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狼たちの座談会



 パーティー終了後、水野と陸奥守が部屋に下がった後の刀たちの会話文。
(※普通に露骨な下ネタが飛び出します。注意)




三「ふむ。陸奥守は主を追って行ったか」
宗「だと思いましたよ。どうせあの男のことです。上手く言いくるめて主を美味しく頂くんでしょう」
江「宗三……」
歌「下世話だな」
鯰「というか、まず陸奥守さんが絶対に離さないですよね。主のこと」
小「陸奥守さんは主が大好きだからね……」
乱「でもそれは小夜くんも一緒でしょ〜? ま、ボクもそうだけど!」
長「そもそもこの本丸で主を大切に思っていないやつなどいないだろう」
烏「ほほ。まことあの子は愛されておるの」
鶴「そりゃそうさ。なにせ俺たちを口説き落としたのは主だからな」
薬「ま、その辺大将は無自覚なわけだが」
和「しっかしよぉ、今日の主たちの格好には驚いたぜ。あんなの半分裸みてえなもんじゃねえか」
歌「全くだよ。目のやり場に困ったものさ。あんな破廉恥な格好をするなんて……」
鶯「ははは。俺としては眼福だったがな」
平「鶯丸様……」
前「しかし主君も、終始照れておいででしたね。やはりお恥ずかしかったのでしょう」
加「そりゃそうでしょ。主照れ屋だから」
日「だがなぁ。他の面子のように堂々としてりゃこっちも揶揄うなりなんなり出来たが、あんなにも照れた顔されるとなぁ……」
同「ムラッと来るよな」
燭「ん゛んっ。ちょっと皆正直すぎない?」
鶴「はははっ! 光坊だって主の方をチラチラと見ていたじゃないか」
燭「な……! 勘違いしないでよ、鶴さん。主があんなに肌を晒すことなんて今までなかったから、色々と気遣ってあげないといけないな、と思って注意を払ってただけだよ」
宗「へえ。下心がなかったと言いきれます? それ」
長「返答によってはへし切るが」
燭「そういう長谷部くんだって主の胸元見て顔赤くしてたくせに。僕見てたからね」
日「はっはー! あのお堅ぇ御刀様が俗な男に成り下がったもんだなあ!」
長「せからしい! それに、燭台切! それは誤解だ! 俺が主をそのような不埒な目で見るはずがないだろう!」
宗「へえ。つまり、今日の主は女性として魅力がなかったと。言いますねぇ、へし切」
長「長谷部と呼べ! あとそれも違う! 主は魅力的な女性だ!」
烏「ほほほ。喧嘩するほど仲が良い、とはよく言ったものよ」
髭「でも、主は柔らかそうだったねぇ。つい触りたくなっちゃった」
鬼「おい。陸奥守に折られたくなければ余計な口は噤んでおけ」
髭「フフッ。分かってるよ。でも、彼が鬼になったら強そうだ。一度手合わせしてみたいね」
典「はあ……。その前に止めるからな」
三「だが髭切殿の言う通りだ。以前より丸みが減ったとはいえ、あの柔らかさは愛おしいものよ」
鯰「確かに。俺が顕現した時よりも痩せたよね、主」
和「そりゃああれだけ事件に巻き込まれて入退院繰り返してりゃあなぁ。それにこの前の事件は特に酷かっただろ。敵ブッ倒すまで時間もかかったしよ」
薬「そうだな。だが大将は未だに自分のことを“横綱”だと思ってるぞ。現代の“標準体重”とやらに比べたら重い、と言ってな」
五「で、でも薬研兄さん。人間は骨も筋肉も、一人一人違うじゃないですか」
同「ああ。夢前や百花はちっちぇが、主と日向陽はデカイからな」
鶯「どこが、とは言っていないのにどこを指しているのか一発で分かるのが面白いな」
和「つっても主の柔らかさを知ってんのは短刀だろ。特に小夜」
小「僕は不埒な目で主のことは見ていないからお答えできません」
乱「小夜くんはあるじさんの懐刀だもんね〜。同じ短刀としてはちょっと羨ましいよ。あんなに何回も抱きしめてもらえてさ〜」
秋「僕が顕現した時から小夜くんは主君の懐刀でしたからね!」
五「で、でも、あるじさまは、僕たちのことも抱きしめてくれました。やさしくて、やわらかくて、いい匂いがしました」
鶴「羨ましいものだなぁ。俺たちは大きすぎて主の懐に収まることは出来ないからな」
三「はっはっはっ。俺は主に本体を抱きしめて貰ったことがあるぞ。柔らかな肉体だった」
鶴「そういう意味でなら俺だってある。ま、そうは言ってもあの時のことは曖昧な部分も多いんだが」
髭「ん? 君たちが一回折れた、っていう話かい?」
江「ええ……。鮮明でなくとも、主が我らを終始大事に扱ってくれたことは、ちゃんと覚えています」
典「ああ。言葉にされずとも伝わってきた。主は……いつも俺たちを思ってくれている」
山「写しだと卑下していた俺にも『顔を上げろ!』と叱り飛ばしたぐらいだからな」
歌「主は負けん気が強すぎるからね」
和「そんな主が惚れたうえ、そんな主をふにゃふにゃにしてんのがアイツ、ってのがまたなぁ……」
掘「あははっ。でもしょうがないよ。陸奥守さんだって苦労してきたんだから」
宗「あの男の話はどうでもいいんですよ。今頃主を一人占めしているでしょうから。話題に出すのも癪です」
小「兄様……」
長「夫婦だと分かっていても憎らしい気持ちは生まれるものだな」
