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 人でざわつく夜の繁華街を陸奥守に手を引かれながら歩く。未だに地面をちゃんと歩いている自覚がなくていつもよりゆったりとした足取りだったけど、陸奥守は急かすことなく半歩先を歩いていた。

「むっちゃん」
「なんじゃあ?」
「なんで、ここにいるの?」

 刀剣男士は基本的に現世に来ることは出来ない。初めから審神者と共にゲートを潜り、その後も常に傍にいるならばともかく、こうして審神者だけが先に来て後から刀剣男士が顕現するなど、よっぽどのことがない限り不可能だ。例外が政府役員の刀剣男士だが、それも特別に処置された道具を持っていないと出来ない仕様になっている。
 第一現世では神々が降臨するにはあまりにも気が乱れている。信仰心も薄いため、政府が認可を下している施設以外ではその肉体を保つことも出来ないのだ。私が以前陸奥守を連れて街を歩けたのは、私と共にゲートを潜り現世に来たうえで、常に傍にいたから可能だったのだ。そしてあの百貨店も、刀剣男士が顕現出来るよう政府が術を施している。だから審神者の多くがあそこに買い物に行くのだ。
 それ以外では決して本丸から出ることは出来ない。それが、数多いる刀剣男士が現世に影響を及ばさないために政府がとった措置だった。

 だからこそこうして陸奥守がいることに疑問を抱かずにはいられない。だってあの夜、私は一人でゲートを潜った。政府役員にしか与えられないという道具も当然ながら持っていない。それなのにどうして――。

 尋ねる私の前を歩いていた陸奥守は、その足を止めるとクルリと振り返った。

「まだ、止まらんね」
「ぁ」

 ほろり、と瞬いた瞬間頬に新しく雫が流れる。もう泣き過ぎて泣いている感覚すら分からなくなっていた。
 陸奥守はキョロキョロと周囲を見渡すと、建物と建物の間にある、薄暗い、一本の小道に誘導した。

「説明するき、泣かんでくれ。おんしの泣き顔は堪えるぜよ」
「ッ、ごめんなさ、」
「謝らんでえい。ほら、わしの目を見とうせ」

 どこまでも優しい声で、眼差しで、じっとこちらを見下ろす陸奥守の瞳と視線を重ねるようにして顔を上げる。両頬を挟むように当てられた手の平に力は入っておらず、ただ添えられているだけだった。
 ――優しい、むっちゃんの目はどこまでも優しい色で、蜂蜜みたいだ。と思った。

「どいたら止まるがやろうか。ちゅーでもしちゃろうか」

 陸奥守は、単に笑わせようと思っただけかもしれない。だけどその一言でこの前の一件が脳裏に蘇り、無意識に体を強張らせてしまったらしい。陸奥守は蕩けるような優しい色を湛えていた瞳を丸くすると、今度は真剣な眼差しで私の目を覗いてきた。

「主。どういて欲しい。言いとうせ」

 目を逸らすことを許さないかのように真っ直ぐと、心の中まで見透かすような瞳に見つめられる。途端に自分がとてつもなく小さな存在に感じて震えそうになったが、それでも陸奥守の「主」と促すような声が鼓膜に届くと――知らぬ間に震えていた唇が無意味に空気を食んだ。
 ああ……。ダメだと、分かっているのに。
 乾いた唇は罪悪感や自己嫌悪も全て押しのけ、己の汚い欲望を形にした。

「――キス、して、欲しい」

 全部、あの気持ち悪い感触を、忌々しい出来事を、塗り替えて欲しい。
 確かに鳳凰様にも二度触れられたことがある。だけど特段意識することはなかった。だってアレは私の中に残っていた『魔のモノ』を殺すための“火神の息吹”であり、旧き友である竜神様を助けるための“祝福”だった。
 だけど、そーくんのは違う。あれは明確に私を“異性”として意識し、己の欲と願望を不躾に押し付けてきただけに過ぎない。
 思い出すだけでも全身に悪寒が走り、鳥肌が立つ。陸奥守は頬に触れた手の平越しに私の“恐れ”を感じ取ったのだろう。添えるだけだった手の平に僅かに力を込めた。

「分かった。主、触れるぜよ」
「ん」

 鳳凰様とも、そーくんとも違う。熱い手の平が冷えた頬を温めながら、顔を傾けて近付いてくる。あまりの美男子ぶりに堪えられず、ギュッと目を瞑ればすぐさま私の唇に陸奥守のソレが優しく重なった。

「っ、ん」

 自分が望んで行う行為はこれが初めてだ。だけど、だからか、どうしていいのかが分からない。全身がガチガチに緊張して、石になったみたいだ。
 それに、すぐに離れるとばかり思っていた唇は全然離れない。
 なんで?! ちょこんと触れたらそれで終わりだと思ったのに!
 訳が分からず混乱したせいか、つい、無意識に腰を引いてしまったらしい。身を捩れば、すぐさま気付いた陸奥守に片手で引き戻されてしまった。

