小説
- ナノ -






いのに関係はバレてしまったものの、約束通り他の面々には黙ってくれているようだった。
テンテンは初めやけに晴れやかな表情になったいのに疑問を抱いたものの、大丈夫よと笑ういのの言葉を信じ、そう、と頷いた。

いのとサクラの間にある絆は強い。
だからいのが大丈夫だと言うのだからそれを信じればいいと思ったが、どうにも気になる気持ちは収まらない。
現に時折顔を合わせる我愛羅とサクラのやり取りは相変わらず親しげで、それほどまでに意気投合する共通の話題や趣味があっただろうかと疑問を抱く。
だが尋ねてみても二人はそうか?と首を傾けるだけでハッキリせず、ずっとモヤモヤしていた。
そしてその気持ちを抱いていたのは、テンテンだけではなかった。

冬期講習も残り二日というところで、護衛に立つ三人は言葉を交わしていた。

「皆さん、僕は一つ疑問に思っていることがあるんです」
「何よ。改まって」

いつにも増して真剣な表情のリーに首を傾ければ、リーは拳を握りサクラさんの事です、と呟く。
サクラがどうかしたのかと問えば、サクラさんがサクラさんじゃないんです!と突然力説し始める。

「はあ?何言ってんのよ。サクラがサクラじゃないって意味わかんないわよ」
「そうだよリーさん。確かに昔に比べて綺麗になったからびっくりしたけど、サクラはサクラだよ」

軽く失礼な発言をするサイにテンテンが苦笑いするが、リーはいいえ違います!と強く拳を握りしめる。

「サクラさんは昔から綺麗でした!ってそうじゃないんです!綺麗ですけどそういう意味じゃないんです!」
「あーもう分かったから早く言いなさいよ!無駄口叩いてたら怒られるわよ?」

腕を組み先を促せば、リーがはい、と頷き話し出す。

「僕気づいたんですが、サクラさんの笑顔の種類が増えているんです」
「はあ?笑顔?」

にこりと微笑むサクラの笑みを思い出し、そうかなぁと首を傾ければサイは少し分かるかも、と呟く。
えぇ?と驚きつつ男二人を交互に見やれば、僕たちに向ける笑顔と我愛羅くんに向ける笑顔が違うんです、とリーが眉尻を下げる。

「うん。何か我愛羅くんに向ける笑顔って僕たちに向けるのとは違った親密さがあるよね」
「そうなんです!僕たちにはにっこり、って感じなんですけど、我愛羅くんに対してはふんわり、って感じなんですよ!」

リーが真似をするように笑みを作って見せるが、どちらも同じにしか見えない。
だが言われてみれば分かる気もするので、確かにそうかもねぇ、と頷いてみる。

「何ていうか、半年間で仲良くなるにしてもちょっと信頼関係ありすぎ、って感じよね」
「やはりテンテンもそう思いますか!これは気になります!非常に気になります!」

熱く燃え始めたリーにもしや、と頬を引きつらせれば、案の定リーはびしりと指を天に向けると声高に宣言する。

「我愛羅くんとサクラさんの『え?君たち本当のところどうなの?』作戦開始です!!」
「何その作戦?!っていうか全員強制参加?!気になるからって首突っ込みすぎ!」

いつもの如くリーに対し突っ込みを入れたところで、講習終了のチャイムが鳴る。

「はい。じゃあこの授業はここまで!午後からは実技に入るので、各自必要な道具を持って実技室に来てください」

それじゃあ解散、と授業をしていたいのの声に合わせ、生徒や医療忍者がありがとうございましたと礼をし講習室を出ていく。
いのもすっかり先生が板についたわねーと笑みを浮かべ手を振れば、気づいたいのが手を振り返してくる。

「とにかく!僕たちが帰るまで今日を入れて後三日しかありません!その間に二人の秘密を探りましょう!」

すっかりやる気モード全開になっているリーに肩を竦めると、しょうがないかと呟き腰に手を当てる。
だが実際テンテンも気にはなっていたので、本気で止める気はなかった。

(でもバレたら怒るだろうなぁ〜。大丈夫かしら…)

一抹の不安を感じながらも、意気揚々と作戦を立てていくリーの言葉に耳を傾けた。



一方そんな計画が練られているとは露知らず、サクラはようやく研究中の毒草の成分が分かり上機嫌で帰宅の準備を整えていた。

(今日の晩御飯何にしようかなぁ。昨日は我愛羅くんがロールキャベツでポトフ作ってくれたし…久々にサボテンの果肉を使って何か作ろうかしら)

鞄を肩にかけ、研究員に挨拶をしてから施設を出れば、日はすっかり落ち辺りは暗くなっていた。
星が瞬き始めた空を眺めつつ、うんと伸びをした後凝り固まった筋肉を解きほぐす様に軽く体を捻り、よしと呟いてから商店街に向かって歩き出す。

(確か玉ねぎはあったから…あ、このトマトと唐辛子色いいなぁ。サルサでも作ろうかしら、寒いし)

我愛羅くん辛いの好きだし。
そんなことを想いつつも意気揚々と買い物を終え帰路を辿る。
今日は時間がたっぷりあるので手の込んだ味付けができるだろう。

(最近ずっと我愛羅くんが晩御飯作ってくれてるし…今日こそ私が作らなきゃ!)