乱「も〜、二人共大人げない! あるじさんが幸せならそれでいいじゃん」
鶴「頭では分かっているんだがな。そう簡単に割り切れんから悩むのさ」
三「然り。大事だからこそ閉じ込めたくもなるが、愛しているからこそ閉じ込められない。難儀なものよ」
鶯「夢で見るだけで満足出来たら、俺もここまで引きずらずに済んだのだろうがな。そうもいかぬが人の体というやつか……。まったく、不便なものだ」
平「鶯丸様……」
前「主君を夢で見るほど想っておられたのですね」
鶴「というか、この際だから腹を割って話そうじゃないか。夢で主を抱いた奴、正直に手を挙げろ。因みに俺は何度もある」
燭「なんてことを暴露してるんだい?! 鶴さん!」
倶「……ないこともない」
燭「伽羅ちゃん?!」
宗「大倶利伽羅が暴露したなら僕も言いましょう。あります」
江「宗三……」
小「兄様……」
宗「現実に行動として移していないからいいじゃないですか。僕だって起きた時の罪悪感がすごくてたまに記憶を失いたくなるんですからね?」
薬「ははは! 宗三がそこまで言うならよっぽどだなあ! だがまあ、俺も大将の懐に収まる夢を見たことはあるぜ」
後「え?! お前もあるのか?!」
薬「あるさ。これでも大将に口説かれた身だからな。一度でもあの言葉に……大将特有の直球勝負に持ち込まれたら、堪らなくなるものさ」
鯰「逃げたくても逃げられないよね、アレ」
和「直球で来る、って分かってんだけどなぁ」
堀「動けなくなるんだよね。主さんにまっすぐ見つめられるとさ」
山「本当なら見えないはずなのにな。不思議とあの目が透けて見える気がする」
数「主の言葉には、力がありますからね」
乱「だね。でーもっ、そーんなあるじさんに、皆はや〜らし〜ことする夢見てるんだもんねぇ〜」
薬「お前だってよく大将に抱き着いているだろうが」
乱「だってボクは短刀だもんっ。あるじさんの懐に入りたいと思うのは普通じゃない? ね、五虎退!」
五「へ?! あ、えっと、えっと……! ぼ、僕も、あるじさまと一緒におひるねをする夢、みたことあります!」
前「そういう夢でしたら、僕も。主君の御身をお守りする夢を見たことは何度かあります」
平「前田に同じく」
秋「はい! 僕は一緒にお風呂に入る夢を見たことがあります!」
鶴「お! 思ったより男らしい夢を見るじゃないか、秋田!」
秋「はい! 髪の毛を洗ってもらいました!」
鶯「そうか。その後は?」
秋「一緒に寝ました!」
三「はっはっはっ。夢の中でも寝たのか。愉快だなぁ」
乱「ボクもあるじさんに髪の毛綺麗にしてもらう夢、見たことあるなぁ〜」
加「俺はマニキュア塗ったことあるし! 破廉恥な夢は見たことないけど……。でも今日のは、ちょっとやばかったかな」
宗「加州が言うならよっぽどですね。はい、他には?」
同「俺もあるぜ」
山「……ないこともない」
歌「雅じゃない、この流れ……」
和「そういう之定はどうなんだよ。あんたも主に懸想してた身だろ?」
歌「そ! それはそうだが、そういう夢は……!」
掘「なかったんですか?」
歌「……ッ!!」
鶯「ははっ。あったようだな」
歌「〜〜〜〜!!! 君たち! 今度覚悟しておくように!」
三「はっはっはっ。そなたも嘘がつけぬなぁ」
烏「ほほほ。総じて男は素直な生き物よ。しかし父はまだあの子をよく知らぬ。素直で稚い子であるとは分かっておるがな」
鬼「底抜けに明るく前向きでもあり、妙に肝が据わっている。という印象はあるがな」
髭「だけど変なところで鈍いよねぇ。色んな刀からチラチラ見られてたのに、全然気づいてないんだもん。陸奥守と小夜が睨んでなかったら、今頃どうなっていたんだろうね?」
長「フン。その場合は俺が片っ端から切り伏せただけだ」
巴「ふむ。主に被害が及ぶようであれば俺も手を貸そう。主は小さくか弱いからな。守ってやらねばならぬ」
蛍「だったら俺もやるよ。主さんに手を出したやつは許さないから」
日「はっはー! まあ、主は腕っぷしは弱いが心は強い女だからな。いざとなったら平手の一発ぐらいは食らわそうとするだろうよ」
宗「相手が素直に喰らってくれたらいいですけどね」
鯰「日頃戦場にいますからね〜、俺たち。主の攻撃なんて簡単に避けられますし、あの手首だってすぐに捕まえられますよ」
燭「そういえば夏に主がさ、畑から戻ってきた僕と同田貫くんの間に突然割り込んできて『二人の間にいると自分がすごく色白に見える』って腕捲ってきた時はドキッとしちゃったよね」
同「ああ。あれか。妙にえろかったよな」
山「主は肌が白いからな」
薬「そのうえどこもかしこも柔らかいからなぁ」
鯰「で、呑気な顔して触ってくるっていう。男としては堪ったもんじゃないよ、本当」
宗「気軽に手出しが出来ない相手ですからね。ああ、そういえば。肌の色で思い出したのですが、主が夏場に『鶴丸とは色んな意味で並びたくない』と言っていましたよ」
鶴「知りたくなかった驚きをどうもありがとうよ!」
和「だははは! じいさん白くて細いからな! あ。それで思い出した。似たようなことならオレも経験あるぞ」
鶴「お? なんだなんだ?」