「はあっ、ん?!」

 一秒が二分にも三分にも感じられる中、一体どれほどの間唇を重ね合っていたのか。ようやく離れたことに安堵して息をつくが、薄目を開けると同時に再度唇を塞がれ、驚きのあまり目を見開いてしまう。

「ん〜〜ッ!?!?」

 人の顔って至近距離だと殆ど何も分からないんだな。なんて当たり前なことをバカみたいに考え、すぐさまギュウッ、と目を閉じる。
 だけど、どういう訳かこれで終わることはなかった。

「ヒッ?!」

 そっと重ねられていた唇が離れたと思ったら、今度は音を立てて強く瞑っていた目尻に唇が落ちてくる。しかもそれだけに留まらず、今度は瞼や眉毛の上、額と、次から次へと肌の上に柔らかな唇が触れて来たのだ。
 正直言ってどうすればいいのか分からない。
 だって、そりゃあ、確かに「キスして欲しい」とお願いしたけれども、こんなに何度もされるとは思っていなかったのだ。

「む、むっちゃ、んんッ」

 どうにか名前を呼んで止めようと試みたが、すぐさま腰を抱かれ後頭部を引き寄せられ、優しく唇を塞がれ全身が震える。
 もう本当にどうしていいか分からない。
 あまりの出来事にプチパニックに陥っていたのだが、ガチガチに固まった体は指先一つとして動かすことが出来ず、ただ息を止めて陸奥守の優しい口付けを受け入れ続けることしか出来なかった。

「うっ、っ、ひっ、ふぅっ」

 ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて陸奥守の唇があちこちに触れては離れる度、逞しい腕の中に閉じ込められた全身がビクビクと情けないぐらいによく跳ねる。それがめちゃくちゃ恥ずかしい。だけど経験不足故か、勝手に跳ねる体を止めることが出来ない。

「ま、まって、むっちゃ、んッ」

 ちゅう。と音を立てて首筋に当てられた唇が熱くて、ゾワゾワと肌が粟立つ。だけどそーくんの時とは違って「やめて欲しい」とは思わなかった。「待って欲しい」とは思っても「やめて欲しい」とは思わなかったのだ。だからか、自分では気づいていなかったけれど、震える指先は陸奥守を突き放すどころか引き寄せるように着物を掴んで離さなかった。

「はあ……。主……」
「ッ、く、ぅんっ」

 熱っぽく、湿った吐息と共に零される声があまりにも切実な色を帯びていて恥ずかしい。何度も何度も触れて来る唇が嬉しいよりもずっとずっと恥ずかしくて――でも、やっぱり離れては欲しくなかった。
 だけど触れられる度に息を詰めていたせいか、徐々に苦しくなってくる。だから力が入っていない指先で、それでもどうにか着物を引っ張って「も、むり」と呟けば、ようやく陸奥守の顔が離れて行った。

「……すまん。箍が外れた」
「ひえっ」

 ギュウッ。と熱く、厚い体の中に閉じ込めるかのように強く抱きしめられる。そのうえ耳元で囁くように零された声はどこか掠れて色っぽく、骨まで溶かされそうだった。

 う、ううううえええっ。し、知らないっ。こんなの知らないっ。
 こんなにすごいことを経験したことがないからどうしていいのか分からず、頭の中も目の前もグルグルと回っているような心地に陥る。それこそ回し過ぎたコーヒーカップから降りた直後みたいだ。
 そんな一人プチパニック祭りに陥っていた私に気付いたのか、それとも本人が落ち着いたのか。燃えそうな程に体を熱くしていた陸奥守は存外あっさりと体を離した。

「……ふう。ほいたら、ちっくとの間じっとしちょくように」
「はえ?」

 先程までの熱を帯びた声はどこにいったのか。まるで教師のようにそう口にしたかと思うと、陸奥守は人差し指と中指を揃え、私の頭や肩回りについた何かを払うように指を切る。そうして祝詞のような読経のような何らかの言葉を小声で呟くと、その二本の指先を私の額にトン、と押し当てた。

「“滅”」
「ひぎゃっ?!」

 一瞬のこととはいえ、陸奥守が締めの言葉を口にした瞬間全身に炎が走る。それこそ足先から髪の先まで、文字通り『炎が駆け抜けた』のだ。あまりの出来事に呆然としていると、陸奥守は顎に手を当てて私の全身を上から下まで眺めた後「うもういったぜよ」といつものようにニカッと笑った。


 ◇ ◇ ◇


「あのー……それで、今のは何だったんでしょう……」

 あの細い小道から暫く歩き、住宅街の中にある小さな公園へと来ていた。そして街灯の下に設置されていた古びたベンチに並んで座し、ようやく一息つけたので話を切り出す。
 ここは住宅街ではあるが、意外と人通りは多くない。現に周囲に人はおらず、聞きづらいことも聞けそうだと思い話を振った。だが当の本人はケロリとした顔で「お遣いじゃ」とだけ返してくる。

