小説
- ナノ -





あれから席に戻ったサクラは結局料理の味など分かるはずもなく、ただ会話に乗じるだけだった。
そうして夜もすっかり更け、各々いい感じに出来上がった頃に食事会はお開きとなった。

「今日は世話になったな」
「また明日もよろしくじゃん」
「おう!任せとけ」

やはり酔うことのなかった我愛羅と違い、綱手はそこそこ出来上がっており赤い顔で豪快に笑っている。

「明日も楽しめよ小僧!」

バシバシと我愛羅の背を叩く綱手にカンクロウは苦笑いし、ナルトがばあちゃん酔っ払いすぎだってばよ。と肩を落とす。
対して我愛羅は無言で叩かれ続けてはいるが顔を顰めている。痛いのか酒臭いのかめんどくさいのか。
それでもその手を無碍に払わないあたりが彼らしい。

「では、解散!」

機嫌よくそう告げ、シズネを連れ帰路を辿る綱手に各々続きその場を離れる。
そんな中ナルトが立ち去ろうとした我愛羅の肩を組み、なぁなぁと話しかける。

「俺ってばずっと聞きたかったんだけどさ」
「何だ」
「お前遊郭行ったんだろ?」

声を潜められていたが、近くにいたサクラはばっちりと聞こえておりこのバカ!と拳を握る。
そんなサクラに気づいたいのがどうしたの。と近寄り、ナルトを鬼の形相で見つめるサクラにならいそちらに視線を向ける。

「…仕事でな」
「へえー、そっかそっか。で?どんな感じ?」
「どんな感じとは?」
「だからさ!遊郭の姉ちゃんってやっぱ美人さんなんだろ?」

程よく酒が入り調子付いてるナルトにあの話か。と呆れる。
が、すぐさまあのバカ!といのも拳を握る。他里の者に自里の任務内容をばらすのはルール違反だ。
もし何かそれっぽいことを言い出そうものなら制裁を加えてやる。と二人が拳を握る中、我愛羅は平然とした顔でさあな。と答える。

「さあな、って…」
「美醜の基準は人それぞれだろう。目を引く娘が必ず美女だとは限らん」

それは一体どういう意味かしら。
とサクラが更に強く拳を握りしめるが、それに気づかぬ男二人は会話を続ける。

「ふーん。んじゃあ、我愛羅の好みのタイプがいなかったってことか?」
「………いや…まぁ…」

いつもより間を置き歯切れ悪く答える我愛羅にナルトの顔が卑しく歪む。

「いたのか?いたんだな?!」
「バカ、声がデカい」

ばしっ、とナルトの口を塞ぐ我愛羅の頬は少し赤い。
対するナルトは目を細めんふふふと気色悪く笑っている。

「そっかあー、へぇ〜我愛羅がねぇ〜。ふぅーん…」
「…何だ。ニヤニヤして気色悪い」
「あ、気色悪いって酷えな。いや俺ってばさ、お前そういうのに興味あるのかなぁ、って思ってたからよ」
「…俺も人間だ。欲ぐらいある」

いのの言ってた通りだなぁ。とナルトが零す中、我愛羅ははあと吐息を零し白く霧散するそれを見送る。

「これで満足か?」
「おお。あ、そだ!やっぱ後もう一個!」

そう言って顔を近づけてくるナルトに何かと耳を貸せば

「お前ってば、サクラちゃん抱いたってほんと「しゃーんなろぉーーー!!!!」

聞き耳を立てていたサクラは案の定とんでもないことを口走りだしたナルトを思いっきりぶん殴る。
チャクラを入れてない分だけありがたいと思え、と飛んで行ったナルトを睨む後ろでは、目を見開いた我愛羅が固まっている。

「こんのバカ!バカナルト!!」
「ごめんね、我愛羅くん。ほんっと、うちのバカナルトが変なことばっか聞いてごめんね」

怒るサクラの後ろでいのが我愛羅に謝罪し、我愛羅はいや…とぎこちなく答える。
サクラの怪力に今更驚く我愛羅ではない。つまりはナルトの言葉に動揺したのだ。
最後まで聞けなかったが、抱いたことはあるのか。という問いに。

「ていうかナルト!アンタ任務のこと他里の人に言ってどうすんのよ!」

沈むナルトを小声で諌めるいのに、立ち上がったナルトは殴られた頬を押さえながらだってよぉ、と唇を尖らせる。

「やっぱ気になるじゃん」
「それに抱いたんじゃなくて、お姫様抱っこしただけって言ったでしょ?!何勘違いしてんのよ!」

小声でひそひそとやりとりする二人を眺め、一度肩の力を抜くと我愛羅に向き直る。

「えっと…その、ごめんね?何かアイツ勘違いしてて…」
「勘違い?何をだ」

何を。
問われて気付く。
間違えた、と。

ナルトには我愛羅との関係を告げていないうえ、我愛羅には遊郭にいた菖蒲という遊女が自分だとバレていない。
だから我愛羅は遊郭で介抱した女がサクラであるとは気付いていないし、そもそもそれをナルトが知っているのもおかしい。
では何故ナルトがサクラを抱いたのか、と問うたのか。

