小説
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『強奪』


 一晩実家で過ごした翌日。昼前に帰宅した両親に警察と打ち合わせた内容を説明し、加害者との話し合いやら何やらは任せることにした。
 ただ不安にさせるのも悪いと思い、私が誰かに呪われていることも、そのせいで今回の事故が起きてしまったことも一旦伏せることにした。でないとまた母と言い争いになるからだ。
 それに嘘は嫌いだけど黙っているだけならまだセーフだと個人的には思っている。陸奥守も秋田もそこは同意してくれたので、表向きは「飲酒運転による事故」だと処理した。

 ――でも、今後も両親を狙ってこないとは言い切れない。そのためには何か対策が必要だ。だけど鳳凰様にまたお守りを強請るわけにはいかない。

 だってコレは私が原因で起きた事件であり、鳳凰様はご厚意でお守りを授けてくださっただけに過ぎない。私に仕えている刀剣男士とは違い、鳳凰様は何の契約もないうえに上位神だ。気安く頼ることも、ましてや命令することなど出来るはずがない。泣きつくのも論外だ。
 今回は有り難くご厚意を頂いたけれど、甘えてばかりではいられない。何も出来ない子供だったならそれでも許されたかもしれないが、こちらはとうに成人した身だ。本当にどうしようもないレベルになるまでは自分の手足で足掻かなければならない。

 とはいえ、私自身に出来ることは少ない。お師匠様みたいに結界をはることなんて出来ないし、百花さんみたいに浄化出来るわけでもない。二人に頼めば退魔や破魔の札を書いてもらうことは出来るが、二人だって忙しい身だ。あまり頼ってばかりもいられない。
 だとしたら今の自分に何が出来るのか。

 トントン、と顎に手を当てながら考えていると、陸奥守が「主」と呼び掛けて来る。

「親御さんのことなら、大典太に頼んだらどうじゃろか」
「大典太さんに?」
「おん。大典太が主に渡したお守りは効果を発揮したろう? 鳳凰様ほどのお力はないかもしれんけんど、怪異から守るだけの力はあるき」

 言われてみれば確かにそうだ。大典太に頼めばお守りの二つぐらい用意してくれるだろう。でも、本当にいいのかな。彼が仕えているのはあくまでも“審神者”である私であって両親じゃない。勿論『命令』したら従ってくれるだろうけど……。あまり『命令』なんて使いたくはないんだよなぁ。
 とちょっと後ろ向きに考えていると、ポンポンといつものように優しく頭を叩かれた。

「何を気にしちゅうか大体は分かるけんど、そがぁに悩む必要はないぜよ。わしらはおんしの刀じゃ。同時に家臣でもある。おまさんの体だけでのうて、心も守るがは家臣の務めじゃ。必要な時は遠慮せず言いとうせ」
「でも、いいのかな? 大典太さん、困らない?」
「大丈夫じゃ。あの男はそこまで狭量じゃないきに」

 むしろ私のためなら喜んで作ってくれるだろう。と後押しを受け、一先ずは大典太に相談することを決める。これでダメならお師匠様にお願いしよう。
 そのため一旦本丸へと戻ることにした。両親は改めて陸奥守に頭を下げ、陸奥守も鷹揚に頷き、それを受け入れる。だけどここで一つ、陸奥守は両親に忠告をした。

「この件が落ち着くまではおんしらの娘を本丸に繋ぎとめることになるやろう。けんど、悪いようにはせんき、安心しとうせ」
「はい」
「おんしらも用がない限り家におってくれ。それが主のためにもなる。えいな?」
「分かりました」

 頷く父と、俯く母。多分、この件に私が関与することにいい感情を持っていないからだろう。だけどこれは私が解決しなければいけないことだ。でないと今度こそ何が起きるか分からない。だから早急にこの件を片付けないといけないんだけど――。