「お使い?」
「ほにゃ。上様――鳳凰様に“愛し子に巣食う忌々しきモノを焼き殺して来い”ち言われて来たがよ」
「忌々しきもの?」

 でも以前に鳳凰様ご自身が私の中に残る『悪しきモノ』の残骸を焼き殺したはずだ。それに退魔の加護も授けてくださっている。それなのにまだ何か残っていたのだろうか。
 首を傾けると、陸奥守はゆるりと首を左右に振った。

「違うちゃ。今までのとは別モノぜよ」
「別の、悪しきモノが憑りついてたの?」
「おん。今回おまさんに憑いちょったがは――“浸食”。それも“自己嫌悪”いう、一番手強い相手ちゃ」
「――ぁ」

 自己嫌悪。それは、常日頃から自分の心に巣食う『魔のモノ』だ。だけど今回私に憑いていたのは『悪心』ではなくマジの『悪神』である。人の心を蝕み弱め、それを喰らって力とする。そういう類の『魔のモノ』だ。
 だけど私には竜神様と鳳凰様がいる。鳳凰様からは退魔の加護まで頂いているのだ。それなのにどうやって憑いたのか。訳が分からず困惑する私に、陸奥守は寂しそうな笑みを浮かべた。

「おまさんは……無自覚やき、質が悪い」
「なにが?」
「そうやにゃあ……。えい機会じゃ。聞きとうせ」
「分かった」

 陸奥守はほんの少し背を曲げて前屈みになると、両の手の平を合わせる。そうして一度瞼を伏せると、そっと唇を開いた。

「おまさんは、いつも言いゆうろう? “私なんか”ち。それは、自分を傷つけ、縛り付ける、一番強い“呪い”ぜよ」
「――――」

 ――言葉が、出なかった。
 御簾すらしていない、ありのままの私自身の驚きを陸奥守は正面から受け止める。だけどそんな反応すら予想していたかのように、あたたかな空気を残したまま苦い笑みを顔に浮かべるだけだった。

「言うたろう? おまさんは無自覚やき質が悪いち」
「ご、ごめん……」
「えい。……ち、言いたい気持ちはあるけんども、今は言えん」
「うん……。ほんとに、ごめん」

 言葉は、強い力を持っている。それをこの“審神者”という職業に就いてから嫌というほど学んだ。

「わしらは、政府の“言葉”と“制約”に縛られちゅう。審神者の言葉にも、ちっくと違いはあるけんども、基本的には逆らえんようできちゅう」
「うん……」
「ぶらっく本丸、がそうやき、おまさんも分かっちゅうろう?」

 無理な進軍。怪我や疲労の放置。本丸の運営をまともにせず、刀剣男士に丸投げするなど様々な問題を抱え、刀剣男士を傷つけた本丸は沢山存在する。そしてその幾つかに、私は自身の足で踏み入ったことがある。

「皆ボロボロだった。それでも、中には“主”の声を、命令を、待ち続ける刀たちがいた」

 勿論審神者を見限り、嫌悪していた刀もいる。それでも一部の刀は酷使されても、仲間が無残に折られて放置されていても、主を信じて待っていた。だからこそ、神々ですら縛り付ける“言葉”の強さを知っているはずだった。それなのに、その“強い言葉”でずっと自分を蝕み“呪い”続けていたのだ。しかも無自覚に。

「わしらは、折れたら次がある。それがえいことか悪いことかは、わしには分からん」
「…………」
「言葉で縛られゆうのも、刀やき、納得はしちゅう。けんど、おまさんが自分で自分を呪うがは、違うぜよ」

 陸奥守はそっと重ねていた手の平を離すと、その片方の手を私の頭に伸ばしてくる。そうして羽が落ちたかのように優しい手つきで軽くぽんぽん、と叩くと、そのままゆっくりと撫でて来た。

「おまさんが、自分を縛りつけゆう言葉の数々は、わしらにとっても堪えるがよ。わしらがおまさんをまっこと大事にしちょっても、その言葉が届いちょらんゆうことやき。……大事にしとうせ。おまさんは、そんな“呪いの言葉”に縛られてえい人がやないきに」
「うん……。ありがとう」

 後頭部に触れていた手の平が、そのまま肩に置かれて引き寄せられる。その優しい誘導に逆らわないまま陸奥守の肩に頭を寄せると、不思議なほど安心した。それに、この数日間ずっと収まることのなかった頭痛も今は全くしない。やっぱりあの頭が割れそうな頭痛も、過去に受けた嘲笑を繰り返し思い出したのも、私の心に“浸食”した『魔のモノ』のせいなのだろうか。
 考えている間もずっと陸奥守は頭を優しく撫で続ける。その労わるような、慈しむような手の平の動きに思わず眠気を誘われそうになったが、すぐさまあることを思い出し顔を上げる。