ぐっと拳を握りしめ、意気込むサクラは美味いと言いながら料理を頬張る我愛羅を思い浮かべ頬を緩める。
最近ではこちらの料理にも慣れ、我愛羅からも美味くなったと褒められることが増えてきた。
今日も張り切って作っちゃおうと上機嫌で商店街を抜けたところで、ふと違和感を感じ振り返る。

「…気のせいかしら」

誰かにつけられている気がする。
サクラはあの夏の日以来人の気配には気を付けるようにしている。
特に我愛羅との仲がバレたのだから尚のことだ。

だがどうにも妙だった。
つけられている気はするのだが嫌な感じはしないのだ。
どういうことかしらと思いつつも目を凝らし、辺りをぐるりと見回してみるが相手も手練れなのか見つけられない。

(…素直に帰るのも危ないわね。もう!折角今日はご馳走作れると思ったのに!)

本当最悪!
内心で誰かもわからぬ相手に悪態をつきながら、サクラは鞄の中に荷物を押し込めるとぐっと足にチャクラを集中させる。

(誰だか分からないけど、そう簡単に捕まるもんですか!)

脱兎のごとく走り出したサクラを追うように、すぐさま隠れていた気配が動く。
相手は三人。
誰かしらと心当たりを探しながらも、半年でこの地に慣れたサクラは人の波を縫い、入り組んだ裏路地へと足を進める。
地の利がないと迷子になるこの路地でサクラを追い続けることが出来れば砂の者、できなければ他里からの刺客となる。

どちらにしても面倒だと思いつつ、細く曲がりくねった道を進み、僅かに隙間が空いた塀の中に体を滑り込ませ続く建物内に隠れる。
そうして気配を殺し外を伺えば、暗闇の中敵がサクラを探す気配がする。

(この抜け穴を知らないってことは相手は他里の忍ね。でも何のために…まさか我愛羅くんを狙ってるんじゃないでしょうね)

己を人質に我愛羅を脅す気なのか。しかし自分と我愛羅の関係はまだ公言していない。
砂隠の人間はそれとなく気づき祝福はしてくれたが、それでも断言したわけではない。
なのにもう他里に情報が漏れるものなのかと目を凝らしていると、見慣れたシルエットが目に入りはあ?と目を開く。

(あのぴっちりしたラインにおかっぱ頭…!まさかリーさん?!)

するとコソコソとした話し声が聞こえ、耳を澄ませた後にはあと吐息を零し外に出る。

「サイ!リーさん!テンテン!人のこと追いかけまわして何やってんのよ!!」
「さ、サクラさん…!」

声を張り上げ怒鳴るサクラに、リーは涙目になりつつよかったー!と駆けてくる。
何がよかったのかしら?
サクラが眉間に皺をよせ睨めば、あうと肩を跳ねさせたリーがしょぼしょぼと小さくなっていく。

「そ、その…サクラさんを見失ってしまい不安になったもので…」

小さくなるリーの後ろから、サイとテンテンも近づいてくる。
これは一体どういうことかと近付いてきた二人に微笑みながら静かな怒りを向ければ、サイが降参だと言う風に両手を上げ、テンテンがやっぱりバレたかと苦笑いし謝罪した。


「成程。それでサクラをつけ回していたと」
「そうなのよ!まったく…困ったものだわ」

あの後三人を問い詰めれば、我愛羅との仲を疑っていると正直に白状し、テマリと住んでいるのも怪しいと判断し仕事終わりのサクラをつけたらしい。
妙な所で絶妙なコンビネーションとやる気を見せる面々に額を押さえ、そんなわけあるか!と一喝してから三人を宿へと帰した。
それでも何となく不安で一度テマリの元へと向かったのだ。
初めはどうしたのかと驚いていたテマリであったが、事情を説明すればと大変だなと苦笑いし暫くの間身を置かせてくれた。
おかげでご馳走を作ることは叶わず、帰宅すれば我愛羅がシチューを作りサクラを待っていたのだった。

「…やっぱり怪しいのかしら、私たち」

我愛羅手製のシチューで体を温めつつも、不安になりぽつりと零せばどうだろうな、と我愛羅は答える。

「怪しいと言えば怪しいんじゃないのか?昔に比べれば俺たちの関係の変化は著しいだろう」
「まぁ…そうだけど」

のんびり茶を啜る我愛羅を見ていれば焦っているのは自分だけなのかと思ったが、我愛羅も思うところがあったのだろう。
ふうと吐息を零すとあくまで提案なんだが、と話し出す。
何かと思いその言葉に耳を傾ければ、暫く本当にテマリの家に身を置くか?と尋ねてきた。

