小説
- ナノ -





「カカシー!!俺の勝ちだな!!」
「あーあ。あと少しだったのにさっきの猫がなぁ」
「遅いぞお前たち!」

サクラたちが席に戻れば、ちょうど店の扉が開き機嫌よく笑うガイと気だるげに頭を掻くカカシが入ってくる。
時計の針は集合時間ピッタリではあったが、二人を待っていた全員に遅いと咎められ二人は揃って苦笑いし謝罪する。

話を聞けば例の如く職場から競うように走ってきたという二人は防寒着を身に着けておらず、元気なことだと綱手が呆れる。
そんな綱手にガイは笑い、今日もいい勝負だったな!とカカシの肩を組むと片目を瞑り親指を立てる。

そんなガイにリーは流石ですガイ先生!と熱く拳を握り、ナルトはまーたやってたのかよ…とげんなりと顔を顰め、テンテンは何も言わず額を押さえる。
そしてガイのテンションに慣れていない我愛羅はただ瞠目し、カンクロウは呆れた顔をしている。
木の葉にいると普通のことなのだが、二人の反応がおかしくてくすりと笑えば、ナルトがちらりと視線を寄越し口の端を上げる。

「なぁサクラちゃん、飲み物何にする?」
「そうねぇ、日本酒にしようかしら」
「この間みたいに飲みすぎちまったら今度こそ俺が送ってやっからな!」
「はいはい。ありがとう。でも結構よ」

迫るナルトをばっさりと切り捨てれば、つれねえってばよ、と再び行儀悪く机に顎を乗せる。
何子供みたいなことしてんのよ。とメニュー表でその頭を軽く叩けば、ナルトはニヒヒと歯を見せ悪戯っ子のように笑う。

まったく、何が楽しいんだか。
けれど変わらぬナルトの態度と笑顔に不思議と先程まで感じていた胸の痛みが消え、穏やかな気持ちが溢れてくる。
我愛羅とは違うけれど、それでも自分にとって必要な男なのだと改めて認識する。

「ほら。アンタもさっさと決めちゃいなさい」

だがそれをおくびにも出さずにメニュー表を差し出せば、受け取ったナルトはうぅん、と唸りながらページをめくる。

「でもなぁ、俺酒あんま好きじゃねえつーか、得意じゃねえつーか」

どうしよっかなぁ、と呟く隣では、我愛羅がシカマルと言葉を交わしており時にカンクロウも口を挟んでいる。
何を話しているのだろう。と気にはなったものの、見つめていても仕方ないと判断し視線を外す。

そしてようやく頼む物を決めたらしいナルトが店員を呼び、各自飲み物を手に取ると乾杯した。

「あ!これ美味え!!ほら我愛羅食ってみろって!」
「ん、ああ。ありがとう」
「おいチョウジ、お前一人で鍋空にする気かよ。後で追加できっからちょっと待て」
「えー。もう僕お腹ぺこぺこだよ」
「カカシ!今度はどちらがより多く酒を飲めるか勝負するか?」
「何バカ言ってんの。そんなことしたら明日に響くでしょうが」
「コラ、リー!それ先に入れちゃダメだって!」
「え?!そ、そうなんですか…すみません…」
「我愛羅。コレお前が頼んだ奴だろ」
「ああ」
「ねぇねぇサイくん。サイくんはこの中だったら何が好き?」
「ん?んーそうだなぁ。どれも美味しそうだし、強いて言うならこれかなぁ」

わいわいガヤガヤ。
あっという間に騒ぎ出す面々に交じり、サクラも酒を傾けつつ料理と会話を楽しむ。
軽く周囲を見渡せば、綱手と我愛羅は一升瓶を丸ごとテーブルの上に置き杯を交わしており、カンクロウがほどほどにしとけよ。と忠告している。
その隣ではシカマルがチョウジの食いっぷりに呆れたような吐息を漏らし、向かいではいのがサイに話しかけ、奥ではリーとテンテン、カカシとガイがそれぞれ会話に花を咲かせている。