「むっちゃん」
「おん?」
「そういえばこの体、どうしたの?」

 私に憑りついていた『魔のモノ』関連の話でうっかり流しそうになったが、この肉体についてはまだ何も聞いていない。それに、もう一つ。陸奥守は先程『鳳凰様』のことを“上様”とおっしゃった。これにも意味があるはずだ。だからじっとその目を見つめれば、陸奥守は「あー……」と一瞬目を逸らす。が、元々話す気ではいたのだろう。逸らした視線を元に戻すと、軽く咳払いした。

「驚かんで聞いて欲しいんやが……」
「内容によっては約束出来かねる」
「おん。おまさんはそう言う人やったにゃあ」

 陸奥守は私の返答が可笑しかったのか、今度はヘラリと笑うと姿勢を正した。

「おまさんも覚えちゅうろう? 鳳凰様に“加護”を与えられた日のことじゃ」
「うん」
「あら、実は“加護”を与えられたわけじゃのうて、おんしを仲立ちとして“鳳凰様の眷属”にならんか、っちゅーお誘いやったがよ」
「………………は?」

 私を仲立ちとして? 鳳凰様の眷属に? むっちゃんが???

「なんで?!」
「そがなもん、おまさんを守るために決まっちゅーろう」

 で、でえええええええええええ?!?!?!?!

「だ、だだだだだって、だって、ほ、鳳凰様、まま、さまは、火の神様で、む、むっちゃんはかた、刀だから、そんな……!」
「まっはっはっはっ! 大丈夫じゃ。落ち着いて最後まで聞きとうせ」
「いやいやいや! だってむっちゃん……!」

 陸奥守は、一度『燃えた』刀だ。そして研ぎ直された刀でもある。勿論陸奥守以外にも焼失した刀も、研ぎ直された刀も沢山いる。その多くが『火』を恐れているのだ。それは“命”を持つ者であれば、いや。例え命がなくとも“火”という存在は恐ろしいものだ。だって火はすべてを燃やし尽くす。それこそ、跡形もなく。
 それを誰よりも、私よりも分かっているはずなのに、どうして『火の眷属』になることを選んだのか。
 ハクハクと口を動かす私に、陸奥守はただ笑う。

「大丈夫じゃ。本科に影響はないきに」
「へ? ない、の?」
「おん。おまさんは忘れちゅーみたいやけんど、上様は『武神』であると同時に『命を司る』神様じゃ」
「う、うん」

 鳳凰様は確かにご自身でそうおっしゃった。『命を司る火の神であり、武神である』と。
 陸奥守はじっと言葉を待つ私に、一つ一つ教えてくれる。

「わしらは神様言うても付喪神じゃ。高位の神様と違うて、権能は持たん」
「うん」
「けんど、上様は違う。無から有を生み出すがは難しゅうても、元となる“肉体”がある以上、それを“個”として認め、命を与えることは出来るぜよ」
「……って、ことは――」

 元は政府が用意した“仮初”の、“刀剣男士”として与えられた肉体。これは本科から枝分かれした分霊の一体に過ぎない。だけど鳳凰様はこの場にいる“私の陸奥守吉行”を“一個体”として認めたうえで命をお与えになった、ってこと? ……マジで? そんなことってある???

「……むっちゃんは、それでよかったの?」

 打刀の『陸奥守吉行』は“坂本龍馬の佩刀”として顕現している刀剣男士だ。幾ら初期刀であったとしても、私たち審神者を大事に思ってくれていたとしても、枝分かれした分霊が“一個体”として認められるなどあってはならない。まさに“異常事態”だ。それに、私自身は偉人である“坂本龍馬”と名前を並べられるような人間じゃない。そんな人間のために、どうして――。
 あまりの衝撃に愕然とし、また無意識に“己を貶める”言葉を脳裏で呟いていると、すかさず陸奥守の手の平が私の口元を覆った。

「そこまでじゃ。それ以上はいかん」
「…………なんで……」
「まっはっはっ。別に上様のように考えが読めるわけじゃないぜよ。けんど、顔見たらおんしが何考えゆうかは分かる。……それぐらいの付き合いはあるきの」

 困ったように眉を下げながら、それでもお日さまの光を集めて一つに固めたみたいなあたたかな瞳は、どこまでも優しいままだった。

「……ごめん」
「謝るのも、おまさんの癖の一つじゃな」

 無意識について出た謝罪の言葉に、陸奥守は苦笑いを浮かべる。だけど困っているわけじゃなくて……なんというか、『しょうがない子供』を見るような、そんな愛情を感じられるものだった。

