小説2
- ナノ -


真面目な二人の恋模様




戦争が終わり、各里の影も世代交代し、里の復興も落ち着いたところでその衝撃は襲ってきた。

「まさか風影が木の葉のくノ一と付き合ってるとは思わなかったよな…」
「えぇ…そうですね」

定期的に行われている五影会談。
今日は黒ツチが影を勤める岩隠で行われる予定なのだが、風影、火影、雷影は未到着だ。
先に着いた長十郎は黒ツチと共に、二月ほど前に発刊された新聞を眺めていた。

「全然気付かなかったぜ〜。この記事には三年ぐらい前から交際してたって書いてるしなぁ」
「三年前と言えば戦争後ではありますが…いつそんな余裕があったんですかねぇ、彼」

二人の脳内には仏頂面をした影としての先輩が浮かんでいる。
仕事は真面目だが喰えない男だ。だが別に不誠実というわけではなく、ただ単に口数が少なく表情が読めないだけで、根は悪い男だと思っていない。
一長一短があるというより癖がある男なのだという認識を持っている二人は、現れた雷影にもその話を振った。

「ああ…その話」
「雷影は知ってましたか?」
「当たり前だろ。こんだけデカデカとすっぱ抜かれてりゃあ嫌でも目に入る」
「だよなぁ、水臭ぇよなぁ、ったく」

ぶつぶつと文句を言う黒ツチに長十郎とダルイは何がそんなに気に喰わないのか、と顔を合わせるが、聞くつもりはない。
聞いたら聞いたで面倒なことになりそうだったからだ。
しかしそんな二人の耳に、この数年で聞き慣れた声が聞こえてきた。

「だから!何でお前言ってくれなかったんだってばよ!ダチだろ?!水臭ぇじゃねえか!」
「あまり堂々と言うことでもないだろう…」

廊下から聞こえてきたタイムリーな話題とタイムリーな人物に三人が顔を合わせ、開いたドアの先に立っていた人物へと視線を移す。

「よっ!お前ら遅くなって悪かったな!」
「…どうやら俺たちが最後らしいな。待たせてすまなかった」

用意された席につく二人ではあるが、どうやらここでは先程の続きをするつもりはないらしい。
以前のナルトならコソコソと我愛羅に耳打ちでもしたであろうが、そこは成長したのか。
長十郎が腕を組み一人頷いていると、先程から不機嫌であった黒ツチがなぁ、と声を上げた。

「風影、あんた春野と付き合ってるってマジなの?」

だから何故ここでその話をするのか。
思わず額に青筋が浮かびそうになった長十郎ではあるが、ダルイを横目で見ても止める気はないらしい。興味があるのかないのか。変わらぬ表情から読める感情は少ない。

「…お前もか…」

問われた我愛羅はうんざりといった様子で溜息を零し、黒ツチが手にしていた新聞を指差した。

「交際しているのは事実だ。が、今ここで話すような内容ではない」

何だ、以外にもハッキリと認めるんだな。
長十郎にとって喰えない男のベストスリーに入っている我愛羅が、珍しく素直に事を認めた。
だがこうでもしないと会議に進めなかっただろう。仕事に対し誠実な我愛羅らしい選択だと頷いていたところで、黒ツチがふぅん、と声を上げた。

「じゃあやっぱりアレあんたたちだったんだな。湯の国で見かけた二人組は」
「え?何それ、何の話?」

背もたれに背を預ける黒ツチの発言に反応したのはナルトだ。
長十郎的にはいい加減会議に進みたかったのだが、身を乗り出したナルトと黒ツチを止めるのは至難の業だ。
ここはいっそ諦めて聞きに徹するべきかと、自身も背を椅子に預けた。

「いやーさぁ、この間湯の国に観光がてらお邪魔したじゃん?ナルトと一緒にさ」
「ああ、あの時な。でも俺我愛羅のこと見なかったぞ?」

湯の国と呼ばれる湯隠の里は火の国に属している。忍里というには生温くなってしまったが、それでも忍の隠れ里の一つだ。
色々な名目を掲げ火影であるナルトと共に湯の国を訪れた黒ツチは、デートをする二人を見かけたのだと言う。

「正直自信なかったんだよなぁ〜。春野も風影もいつもと違う格好してたし。他人の空似かと思ったんだけど、声かける前に見失っちゃってさ」
「え?!知らなかったってばよ…」

黒ツチが言うには風呂上りだったのか、浴衣姿だったらしい。
仲睦まじく寄り添いながら歩いていたらしいが、すぐさま人ごみに消え後を追えなかった。
どうやらそれが引っかかっていたらしく、本人たちだったのか他人の空似だったのか確かめたかったのだと言う。