楽しいなぁ。
久しく感じていなかった感情を噛みしめつつ料理を突いていれば、席を外したナルトがシカマルたちの方へちょっかいをかけに行く。
すぐさまそれに対しシカマルがうぜえ、と声を荒げ、チョウジが呆れ、カンクロウが邪魔!とナルトを小突く。
けれど全員楽しそうに笑っている。

まるで子供のようだと目を細めていれば、シズネが新しい酒を持って綱手のところに行くと、でかした!と顔を輝かせている。
こうして気の合う仲間と食事をするのも最近はなかったなぁ、と思い返していると、ふと酒を傾ける我愛羅が目に入りまじまじと眺めてしまう。

「お前なかなかいける口じゃないか」
「そうか?」
「まったく。口も酒も一丁前だなお前は」

豪快に笑う綱手に首を傾けつつ、手酌で酒を注ぎぐいと杯を煽ぐ。
上下する喉仏に杯を掴む指、少し伏せられた瞼にそれを縁取る睫毛。杯を離せば赤い舌が唇を舐め、親指で濡れた唇を軽く拭う。

ああ、ダメだ。
釘付けになってしまう視線を無理やり引きはがし、料理を口にしてみるが味など分からない。
ドクドクと強く脈打ちだした鼓動は酒のせいだけではない。現に指先まで熱くなった体の疼きは酒で得られるものではないからだ。

しまった。と味のよく分からない料理を咀嚼していれば、戻ってきたナルトがあ。と声を上げる。

「サクラちゃんまた顔真っ赤だってばよ」
「え、そう?」

ぎこちなさは少しあっただろうが、特に何の問題もないというように笑えばナルトの手が熱を帯びた頬に触れる。
我愛羅とはまた違った大きな掌に包まれぼんやりとナルトを見上げれば、あっちー!とナルトが目を見張る。

「すっげえ熱いってばよサクラちゃん!飲みすぎじゃねえの?」
「だ、いじょうぶよ。全然」
「でもこの間より真っ赤だし。脈も走った後みてえにドクドクいってっけど」

耳の裏にあてられたナルトの指先がちゃっかりサクラの心拍を計っていたらしく、いつの間に。と目を見張れば、俺も二十五すぎだしさ。と笑う。

「それなりにそーいうとこにも気付くようになったんだってばよ」
「…そう…大人になったのね、アンタ」
「ぐふふふ、まぁな!」

それでも笑った顔は昔と変わらない。
歯を見せ豪快に笑う様はさながら太陽だ。
その顔を見ていたら不思議と脈が落ち着きを取り戻し、乱れた心が穏やかに凪いでいく。

「…やっぱアンタって、変わんないわよね」
「え?!さっき大人になったって言ったじゃん!」

本当はどっちなんだってばよ?
と首を傾けるナルトにただ笑う。

「アンタってバカね」
「え、ええええ?何でぇ?」
「うふふふ」

本当、どうしようもない。
笑うサクラに何を思ったのか、ナルトはちぇ、と唇を尖らしつつも頬から手を離す。
それが少し惜しいと思ったのはきっと人恋しさからだろう。
なにせ本当に欲しいのは、ナルトの隣に座っている男の手なのだから。

「んあ、つか我愛羅。お前そんなに飲んで大丈夫なのかよ」
「至って平気だが」
「心配すんなってナルト。我愛羅は相当強えからよ」

料理を突きだすナルトが隣の我愛羅に問えば、我愛羅は既に一升瓶の中身を三分の二程開けている。
相変わらずとんでもない男だと更にその奥を伺えば、綱手も同様に酒を開けている。
幾らなんでも急ピッチすぎやしないか。と二人を気に掛ければ、綱手と目が合いサクラ!と名を呼ばれる。