「けんど、困ったもんじゃ。おまさんは自分の価値ちーーーーっとも分かっちょらん」
「はえ?」

 突然両腕を組んだかと思うと、聊か大仰に見える素振りで頭を左右に振る。そうして「むむむ」と唸ったかと思うと、ぽけーっとしている私に顔を近付けた。

「おまさんは、水の神様と火の神様の“寵児”じゃ。それだけでも十分守る価値があるぜよ。それを、分かっちょらんやろう」

 は? チョウジ? ちょうじって――

「は???」
「はあー……。やっぱり分かっちょらんやったがか」
「い、いやいやいやいや! “寵児”って、寵児ってああた……!」

 寵児とは『愛されている子供』を指す言葉だ。そりゃあ神様からしてみれば成人していようが人間なんていつまでたっても生まれたての雛みたいなものだろう。だけど寵児は流石に行き過ぎだろう。慌てて首を振るが、陸奥守は再度大きなため息を零す。

「なーにを言いゆう。竜神様が御身の力でおまさんを庇護し、上様が一時とはいえ加護をお与えになった。一人の人間にここまでのこと、普通はせん」
「そ、それは……そう……だろう、けど……」
「……おまさんの“ソレ”は思ったより根深いのぉ」

 陸奥守はスッと目を細めると、今度は明確に『こちらを向かせる』という意思を持って両頬を手の平で挟んできた。

「おまさん、わしのこと“神様じゃ”ち思いゆうじゃろ」
「う、うん」
「ほいたら、おまさんが信じゆう“神様”が“そう言いゆう”ちこと、分かっちゅうがか?」
「――――」

 一瞬、呼吸が止まった。
 陸奥守は私が“自分の一言を理解した”と分かったのだろう。頬を掴んでいた手の平から力を抜くと、そのまま親指の腹で目尻を撫でて来る。

「えいか? おまさんは、おまさんが思っちゅう以上によーけの“神様”に大事にされちゅうこと、忘れちゃいかん」
「……はい」

 これは、これ以上“私”が“私”を否定し傷つけたら、巡り巡って陸奥守を傷つけることになる。私を庇護してくださっている竜神様のことも、加護を与えてくださった鳳凰様のことも、本丸にいるみんなのことだって、傷つけることになる。それを、陸奥守は教えようとしてくれている。

 でも、考えてみれば分かることだった。

 だって皆が私を『大切に』してくれていなければ、とっくの昔に死んでいた。それこそ最初の怪異――『鬼崎』に目を付けられていた時点で。例えそれを乗り切ったとしても、次の怪異である『理想郷』の養分になっていた可能性もあるのだ。だけど陸奥守は勿論、本丸にいる皆が私を守ってくれた。助けに来てくれた。懸命に探してくれた。それはこんな私でも“守る価値がある”。庇護し、愛する価値があると、そういう存在であると、何度も教えてくれていたのと同じことだ。
 それを否定するのは謙遜でもなんでもない。行き過ぎた自傷行為であり、周りの真心や思いやりも否定し、傷つける酷い行いなのだ。それが、今ようやく理解出来た。
 何度も何度も、私の泣きはらした目を労わるように撫でる指の動きから、その加減された力から、包み込むような優しい瞳からも、読み取ることが出来る。

 むっちゃんは、心の底から私を“大事だ”と思ってくれている――。

 例え“坂本龍馬の佩刀”として顕現していたとしても、今は“私の刀”として動いてくれているのだ。それを、私自身が否定してはいけない。
 ようやく“理解”出来た私が陸奥守の両手に自身の手を添えると、陸奥守は撫でる指を止めた。

「ありがとう、むっちゃん。それから、今までごめんね」
「えいよ。けんど、これからは気を付けとうせ」
「うん」

 顕現してからもずっと、もしかしたら、時には、明確な言葉で伝えてくれていたのかもしれない。だけど私自身がそれに向き合ってこなかった。皆に「ちゃんと向き合う」なんて偉そうに口にしたのに、本当の意味では出来ていなかったのだ。それが、心底悔しくて情けない。
 だけど悪神に蝕まれていた時のようにへこみ続けることはしない。ダメなところが分かったなら、間違えていた部分が分かったのなら、これから気を付ければいいだけの話だ。間違いを正し、今度こそ自分なりに皆と向き合えばいい。それが出来ると、きっと陸奥守は信じてくれている。
 だから今度はちゃんと、まっすぐとした気持ちで陸奥守の目を見つめ返せば、陸奥守はふわりと笑ってくれた。


「ほいたら、話を戻すぜよ」
「うん」
「今のわしは“刀剣男士”であることに変わりはないきに。けんど、正確に言えば政府が用意した肉体ではない、っちゅーことじゃ」
「だから私の霊力がなくても肉体を保てるんだね」
「ほにほに。そういうことじゃ」