和「その日は厨当番だったからよ、野菜の下拵えしてたんだ。そしたら茶を汲みに来た主がオレの腕を見て『和泉守ぐらい身長が高いと腕もそれなりに太いのかな?』つって自分の腕と比べてきたんだよ」
宗「は? まず比べ物にならないでしょう。男と女ですよ?」
和「だよなぁ。オレも『何言ってんだ』と思ったんだけどよ、主はいつも自分のこと太いだの何だの言ってるだろ? それを抜きにしても鍛えてる分オレの方が太いに決まってんだが、本人は妙に感動してたんだよな」
薬「骨格も筋肉の付き方も違うから比べるまでもないんだがなぁ。その辺大将はよく理解してない気がするのは確かだぜ」
宗「はあ……。本当に困ったお人ですね」
薬「だがな、大将の言い分も分からなくはねえんだ。確かに健康診断の基準として渡された資料と比べりゃ重い。だがその“標準”って奴も胸や尻の大きさについては言及されてねえのさ」
五「え? そうだったんですか?」
薬「おう。だからなぁ、俺からしてみれば『目安』にするのは構わんが、それが絶対の『正解』ではないと言いたい。何せあれだけ立派なもんを持ってるんだぞ? 重くもなるだろ」
後「た、確かに……。大将、デカかったよな」
鶯「零れるかと思ったが、零れなかったな」
平「う、鶯丸様! もう少し慎んでください!」
鶯「ははは。すまん。だがこう……俺の手の平に程よく収まるような感じが……な?」
山「太刀の手で丁度いい、ということは、つまり……」
和「……まあ、確かにデケエよなぁ……」
鯰「しかもちょっと上から覗くだけでだいぶ見えましたよね。おっぱい」
前「な、鯰尾兄さん!」
宗「僕たちからしてみれば常にそれが見えたわけですよ。気が気じゃないったら……」
燭「本人は『日向陽さんの方が大きいから』って言ってたけど、正直自分たちの主を目で追うのが普通だよね」
長「むしろそれぞれ護衛がついていただろう。気にする必要があるか?」
加「そうそう。それに日向陽さんは“見られる”ことに慣れてたじゃん。でも主はさー……」
日「照れまくってたなぁ」
髭「それがまた妙に厭らしい気持ちにさせられるよね」
鶴「はあ〜、まったく羨ましい限りだぜ。あの魅惑の乳を好き放題出来るなんてなぁ」
同「一度でいいから揉んでみてえよな」
歌「同田貫! 手を動かすな!」
長「不敬だぞ貴様ら!」
乱「でも皆の言い分も分かるなぁ〜。ボクだって男だし! それにさぁ、あのスカートも絶妙だったよね。後ろは絶対見せないようになってるのに、前は結構短くてさ」
前「ゴホン。た、確かに、乱の衣装とは似て非なるものではありましたね」
五「えっと……風がふいたら見えそうで……ドキドキしました……」
典「ああ……。太ももがな……」
鬼「お前、案外俗だな」
鶴「分かるぞ、大典太! あの太ももがいいんだよな! 主は嫌がっているが、俺や宗三みたいな奴からしてみればあれぐらい肉がついていた方が触り心地がいいに決まってる!」
宗「ちょっと。僕は何も言っていませんが」
鶴「ん? じゃあきみは嫌いなのか? 主の太もも」
宗「……嫌いとは言っていないでしょう」
日「だははは! お綺麗な御刀様もやっぱり男だなあ!」
宗「うるさいですね。そういうあなたはどうなんです? あれだけ主に尊敬の眼差しを向けられている身としては、やはり罪悪感でも抱きますか?」
日「まあなぁ。だがそもそもの話、俺は主のことを“女”というよりも“可愛い嬢ちゃん”って感じで見てるぜ。何せ返さなきゃならん恩義があるからな。“女”ではあるがそう言う目で見ちゃいねえし、今後も見るつもりはねえよ。第一んな目で見られるか。子供みてえな純粋な目で見て来るってのによ」
長「フンッ。何を当たり前のことを。貴様は主に助けられたんだ。忠義を捧げて当然だろう。……しかし主はご結婚された身。横恋慕は道理に反する」
三「うむ。だが我々は刀と言えど男。特に人の身を得て一層その感覚が強くなった。なればあの肌に埋もれたいという欲求は自ずと生まれよう」
鶯「ああ。一度でいいから素直に甘え、縋ってもらいたいものだ」
歌「よく言うよ。いつも主に『鶯丸さんが淹れてくれたお茶は美味しい』と言われているくせに」
鶯「はは。そうだな。だが主は自分から『茶を淹れてくれ』と言いに来たことは一度もない。そういう意味では堀川や燭台切が羨ましいぞ」
掘「え? あ、そう言えばそうですね。主さん、たまに『お茶淹れて貰える?』って言いますけど、鶯丸さんには言っている姿見たことないですね」
三「主はどれほど親し気に言葉を交わそうとも、我々に対する敬いの心を忘れておらぬからな。年嵩の我らには遠慮しているのだろう」
鶴「それはあるだろうな。そう考えると、主が素直に甘えるのも縋りつくのも陸奥守だけか」
鯰「たまに小夜くんが抱きしめられてますけど、あれは甘えるのとはちょっと違いますもんね」
小「はい。どちらかというと、僕が甘やかされています」
江「主は、小夜を大事にしてくださっていますからね……」
乱「愛だよねえ。あるじさんと小夜くんって、陸奥守さんとは別の意味で『相思相愛』って感じがする」
小「畏れ多いです……」
日「だが他の刀に譲る気はねえんだろ? 主の“懐刀”って立ち位置をよ」