「母さん。お願いだから陸奥守の言うことを聞いて」
「……分かってるわよ」
「じゃあ何でこっち見ないの」

 陸奥守が以前言ったように、私は見た目は父に似ているけれど中身は母と似ている。だから母も人と話す時は相手の顔や目を見るのに、今は顔を上げることすらしない。
 まるで拗ねた子供みたいだ。だけど元々こういうところがある人だった。時折妙に子供っぽいというか。だから怒っても呆れてもいない。ただこのままだと後ろ髪を引かれる。だからこそ母の正面に立ち、その顔を真っすぐ見つめた。

「ねえ、母さん」
「………………」
「母さん」

 何も言わなければ何も伝わってこない。
 幾ら感知能力を持っていようと、それは心の声を聞くものでも悟るものでもない。だから「言葉にして伝えてくれ」と願えば、ようやく母はこちらを向いた。

「……あんたは、私の、私たちの大事な娘よ」
「うん」
「本当に、危険な目に合って欲しくないと思っているのよ」
「うん」
「…………でも、あんたは“行く”って言うんでしょ? いつもみたいに」
「うん」

 そう。私は“行く”。いつものように。両親の呼び止める声を、伸ばそうとする手を振り切って。本丸に帰る。それがどれだけ両親の心を傷つけるか分かっていても、もう引きこもることはしない。出来ない。
 だって逃げたところで相手は私を殺そうと手を尽くすだろう。あるいは何らかの損害を与えに来るかもしれない。今回の事故のように。それを分かっていながら大人しくしているなんて出来るはずがない。

 だから戦う。戦いに行く。それが私を待ってくれた――今尚支えてくれる三十振りと古き神々に出来る、覚悟の示し方だから。

 心配する母には心底申し訳ないと思いつつもしっかりと頷き返せば、母はクシャリと顔を歪めて再び俯いた。

「お母さんの気持ちも知らないで……!」
「分かってるよ。母さんが私のこと心配してくれていること。それから、ものすごく不安と不満を持っていることも。……ちゃんと分かってる」

 だけど、いつまでも母に守ってもらえる子供でもない。皆いつかは成人して、大人になって親元を離れていくのだ。例え親からしてみればいつまで経っても“可愛い子供”であろうとも、旅立つのが子供の役目だ。幾つになっても寄生するような愚かな女だったら皆に『主』なんて呼ばれない。呼ばせたりしない。
 だから旅立つと決めた時には潔く飛び去らないといけないのだ。お互いの心残りにならないように。いつか、二人が胸を張って「自慢の娘だ」と言えるように。

「いつも心配かけてごめん。だけど、私は行く。行くし、前に進むよ。いつまで経ってもここにはいられないから」
「――ッ」
「でもね。母さんが嫌いなわけでも、父さんが嫌いなわけでもないよ。ただ私が“そうしたい”からそうしているだけ。危ない仕事だって分かってる。でも、誰かがしないといけない仕事なら、それに選ばれたのが私なら、ちゃんと責任を持って最後まで勤めたいの」

 周囲がどう思っているかは知らない。分からない。それでも私にだって守りたいものがある。人がいる。だから、そのためなら、怖くても前に立つぐらいの勇気は持てる。力がなくても――いや。力がないからこそ、心だけでも折ってはいけないのだ。
 それをこの数年間で学んできた。培ってきた。だから余計に逃げるわけにはいかない。

「大丈夫。だから、信じて待っていて」

 あなたの娘がそう簡単にやられる女じゃないってこと、ちゃんと教えてあげるから。

 そんな強気な発言を敢えてしてみせれば、母はようやく顔を上げ、悔しそうに鼻を鳴らした。

「あんたもお兄ちゃんも、いっつもお母さんたちを置いて行くんだから」
「ははっ。そうかもね。でも、ちゃんと母さんと父さんが“ここにいる”って分かってるから、私と兄ちゃんの帰りを“待ってくれてる”って信じてるから、好き勝手に飛びだせるんだよ」