 おそらく鳳凰様は本科である“陸奥守吉行”と、今目の前にいる“私の陸奥守吉行”の縁を断ち切ったわけではないはずだ。言うなれば枝分かれした個体に新しく名前をつけ、自らの“眷属”として“生きる”ことを許し、その証拠として現世で活動できる“肉体”をお与えになったのだろう。
 それは命を司る権能を得ている鳳凰様だから出来る所業で、それを受けられたのは偏に陸奥守自身の心の強さがあったからだ。もしも陸奥守が鳳凰様に認められていなければ、私は今もまだあの隅っこの席で蹲ったままだっただろう。だから、本当に陸奥守には感謝しかない。
 それが原因、というわけではないのだけれど、不思議なほど穏やかな気持ちで、けれど楽しくもない自身の話を陸奥守にしたくなった。

「……ねえ、むっちゃん」
「おん?」
「こんな話、本当はあなたに聞かせることではないと思うんだけど……」
「大丈夫じゃ。なーんでも話しとうせ」

 柔らかい、春の日差しみたいな微笑み。触れた指先から伝わる確かな熱。それに背中を押されたかのように、私は自分の“醜い過去”を一つずつ暴露し始めた。


 ◇ ◇ ◇


「…………だから、その時からだと思う。私が、自分を言葉で“縛り付け”て“呪い”始めたのは」

 別に、やっちゃんが悪いわけじゃない。むしろやっちゃんは怒ってくれた。だけど私が耐えられなかった。自分を貶めないと笑っていられないほど傷つけられていた。ただそれだけだった。でも、今はそれが“いけなかった”と、もう分かる。当時の自分にも教えてあげられたらよかったけど、もしそうしていたら、きっと今の自分はない。だからこの辛い記憶を、過去を、ちゃんと受け止め、糧にして、次に繋げなければいけない。
 そう考えられたからこそ特段悲しいとは思っていなかったんだけど、陸奥守はものすごく微妙な顔をしていた。怒りたいけど私に怒ってもしょうがないから怒れない。だけど腹立たしい。みたいな。そういう顔。

「…………今からでも戻って一人一人に説教したい気分ちゃ」
「ふふっ。気持ちだけ受け取っておく」

 人によっては楽しそうに見えたかもしれない。自分の容姿や性格をネタにしてクラスの輪に入ることが出来た私は、確かに“芸人”を目指すならいい線を行っただろう。だけど、そうじゃなかった。本当はちゃんと“一人の女の子”として認めてもらいたかった。“面白い女”ではなく、皆と同じ、ただの“クラスメイト”として。

「おまさんは、自分の容姿に自信がないちよく言うけんど、わしはそうは思わん」

 本当は、喉元まで出かかった。いつものように「何言ってんの」「私のどこにそんな女らしさとか可愛げがあるの」って。でも、私はちゃんと知っている。陸奥守が、真正面から私に『好意を示してくれた』ことを、ちゃんと覚えている。

「あー……。まあ、けんど、世界一美人かち聞かれたら、困る」
「あはははっ! それは分かってるって」

 実際、私の周りには美人が多い。柊さん然り、日向陽さん、夢前さん、百花さん。ゆきちゃんも、ちょっと怖めだけど顔立ちは整っている方だ。だから余計にコンプレックスになっていたというか、勝手にハードルが上がっていたんだと思う。それを、陸奥守はうんうん唸りながらも必死に言葉にしてくれる。

「こがなこと言うもんじゃないち分かっちゅうけんど、さっきの、同窓会? におった女子の中には、おまさんよりも太いのはおったぜよ」
「う、うーん。ま、まあ……学生時代よりちょ〜っと体型が、あれ? って思った子は、確かにいたね」

 実のところ、そうなのだ。
 私が働き出して自然と少しばかり体重が落ち、審神者になって何度も入退院を繰り返し体重が落ち、最近では夜にこっそり運動をしていたおかげでちょびっとだけ引き締まった気がするから余計にそう感じたのかもしれないんだけど、その……。うん。時というものは残酷だ。学生時にはスラッとしていた子も、なんというか……。ちょっとふくよかになられた方が何人かいらっしゃった。正直、今の私よりもアレな人も、数名。

「男は特に多かったがよ。あげなだきな手がおまさんに触れちょったら上様に『全員燃やして来んか』ち怒られちょったがよ」
「んふふふ、鳳凰様、優しいもんね」

 陸奥守の言う通り、男子は特に丸くなっている人が多かった。やっちゃんは相変わらず引き締まっていたけど、そーくんみたいに鍛えている人は少なく、大体が中肉中背、もしくはそれ以上だった。そう思うと私は自分で思っている以上に『ドスコイ体型』ではないのかもしれない。
 まあ、自分より丸い人を見て安心してもダメになるだけだと分かってはいるんだけどね。それでも当時あれだけ人を嘲笑った人たちが今の私よりアレな体型になっているのを考えると、ほんの少しだけ、その姿を笑ってやりたくなる。
 ……でも、やっぱりダメだな。他人を下げないと自分の良さが見つけられないなんて、そんなの情けないし、恥ずかしすぎる。やめだやめだ、こんな考え。私はそんな汚い人間にはなりたくない。