小「はい。僕が折れない限り、主が僕を“いらない”と言わない限り、絶対に譲りません」
日「はは! いい目だなぁ、小夜」
薬「そういう意味では大将の結婚式に“懐剣”として選ばれたのは羨ましかったぜ?」
乱「あ〜! それすっごい思った! 羨ましい〜! って!」
秋「でも、主君が小夜くんじゃなくて他の誰かを選んでたら、疑問を抱いたと思います」
五「はい。あるじさまに選ばれたい気持ちもあるけど……。でも、やっぱり小夜くんを大切にしているのがあるじさまだから……」
典「主の白無垢姿は……よかったな」
鬼「……お前もそういうことを思うんだな」
典「当たり前だろう。主の結婚式だぞ」
鬼「そんな目で言われてもだな……」
乱「でもほんっと綺麗だったよねえ〜! はにかむあるじさんもすっごく可愛かった!」
加「分かる〜! 俺泣きそうになったもん」
堀「なんか噛みしめちゃいましたよねぇ」
鳴(狐)「鳴狐も堀川殿も、初期からこの本丸を支えてきましたからね。感動もひとしおでしょう」
鳴(本)「うん。綺麗だった」
三「うむ。まこと、良き式であった」
鶴「ああ。惚れた女でもあり、可愛い娘でもあり、守るべき主でもあり……。いやはや。あそこまで胸を打つ人の姿を見たのは久しぶりだった」
燭「綺麗だったよねぇ。彼の神々が衣装や小物をご用意なさっている、と聞いた時は冷や冷やしたけど、そんな杞憂が全部吹き飛ぶぐらい綺麗で、見惚れちゃった」
五「は、はいっ! 僕も、感動しました……!」
鶯「そうだなぁ。かつて素顔を見た時は化粧っ気がなかったから油断していたが、着飾った女性はああも美しくなるのだということを忘れていた。いや、うん。実に良い時間だった。大包平がいないことが悔やまれるほどにな」
平「はい。まるで雪の精のようでした」
前「ですが笑った顔はやはりあたたかみがあって、見ているだけでも幸福な気持ちになれました」
薬「ああ。本当にな。本来神々が手掛けた衣装となれば派手になるもんだが、火神のような派手さはなく、白磁のような生地に緻密な織目、繊細な刺繍と、素手で触れたら溶けちまうかと思ったぜ。ま、大将は相変わらず無邪気だったがな」
鯰「あはは! 言えてる」
髭「うんうん。本当、綺麗だったよねぇ。でも、これだけ沢山の神に愛されているのに、どうして主はあんなにも自分を卑下するんだろう。ここまで好かれる人の子はそういないのに」
小「その……主は子供の時に色々と……周りに酷いことを言われたらしいので……」
長「なに? それは初耳だぞ」
宗「誰しも話したくない過去はあるでしょうが、あの人にもそんなことがあったんですね」
長「主を傷つけた輩がいるのであれば今すぐそいつらを探し出してへし切ってやりたい」
宗「ですが、まずは何を言われたのかが気になりますね。まあ現状を鑑みるに、容姿のことをとやかく言われた可能性が一番高いですが」
鶴「愛らしい顔立ちだと思うがな」
三「うむ。日向陽嬢のような華やかさはないが、笑った時の顔は一等眩しい」
山「向日葵のようで、好ましいと思う」
典「雀のようで、愛らしいと思うが……」
加「あ。それで思い出した。この間百花さんのところの長曽祢さんがさー、主を見て『団子屋の看板娘みたいだな』って言ったんだよね」
和「だははは! 言い得て妙だな!」
掘「なんか分かるなぁ。団子が不味くてもあの顔を見たくて通いたくなる感じ、確かにありますよね」
鶴「なるほどなぁ。それで団子屋の親父が『俺の目が黒いうちは嫁に出さん!』って言うんだろ?」
和「そんな大事な一人娘が恋をしたのは田舎侍っつーな」
歌「うん? なんだか物語が出来上がっているな?」
山「最終的に振られた男たちが揃って泣き喚くんだろう?」
髭「ついでに嫉妬で鬼になる男も出てきちゃったりして」
鬼「団子屋が潰れる未来しか見えんな」
烏「ほほほ。娘が幸せになるならば、父も認めざるを得ぬであろうな」
物「そうして出て行った娘さんが、次に現れるのは子を抱えた時、って感じですかね?」
鶴「あ〜、産まれたか〜」
後「その場合どっちに似るんだろうな? ほら、昔から女の子は父親に似る、って言うだろ? 陸奥守さんに似た女の子が生まれるかもしれない、ってことじゃん」
和「ぎゃーっ! きっもちわりい!」
加「うげーっ。主が生んだならちょっとは主に似てるだろうけど、完全に陸奥守似だったらちょっと憎らしく思っちゃうかも〜」
長「どちらに似ていようと主の血が混ざっている時点で全力でお世話するのみ!」
宗「まあ……産まれたということは、産まれるための“なにか”をした。という証左にもなるのですがね」
鬼「結局そこに戻ってくるのか……」
鯰「あー。それで思い出したんですけど、俺、主の喘ぎ声聞いたことあります」
日&長「ブフッ!」
宗「ちょっと! 揃ってお酒噴き出さないでくださいよ!」
長「ゲホッゲホッ! な、なんだと?!」
鶴「驚いたな。鯰尾もあるのか」
宗「む? その言い方だと鶴丸も覚えがあるんですね?」
長「まさか貴様、覗き見たわけではないだろうな!」
鶴「待て待て! 誤解だ! 流石にそこまで分別がない男じゃないぞ、俺は! 偶然だ偶然!」