 ――帰る場所がある。

 それが、どれだけ大切で大きなことか。本丸を持つとよりよく分かる。
 確かに刀剣男士の皆は私にとってとても大切な“家族”で“神様”だけど、本当の意味で『帰る場所』である“家”ではない。あそこは“職場”であり、神々の住まう場所であって私の“家”ではないのだ。大切な家族が揃う場所ではない。
 だから『私が帰ってくる場所は二人の元なのだ』と伝えてやると、母はグスッと赤くなった鼻を鳴らした。

「……ちゃんと、無事に帰ってきなさい」
「ん! まーかせて!」

 元より死ぬ気はないから。だから力強く頷いて見せれば、今度こそ母は諦めたように息を吐いた後――少しだけ、笑った。

「行ってらっしゃい」
「ん! 行ってきます!」

 どうにか母の説得には成功したらしい。それに内心ほっとしてから父を見ると、父は既に私を送り出す気でいたらしい。穏やかで、それでいてどこか寂しそうな目をしたまま微笑むだけだった。

「気を付けて行ってきなさい」
「はい! 行ってきます!」

 両親には家の修復だとか加害者との話し合いだとか色々面倒事が待っているけれど、それ以上に心配の種がここにいるから。二人が五歳ぐらい老けこまないうちにさっさと片付けてここに帰ってこよう。そしてその時は今度こそ、ちゃんと陸奥守のことを「私の恋人です」と説明できるようにしておかないと。
 ……ちょっと照れくさいけどね。何だかんだ言って初カレだから。

「じゃあ行こうか」
「ん」

 言葉少なに頷いた陸奥守と、両親が帰って来た時刀に戻って貰った秋田を入れた鞄を持って自宅を出る。向かうのは勿論本丸だ。だからいつものようにタクシーを手配して乗り込んだのだが。

「……あの、これは?」
「ああ、それはですねぇ……」

 乗り込んだタクシーの助手席の背面に『このタクシーを見かけたらご連絡を』というお報せが下げられていた。内容を読めばどうにもこの一台のタクシーが昨夜から会社に戻って来ていないらしく、無線も携帯も繋がらないから困っているのだという。

「最後に連絡を取った場所が中心街だったもんで、事故に遭ったとしてもすぐに分かるとは思っていたんですが……」
「まだ目撃情報すらない、と?」
「そうなんですよ。ドライバーも勝手にどこかに行くような人じゃなかったからねぇ。一体どこに行ったのやら……」

 思わず陸奥守に視線を向ければ、いつになく真剣な表情で何かを考え込んでいる。だから今回の件に関りがあるのかもしれないと判断し、急遽行先を役所前から中心街へと変更した。

「本当にここでいいんですか?」
「はい。ありがとうございました」

 タクシーを降りたのは中心街の入り口付近だ。昼を過ぎたからか人通りも交通量も多い。夜もそれなりに人がいただろうに、目撃情報すら残さず一台のタクシーが消えた。それこそ、昨夜陸奥守が口にしたように『突然消えた』としか思えない。

「むっちゃん」
「おん」
「少し探ってみるから、少しの間秋田のことお願い出来る?」
「おう。任せちょけ」

 秋田の入った鞄を陸奥守に渡し、代わりに昨夜謎の影から切り取ったブレスレットを両手に持つ。そうして数度深呼吸をして息を整えてから目を閉じ、ブレスレットに残った残滓――『魔のモノ』の気配と同じものがないか周囲に意識を向けて探ってみる。

「うーん……。この辺ではない、かな?」

 今立っている場所の近くにはこれといった気配はない。我が家のようにもう残滓すら残っていない可能性もあるけど、念には念を、だ。
 こうなったらとことん歩き回ってやるぞ。と閉じていた瞼を開けると、珍しく眉間に皺を寄せた陸奥守がどこかを見つめていた。

「むっちゃん? どしたの?」
「……主」
「うん。なに?」
「ちょっと、あっちに行ってみんか」

 あっち。そう言って陸奥守が指を差したのは、高層マンションが集っている場所だった。普段なら滅多に近寄らない場所ではあるが、ただ『珍しいから』という理由で遠出を望んだりしないはずだ。こんな状況だし。観光を楽しむ、なんて口が裂けても言うはずがない。
 それに昨夜『黒幕の居場所を見つけた』的なことを言っていたから、何か心当たりがあるのかもしれない。