「ま、私もまだまだだしね。これからもダイエット、頑張らないとなぁ〜」

 ベンチの上で両膝を抱え、そこに顎を乗せながら両手を伸ばす。審神者に就任した時に比べ、少しだけ細くなった気がする両腕は中学の時に比べたら遥かにマシだ。指は、よく分からない。けど何気に最初からそこまで太くなかったのだ。入力業務でタイピングしまくってるせいかな? 言うて刀剣男士たちの指に比べたらモチモチしてるんだけどさ。
 お腹だってぺったんこじゃないし、太ももだって隙間があるわけじゃない。もっと痩せないと“綺麗”にはなれない。そんなことを考えながらふと無言を貫く陸奥守を見上げると、何故だか微妙〜な顔をしてこちらを見ていた。

「なに?」
「いや……おまさんが決めちゅうなら仕方ないけんど……」
「ないけんど?」
「……勿体ないにゃあ、と」

 なにが。
 言葉にせずとも顔に出ていたのだろう。陸奥守はそろりと一度視線を逸らした後、軽く咳払いした。

「……抱き心地がえいろう。もちっとして」



 ……………………。



「…………おまさん、照れると無言になるがか?」
「ち、違うよ! けど、どんな顔したらいいか分かんなかったのッ!!」

 いや、その、そりゃあ中には『太い子が好き』という人がいることは知っている。なんだっけ、あのーそのー、母性がなんとかとか、安心感がどうとか、なんかそういう理由があるんでしょ? あとは胸とか尻とか太ももに肉がついているから触ってて気持ちがいいとかなんとかかんとか聞いたことはある。でも! 大体皆細い子が好きじゃん!!!
 他所の本丸でも線が細くて綺麗な審神者の多いこと多いこと!!! 妬んでもしょうがないし似合わないから基本的に気にしないよう努めてはいるんだけれども!!! それでもやっぱり“陸奥守吉行”と綺麗な審神者が一緒に並んで和やかに笑い合っている姿を見ているとなんかこう……モヤっていうか、しょんぼりっていうか、そういう気持ちになるんだよ! しょうがないじゃん!! 出来ることなら私も「綺麗」だとか「可愛い」だとか言われるような主でいたかったよ!

「だって神様って綺麗なもの好きじゃん。鳳凰様だって典雅だし、竜神様だって竜のお姿だけどすごくお綺麗だし……。万事屋で見かける刀剣男士と恋人っぽい女性審神者も大体美人か可愛い系だし……。まあ、御簾をしている人はどうかは分かんないけど……。だけど私は、ほら。ドスコイ審神者だし、顔立ちもアレだから。むっちゃんの隣に立って笑われるのはイヤだから、少しでも痩せて綺麗になりたいじゃん」

 もう何が何だか分からず、口が回るまま言いたいことを言い切った。だって思い出すだけでも泣きたくなるのだ。
 この間だって光忠と一緒に買い出しに行ってたら、他所本丸の陸奥守がこじんまりとした女性審神者さんに笑顔で話しかけててさ。そりゃあうちのむっちゃんだって私のこと蔑ろになんかしてないけど、むしろ大事にしてくれてるけどさっ。それでもやっぱり目で追いかけてしまうし、その先に「あの人のこと好きなんだろうな」っていうのが分かる目を向けていたらしょんぼりしたくなるじゃん。「あの二人絶対付き合ってんな」みたいなやり取りしているのを見かけた日にはショック受けたりもしたよ。
 別に「羨ましい」と思ったわけじゃない。ないんだけど、『陸奥守吉行』っていう刀を目で追いかけてしまったのは自分なんだけど、それでも目撃してしまったことにショックを受けたのも事実で、ってああもう、何が言いたかったんだっけ。分かんなくなったわ。
 とにかく、私は痩せて綺麗になりたいのだ。もう周りに嗤われたくないから。

 そう早口で捲し立てたら、何故か陸奥守は片手を口元に当てて項垂れていた。

「おま……おまさん……ほんに……あ〜、もうっ。勘弁しとうせ」
「なにが」

 半ばやけくその領域に入っていた私がジロリと睨めば、陸奥守はムニムニと頬の筋肉を整えるかのように指先を数度動かす。だけど結局思うような形にならなかったらしい。苦笑いを浮かべると、諦めたようにクツクツと喉の奥で笑い始めた。

「ほんにおまさんは鈍うていかんちゃ」
「だから何が」

 正直に心中を吐露したというのに、あんまりにもあんまりな反応に腹が立ってくる。だからベンチから立ち上がり腰に手を当て、真正面に立って威圧するように見下ろせば、陸奥守がチョイチョイと手招きしてくる。一瞬首を傾けたものの、陸奥守は意味のない行動をするような刀でもない。この距離では話せない何かがあるのだろう。そう判断して素直に開いていた距離を詰めれば、すかさずギュッと抱きしめられた。

