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あなたが呼んだ春



原作設定だけど、新婚我サクちゃんでバレンタイン小話(めっちゃ短い)です。
久しぶりの我サク……! 短いですが楽しんで頂けたら嬉しいです!





「え? これを、私に?」
「ああ。他所の国では男性が女性にプレゼントを贈るのがしきたりなんだと」

 バレンタイン当日。いつも通り忙しい日々を過ごしていたせいで手作りのお菓子やサプライズのパーティーなど開けるはずもなく。いつものように仕事に追われて帰宅すれば、珍しく先に帰っていた彼がいつもより豪華な食事を用意して待っていた。
 それだけでも感動して泣きそうになったのに、更には『桜』を模したアクセサリーまでプレゼントしてくれたのだ。だけどこんなにも素敵なサプライズを用意してくれたのに、驚きのあまり一瞬『夢でも見ているのかしら?』と失礼なことを考えてしまった私はなんて酷い女なんだろう。我ながら落ち込むわ。
 だけど彼は気にしていないらしく、いつも通り変化の乏しい声と表情のまま説明を始める。

「以前視察で赴いた場所にガラス細工を扱っている店があってな。そこに手先が器用な職人がいて、細かな品物も作れると言うから頼んだんだ」
「な、るほど?」

 彼の手の平に収まるジュエリーボックスの中には、薄紅色に色づけられたガラスが『桜』の形にカットされている。しかも子供が描いたような可愛らしい桜ではなく、本物に限りなく形状を似せた繊細な出来だった。
 そんな、手に取るのも怖くなるほど精巧な作りのネックレスに目を奪われていると、彼の指がそれを取り出し、掲げて見せてくる。

「着けてもいいか?」
「へ?! あ、ど、どうぞ!」

 一瞬「あなたがつけるの?」と聞き返しそうになって慌てて口を閉じて後ろを向く。
 バカバカ。幾ら疲れているからってそれはないでしょ。

 だけど我愛羅くんは気にすることなく私に近づくと、ピンクゴールドのか細いチェーンを首に回してきた。シルバーでもゴールドでもない、ガラスで出来た『桜』に合わせて拵えられたチェーンは柔らかく照明を反射しており、一層特別な代物に見えてくる。
 現に後ろで留め具と格闘する気配を感じながらも、視線は胸元で光る『桜』に釘付けだった。

「すまん、手間取った」
「え? 大丈夫よ。見惚れてて全然気づかなかったわ」

 むしろつけ慣れていた方がショックだ。と思ったことは口にせず、改めてこれまでの日々を振り返る。
 砂隠に嫁いで早数ヶ月。もうすぐ一年が経とうとしている。結婚記念日はまだ先だけど、その前にこんなにも素敵なプレゼントを貰ってもいいのだろうか。嬉しいけれど後ろめたくもある。だけど胸の奥にある柔らかい場所をくすぐられるような心地よさ、むず痒さも同時に感じており、なんだか頬が熱い気がした。

「でも、本当に貰っていいの? 私、忙しくて何も用意出来なかったのに」
「気にしなくていい。ここは過酷な土地だ。幾ら以前から交流があろうとも正式に働くとなると話は変わる。慣れない環境や、木の葉では当然のように揃っていたものが不足している場所での生活や仕事はストレスにもなるだろう。それでも弱音を吐かず、傍にいてくれるお前に感謝の気持ちを示したかった」
「もう、大袈裟ねえ」

 出会った時は思いやりの欠片もなかったのに、今ではこんなにも愛情深い人になった。
 比較するわけではないけれど、サスケくんに置いて行かれ、何度も拒絶された身には怖いぐらいの愛情だ。だけど、彼の愛に“裏”はない。いつだって与えてくれる愛情には真心が滲んでいる。そんな彼を疑うことは、もうなかった。

「ありがとう。すごく嬉しいわ」
「喜んでもらえてよかった。ここでは桜は咲かないからな。せめてこんな形であっても、お前に“木の葉の春”を届けてやりたかった」
「――――」

 幾ら個人的に交流を重ねてきた間柄とはいえ、砂隠に嫁ぐことは一筋縄ではいかなかった。なにせ医療技術、薬学の知識は簡単に外に出していいものではないからだ。機密情報とも言える。
 だから何度も会議を重ね、頭の固いお偉いさんたちにも納得してもらえるよう分かりやすい資料を用意して説得し続けた。そうしてようやく認められ、嫁いできたのだ。

