小説
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風呂から上がった二人は互いに明日の準備を整えてから揃って寝室へと赴く。
一度外の気配を伺った後、特に問題はなさそうだと思いはしたが再び印を結び自室に掛けた物と同様のトラップを仕掛ける。
何故そんなことをするのかとサクラが問えば、どうにも自分たちの周りをうろつく奴がいてな、と答えてやる。

「敵かしら」
「分からん。しかし今のところ何もしてこないからな、何とも言えん」

ふうと疲れたような吐息を零す我愛羅に苦笑いし、とにかく寝ましょうとその背を押す。

「お前といる時ぐらいはゆっくりさせて欲しいんだがな…」

サクラを抱きしめつつぼやく我愛羅に笑いながら、広い背を撫で胸元に額を押し付ける。
今日は疲れているというのだから性交はしないだろうと目を閉じていたが、我愛羅の手がするすると背中を辿った後、尻を撫でてくるので目を開く。

「ちょっと、寝るんじゃないの?」
「愛の確認」

ふざける我愛羅におバカ、と返し、ぴしゃりと手を叩けば今度は胸を揉んでくるのでまったく、と呆れる。

「あなたねぇ…」
「俺も男だからな」

目の前に愛する女がいて手を出さずにいられるか、と笑う我愛羅にもう、と吐息を零す。

「途中で寝たら許さないんだからね」
「あー…お前の体は抱き心地いいからな…」
「寝るならしないわよ」

以前こうしてセクハラまがいの行為をしている最中に爆睡した我愛羅にやり切れぬ思いを抱えたことがあるサクラは、目を逸らす男をじとりと睨む。

「あの時中途半端に愛された挙句放置された私の気持ちがわかるかしら?」
「…すまん」

そろそろと手を離す我愛羅にまったく、と吐息を零し、ちゃんと元気になってから甘やかしてあげるわよと鼻先を抓んでやる。
どうやら寝ない自信がないらしい。
我愛羅もすまんと謝り今度は素直にサクラを抱きしめ目を閉じる。
こうなればそう時間をおかずに眠りにつくだろうとあやすように背を撫で続けてやれば、案の定すぐさま穏やかな寝息が零れはじめる。

昔は守鶴のせいで眠れぬ日々を過ごしていた我愛羅であったが、今ではすっかり居眠り大好き男になってしまっている。
反動かしら、と穏やかな寝顔を観察し、くすりと微笑んでから瞼を落とし意識を投げた。

二人が穏やかに寝入った夜半、突如ドン、と地震のような揺れが起こり我愛羅が飛び起きる。
何かと思いサクラも目を開けば、我愛羅に隠れていろ、と布団を被せられる。
どうやら仕掛けたトラップが発動したらしい。

瓢箪を背負いカーテンを僅かに開け外を伺った我愛羅は、仕掛けたトラップ、砂の手が掴んだ人物を見て目を開く。
そうして呆れたような吐息を零し瓢箪を戻すと、カーテンを開き金具を外し窓を開ける。

「…ロック・リー…貴様一体何をしている」

砂の手が掴んでいたのは、苦笑いするリーの足だった。

「こ、こんばんは我愛羅くん…」

逆さ吊りにされた挙句、いつもとは違う剣呑な瞳に射抜かれ冷や汗をかくリーに対し、我愛羅は馬鹿者めと悪態をつく。

「人の寝こみを襲うとはいい度胸だな。それに今何時だと思っている」

このまま砂漠柩でも喰らわせてやろうかと睨む我愛羅に、それは勘弁してください!とリーが叫ぶ。
聞こえてきた声にサクラはまったくもう…と頭を抱える。
どうやらサクラが否定したにも関わらず、自分の目で確認しなければ気が済まなかったらしい。
見上げた根性だと眉間に皺をよせ額に手を置く我愛羅に、リーはすみませんと謝る。

「謝るぐらいなら初めからするな。コソコソ周囲をうろつきおって鬱陶しい」
「うう…すみません…」

貴様一体幾つだと思っているんだ、子供じゃないんだぞ。
眠りを妨げられたことで不機嫌さが限界値に達している我愛羅の言葉は刺々しい。
対するリーもはい、はい、すみません…と逆さ吊りにされたまま謝罪を繰り返す。

だがそろそろ許してあげたらどうかと布団の中から手を伸ばし、寝巻を掴めば気づいた我愛羅が口を噤む。
ようやくお叱りが終わるのかと目を輝かせるリーに重い吐息を零し、我愛羅は砂の手から開放してやる。

「今日のところはこれで勘弁してやる」
「ご迷惑おかけしました…」

しゅん、と項垂れるリーに今度こんなことをしたら許さんからなと告げて窓を閉じようとするが、今度こそ別の場所でドン!と爆発が起き目を開く。
思わずサクラも飛び起きようとしたが、まだ隠れていろと布団を抑えられ身を固める。

「な、何でしょうか…」
「次から次へと…!鬱陶しい!!」

あ、キレた。
思ったのも束の間、置いたばかりの瓢箪を背負うと羽織を掴み、我愛羅は荒々しく窓から飛び下り砂に乗って出て行く。
それに続くようにリーも消え、暫く気配を探った後サクラも起き上がる。

「…私も行ったほうがいいかもしれないわね」

もし怪我人が出ていればサクラの出番である。
一応カーテンを閉めてから用意を整え、裏口から飛び出し駆けだす。
濛々と煙が上がる方向と場所を確認し、面倒なことになりそうねと舌打ちした。

爆発が起こったのは、罪人がひしめき合う収容所であった。



「我愛羅!」

夜警に就いていたカンクロウに状況は!と問えば、囚人が十数名逃げ出したと答える。
先に出ていた傀儡部隊が既に数名捕まえはしたが、まだ幾らか残っていると答え我愛羅は舌打ちする。

(これ以上始末書を増やされてたまるか…!)