鯰「俺だってそうですよ! 聞きたくて聞きに行ったわけじゃないです! まあ、確かに『主ってこんな声で喘ぐんだ』って思ってちょっとドキドキしたけど」
薬「ドキドキしたのか、兄弟」
乱「ていうか、何でそんな状況になったの? あるじさんと僕たちの部屋って離れてるのに」
鯰「たまたまだよ。その日は俺と大倶利伽羅さんが夜回り当番でさ。夜目と小回りが利く俺が主の部屋がある方向を見回ってたわけ」
薬「成程。その時に聞いちまったのか」
鯰「最初は幽霊かと思ってヒヤッとしたけどさぁ、すぐに陸奥守さんの声が聞こえてきて『あ。これヤってる最中だ』ってピンときた」
加「ブッハ! あいつ声デカそうだもんね」
数「そうですか? 以前の本丸にいた彼よりはかなり抑えられていると思いますが……」
蛍「うん。数珠丸さんの言う通りだよ。前の主さんの所にいた陸奥守は声デカかったもん。常に走り回ってたし、毎晩お酒飲んでは酔っぱらって、騒ぎを起こしては長谷部とかに怒られてたよね」
亀「朝から晩まで元気だったよね」
後「俺たちもよく一緒に遊んでもらったけどさぁ、ここの陸奥守さんってあんまり飲まないよな。何でだ? 飲めないわけじゃないんだろ?」
薬「ああ、それはな、大将が飲めないから控えてるんだよ」
長「主は飲めないだけでなく、匂いだけでも気分が悪くなるからな」
後「え?! そんなに?! でも式があった日は飲んでたぜ?!」
乱「あれは竜神様たちが特別に作ってくれたお酒だからだよ。普通のお酒はあるじさん体に合わないの」
三「うむ。零れた酒が肌に掛っただけでも赤く染まるからな」
後「マジでか……。んじゃあ、そう考えると陸奥守さんの大将への思いってデカイっつーか、強いんだな」
蛍「自分の好きな物より奥さんの体調を優先するんだから、相当な愛妻家だよね」
鶯「だが、そのぐらいしてもらわないと主は渡せんな」
平「はい。主様の建康を害するようであれば、幾ら夫婦と言えど家庭内別居を提案させてもらいます」
加&鶴「家庭内別居(笑)」
物「でも、そうならなかったということは皆さんお認めになっている、ということですね!」
亀「だよねぇ。実際、彼は落ち着いているし、ご主人様も頼りにしている。本人も皆に刺されないよう、気を引き締めているんだろうね」
加「あー……まあ、そう、ね。そういう意味では確かに、他所の本丸とはだいぶ性格が違うかもね」
和「言われてみりゃそうだな。たまに演練会場でうるせえのを見つけるとイラっとくるが、アレこっちが慣れてねえからか」
乱「うーん、ボクはそこまで気にしたことなかったけど、ようは『大人しい』ってこと?」
日「ありゃ大人しいっつーより達観してる、と言った方が近ェ気がするがなぁ」
数「時に、彼は一歩引いたところから全体を見ているような態度を見せますからね」
鳴(狐)「陸奥守殿は我々が経験した事のないことを沢山経験されておりますから」
鳴(本)「すごい」
宗「ゴホン。陸奥守の話はもういいんですよ。嫌ってはいませんがもてはやしたいとも思いませんので。なので話を戻します。結局のところ、鯰尾。どうだったんです? 主の声しか聞こえなかったんですか?」
乱「意外とこういう話食いつくよね、宗三さんって」
宗「僕だって男ですから」
鯰「あははっ。そうですね。どちらかと言えば主の声の方がよく聞こえましたよ。でもほら、声の高さとか状況とかあるじゃないですか。あとは俺が主の声ばっかり聞き拾っちゃった可能性もあります」
全「あ〜」
燭「それは仕方ないね」
三「うむ。男の性故な。女の艶めかしい声に反応するのは当然よ」
鶯「男の声には反応したくないな」
薬「それじゃあ鶴丸の旦那はどういう状況で大将の声を聞いたんだ? 兄弟と同じか?」
鶴「いや。ちょっと違う。だが意図せぬことだったのは一緒だ」
宗「ほお。ただの偶然だったと」
鶴「ああ。見回りをしていたところまでは同じだがな。ただ珍しく着物を着崩した陸奥守が厨に現れてなぁ。髪も乱れていたし、全身汗だくだったから嫌な夢でも見たのかと思ったんだ」
燭「あ、そっか。陸奥守くんも火災の被害にあってるからね」
宗「成程。それで鶴丸は気にしたわけですか。存外気遣い屋なあなたらしいですね」
鶴「ははっ。若い奴らの面倒を見るのが年寄りの楽しみなのさ」
和「ま、その場にはオレもいたけどな」
掘「え? そうだったの? 初耳なんだけど」
和「言いふらす内容でもねえだろ」
宗「それで? どうしてそうなったんです?」
和「ああ。その日はオレと鶴丸のじいさんが夜回り当番でよ。小腹が空いたから何かねえかと二人で厨に入ったんだが……」
歌「ほう? たまに食材が減っているから鼠でもいるのかと思っていたが、こんなにも大きな鼠がいたとはな」
和「ご、誤解だ之定! オレは普段盗み食いはしてねえ! つーか話しを戻すぞ! えっと、だからよ。普段滅多に見ねえ状態のアイツがいたから、じいさんが『後をつけてみよう』って言って勝手に追いかけたんだよ」
鶴「幾ら一目置いている刀とは言え、俺からしてみればまだまだ若造だからな。体調が悪いようであれば面倒でも見てやろうかと思ったんだ。ほら、アイツはそういうことを言わないだろう?」