「いいよ。行こう」

 手がかりを探すためにも徒歩でマンション街へと向かう。道中様々な人とすれ違ったが、先日の同窓会で見た時のように黒い靄が人に張り付いている様子はない。
 あれは、やっぱりそーくんに憑いていたものが周りにも移ったのだろうか。それとも他にもいたのだろうか。身近に『魔のモノ』と関りのある人が。
 考えながらも歩き続けていると、ふいに陸奥守が足を止めた。

「むっちゃん?」

 そこはマンション街のすぐ近くで、周囲にはコンビニや駐車場、バス停などがある何の変哲もない一本道だ。だけど陸奥守はキョロキョロと周囲を見回すと、こちらを振り返る。

「主。この辺から何か感じんか」
「この辺? うーん……。ちょっと待ってね」

 人の気配が多いから邪魔にならない場所に移動し、それから目を閉じて意識を集中させる。すると何もないはずの道路から微かに“良くないもの”の気配を感じ、閉じていた瞼を開けて頷いた。

「あそこ。あの辺に違和感がある」

 指で示した場所はここからすぐの道路だった。現在は赤信号で止まっている車が列をなしているが、夜はもう少し交通量は減るだろう。深夜に近くなればもっと減る。だけどこの辺ならコンビニもあるし、タクシー一台が消えたとなれば誰かしらが目撃していそうなものだが。
 だけど相手は人知の及ばぬ『魔のモノ』だ。人の目を欺くなど容易いことなのかもしれない。

 陸奥守は私が示した場所をじっと見つめると、秋田が入った鞄をこちらへと戻し、一人でそこに向かって歩いていく。
 ついて来いと言われなかったので大人しくその場で待っていると、何かを探るように首を巡らせた後戻ってきた。

「おまさんの言う通りじゃ。この辺にわしが見つけた奴の気配がちっくとやけんど、残っちゅう」
「本当?!」
「おん。けんど、主の力で“視る”のも難しいやろう」

 私の目でも見えないとなると、僅かな気配しか残っていないのだろう。現に黒い靄のようなものは見えず、感覚的に『何か他とは違うものがある』という気がするだけなのだから。
 折角見つけた手がかりもこれでパアかぁ。と半ば落胆したものの、陸奥守から「せめて気配だけでも覚えていたほうがいい」と進言され、最も気配が濃い場所に向かって歩いていく。
 ――そんな時だった。

「うッ?!」
「主?!」

 突然頭痛がしたかと思うと、目の前の景色が“変わる”。
 だけどそれはほんの一瞬のことで、“視えた”ものも訳が分からない――真っ黒な影が目の前に迫りくる、というものだった。
 ただ異常なほどに背筋が寒くなり、咄嗟に支えてくれた陸奥守の体にギュッとしがみつく。

「何ぞ見えたがか?」
「う、ん……。でも、よく分かんない……。突然目の前が真っ黒になるみたいに黒い影が大きくなって、すぐに消えた。それだけ」

 だけど、もしそれがここでタクシーが“消えた瞬間”の記憶なら――。小鳥遊さんが、その消えたタクシーに乗っていた、ってこと?

「でも、どうして……」

 逃げるために黒い影の中に身を隠したのか、それとも何らかの事故、怪異に巻き込まれたのか。現状では何も判断が出来ない。
 だけどあの影、いや、闇? かな。とにかく背筋がぞっとするような、迫りくる恐怖が形になって目の前で口を開いた感じだった。
 思い出して身震いすれば、陸奥守の手が優しく背を撫でて来る。

「大丈夫じゃ。不安ならわしを見とうせ」
「ん……」

 俯かせていた顔を上げれば、真剣な眼差しでこちらを見下ろす太陽の瞳がある。そのあたたかな色を見ていると怯えて縮こまっていた神経もあたためられた気がして、浅くなっていた呼吸も落ち着いた。