その理由は一体どうなのだろうと気付く者がいれば突っ込んでいただろうが、生憎我愛羅の心情を読み取れる人間はいない。
砂に手を置き感知を始める我愛羅にリーも追いつき、戦闘を始める砂忍に交ざり逃げ出そうとする囚人を伸していく。

「我愛羅くん!ここは僕に任せて感知に集中してください!」
「ああ」

ざわざわと動かす砂に意識を集中させ、活発に動くチャクラを感じ取っては砂で捕えていく。
簡易なトラップとは違い、明確な意思を持って捕える砂の力は強く、スピードも速い。
次々に逃げ出した囚人を捕まえるが、一人だけ妙にすばしっこい者がいる。

我愛羅は舌打ちすると、捕えた囚人を一瞥することなく離れつつある人物を追うべく砂に乗る。
それに気づいたサクラだったが、先に収容所へと走り見つけたカンクロウに声をかける。

「カンクロウさん、怪我人は?!」
「少しやられた奴がいる、悪いが診てやってくれ」
「分かりました」

次々と駆けつけてくる医療忍者よりも早くサクラは怪我人の元へと走り治療を始めていく。
その姿にリーは流石ですサクラさん…!と自身の惚れた女の評価を高めたところで、ようやくサイとテンテン、いのも到着する。

「あれ?早いわね、リー!」
「え、ああ、はい…まぁ」

驚くテンテンに苦笑いを返し、それより我愛羅くんを追いましょう!と我愛羅が追った方向に向かって駆けだす。
そして治療をするサクラにいのがあんたも行って!と声をかける。

「でも、」
「医療班の腕の見せどころなのよ!邪魔者はさっさと出て行きなさい」

パチン、とウィンクをし我愛羅を追いかけろと暗に訴えるいのに口の端を上げ、私の顔に泥を塗ったら許さないんだから、と背を叩き先に駆けだしたリーたちの後に続く。

「さあ皆!木の葉の腕の見せ所よ!」
「はい!」

頷く医療班に指示を飛ばし、カンクロウ達に収容所の収拾を任せ怪我人を診ていく。
木の葉の医忍だけでなく、砂隠の医忍も共に現場を駆け回る。
随分頼もしい里になったじゃない。
我愛羅とサクラがどれだけ尽力しているかが分かる。
負けてらんないわね、といのが口の端を上げていると、一人の男が目の前に立つ。
怪我人かと思い顔を上げれば、まだ二十にもなっていないだろう青年がなぁ、と口を開く。

格好からしてみれば囚人だが、手を上げる気は無いらしい。
警戒しつつも何かと問えば、風影は来てないのか?と問われる。

「…彼ならここにいないわよ」
「ふーん」

じゃあ興味ねえな。
そう呟いた青年に、カンクロウがお前!と叫ぶ。

「出て来てんじゃねえよ!刑罰重くなんぞ!」
「別に何もしねえよ!毒薬もねえし」

武器もないのに暴れるほど俺はガキじゃねえと零す青年の背を押し、カンクロウは収容所に連れて行こうとする。
だが青年はなぁ、といのに話しかける。

「あんた春野サクラって知ってるか?」
「?!」

どうしてサクラの名前を、と目を見張れば、知ってるんだなと呟く。
その言葉にカンクロウが眉根を寄せるが、青年は何もしねえって、と返す。

「じゃあ山中いのは?」
「…私の事よ」

告げられた自分の名前に答えれば、青年はふーんと呟き上から下までいのを眺めると、アンタの方が美人だなと呟く。
一体どういう意味なのかと眉根を寄せれば、カンクロウがお前それアイツらの前で言うなよ、と青年の頭を叩く。

「つーか、風影の趣味悪くね?あの乱暴女のせいで俺何本骨折ったと思ってんだよ」
「そりゃ自業自得だ、このバカ」

交わされる話の内容はよく分からないが、どうやらサクラがこの囚人を殴り倒したということだけは理解できる。
もしやサクラに復讐でもする気なのかと問えば、男は興味ねえな、と答える。

「俺が復習したいのは風影だし。あんなブス興味ねえよ」
「お前本当に黙んねえと刑罰重くなんぞ」

呆れるカンクロウに今度こそ連れられ、青年は収容所へと消えて行く。
一体何だったのかしら。
目を瞬かせるいのに答えてくれる者はおらず、だがぼんやりもしてられないと立ち上がり我愛羅が捕えた囚人を一瞥する。

逃げ出した囚人は全部で十五名。
傀儡部隊が先に捕えたのが五名。
そして我愛羅が捕えたのが八名だ。

本当にあの人すごいわね。
そんなことを思いながらも、いのも事態収拾のために駆けだした。




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