「いいなぁ、サクラちゃんと温泉デート…」
「お前は日向と交際しているのだろう。多くを求めすぎるな」
「分かってるってばよ。んで?実際行ってたの?お前ら」

身を乗り出すナルトと自身の眼が正しかったのかどうか確認したい黒ツチ。
我愛羅は嫌そうに眉間に皺を寄せた後、正直にそれは俺たちだ。と答えた。

「やっぱりなー!アタイの眼は正しかったわけだ!」

先程の不機嫌が嘘のように上機嫌になる黒ツチ。
これでようやくこの話も終わり会議に進める、と長十郎が身を正したところで、ムードメーカーならぬトラブルメーカーであるナルトがなぁなぁ、と我愛羅を突いた。

「実はさ、この後ヒナタとサクラちゃんがこっちに来るようになってんだけどよ、観光がてらダブルデートしようぜ?」
「はあ?!」

この神聖な場で何とフザケタことを抜かすのだと長十郎は前のめりになる。これはいい加減喝を入れなければ、と抗議の姿勢に入るが、それよりも早く黒ツチが声を荒げた。

「ちょっと待ちな!アンタらだけで遊ぼうたってそーはいかないよ!アタイも連れて行きな!!」

違う、そうじゃない。
思わず額を覆う長十郎の隣で、ずっと黙っていたダルイがようやく口を開いた。

「黒ツチ、岩隠のデートスポット知ってんのか?」

あ、ダメだ。この人も何気に乗り気だ。
雷影に好きな人がいるのか交際している人がいるのかは知らないが、デートスポットをチェックする辺りそう言った気があるのだろう。
仕事に真面目なのは僕だけなのかと机に突っ伏していると、話題の中心人物である我愛羅が大きな溜息を零した。

「俺はデートは単独でする主義だ。ダブルデートは好かん」

だからそうじゃないだろう!!
という長十郎のツッコミは届くことなく、会議は十分遅れで始められた。


影達がそんなくだらない会話をしているとは露知らず、サクラはヤマトを筆頭にヒナタと共に岩隠の入り口を潜っていた。

「ここが岩隠…私初めて来ました」
「私もです」
「ああ、そうか。二人は任務でも来たことがなかったんだっけ?工芸品が有名だから見てみるといいよ」

聞けばヤマトは任務で何度か訪れたことがあるらしい。
だがその時は各里と深く同盟関係にあったわけではなく、今よりずっと殺風景だったらしい。

「ほら、見てご覧。この店にあるのは砂隠から輸入した商品だが、隣に並んでいるのは岩隠のものだ。材質が違うだろう?」
「あ、本当だー。重さも色も違いますね」
「工芸品でもこんなに違うんだね…木の葉とも違うし、その里の特色がよく出てるね」

砂隠は岩隠以上に水を重宝する里だ。
だから水をあまり使用せずにいいよう、数多くの調理器具が作られている。特に日常的に使われる鍋は大きさも形も、水を使用する量も全て違う。
そして蒸気を逃がさぬように作られた鍋は実用的で、各家庭で沢山所持されていた。

対する岩隠は似たような環境であるにも関わらず、粘土細工や岩を削った工芸品が多く、どちらかと言えば壺や装飾品の方が多い。
仕入れ内容によっても変わるのだろうが、どちらにせよ木の葉出身の二人から見てみれば珍しいものばかりであった。

「やっぱり各里それぞれ違って面白いですね」
「そうだね。これもいい勉強さ」

そうしてヤマトにアレコレと知識を披露してもらいながら道を進み、ナルトと共に宿泊する施設へと足を踏み入れた。

「さて…今日僕たちが此処に呼ばれたのはナルトの護衛でも観光でもない。まぁいざとなったら火影の身は守るけど、僕たちはあくまで視察だ。他里の良い所悪い所をしかと学び、報告書を作るんだよ」
「はい。私は医療施設の方へと足を運んでみます。あとは市民でも入れる図書館にも」
「私は観光施設と鍛錬場を見てきます。木の葉も大きいですが岩隠も大きいので、何か里の繁栄に繋がるものがないか探してきます」

二人のくノ一の言葉にヤマトは頷くと、自身は護衛の配置や里の周辺を見てくると告げ、各自その場で解散となった。

「一応地図は渡されたけど…詳しいのはやっぱり図書館に行かなきゃなさそうね」
「私はコレに乗ってるから大丈夫。じゃあサクラちゃん、また後でね」

サクラはヒナタとその場で別れ、早速図書館目指して歩き出す。
時刻は既に昼を過ぎ、五影の会談が始まってから既に一時間以上立っている。
長引いていなければそろそろ終わるぐらいだろうか、とサクラが周囲を見回していたところで、突如後ろから腰を掴まれ抱き上げられた。

「えぇ?!何々?!」

予想外の出来事に目を白黒させるサクラではあるが、自分を抱き上げる人間が誰かを認識し、目を開いた。

「ちょっと、何やってんの我愛羅くん?!」
「………脱走?」

間を置いて返された言葉にはあ?!と声を上げる。
脱走?まさか会議から逃げ出してきたというのだろうか、この男が。
首を傾けるサクラではあるが、背後から聞こえてきた声に顔を上げた瞬間理解した。
我愛羅が逃げ回っているのは会議からではない。背後から追ってくる見知った顔からであった。

