小説
- ナノ -






砂隠でそんな事件が起こっているとは露知らず、木の葉ではサスケがサクラのアパートの前に立っていた。

(…出てこないな…夜勤か?)

度々サクラの部屋に足を運んでいたサスケは、いくら呼び鈴を押しても出てこないサクラを不思議に思い首を捻る。
だが時に夜勤でアパートにいないこともあったので、仕方ないかと踵を返すともう一方のアパートへと駆ける。

「ナルト」

カーテンの閉められた窓をゴン、と手の甲で叩けば、カップ麺を片手に疲れた顔をしたナルトが窓を開ける。

「サスケ…お前よ、玄関から来るつーことをいい加減覚えろって」
「別にいいだろうが。女を連れ込んでるわけじゃあるまいし」

どうせまだ独り身なんだろ。
事実だがデリカシーのない言葉にナルトはうるせえ!相変わらずお前ぇは失礼だな!と叫びサスケを睨む。

「つーかサクラはどうした。夜勤か?」
「あ?お前またサクラちゃん家に行ったのかよ。心配しすぎだろ」

お前はサクラちゃんの父ちゃんか。
突っ込むナルトは出来上がったカップ麺の蓋を剥ぐと、ずるずるとそれを啜る。
そんなナルトにいいから答えろとサスケが促せば、ナルトは一年は戻って来ねえよと答える。

「一年?どういうことだ」
「砂隠に単身赴任してんだよ、サクラちゃん。何か、新しい薬草?毒草?忘れたけど、それの研究だってさ」

答えるナルトに一年か…と顎に手を置く。
ここ数年、知らぬ間に良くも悪くも変わったサクラを思い浮かべサスケは唸る。

「ナルト」
「んー?」

ずー、と汁を啜っていたナルトは、サスケの呼びかけに上の空で答える。
頭の中では明日行う演習の段取りを考えていたが、サスケの問いかけに一瞬でそれは飛ぶ。

「サクラの男が分かったのか?」
「ぶっほぉおっ?!」

吹き出したナルトに汚ねえ!と叫び席を立つサスケに、咳き込みながら何で?!と見上げる。

「お前知ってたの?!」
「ああ?!相手は知らねーよ、つか早く拭け!!」

夜遅くにギャアギャアと騒ぐ男二人は正直見ていて辛いが、流石に気にする人物はそこにはいない。
軽口を叩きあいながらも汚した机を片づけ、気を落ち着かせるようにナルトは茶を啜り一息つく。

「つか、お前サクラちゃんに好きな人いるって知ってたのかよ」
「だから相手は知らねーよ。けど見てりゃ分かんだろ」

言葉にはしないが、サクラが綺麗になったというのはサスケも感じていたのだろう。
何だかんだ言ってコイツも結構サクラちゃんのこと見てるよな、と思いつつまあなと返す。

「で?誰なんだよ」

基本色恋に興味のないサスケではあるが、やはりサクラは別らしい。
本当にお前はサクラの親父かと突っ込みたくなるようなセリフだが、ナルトもサクラに同様のことを何度も尋ねているのだから同じ穴の貉である。
結局のところ似た者同士なのだ。

だがナルトは二人が関係を秘密にしていることも知っている。
何せ我愛羅の口から報告は受けていても、サクラからは聞いていないからだ。
つまりサクラは誰にも明かしたくないということなのだから、彼女の秘めた想いを守りたいと思う。

「…俺も知らねーよ」
「嘘つくんじゃねえよ」

ふうふうと熱い茶に息を吹きかけつつ答えたが、返ってきた言葉にむっと顔を上げる。

「何でそう思うんだよ」
「てめーがサクラのことハッキリさせねえうちに一年も砂隠なんかに単身赴任させるかよ。黙ってられる程てめえは大人じゃねえだろ」

サスケのあんまりな言い様に思わず拳を握りそうになったが、割かし事実なのでそれは堪える。
だがやはり言うつもりにはなれずふーん、とそっぽを向けば、我愛羅か?と問われ今度こそ目を見開きサスケを凝視する。

「…図星か」
「え?は…?え、何で?何で我愛羅だって思ったんだってばよ?」

ナルトの反応にサスケは顔を顰める。

「てめえの反応は分かりやすいんだよ。もうすぐ三十だろ。少しは隠せるようになっとけよ」
「うっせーよ!つか何でわかったんだよ?!」

だがここでうっかり口を滑らせたナルトに、やっぱり我愛羅だったかとサスケは呟く。
え?と瞬くナルトに、お前はバカかと吐息を零す。

「何でわかったんだよ、つーことは我愛羅で正解ってことだろ。カマかけたに決まってんじゃねえかバーカ」
「ぐっ…!てんめぇ…!!」

卑怯だぞ!
立ち上がり指差すナルトに、人に向かって指向けるんじゃねえよとその手を払う。
つーかそもそも忍に卑怯もくそもあるか。
吐き捨てるサスケにうるせえ、と返す。