薬「成程。珍しく善意百パーセントだったわけか」
鶴「珍しいとは心外だな」
鶯「否定出来る要素がないから仕方ないな」
鶴「ぐぬっ」
掘「えっと、つまり、陸奥守さんを追いかけてみたら主さんの声が聞こえちゃった、ってこと?」
和「おう。一回ヤった後なのかどうかは知らねえが、水を取りに来たみたいでよ。ふにゃふにゃした主の声が聞こえて来て『これはやべえ』と思って逃げようとしたんだよ」
長「逃げようと“した”? では結局その場から動かなかったのか?」
鶴「いや〜、偶然とはいえ主の“あんな声”を聞いてしまったからなぁ。つい好奇心が……」
鯰「意外と可愛いんですよ。主の喘ぎ声」
鶴「まだ抱かれ慣れてないからだろうな。時々いつもと変わらぬ悲鳴も聞こえたが、総じて愛らしかったぞ」
加「ガッツリ聞いてんじゃん」
和「うるせえ。下手に動いたらバレそうで動けなかったんだよ」
鶴「ははっ。二人して動けるようになった後厠に直行したのはいい思い出だな」
加「最低!」
和「だっ……! しょ、しょうがねえだろ! 普段あんな色気のねえ主が、あんな声出すとは思ってなかったんだよ!」
鶴「やだやだ言っているのがまた可愛くてなぁ……。正直“間男になるのもありか”と思ってしまう程度には興奮した」
鶯「だいぶじゃないか」
三「ははっ。陸奥守か主にでも告げ口してやろうか」
鶴「おっと。まさか内部に裏切り者がいたとは」
宗「はいはい。戯れもほどほどに。それで? 主の声を聞いたことがあるのは鶴丸と和泉守、それから鯰尾だけですか?」
同「羨ましいもんだな。夜回りの時あっち側見て回れば聞けんのか?」
前「いえ。今後は僕たち短刀がそちら側を見回り、警護致します」
平「はい。主様の心の安寧は我々が守ります」
同「硬ェこと言うなよ。つーかよ、普段あんなでも、やっぱり最中は“女らしい”もんなのか?」
鶴「ああ。ずっと聞いていたわけではないが、それでも暫く忘れられないぐらいの色気はあったぞ」
和「……まあ、今でも夢で思い出すことはある、な」
加「めっちゃ反応してんじゃん。やーらし〜」
和「しょうがねえだろ! 生理現象なんだからよ!」
掘「でも兼さんが反応するって、相当なことでは……?」
歌「どこに衝撃を受けているんだ、堀川。ところで和泉守。盗み聞きとは雅じゃないな」
和「だから偶然だって言ってんだろ?! オレだって聞きたくて聞いたわけじゃねえよ!」
同「けど興奮して厠に直行したんだろうが」
和「だっから生理現象だって言ってんだろ!」
加「じゃあ今日の主の格好を見て何も思わなかったわけ〜?」
和「うぐっ! そ、それは……!」
鶴「俺はあの時のことを思い出してムラっときた」
和「なに正直に暴露してんだあんたは!」
鶴「ははは。なに、当人たちがいないから無礼講だろう」
日「無礼講の使い方を間違っている気もするが……。まあ、男所帯にいれば自然とこういう話は出て来るもんだな」
長「しかし対象が主というのは不敬極まりない」
宗「どの口が言っているんだか」
乱「でもほんっと、今日のあるじさん可愛かったよね〜。百花ちゃんも可愛かったけど、やっぱり照れてるあるじさんの可愛さがボク的にはグッと来たというか」
三「あの恥じらう姿が男心をくすぐるのだが、主はまったくの無意識でやるのだから恐ろしいものよ」
烏「うむ。我らの前の主は意図的にそういう顔もしていたが、下心が透けて見えてなぁ。あまり気分がよいものではなかった。だが今の主は幼気で純真故、愛でたくなったぞ」
髭「うんうん。本気で恥ずかしがってたよね」
鬼「そんなに嫌なら脱いでしまえばいいだろう。と思わなくもなかったが、人付き合いという奴なのだろうな」
薬「大将は男も女も関係なく好かれるからなぁ。変なところで損をするんだ」
宗「ですが、あの衣装も今頃陸奥守が脱がしているんでしょうね。ずっとギラギラした目を向けていましたから」
後「露骨だったよなぁ。っていうか、陸奥守さんって言葉では語らないけどすげえ目で語ってくるっていうか、訴えてるよな」
乱「も〜、違うよ。そうじゃなくて、漏れ出てるんだよ。あるじさんへの愛が」
宗「どちらにせよ本人には伝わっていないようですけどね。その辺、主が鈍くてよかったと思いますよ。あれでは主が焼け焦げてしまいます」
五「た、確かに……。ずっと見てましたもんね……」
同「むしろ目ェ離してる時あったか?」
倶「なかったな」
山「ああ。なかった。ずっと見てた」
髭「それに気付かない主って本当にすごいよね。どこまで鈍感なんだろう? って不思議に思っちゃった」
鬼「鈍感もあそこまで行くと呆れを通り越して感心する」
典「そういえば、今日の暴露大会のくじを引く時に主が前屈みになっただろう? あれは、目のやり場に困った」
山「ああ……。あの時は、すごかったな」
同「おう。主の乳にも目が行くんだけどよ、途端に殺気が飛んでくるんだよな」
乱「“それ以上見るのは許さん”って気持ちがすごい伝わってきたよね」
三「いっそ愉快になるほどだったなぁ」
鶯「ああいう姿を見ると、あいつもまだまだ青いというか、若いなぁ。と思うな」
平「実際、陸奥守さんはまだお若いですからね」