「に゛えっ?! む、むっちゃん?!」
「あ〜。こりゃあいかんぜよ。おまさん、警戒心なさすぎじゃあ」
「はあ? なんで私がむっちゃんのこと警戒しなきゃなんないのさ」

 人の触られたくない部分、貫禄の贅肉たちが我が物顔で占拠する腹部に頬を当てながら何を言っているのか。
 意味が分からず、手持ち無沙汰な手の平でワシワシと髪を掻き乱してやれば陸奥守は「ん゛ん゛ッ」と苦しそうな声を出した後腰を抱く腕に少しだけ力を入れてきた。

「こいたぁまっこと……」
「なによ。言いたいことがあったらちゃんと言葉にしてくーださい。じゃないと私分かんないからね?」
「あー……。おまさん、今遠回しに『告白』したも同然ち、気付いちゅうがか?」
「はあ? 告白ぅ?」

 告白。告白とは己の心中を素直に吐露する意味だと思っている。であればさっきのは確かに『告白』だろう。だけど陸奥守は“別の意味”だと目で物語ってくる。だから今しがた吐露した己の発言を思い出し、客観的に考え吟味して――

「……………………? ――――――ッ!!!!!」


 盛大に墓穴を掘っていたことにようやく気が付いた。


「に゛ゃーーーーーーッ!!!!! 離してーーーーーッ!!!!」
「イヤじゃ。離さん」
「わ゛ーーーーっ!! 違う違う違ーーーーう!!! そういう意味じゃなかったッッッ!!!」

 わたわたと短い手足を頑張って動かして逃げようとするが、鍛えられた腕から逃げられるはずもなく。むしろしっかりガッツリ抱きしめられる。

「ほーん? ほいたらおまさんはわしのことキライながか?」
「誰も“嫌い”とは言ってないじゃん!」

 しかも『違う』と分かっててこんなこと聞いてきやがるし!! 私が嘘吐けないって分かってて聞いて来るの、ほんっと意地が悪い! だけど無視するわけにも行かず、グッと詰まりながらも「違う」と歪曲的に表現する。
 途端に「言質を取った」みたいな顔してニンマリと笑ってくるから本気で質が悪い。

「ほいたら好き、っちゅーことじゃな!」
「クッソ! すっげえポジティブに受け取るじゃん!!」
「まはははは! わしの長所じゃ! それに言うた言葉は戻らんきなあ! しっかり聞いたぜよ!」
「わーっ! わーーーッ!! 違うもん! そういう意味じゃなかったもん! 忘れろくださーーーーいッ!!!」
「イヤじゃ。絶対に一言一句忘れん」
「ガチじゃんっ! 今の声ガチじゃん! むっちゃんの鬼ーーーーッ!!」
「わははははっ!!」

 もがきにもがいて結果的に後ろを向くことは出来たけど、そのまま引き寄せられて膝の上に座らされる。それだけでもギョッとして全身が固まったのに、そのまま後ろから覆い被さるようにして抱きしめられてパニくっていた思考が一瞬で止まった。

「み゛ッ」
「あー……。堪らんちゃ。手放すなんて無理ぜよ。一生離さんき、覚悟しとうせ」
「〜〜〜〜〜!!!」

 私死んだら竜神様の元に行くのに。とか、そもそもむっちゃん鳳凰様の眷属になったんだから私との関係どうなるの。とか、そもそも眷属ってどの位置にいるの。とか、とにかく色々、言いたいこととか確認しなきゃいけないことがあったのに、もうそれどころじゃなくて完全に頭からすっぽ抜けてしまった。そのぐらい衝撃が強すぎて、自分が無自覚に放った言葉の数々がやばすぎて、陸奥守の体温が移ったみたいに全身が熱くなる。

「うえぇ……。無理……。恥ずかしさで死にそう……」
「大丈夫じゃ。人は恥ずかしさで死にゃあせん」
「でも死にそうなんだよーっ!!」
「ほいたら人工呼吸でもしちゃろうか」
「ぎにゃーーーーっ!!!」

 夜の住宅街でイチャイチャと、と宗三に嫌悪感丸出しの顔と声で突っ込まれてもしょうがないやり取りを繰り返しながら、結局この後陸奥守に言いくるめられ、私たちは晴れて(?)『恋人』という関係に落ち着くのだった。

 彼氏いない歴=年齢の喪女審神者こと水野、本日無事脱喪女となりました。

 第三部、完ッッッ!!!!

「ほら、現実逃避せんと早う本丸に戻るぜよ」
「ピーーーーッ!!」

 何の前触れもなくギュッと手を握られ、かつてないほど情けない悲鳴を上げたのは許して欲しい。
 年齢=喪女歴舐めんなよ!!! 誰に向かってかは分からないけど、無性に叫びだしたい夜だった。





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