べてくると言ったらしい。きっと疲れてるんだろうなぁ。そういう時ってご飯作りたくないよね。
そう現実逃避しつつも、私はやっぱり妙な味がする煮物をご飯の力で誤魔化しつつ食べていた。

「……ぁ、あのさ…」
「何だ?」

のんびりとご飯を食べる彼の箸は、さっきからずっと私が作ったモノに伸ばされている。
その周りには私が作った物ではない、テマリさんが作った美味しい料理が並んでいるのに。彼はそんなもの見えていないと言わんばかりに私が作った妙な味のする煮物ばかりを食べている。

「…無理しなくてもいいわよぉ…」

何だかだんだん恥ずかしくなってきた。
恥ずかしいのと、悲しいのとで視界が滲む。だってどう見たってテマリさんが作った料理の方が色も見た目も匂いも美味しそうなのに、というか事実美味しいのに、どうして色も形も味付けもへんてこな私の煮物を食べるのか。
もしこれで彼がお腹を壊したらどうしようと思うのに、彼は相変わらず私が作った煮物に箸を伸ばし咀嚼する。

「無理なんかしてない。美味いぞ」
「………」

私はもうなんて言っていいか分からなかったけれど、お皿に盛ったそれなりの量があった煮物は殆ど彼が食べつくしてしまった。
こんなことならもっと料理の勉強をしておくんだった。そりゃあ勿論医療忍者として医療の知識も大事だけど、私は母親のレシピがあるからいいやと甘えていたのだ。
そんな私が長年料理をしてきたテマリさんに敵うはずなどない。そもそも同じ土俵に立てると思ったこと自体おこがましいのだ。
もうこれからはテマリさんに私も作ります!なんて言えない。恥ずかしすぎる。もっと、見た目はともかく味付けだけはちゃんとしたのを作れないと女としてダメすぎる。

「サクラ」
「な、何?」

両手を合わせ、ご馳走様と告げた彼に名前を呼ばれ、いつの間にか下がっていた視線を上げる。
正直顔を合わせるのは恥ずかしかったけれど、思ったより彼は嬉しそうな顔で私を見ていた。

「美味しかった。ありがとう」
「ぇ…そ、そんな…テマリさんの方が全然…ものすごく美味しいよ…」

けれど彼はそうだろうか。と首を傾ける。
もしかして彼って味音痴?

「俺はサクラが作ってくれたものの方が美味しいと思った。また作ってくれると嬉しい」
「…うん」

味音痴というよりかは、きっと彼なりに励ましてくれたのだろう。だからその気持ちに応えるため、私が頷けば彼はやっぱり傍目には分からないけれど、どこか嬉しそうに目を細めた。
ああもうだから、この顔に弱いのだ。反則だ。そんな顔をされてしまったら、私は呼吸するのも難しくなるぐらいにぎゅうぎゅうと愛しさで胸がいっぱいになるのだ。
だからもう、本当に、ああダメだ。私は彼が好きなのだ。



「…これで一件落着、ってか?」
「だといいじゃん」

普段なら我愛羅と共に帰宅していたテマリとカンクロウではあるが、何やら最近サクラと我愛羅から恨みがましい視線を投げられるようになっていたのを知っていた。
理由は分からなかったが、もしかしたら二人だけの時間が欲しいのかもしれない。
そう判断した二人はわざと我愛羅を先に帰宅させ、物陰からこっそり二人の会話を聞いていたのだった。

しかし何故サクラと我愛羅からあんな嫉妬まがいの視線を向けられたのかが分からない。
自分たちはただようやく和解できた大切な弟と、その想い人が可愛くてしょうがないだけなのだ。サクラなんて既に妹のような感覚だ。可愛くて当然だろう。
だからこそ自分たちは二人を守らねばならない。それにただ単に二人の幸せを願っているだけなのだが、一体何が悪かったのだろうか。
首を傾けても分かるはずがなく、結局唸っている間に我愛羅に気付かれ呆れた視線を投げられた。

「…何をしている、不審者共」
「あ。不審者とか酷ぇじゃん。我愛羅」
「そうだよ。もっと他に言い方あっただろー?」

言いつつも我愛羅の頭を二人で撫でれば嫌がるように身を引かれる。ご機嫌斜めらしい。
二人きりの時間を邪魔したからだろうか。邪推だとは思うがそんなことを考えつつ、二人はただいまー。と玄関から家屋に入る。

「おかえりなさい、テマリさん。カンクロウさん」
「…おかえり」

何だかんだ言いつつ出迎えてくれた可愛い弟と義妹に二人は頬を緩め、再度ただいま。と言いつつその体を抱きしめた。
嫌がる弟と声を上げて笑う義妹がやはりどう足掻いたって可愛くて仕方がない。二人はやはりこれからも自分たちが二人を守らねば、と決意するのであった。


end



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