しまった、とサクラが思う目の前で、我愛羅の目がすぅと細くなり仏頂面に拍車がかかる。

あ、これはやばいかも。
と久しぶりに背筋が凍る思いに襲われていると、ようやくお説教が終わったナルトといのがサクラたちに近づいてくる。

「いちち…サクラちゃんちょっと今日力入りすぎじゃね?チャクラ籠めてないよな?」
「自業自得でしょ。本当アンタって歳食ってもバカなんだから」

涙目で訴えてくるナルトを詰るいのに便乗し、アンタが変なこと言うからでしょ。と諌める。
が、後ろから感じる刺すような視線は依然変わらない。

どうしよう。
と困り果てていると、ま、今日はもう帰ろうぜ。とナルトが頭の後ろで腕を組み、我愛羅に行こうぜ。と先を促す。
だがそこでちょっと待って。といのが立ちはだかる。

「ナルト、アンタがまた何言い出すか分かんないから着いて行くわ」
「い、いのっ…!」

腕を組み、睨むいのにナルトはもう聞かねえよ!と吠えるがダメだと言われ肩を落とす。
そこでようやくずっと事の成り行きを見守っていたカンクロウがどうする我愛羅。と笑い交じりに問いかける。

「別に案内されずとも宿の場所は分かってはいるが…」

我愛羅はちらりとサクラといのを一瞥し、ナルトに視線を戻すとふうと吐息を零す。

「彼女たちはお前のことが心配らしいからな」
「もう変なこと聞かねえつもりなんだけどな」
「つもりじゃダメなのよ。さ、我愛羅くん行きましょ」

いのに背を押され、我愛羅とナルトは歩き出し、その後にカンクロウといのが続く。
それから半歩遅れてサクラも歩き出し四人の背を眺めていれば、いのがアンタは前、我愛羅くんは後ろ。と指示を出しナルトと共に先頭を歩く。

え。
とサクラが思ったのも束の間、後ろに追いやられた我愛羅はちらりとサクラを一瞥すると足を止め、カンクロウを先に歩かせるとサクラが隣に来るのを待つ。
幾らいのが我愛羅との関係を知らないからといって、これはないだろう。
だがいのからしてみればナルトと我愛羅を引き離すことによって被害を防いだだけのことだ。

うわああああ、と叫びそうになるのを必死に堪え隣に並ぶと、久しぶりに二人並んで道を歩くことになる。
避暑地での道ではなく、自里の道をだ。


だが喜びはなく、むしろ焦っていた。
何せ我愛羅がサクラを疑っている、もしくは怒っているからだ。
どうしよう。と俯き無言を貫いていれば、我愛羅の肩が少し触れ、長い袖から伸ばされた指先がサクラの指の腹に触れる。

ハッと、目を開き重なる指先に意識を集中すれば、ひたりとくっついた五本の指先がつ、とサクラの指の腹を撫でる。

(ダメっ)

ぎゅっと目を瞑り、その手から逃げるように手を握りこみ身体を離せば、その分だけ我愛羅が詰めてくる。
滲みそうになる視界で我愛羅を見上げれば、涼しげな瞳とかち合う。が、その瞳は冷たい。

怒ってる。
と再び俯くが、その先は触れることも会話をすることもなく宿に辿り着く。

「んじゃあまた明日な」
「今日は本当にごめんね。おやすみなさい我愛羅くん、カンクロウさん」
「ああ。こちらこそ世話になった。明日も頼む」
「お前らも気をつけて帰れよ」

別れの挨拶を交わし歩き出す二人に続きサクラも足を踏み出そうとするが、我愛羅に手を取られそれは叶わない。
何かと思い振り向けば、我愛羅の唇が耳元に寄せられる。

「話がある。後で迎えに行くから待っていろ」
「…こ、公園で…待ってる」

我愛羅はサクラの自宅の場所など知らないだろう。
だが公園なら里を案内する時に通るので分かるはずだと呟けば、我愛羅は分かった。と返事をし、掴んだ手を離す。
そして何事も無かったかのように身を翻すと宿の玄関を潜り、サクラはその背を見送ってから先を歩く二人の背を追った。

触れた箇所だけがただ熱く、酒で掠れた声が頭の中で木霊のように響いていた。




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