6
「来たか」
あれから二人と別れ、暫くしてから公園へと向かった。
そこには既に我愛羅が来ており、腕を組んで立っている。
雪が止んだとはいえ外は寒い。口から零れる吐息は白く上り、空気は冷たく鋭利に肌を刺す。
待った?と問えばいや。と首を振る我愛羅は、先程と同じく手を掴むとどこかへ向かって歩き出す。
「ど、どこに行くの?」
「宿」
「宿って、カンクロウさんは?」
「部屋は別々に取ってもらっている」
ぐいぐいと腕を引っ張っていく我愛羅は一切振り向かない。
鋭い我愛羅のことだ。ナルトの言葉であの遊女がサクラだと検討付けたのかもしれない。
もしナルトが我愛羅とサクラの関係を知っていたとしたら、あんな風に我愛羅に絡んでいくとは思えないし、多分口にもしない。
我愛羅もそれには気づいているのだろう。だからこそ先程の言葉が間違いだったと改めて痛感する。
迂闊だった。
悔やんでいても足は止まらず、あっという間に先程の宿に着く。
木の葉の中では大きな宿だ。我愛羅は玄関を潜るとサクラの手を引いたまま与えられた部屋へと進み襖を開ける。
「座っていろ」
「う、うん…」
襖を閉め電気をつける我愛羅を横目に、室内に足を進めれば隣の部屋に布団が敷かれているのが目に入り慌てて目を逸らす。
別に期待しているわけではなかったが、妙に気恥ずかしかった。
風影用にと与えられた部屋は広く、落ち着かない。
所在なく畳の上に座し部屋の中を見渡していと、我愛羅がサクラと向き合うように反対側に座す。
「俺が何を聞きたいか分かっているか?」
まっすぐとした視線は鋭く痛い。
一応、と頷けばそうか。と頷き返される。
「お前がナルトに俺たちのことを言っているとは思っていない。アイツは正直だから、お前との関係を知っていればああも無邪気に笑っていられんだろう」
「うん…」
「だが何故アイツが俺が遊郭に言っていることを知っていたのかが気になる」
「そう、よね」
静かに言葉を並べたてる我愛羅に言葉が見つからず俯けば、我愛羅は暫く黙った後再びサクラの手を取ると隣の部屋に敷かれた布団の上にサクラを縫い付ける。
「が、我愛羅くっ、」
押し倒された布団の上、サクラが手を伸ばすより早く我愛羅の手がサクラの襟を開き肩を見やる。
「…この傷はどうした」
「あ…」
ぐっ、とサクラを押さえつける手に力が籠められ、僅かに痕が残った傷痕がじくりと痛む。
「クナイでできた傷ではないな」
「…うん…」
小さく頷けば、お前だったのか。と我愛羅が喉の奥から唸るような声で呟く。
我愛羅を見返すことができず、無言で頷けば我愛羅は体を離しぐしゃりと髪を掻き乱す。
「に、任務だったの」
「分かってる」
焦っているような、怒りを抑えこむような乱暴な答えにずきりと胸が痛む。
背を向ける我愛羅を眺めつつ体を起こし服を正すが、何を言えばいいか分からず口を噤む。
「その…やっぱり…怒ってる、よね」
サクラの問いに応える声はない。
だが無言は肯定でもある。
こうして怒る我愛羅を、というよりも我愛羅に怒りの矛先を向けられること自体が珍しかった。
思えば我愛羅はいつも優しかった。
少々強引に閨に連れ込まれることはあったが、それでも閨の中ではことさら優しく、事が終わっても労わり抱きしめてくれる。
愛の言葉を紡ぐことはなかったが、それでも何気ない仕草や動作で蔑にされていないことが伝わってくる。
だが任務は任務だ。
我愛羅と体を重ねる時とは違い心など籠っていない。
けれどどうしていいか分からず互いに無言でいると、先に我愛羅が立ち上がり部屋を出ていく。
愛想を尽かされたのか。
動けずに俯いていたが、すぐに我愛羅は戻ってきた。
恐る恐る見上げた先には浴衣を手にする我愛羅が立っており、どうするのだろう。
とそのまま見上げていると、我愛羅は三度サクラの手を取ると備え付けの脱衣所に押し込み服に手をかける。
「え、ええええ?あの、ちょっと我愛羅くん?!」
「うるさい」
手際よく服を脱がされ下着を剥ぎとられ、思わず肢体を隠せば生温い空気が立ち込める浴室に押し込まれる。
そうしてすぐに自らも服を脱ぎ捨てた我愛羅が入ってきて、羞恥に頬を染める。
「あ、あの、」
動揺するサクラの肩に手を置くと、バスチェアーに座らせ湯をかけてくる。
一体何をする気なのかと問えば、間髪入れずに洗う。と返ってくる。
「あ、洗うって…」
「全部だ。隅から隅まで全部」
そう言うやいなや我愛羅は本当にサクラの体を隅々まで洗い出した。勿論髪の毛から爪先、爪の中、指の間に臍や秘所にまで手は伸ばされる。
「そ、そこは自分でっ」
「ダメだ」
羞恥のあまり逃げ出そうとするが、しかと抱きかかえられ逃げることができない。
狼狽えるサクラを余所に、我愛羅の指が茂みを撫で、花びらをなぞる。
愛撫ではない。けれど我愛羅の指が触れている。
それだけでくらくらと眩暈がするほどの羞恥と、我愛羅を求める貪欲な欲望に体が震える。
「ん…っ、あっ」
ひくり、と震える喉から漏れる声を必死に噛み殺すが、それでも我愛羅の指が何度も花びらを撫で、甘皮に隠れる突起をなぞられれば、体は跳ね、声は甘くなり、吐息は熱を帯びてくる。