「おい我愛羅ー!逃げんじゃねーってばよ!あ、サクラちゃん!!」
「よー春野ー!土影命令だ!我愛羅を止めな!!」
「えぇ…何これ…あなた一体何したの…」

肩に担がれているせいで追ってくる二人の顔がよく分かる。
声は怒声に近いが顔は笑っている。この状況を楽しんでいるのだ。
もしかしてこの前すっぱ抜かれた記事で根掘り葉掘り聞かれたのかなぁ…と若干遠い目をしていると、突然体がぐんと横に引っ張られた。

「ちょ、何?!」
「チッ、ダルイめ…」

どうやら行く手を阻む存在がダルイだったらしい。雷影も一体何をやっているのか、と呆れはしたが、水影の姿は見えない。
彼は真面目だからこんな逃走に参加しないだろうな、と思っていると今度は突然立ち止まった。

「うわっ!」

当然体がガクリと揺れるが、聞こえてきた声に思わず首を向ける。

「全く…早くこちらに来てください。僕たちの宿に匿ってあげますから」

我愛羅の前に立っていたのは水影である長十郎であった。うんざりとした表情をしているので、どうやらこの逃走に呆れているらしい。
二人は有難くその申し出を受け入れ、外で騒がしく走り回るナルト達をやり過ごした。

「…はぁ、一体どうなってるの?コレ」

サクラは任務でこの地に来ている。我愛羅達五影だって同じであるはずなのに、何故こんな追いかけごっこをしていたのか。
問いかけるサクラに二人の影は疲れたように吐息を零した。

「この前の新聞が発端でな」
「あと黒ツチさんがお二人を湯隠れで見たのもキッカケですね。皆でデートしよう!って子供みたいにはしゃぎだしたんですよ」

何だそれは。
呆れるサクラに二人も首を横に振った。

「まぁそれで…俺と水影は断ったわけなんだが…」
「以外にも残りの三人が乗り気でして…」
「えぇ?!ダルイさんまで?!」

ダルイはどちらかと言えばクールというか、無頓着と言うか、周囲と慣れ合わないような雰囲気だったはずなのに、とサクラが驚いていると、長十郎が首を振った。

「気になる女性がいるのか何なのか、意外とデートスポット巡りに賛成していましたよ」
「ああ…そういう…」

男女の交際にデートはつきものだ。特に男性がプランを立てる場合の方が多い。
彼も色々と大変なんだなぁ、とサクラが苦笑いしていると、我愛羅がところで、とサクラに視線を向けた。

「お前はあんなところで何をしてたんだ?」
「私?私は任務で来てるの。岩隠での医療がどこまで進んでいるのか、今後木の葉と提供していくための情報視察よ。いずれは他の里でも共有できるよう、今プロジェクトが進められているの」
「成程。それでか」

ナルトは観光ではなくちゃんと任務としてサクラたちを呼んだらしい。
しかしその下に隠されていたのはデートをしたいという下心ではあったが。

「じゃあ…デートじゃないけど、仕事なら一緒でも可笑しくないわよね」

我愛羅は呆れてはいたが、サクラは正直少しばかり舞い上がっていた。
新聞に二人のことが載ってからというもの連絡を取るのも難しくなっていた。
ただでさえ遠距離なのに、興味本位で周囲が首を突っ込んでくるものだから色々と大変だったのだ。
しかし今は公務を盾に一緒にいることが出来る。それに我愛羅だって今後視察に来ることもあるだろうし、サクラの仕事は砂隠にも通ずる。
なので会議が終わったばかりだが共に施設を回らないかと尋ねてみれば、我愛羅は諦めたように頷いた。

「そうだな。冷やかされようともレポートを取っていれば名目上は公務だ。記者にすっぱ抜かれようがこちらには証拠があるわけだし、苦しくなるようなことはさほどないな」
「でしょ?!」

瞳を輝かせるサクラに我愛羅は一瞬ときめいたが、すぐさま傍に長十郎がいることを思い出し仏頂面を貫いた。
だがもしこのまま二人で出歩けば確実にすっぱ抜かれる。
そこでサクラは長十郎へと視線を移し、ニコリと微笑んだ。

「水影様もどうですか?視察」
「え、いや…僕は…」

断る体制に入ってはいるが、サクラにお願いします!と頭を下げられれば無碍に出来ないらしい。
以外にも女性には優しい質のようで、目の前でいちゃつかなければ、という条件付きで同伴することになった。

「よし!じゃあ早速出かけましょう!まずは図書館で地図を貰いに行きましょう」
「分かった」
「分かりました。では行きましょう」

追っ手の声がなくなるだけで随分と静かに感じる通りを歩き、三人は早速図書館へと足を踏み入れた。



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