前「ですが主君の信任も得ていますし、古き神もお認めになられています。期待をかけられているのは同じ本丸で戦う仲間として誇らしい限りです」
三「うむ。そうだな。だが実際どこまで許されているのだろうな? あの男は」
秋「と、言いますと?」
薬「ああ。夫婦の営み然り、普段の職務然り。夫婦になろうと水神の寵児である以上、大将の方が立場が上だ。だから水神がどこまで許しているのか、ちょっと気になるところではあるな」
三「うむ。夫婦の営みも、傍から見れば主を押し倒し、無体を働ているようにも見える。『嫌よ嫌よも好きのうち』という言葉はあるが、主が本気で嫌がれば陸奥守はどうするのだろうな」
五「陸奥守さんはあるじさまのイヤがることはしないと思いますが……」
鶯「どうだろうな。男は皆獣だぞ?」
三「然り。故にどこまでが許されるのか、個人的に興味はある」
烏「ほほほ。好奇心旺盛な子たちよな」
髭「気になるなら覗けばいいのに」
宗「イヤですよ。あの男と主がイチャイチャしている姿なんて見たくありません」
鯰「というか、普段からイチャイチャしてますからね、あの二人」
乱「でもさー、ハッキリ言うと陸奥守さんがグイグイ行き過ぎてるんだよ。あるじさん反応がいいから揶揄いたくなる気持ちは分かるけど、たまに意地悪だよね」
前「はい。主君は逃げている方ですからね」
平「ですが言葉で口説くのは主様の方が圧倒的に多いので……」
小「うん。だけど主は素直に想っていることを口にしているだけだから、口説いている自覚はないと思います」
宗「はあ……。本当に手に負えませんね。あの人」
髭「いいなぁ。僕まだ口説かれたことないや」
典「日頃一緒にいないからだろう」
髭「ん? うん。そうだなぁ。それもあるけど、主の周りには常に誰かいるからね。休憩時間は夫婦の時間なんでしょ? 邪魔するのは悪いと思って、結局時間が合わないんだよね」
宗「おや。あなたそういうの気にする質だったんですね。てっきり構わずに行く方だと思っていました」
髭「そりゃあ行こうと思えば行けるけど、水神のお膝元だからね。多少は気にするさ」
烏「うむ。朝晩の祈りを欠かさず行う娘を、水神殿も父として神として見守っておるだろうからな。恩寵を賜っている以上、礼儀は弁えねばならぬ」
鬼「ここでの暮らしに慣れると、外で飲み食いする飯が不味くて敵わん」
加「それ分かる〜。外食して初めて知ったけど、本当うちの水美味しいよね」
鶯「そうだな。店で飲む茶は総じて舌に合わないと思ったものだ」
平「はい。ですが茶葉を購入してここで淹れると、すごく美味しくなりますよね」
燭「うんうん。やっぱりお水が綺麗だからね。お野菜もすごく美味しくなるから、百花さんや夢前さんたちの本丸でも好評なんだよね」
小「そういえば、取り合いになるって聞きました」
同「つーか今日の宴で実際取り合ってたぜ」
宗「ええ。『野菜なのにうまい』と目を輝かせていましたね」
日「酒の代わりに茶を出された時は次郎も微妙な顔してたが、一口飲んですぐに目を丸くして飲み干したのには笑ったぜ」
秋「よっぽど美味しかったんですね!」
鯰「だってただのお水と違って神気が混ざってるからね」
蛍「飲むだけで清められていくんだから、本当規格外だよね。高位の神様ってさ」
日「そんな高位の神が二柱も目を掛けているのが主、ってのもまた規格外なんだがな」
数「ですが、それだけ主は穢れなきお人だということです」
江「はい。人を疑うことを知らないのは、少々危険かと思いますが」
後「そこはオレたちが補佐してやればいいよな!」
加「そうね〜。主にはさー、あんまり汚いことやって欲しくないし、見て欲しくもないよ」
堀「だね。でも、主さんはこの戦いに参加すると決めた時点で自分の手を汚す覚悟はしたみたいだから。その気持ちだけは大事にしてあげないとね」
和「喧嘩も血も苦手な癖に、責任感と負けん気だけは一丁前だからな」
同「ああ。俺を第一部隊の副隊長に任命した時によ、言われたことがあるんだ」
乱「え? なになに?」
同「無茶しがちな陸奥守を引きずってでもいいから必ず連れ戻して来い、ってな」
小「ああ……。なるほど」
同「おう。作戦やらを考えるのは陸奥守が率先してやるから、俺は敵陣に突っ込むだけでいい。だが自分を犠牲にしがちなバカを力づくで連れて帰って来れる奴は当時少なかったからよ。だからそれが副隊長のもう一つの仕事だ、って言われたんだ。実際、隊員の面倒を見るより、妙なところで頑固なアイツを連れ帰る方が大変だろ? だから俺みたいな奴が必要なんだ、って言われて納得した」
鳴(狐)「確かに! 陸奥守殿は無茶をなさります」
鳴(本)「心配」
蛍「ふぅ〜ん。じゃあ第二部隊はどうなのさ。隊長は小夜でしょ? 副隊長は?」
和「第二部隊の副隊長はオレだ。ただオレの場合は小夜が周りを見えなくなった時に引っ掴んで帰還する役目と、隊員の様子を見て隊長に報告する役目の二つがある」
日「へえ。意外と真面目だねえ」
和「るっせ。元の主も副長だったからな。部隊長の補佐役としての立ち回り方を一から教えなくてもいいだろう。と思ったんだろうよ」
堀「で、その背中を守るのが僕です!」