濡れた髪を振り乱すように頭を振っても、秘所を撫でる指は止まらずついには膣の中にまで入り込む。
「あっ、いやっ!」
慌ててその腕を掴むが、泡で滑る上に力も入っていないから止められない。
そして指は止まらず膣の中に押し込まれ、ぐうるりとゆっくりと指を回転させると、指の腹で中を優しく嬲っていく。
気付けば膣の奥から愛液が溢れ出し、石鹸の泡と交ざりぐちゃぐちゃと淫猥な音を立てる。
浴室に響き反響する水音に声を押し殺し耳を塞ぎ、体を震わせつつも羞恥に耐えていれば、ようやく我愛羅の指が抜けほっと息をつく。
安堵する最中、体に湯がかけられ泡が流れていく。
怒っている割には湯を流す仕草も優しく、石鹸が肌に残らぬよう掌がやわらかく肌を滑っていく。
恥ずかしいけれど心地よくもある。
さすがに秘所の泡を流されるのは恥ずかしかったが、我愛羅は一切妥協せずそこの泡も流しきった。
風呂に入るのにこれだけ疲れることもないだろう。
ぐったりしつつ我愛羅を見やれば、少しだけ満足したのだろう。
我愛羅はうむ。と頷くとサクラを湯船に浸からせ自身の体を洗い流していく。
どれだけ怒っていても、任務となれば口が出せないことを誰より我愛羅自身が理解している。
だからこそ、こういう形で洗い流したかったのかもしれない。
縁に腕を乗せ髪を洗う我愛羅を眺めていれば、流した髪を大雑把に掻き上げ普段は隠れている額が露わになる。
そう言えばあの時は触れなかったな、と体を洗い終え隣に浸かってきた我愛羅の額に手を伸ばす。
「何だ」
「ううん」
ただ触れたかっただけ。
そう言って笑い、指先で額を辿るように触った後、我愛羅がよくするように頬に手を滑らせば、我愛羅は目を細めサクラの腰を抱き口付てくる。
資料室で求められた時とは違う、けれどやはり少しだけ乱暴なその口付を甘んじて受け入れれば我愛羅の指が濡れた髪ごと頭を撫でる。
「ねえ…やっぱり、怒った?」
「…少しな」
唇を離した後、恐る恐るそう問えば、我愛羅は少し視線を外した後思いの欠片を吐きだす様にそう呟く。
だが咎めるのはお門違いだろう。
そう言って再び唇を重ね、舌を絡め合う。
今度はいつもと変わらぬ、優しく溶かすような口付にサクラの体が甘く疼く。
「ん…んっ、が、らくっ、んんっ…」
気付けば我愛羅の指先がイタズラに体をくすぐってくる。
それに身悶え口を離すが、すぐに追いかけられ再び重ね合わされ、舌が絡まる。
このままではのぼせてしまう。
と溶けた頭で考えていると、一度強く舌を吸ってから我愛羅は唇を離す。
「ぁ、」
そうして入ってきた時と同様に、我愛羅に手を引かれ浴室を出ると柔らかなタオルに体を包まれ再び口付られる。
「ん、んんっ…あ、ん、」
かくり、と膝から力が抜ければ再び腰を支えられ、抱きしめられる。
「はぁ…」
離れた唇から熱に浮かされたように吐息を零せば、我愛羅の手が優しくサクラの体を拭いていく。
どうにか膝に力を入れ自力で立てば、新しいタオルで髪を拭かれくすぐったさに少し笑う。
そうしてサクラも我愛羅の腰に巻いただけのタオルで体を拭いてやれば、くすぐったい。と囁かれつい愛しさが湧き出てくる。
濡れた髪にタオルを被せ、引き寄せてやれば抗うことなく我愛羅は口付に応えてくれる。
ああ、許してくれたのかな。
甘えるように背に腕を回せば、我愛羅の手がサクラの濡れた髪を撫でうなじをくすぐる。
「髪の毛乾かさないと風邪引いちゃうわ」
「ん。ではそれも俺がやろう」
どうやら体を洗っただけでは済まないらしい。
もう止める気すら起こらないサクラは浴衣を纏うと、我愛羅の指に任せるまま髪を梳き乾かしてもらう。
その指先はぎこちなくはあったが、髪を梳く指は力が入っておらず優しい。
その心地いい指使いにうっとりと目を閉じていれば、ふわふわと空気を含んで優しく膨らんだ髪を軽く梳かれ口付られる。
「じゃあ我愛羅くんの髪は私が乾かしてあげるわ」
「そうか」
ぺたりと床に座り込んだ我愛羅の髪は、サクラと違い短く乾きやすい。
常日頃はつんと立っている髪だが、触ってみれば以外にも柔らかく触り心地がいい。
その感触を楽しむままに乾かしてやれば、すぐに渇いてそれはふわりと逆立つ。
よしよし。とサクラがその髪ごと頭を撫でてやれば、我愛羅は何だ。と言いつつ気持ちよさそうに目を閉じている。
その様はさながら普段懐かないくせに時折ふと甘えに来る猫のようで、何だか微笑ましくなる。
「我愛羅くんの髪って触り心地いいな、って思って」
「そうか?自分ではわからんな」
そう言って立ち上がると、サクラの手を取り再び布団の敷かれた部屋へと足を運ぶ。
「お風呂入ったばっかりなのに」
「別にいいだろう。朝また入りなおせばいい」
そう言って有無を言わさず抱きしめられ口付られ、久しく感じていなかった心地よさを噛みしめる。
一人で慰めるのとは違う、満たされた心地を味わいながらの抱擁はただただ幸福であった。
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