 だけど想像していたよりもずっと、砂漠は過酷な土地だった。

 日差しの強さは木の葉の夏を彷彿とさせるのに、朝晩は冬のように寒い。急激な寒暖差に体が慣れずに自律神経が乱れ、睡眠不足になったり食欲不振になったりと彼には迷惑と心配をかけた。
 だけど彼は私を責めることなく、むしろ都度気にかけてくれた。結婚したのに新婚夫婦らしいことも出来ず、過ぎゆく日々に忙殺される私に文句を言うどころか見守っていてくれた。陰から支えてくれた。こんな私をここまで大事にしてくれる人がいるということは、ある意味奇跡に近い。だから改めて思う。

 ――彼が好きだなぁ、と。そして、彼を好きになってよかったなぁ、と。

「もし春に会議が行われるようだったら、一緒に行くか?」
「うーん……。でも、患者のことがあるから。もしかしたら一緒に行けないかもしれないわ」
「……お前は、それでいいのか?」

 家族に会いたいだろう。と気遣うように続けられた言葉に苦笑いを浮かべる。勿論会いたくないわけじゃない。だけど『砂隠で生きる』と決めたから。いつまでも親に甘えてはいられない。

「いいの。私は、ここで生きるって決めたから」
「だが……」
「それに、あなたが届けてくれたでしょう? 私の大好きな“春”を」

 あなたが与えてくれた、あなたが届けてくれた私の“春”。柔らかな薄紅色は本物の花弁と違って冷たく硬いけれど、その分ずっと枯れずに咲き続けてくれる。

「だから大丈夫。ここで、あなたの帰りを待っているわ」

 何も用意出来なかったダメな妻だけど、大好きなあなたが大事にしている里を守る力にはなれるから。

「ホワイトデー、期待しててよね」

 今度は忘れないように、ちゃんとあなたのためにプレゼントを用意するから。例え会議や視察の仕事が入って当日に会えなくても、感謝と愛情を込めたプレゼントは必ず用意するからね。

「……そうか。ならば、楽しみに待っていよう」
「うん!」

 精神的な疲労も、彼の優しさと愛情に包まれたら溶けてしまう。
 だけど安心したらお腹が減ってきて、少し恥ずかしく思いながらも「ご飯にしましょう」と口にすれば穏やかな笑みが返ってきた。

 見た目にそぐわず料理上手な彼が作るご飯は簡単に私の胃袋を掴んでしまった。だから今度は私が掴みにいかないと。
 そんなことを考えつつ手洗いうがいをし、彼が用意してくれたご馳走に手を合わせ、向かい合って食事を始めた。

 風影である我愛羅くんの妻になって早数ヶ月。今年の桜は、もう満開だ。



終わり



 チョコなんて甘未がなくてもラブがあればOKなんですよ。(某愛の料理番組風)
 たまには『恋人でも熟年夫婦でもなく、新婚で書くか』と思ったらスッとネタが下りてきてくれました。とうらぶに比べたらめっちゃ短いですが、なんというか……うん。私の中で我サクちゃんはもうくっついとるんですよ。()
 だから改めてうんにゃんかんにゃんさせる必要がなくって。むしろ「こういうイベントは我サクちゃんが改めてお互いへの愛情を確認するために使う時間では?!」という謎思考に包まれております。故にこうなりました。
 私はサクラちゃんを心底大事にしている我愛羅くんを推しています。我サク愛してるからね。

 このサクラちゃんは倒れないよう体調管理というか、自己管理は徹底しているけど、逆にそうまでしなきゃいけなかったという割とギリギリなところで頑張っている感じです。「一年も経てば慣れるんじゃね?」とも思うんですが、数十年温暖な気候というか、住みやすい地域で暮らしていた体がたった一年そこらであの過酷な環境に慣れるか? と思ったら「微妙だな」と思ったのでこうしました。
 忍なんだからその辺なんとでもなりそうですけど、でも一時任務でいることと、定住することってやっぱり違うじゃないですか。日の出や日の入りの時間も変わるし、気温も気候も違う。雨なんて滅多に振らない寒暖差が激しい地域に朝から晩までいるんだからそりゃ体調も変化しますわよ、っていうね。

 あとがきの方が長くなってきたな。やばい。
 はい。そんなわけで久々に我サクちゃん(新婚ver.)でした!
 最後までお付き合いくださりありがとうございました!m(_ _)m



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