「ええ?ダメよそんなの。テマリさんが一人ならまだしも、恋人さんもいるんだし」

迷惑になっちゃうわ。
答えるサクラにやはりそう思うか、と我愛羅は腕を組むが、実は明日からアカデミー生を引き連れた校外合宿があってなと続ける。

「校外合宿?」
「ああ。砂隠を出て別の地で演習をする授業だ。と言ってもそう遠くない場所だからすぐに戻って来れるんだが、その引率にテマリの恋人も出る」
「期間は?」

明日から二泊三日だと答えられ、ならば木の葉の面々が戻るまで世話になることは可能である。
うーん、と悩むサクラに、一応テマリに話は付けてあると言われ早いわねぇ、と呆れる。

「山中に気付かれたからな。お前の周囲にいる人間はやけにお前の変化に敏感だから早めに対策を練っておこうと思ったんだが…」
「最近忙しかったもんね、あなた」

今週頭、捕まえたA級犯罪者が拘束具を壊し会議中であった我愛羅を狙いに来たのだ。
あまりにも無謀だとは思ったが、近くにいた上役を人質に取り大暴れしたおかげで会議室がぼろぼろになったのだ。

「…おかげで始末書が増えた」

ぐったりと、帰宅した瞬間にサクラを抱きしめ疲れた…とぼやいた我愛羅を思い出し苦笑いする。
おまけにその後もアカデミー生が起こした事故の後始末や、下忍の任務失敗による損害賠償など、これまた増えていく始末書に我愛羅が遠い目をしたのも最近の話であった。

「折角早く帰れると思ったのに今日も始末書が送られてきてな…」

今日は何だったのかと問えば、演習の準備をしていた下忍が煙幕と火薬を間違えて爆発させ、忍具保管庫を爆発させたらしい。
下忍は無事であったが保管庫はものの見事に倒壊し、新調したばかりの忍具はまだ使えたが、演習用にと保管していた古い忍具は全てダメになった。

「保管庫の修繕だけでなく忍具の新調もしなければならないしで…先が思いやられる」

我愛羅は机に突っ伏し、とにかく今日は逃げてきたと呟く。
だが明日には取り掛からなければならない…と悲しげに続け、サクラはかける言葉が見つからず苦笑いする。
綱手も事務処理に嫌気がさすと心底苦い顔をしていたが、成程。これならば嫌になるのも無理はないと項垂れる我愛羅の頭を撫でてやる。

「じゃあ今日は早めに寝る?」

お風呂淹れてこようか?
首を傾けるサクラを見やった後、我愛羅は緩く手招きする。
どうやら甘えたいらしい。
サクラはしょうがないと苦笑いすると席を立ち、我愛羅の前に立ち肩に手を置く。

「…問題ばかり積み重なっていくな」
「でも乗り越えていかなきゃ、でしょ?大丈夫よ。あなたならできるわ」

膝の上に乗り上げ、我愛羅の茜の髪を撫でつつ抱きしめれば、目を閉じた我愛羅がぼすりとサクラの胸の間に顔を埋める。
いつもより力ない手が腰を抱き、ぎゅうと抱き寄せる。
そのまましばらく頭を撫でてやれば、もぞもぞと頭が動いた後サクラを見上げてくる。

「…やはりお前がいてくれないと困る。さっきの話は無しだ」
「あはは、了解」

笑いながら頷けば、安心したのか我愛羅は再び胸の間に顔を寄せぐりぐりと頭を押し付けてくる。
幼子のような仕草に笑いながらその背に手を回し、暫く甘やかしてやれば満足したのか、体を離し風呂に入るかと呟く。

「じゃあお湯溜めてくるわね」
「ああ、ありがとう」

風呂場へと消えるサクラの背を見送り、我愛羅も着替えを取るため自室へと戻る。
だがそこで何者かの気配を外に感じ窓を開ける。

「…気のせいか?」

気配を探ってみるが特にいつもと変わらない。
一瞬外に出てみるかと思ったが、疲れのたまっている体では感覚が鈍い。

(まぁいい。来たところで捕えればいいだけの話だ)

だが用心するには越したことはないと、窓を閉め厚手のカーテンを引くと印を結びトラップを掛ける。

「簡易なものだが時間稼ぎにはなるだろう」

まったく、次から次へと問題ばかり発生しおってと苦い顔をしていると、部屋の外から我愛羅を呼ぶ声がする。
それに対しすぐ行くと返し、着替えを持つと部屋を出る。

疲れてるだろうから入浴剤入れておいたわよ。
そう言って微笑むサクラに、思わずじーんときた我愛羅はサクラを抱きしめお前も一緒に入れと強制連行する。

「ちょっと、もう!こんなことしてるから怪しまれちゃうんでしょ?!」
「別にいいだろう、今は俺たちしかいないんだから気にするな」

ぎゃあぎゃあと喚くサクラの衣服を剥ぎとり風呂場に押し込み、上機嫌に服を脱ぎ捨て後に続く。
さっきまで項垂れていた姿は嘘だったのかと言わんばかりのその行動力にサクラは呆れたが、しょうがないかと二人して湯に浸かり心地好さげな男の背を流してやったのだった。




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