「お前も飲め!」

飲むか。ではなく飲めときた。
こうなれば止められないと知っているサクラは仕方なく杯を手に取ると綱手の隣に腰かける。

「いただきます」
「うむ!」

綱手に注いでもらい、綱手の杯に注ぎ返す。
くい、とそれを煽げば途端に喉を焼く熱と、鼻腔を抜ける芳香にほう、と吐息が零れる。

「あ、これ美味しいですね」
「そうだろう!私の最近の気に入りだからな」

ああ、だから飲めと言ったのか。と綱手の遠回しな愛情表現に頬を緩め、意図せず隣に座ることになった我愛羅に向き直ると瓶を手に取る。

「はい。どうぞ」
「ああ…すまん」

数か月前、遊郭で酒を注いだ時のように注げば、小さな杯はすぐに溢れんばかりにいっぱいになり、我愛羅は零れぬようそれに口をつけ、一気に煽ぐ。

「美味しい?」
「ああ」
「そう」

暫く互いに無言で見つめ合うが、先に我愛羅が視線を外し料理に手を伸ばす。

どうしようか。席に戻ろうかな。と思っていると綱手が少し外す、と言って席を立つ。
はい。と頷き自席へと視線をやれば、ナルトの姿がない。
どこに行ったのかと視線を巡らせれば、今度はリーたちの方にちょっかいをかけに行っている。
そして我愛羅の前に座るカンクロウはシカマルと話しに花を咲かせこちらのことなど気にしていない。

僅かな間でも、皆の視線から二人は切り離されている。

どくり、と再び主張する鼓動の音に目を閉じる。
それにしてもさっきから自分は我愛羅くんのことしか考えてないなぁ。と自嘲していると、つ、と手の甲に指が這わされ目を開く。

視線を下げれば、我愛羅の指先がサクラの甲を撫で、指をなぞり、爪を撫でる。
まるで愛撫のような動きにこんなの卑怯だ。と指を丸め込み顔を逸らす。
すると指を撫でていた我愛羅の指先が、今度は手の甲に浮き出た骨を撫で、擦り、皮膚をなぞりながらゆっくりと服の隙間に指先を差し込んでくる。

何をするのだろうか。
ドクドクと強く脈打ち出した鼓動をうるさく感じながらも動けずにいれば、我愛羅の指先が手首の内側、皮膚の薄いところをそっと撫であげる。

途端、慣れない刺激にぞわぞわと肌が粟立ち、体が震える。
溢れそうになる嬌声を押し殺せば、絶えず施される愛撫に下腹がむずむずし始め、腿をきつく擦り合わせたい衝動に駆られる。

だめだ、こんな所で。
そう思っても言葉にできず、かと言って腕を払うこともできない。
なのに我愛羅は至って平然とした顔で料理を突き、机の下でサクラの手を愛撫する。

このままこうされるのだろうか。
疼く子宮と高鳴る胸を鎮めようと、熱くなる吐息を細く吐きだした所で席を立っていた綱手が戻ってくる。
途端、我愛羅の指がするりと蛇の如く服の隙間から出ていき何食わぬ顔で酒を煽ぐ。

とんだポーカーフェイスだ。
無駄に普段から仏頂面をしていない。
ぼやける頭でそんなどうでもいいことを思いつつ、ふらつく足で席を立つ。

(あんなことされて、平気でいられるわけないじゃない…)

トイレに逃げたサクラは今度こそ熱い吐息を漏らし、鏡に映る自身の顔を見つめる。
赤く火照った顔に潤んだ瞳。まるで男を誘うようだと自身で気づいて頭を振る。

(バカ。バカバカバカ!私も我愛羅くんもバカ!)

ばしゃん、と冷たい水で顔を流し、それを拭き取ると再び鏡に自身を映す。
それでもどこか物欲しげな顔は元に戻せず、バカみたい。と項垂れた。



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