加「そうそう。だから連携取れてるよね、第二部隊はさ」
鶴「第一部隊は出陣先によって入れ替わりが激しいからな」
江「向き不向きがありますからね……」
鯰「適材適所とも言いますよね! 夜戦や室内戦では短刀と脇差が効率よく戦えますから」
和「ま、隊長殿が近似の時は繰り上げで副隊長が隊長になるか、別の奴が隊長に任命されたりもするから一概には言えねえがな」
髭「おや。そうなのかい?」
和「ああ。ずっと副隊長やってるとな、補佐に慣れてくるんだよ。ま! たまには隊長やってもいいけどな!」
堀「よっ! 兼さん日本一!」
加「はいはい。程々にね」
山「俺はあまり隊長には向いていないから、作戦立案が得意な奴が隊長になった方が負傷率が減っていい」
五「は、はいっ。それならあるじさまも、心配しないと思います」
小「主は、優しいからね……」
歌「そうだね。主の泣き顔は、見たくないものだ」
鶯「女の泣き顔を見るのは閨の中が一番だ」
歌「ああもう! 折角いい流れだったのに! まったく雅じゃない!」
鶯「ははは!」
宗「ところで、この後あの夫婦が食事を取りに来ると思います?」
同「来ねえだろ」
燭「時間通りには来ないだろうねえ」
長「かといって呼びに行くわけにも……」
巴「ダメなのか?」
長「当たり前だ! 陸奥守はどうでもいいが、主を辱めるわけにはいかないだろう!」
日「適当に夜食でも用意してやりゃいいんじゃねえか? 腹が減ったらそのうち食いに来るだろ」
鯰「もしくは陸奥守さんが取りに来ますよ。ていうか、陸奥守さんに抱かれた後って主立てるんですかね?」
乱&加「あ〜……」
山「あのガタイだからな……」
日「主はちっせえからなぁ」
乱「そもそも、陸奥守さんが部屋から出さないと思う」
全「あ〜」
三「うむ。乱の言うとおりだな。アレは存外独占欲が強い」
薬「普段はおおらかだが、大将が絡むとなぁ」
蛍「良くも悪くも主さん第一、って感じだもんね」
長「それが普通だろう」
亀「うんうん。ご主人様第一なのは普通だよね」
加「二人が言うとなんか重く聞こえるよね」
和「お前が言うな」
歌「はあ……。仕方ない。何か用意しておくか」
燭「どうせならお弁当箱にでも詰めてあげようか」
薬「陸奥守の旦那は笑って許してくれそうだが、大将は羞恥心が限界突破して部屋に引きこもるかもしれねえぞ?」
加「あ〜、ありえる。主照れ屋だから」
堀「じゃあさりげなく作り置きを冷蔵庫の中に入れておくとか!」
宗「さりげなく、の基準がよく分かりませんね。皿に盛って分けた時点でもう“さりげなさ”は消えている気がしますから」
江「部屋の前に書置きを置いておくとか……」
小「だったらもう僕が持って行った方がいい気がする……」
秋「そうですね。僕たちが行けば主君は亀さんになってしまうと思いますが、小夜くんだったらお部屋に入れてくれるのではないでしょうか!」
前「小夜隊長は主君の懐刀ですからね。陸奥守さんも許容なさっていますし、その線が一番主君への負担が少ないかと」
平「はい。頃合いを見て伺うのが良いかと思います」
鶴「あ〜、こうして話している間にも陸奥守はあの服を脱がせているかもしれないのかぁ」
鶯「羨ましい男だな」
江「嘆いてもどうにもなりませんよ」
小「二人の邪魔をしに行くなら、僕が全力で止めます」
三「ははは。小夜が敵に回ると恐ろしいからな。俺は大人しくしていよう」
鶴「お前は本当に薄情な奴だな。少しは乗ってくれてもいいだろう」
三「鶴丸が仕置きされる姿を見るのは楽しいが、仕置きされる側になるのは御免なのでな」
鶴「こーの正直者め」
燭「あははっ。それじゃあ何か適当に見繕って作っておくとするよ」
堀「僕も手伝います! 僕たちが出来ることってこれぐらいですしね」
加「だね〜。それじゃあ下ネタ会終わり! いい加減皆も風呂入って寝な」
小「皆が主の部屋に近づかないよう、僕たち短刀が見張りに立ちます」
江「では、私はその補佐を」
数「ならば私もお供致しましょう。睦まじき夫婦の仲を引き裂くなど、看過出来ませんから」
長「おい、巴形薙刀」
巴「ん? なんだ。へし切長谷部」
長「ここでたむろしているデカブツ共を風呂に追い立てるぞ。いつまでも酒盛りされては本丸の維持費にも影響が出るからな。主の補佐をしたくば、相応の働きと頭の回転を見せろ」
巴「なるほど。承知した」
日「ったく、言われなくとも自分で歩くってんだよ」
長「だったら早く行け! ほら、古刀共もだ」
烏「ほほ。しっかり者の子よな」
鶴「分かった分かった。分かったから押さないでくれ」
鶯「やれやれ。忙しないなぁ」
三「ははは。締まらぬ宴会だったなぁ」
鬼「はあ……。一人でゆっくり浸かりたいのだがな」
典「大所帯にいるんだ。諦めろ」
髭「お風呂はいいよねぇ。たまには柚とか浮かべようよ」
歌「それはまた今度だ。いいから早く着替えてくる!」
乱「は〜い」


こうしてハロウィンパーティーの夜は更けていきましたとさ。

おしまい。



※因みに夢前が『A』水野が『D』日向陽が『E』です。サーセン。



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