小説
- ナノ -


我愛羅ver






俺の妻こと春野サクラには、不思議な力があると思っている。





*魅力の話*





人にはそれぞれ魅力があるが、今回俺は妻であるサクラについて考えてみようと思う。
恋人となり籍を入れるまで想像以上に苦労したが(主にナルトとかサスケとかナルトとか)
その分今は幸せであると胸を張って言える。
というより宣言してもいい。誰にと問われれば、問うてきた皆にだ。

内心幸せ真っ盛りの俺が一番初めに彼女を見たのは中忍試験でだ。
(正しく言えば木の葉に来た時に逢っていたらしいが阿呆なことに俺は覚えていなかった)
第一印象は最悪だっただろうに、よく俺を選んでくれたものだと本当に心からそう思う。

出逢い方が悪かっただけに、交友関係を結んでみれば俺に対する好感度はうなぎのぼりだったのかもしれない。
マイナスから始まればプラスに傾くものだ。

そんな俺を彼女がどう思ったかは知らないが、俺としてはクナイ一本で俺に立ち向かってきた彼女に衝撃を受けたのは間違いない。
化物だと遠巻きにされ、怖れつつも蔑むような瞳でいつも見られていた俺に、脅えながらも立ち向かってきたあのまっすぐな姿が強く印象に残っている。

あの時のサクラは幼かった故、瞳には緊張感や恐怖といった色の方がやや多めであったが、今では力強く凛とし、時には俺を容赦なく叱ってくるのだから成長とは恐ろしいものだ。
だが彼女に叱られるのは別段いやではないので、どちらかと言えば怒る彼女も見ていたいというか、ようは飽きないのである。
しかしナルトのように殴られるのだけはごめんだが。

時に俺は彼女の瞳がとても好きだと実感する。
それは彼女と会話をしている時であったり、彼女が親しい者と話している姿を目撃した時であったり、部下に激を飛ばしている時であったりと色々だ。
自分と同じ色であるはずなのに、彼女の瞳は何故かいっとう美しいと思う。
戦闘時や異常時には冷静に、些細な事象も見逃さないと言わんばかりに鋭く輝くのに
親しい者や家族の前で見せる色は、幼い子供のようであったり、イタズラを企む子供のようだったりするのだから不思議だ。
それ以外にも、俺の行動を見つめるさまは優しくあたたかいのに、俺がつまみ食いをする時には厳しい視線を寄越してくる。
まぁ最後は俺が悪いのだが、それでもそんな彼女を眺めていると最終的には好きだな、といつも思うのだ。


そこで俺はもう一つ気にかかっていることがある。

何故彼女は自分と共にいてくれるのだろうかと。

俺はナルトとは違い会話は得意ではないし、カカシのように気が抜けるような雰囲気を醸し出しているとも思えない。
シカマルほど頭がいいわけでも、ロック・リーのように彼女に熱いアプローチをしたわけでもない。
唯一買い手がつくものといえば風影という肩書ぐらいなのだが、彼女はそう言ったものに靡くタイプでもない。
だからこそ余計に俺は彼女が不思議でならない。

そういうことを考えている時に限って、やけに視線を感じることがある。
気付いて視線を上げれば、大抵そこには彼女がいる。
あの美しい翡翠の瞳でこちらをじいと観察するように眺めている時もあれば、時にはニコリとほほ笑んだりする。
正直心臓に悪い。
怖いとか、薄気味悪いとかではない。
心臓がぎゅっと掴まれたように痛くなって、鼓動が早くなってひどく落ち着かないのだ。
そういう時に限って親しいものに出会うと、必ずサクラか?とにやけた顔で尋ねられるので対処に困る。
俺は一体どんな表情をしているというのか。
今度テマリにでも聞いてみようか。

そこまで考えたところで俺は疲れた目を休めるため閉じていた目を開き、執務室で共に仕事を片づけていたカンクロウにそういえば、と話を切り出す。

「カンクロウ」
「何だ?我愛羅」

書類から顔を上げたカンクロウに
サクラの瞳には不思議な力が宿っていると思うがカンクロウはどう思う。
と尋ね、数分前くすねたばかりの彼女と姉の手製であるから揚げを口に含む。
するとお前はまたつまみ食いして。と兄から呆れた表情とズレた返事が返ってきたが、それは気にせず
今日の夕餉は砂肝にから揚げだ。と比較的小さかったから揚げを飲み込み告げれば、カンクロウはお前な…とため息を零す。

で?サクラの目が何だって?
とようやく本題に沿った返答が来て、そのままの意味だが?と返せば返答に困ったのか、相手はそうじゃなくてだな…と肩を落とす。

「俺はサクラとお付き合いしてるわけじゃないから分かんねーじゃん。つか、お前にしか見せないんだろ、そういうの」

少々投げやりに返された言葉に、そうか?と問えばそうだ。と断言される。
成程。俺にしか見せないサクラか。

「…我愛羅…から揚げ片手に照れるの止めるじゃん…」
「…照れてない」

くすねてきた最後のから揚げを口に含めば、じゅわりと肉汁が溢れ空腹感が消えていく。
そう言えば、俺は以前より台所に行く回数が増えた。
腹が減ったから食べ物を取りに行くというより、彼女が料理をしている姿がなんとなく好きなのだ。
特に髪を縛って、普段あまりお目に掛かれないうなじを眺められるのはいい。

「…カンクロウ」
「今度は何だ?」

新しい書類に目を通すカンクロウに、俺は彼女が姉と共に楽しそうに会話をしながら、時に真剣な眼差しで台所に立つさまを思い出して目を閉じる。

腹が減った。
そう呟けば、お前いつからそんな食いしん坊になったんだ?と至極呆れた声が返ってきた。
成長期かもしれない。と自分で自分に言い聞かせた。


「我愛羅くん、カンクロウさん。ご飯出来ましたよー」

今日の分の仕事を終わらせ、カンクロウと共に自宅へと戻ればちょうどサクラが台所から顔を出す。
おー、良い匂いするじゃん。
と兄が言うように家の中は美味そうな匂いが満ちており、思わず食欲が刺激される。
今日は時間があったからいろいろ作ったんです。
と話ながらサクラが料理中ずっと縛っていた髪をするりと解けば、思わずああもったいない。と呟きそうになり慌てて唇を噛む。
そんな俺に気づいたのか、サクラが我愛羅くん?と首を傾け近づいてくる。

何でもない。
そう言い返そうと口を開いたのに、己の意に反し返事をしたのは腹の虫。
それが存外盛大に鳴ったものだから、思わず固まれば
我愛羅くんは今日も腹ペコね。
と、彼女が口元に手を当てて必死に笑いを堪えるのだから、俺は気恥ずかしいのと彼女の笑顔が眩しいのとでつい視線を逸らしてしまう。
そのくせ隣で兄が笑いを堪えているのには気づくのだから、頭の片隅ではどこか冷静な自分がいるのだろう。
それでもやはり兄には腹が立ったので、多少の情けをかけつつも思い切り足を踏んでやった。
痛ぇ!と叫ぶ兄の声にうるさい!と返す姉のツッコミはキレがいい。
そして言い合いを始める姉と兄に対しまぁまぁと宥めつつも、どこか楽しげに笑う彼女を見つめ
ああ、やはり俺は彼女が好きだと実感するのだ。


end


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