「ありがとう」
「かまんぜよ。けんど、この程度の残滓でもおまさんの目は何かを“視る”とはのぉ……。予想以上に進んじゅう、ちことか」

 そっと目尻を撫でられ、陸奥守が言わんとしていることを察する。
 そうか。普通はこんなもの“視”えないのに、私はほんの少しの残滓でも何かを“視”てしまう。イコール力が強まっているということだ。

 本来ならば、人の身ならば持てない力。それが今以上に強くなればどうなるのか。
 …………あまり想像したくはない。

「けんど、これ以上の収穫はなさそうじゃ。本丸に戻るぜよ」
「うん。そうだね」

 通りがかったタクシーを陸奥守が止め、一緒に乗り込み今度こそ近隣のゲートへと向かう。そうしていつも通り我が本丸のIDを打ち込みそこを潜れば、丁度昼餉をとっていたらしい。皆が「主!」と声を上げた。

「ただいまー。遅くなってごめんね」
「それは構わないが……。大丈夫だったのかい?」
「大将、こっちは何もなかったが、そっちはどうだった?」
「主、陸奥守くん。お腹空いてない? お昼がまだならこっちで用意するけど」

 次々と話しかけて来る皆に「大丈夫だったよー」とか「じゃあお昼お願いしようかなぁ」と返事をする間にも、鞄に入れていた秋田を取り出し、神卸をする。

「秋田。お疲れさま。色々とありがとね」
「いえ、主君をお守りすることが僕の役目ですから!」
「ふふ。ありがとう」
「えへへ」

 秋田のふわふわした桃色の髪ごと優しく頭を撫でてやれば、途端にほんわかとした笑みを浮かべる。その笑みにも癒されていると、その間に陸奥守が「食後に会議を行うき、各自そのつもりで」と連絡してくれた。本当に仕事が早くて助かる。頼りになる初期刀様だ。

「オッケー。それじゃあ主と陸奥守くん、秋田くんは手を洗ってきてね。ご飯用意するから」
「ごめんね、光忠。ありがとう」
「気にしなくていいよ。美味しいご飯を食べて、一息つこう」

 笑顔であたたかい言葉をかけてくれる燭台切に再度お礼を言い、それから三人で手洗い場へと向かう。因みに御簾はゲートを潜る前に陸奥守が結んでくれた。
 なんか最近やたらとお世話されるんだよね。自分で結ぼうとしたら「わしが結んじゃるき」と言ってサクッと奪われてしまった。もしかして今まで結ぶの下手くそで見てられなかったのかな? 蝶々結び逆さまになってたとか? うわぁ……。それは流石に嫌だなぁ……。
 ちょっと悲しいことを考えていたら、隣で手を洗っていた秋田が首を傾ける。

「主君? どうされました?」
「いや、なんでもないよ」

 もこもことした泡でしっかりと指の間や爪の中、手首まで洗ってから広間に戻ると既にお膳が用意されていた。

「わあ。仕事がはやーい」
「大事な主を待たせるわけにはいかないからね。あ、でも急いで食べなくていいから。ちゃんと噛んで食べるんだよ?」
「ふふ。了解です」
「ん。それじゃあ僕と歌仙くんは手分けして部屋に戻った人たちに声をかけてくるから、必要があったら呼んで」
「分かった。ありがとう、光忠。歌仙さん」
「どういたしまして」
「構わないよ。それじゃあまた後でね」

 気遣い上手なうえに仕事も早い刀たちに頼りっぱなしで情けなさを感じるが、焦ったところで空回りした挙句すっころぶのは目に見えている。だからありがたく任せることにし、手を合わせてから昼食にありつく。
 うん。意識してなかったけどお腹減ってたみたい。今日もご飯が美味しい。
 陸奥守と秋田も同じことを思っているのか、もりもりとご飯を食べる二人に御簾の奥でこっそりと笑みを浮かべた。





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