「そもそもだな、お前が黙るってことは秘密にしなきゃなんねえ相手なんだろ。サクラも黙ってたんなら尚更だ」
「…うん、まぁ…」

椅子に座りなおしたナルトに呆れたように告げれば、ナルトは渋々頷きその見解に頷く。

「しかもお前がやたらと庇う相手となれば同じ人柱力である可能性が高い。加えて誰にも言えないなら他里か、身分が高い奴かのどちらかだ」
「おんなじ里の奴かもしれねえじゃん」

唇を尖らせるナルトに、だったらお前が真っ先に気づいてんだろ、と不満げな額を叩く。

「サクラと親しい他里の異性となると数が限られてくる。加えてお前と仲が良く人柱力となれば我愛羅以外いないだろ」

ぴしゃりと言い当てられたその言葉に、ナルトは頭がいい奴ってめんどくせーなぁ、と己の知る中で最も頭のきれる男の口癖を借りれば、お前がバカなだけだろと鼻で笑われる。

「つーか、それだけ考えられるんならもっと前から予想できてたんじゃねえの?」

行儀悪く机に顎を乗せ、だらしない格好でサスケを見上げるナルトに確証がなかったからな、と答える。

「確証がなかったから、ってことは予想はしてたのか?」
「まぁな。俺は何度かサクラの家に行くから分かったんだが、アイツ掃除はまとめてするタイプだろ」

サスケの問いにそーいえばそうだったなとナルトは自身のことを棚に上げ思い出し頷けば、サスケの赤い短髪が落ちてた、と言う答えに気色悪っ!と叫び体を起こす。

「お前そんなのチェックしてたの?!きっしょ!!ストーカーかよ!!」
「誰がストーカーだ!アイツが変な男とくっついてねえか調べてやってただけだろ!!」

サスケの言葉にナルトはいやいやいや!と叫ぶ。

「ねえよ!普通にねえよ!何お前女の子の家で髪の毛チェックしてんだよ!キッモ!!!」
「何度もキモいって連呼してんじゃねえよ!てめえはサクラが変な男に掴まってもいいのかよ!」
「だからおめーはサクラちゃんの父ちゃんか!!」

過保護通り越してもはやストーカーだよ!!
突っ込むナルトに今度はサスケがうるせえ!と叫ぶ。

「つーかナルト、お前それでいいのかよ」

サスケの問いにナルトは数度瞬いた後、ああ、と頷き背もたれに背を預ける。

「ちゃんと我愛羅から報告してもらった。言葉じゃ納得できなかったからちょっと殴り合いもしたけど、今じゃちゃんと認めてる」
「…てめえにしちゃあ潔いな」

もっと駄々こねるかと思ったぜ。
からかうようなサスケの言葉に、俺もそこまでガキじゃねえよと顔を顰める。

「流石にサクラちゃん本人に確認はしてねえけどさ、でも我愛羅なら大丈夫だろ。アイツ真面目だし」

己と違い頭もよく、里の者に支持され慕われる我愛羅を思い浮かべ呟く。
きっと今頃サクラは仕事に勤しみながらも、我愛羅と共に笑いあっているのかもしれない。
けれどその笑顔が心からのものであるならば、それでよかった。

「ふぅん…変わってねえかと思ってたが、少しは成長したところもあるじゃねえか」
「そりゃどーも。つか、三十になるのにいつまでもガキのままでいられるかつーの。生徒も受け持ってるし」

来年は二度目の中忍試験受けさせなきゃだしなー。
嘆くナルトに己の師であるカカシを思い浮かべ、サスケは少しだけ頬を緩めそうかよと返す。

「じゃあ、俺は砂隠にでも行ってみるか」

呟くように告げて席を立てば、ナルトがあ?と不満げな声を上げてサスケを見やる。

「何でお前が砂隠に行くんだよ」
「俺がどこに行こうが俺の自由だろ」

俺は鷹だ。
返ってくる言葉にナルトは呆れる。

「お前…お前こそ三十になんのに“俺は鷹だ!”って決め顔してんじゃねえよ。歳考えろよ放蕩野郎」

天国の父ちゃん母ちゃん泣いてっぞ。
反論するナルトに殺すぞとサスケは剣呑な瞳で睨む。

「お前な、そーいうことを言っていいのは十代までだってばよ。今でもギリギリなのに三十超えたら完全に痛い奴だぞ」
「誰がだ!俺は痛くねえし、どこかに定住する気もねえよ」
「お前本当に我儘だな。大蛇丸にどういう育てられ方したんだってばよ」
「ざけんな。アイツは俺の保護者じゃねえよ」

そんなしょうもない軽口を叩きあいながら二人は会話を続ける。
そしてそのうち軽口が発展し、競い合うように酒の飲み比べになり、案の定潰れた二人はそのまま床に寝転び朝を迎えることになる。

おかげでナルトは遅刻し生徒に怒られ、綱手に誰かさんにそっくりだなと笑われ、当の本人である誰かさんからは笑顔で肩を叩かれた。
全くロクな目にあわない。
思いつつも朝方酷い顔で起きたサスケを盛大に笑ってやったので多少溜飲が下がったのだが、結局砂隠に行くと言うサスケを止めることはできなかった。

何も起こらなければいいが。
思うナルトは生徒と共に演習をこなす。

サクラを泣かせるのは許さない。
約束したナルトではあったが、妙な胸騒ぎは止めることが出来なかった。




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