小説
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「すごっ…」

貴重品を持ち我愛羅の元へと戻ったサクラは、辿り着いた我愛羅の部屋の広さに愕然とする。

「この部屋何畳あるの?」
「さあな」

サクラの宿泊する部屋の二倍はあるだろう、広い作りの部屋は二間続きになっており、当然広縁もついている。
更に我愛羅の部屋の正面には露天風呂から見下ろしたあの広大な庭園が広がり、川が目の前を流れ涼やかな空気を室内に運んでくる。
これは既にお高いんでしょう?のレベルを超えている。と立ち竦んでいると、我愛羅は特に気にした様子もなく中央のテーブルに鎮座する座椅子に腰かけ茶の準備をする。

「あ、わ、私がするよ…!」
「流石に茶ぐらい淹れられるぞ?」
「いや、そういう意味じゃないから!」

我愛羅の少々ズレた返答に突っ込むものの、我愛羅は手早く茶の用意をしてしまいすっかり手持ち部沙汰になる。

「あの…でも本当によかったの…?」
「何度も言うな。どうせ何も予定が無かったんだ。話し相手がいる方がいい」

そう言って茶を啜る我愛羅に、サクラも淹れてもらった香ばしい茶を啜りながら、我愛羅にこの宿にはよく来るのかと問う。

「そうだな…もう随分前からこの時期はここだな」
「そうなんだ」
「元々今の女将の先代と顔馴染みでな。昔任務で護衛した事があって、その所以で今はここに足を運んでいる」
「なるほど」

暫くそういった世間話であったり近況報告であったりを交互にしていると、ご昼食でございます。と部屋に膳が運ばれてくる。

「うわっ…何これ豪華すぎる…」

凄すぎて言葉も出ないわ。とサクラがぼやく中、次々と二人の目の前に所狭しと絢爛豪華な料理が並べられていく。

「本日のおすすめはこちらでございます」

運ばれてきた料理の説明を始める仲居だが、サクラはついていけず右から左なのに対し、我愛羅は手慣れた様子でそうかと頷き説明を聞いている。
これが立場の違いか…とサクラが遠い目をする中、説明を終えた仲居は頭を下げ退室する。

「では食うか」
「え、あ、はい」

思わず姿勢を正せば、我愛羅はふと笑い手を合わす。

「いただきます」
「あ、い、いただきます」

我愛羅にならい手を合わせ、食べるのがもったいないと思うほどに見事な料理を口に運ぶ。

「…!!美味しいっ…!!」

料理を口に入れた途端顔を輝かせるサクラに、我愛羅は目を細め笑う。

「いや、本当…え、美味しい…!」

まるで子供のように目を輝かせ、格好を崩し頬を緩め、美味い美味いと料理を平らげるサクラを我愛羅は楽しげに見つめる。
やはり料理は一人で食うより誰かと食べた方が美味いな。と我愛羅も食事を続ければ、サクラは何を食べても美味しい!と満面の笑みを浮かべ我愛羅は思わず笑った。

「はー…こんなに美味しい料理食べたの初めてだわ」
「俺も数ある宿の中で一番美味いと思うな」
「我愛羅くんが言うなら相当ね。でも本当素晴らしかったわ」

二人はそろって昼餉を平らげると、最後に熱い茶を啜りほっと息をつく。

「美味しかったー」
「空腹で死ぬかと思っていたから余計美味かったな」
「えぇ?どうして?」
「サクラに売店行きを阻止されたからな」
「や、別に悪気があったわけじゃ…」

慌てるサクラに我愛羅はくつくつと笑う。
随分とサクラに対し意地悪な言動を繰り返す我愛羅に、サクラは思わずジト目で我愛羅を睨む。

「何か今日の我愛羅くんとってもイジワルっ」
「そうか?」
「そうよ!」

頬を膨らませ拗ねたようにそっぽを向くサクラに、我愛羅は手を伸ばしその頬を撫でる。

「悪かった」
「っ、」

その手がするりと頬を撫でれば、サクラはこの宿に来る道すがら思い出していた行為と重なり思わず肩を跳ねさせる。

「ま、まぁ…許してあげるけど」

慌てて言葉を返すが、我愛羅は逸らされたままのサクラの顔をじっと見つめ、一度瞼を伏せると頬に当てていた手をそのまま耳の後ろに滑らせ、うなじを撫でる。

「っ!」

ビクリと今度こそ大きく跳ねたサクラの、驚いたように我愛羅を見つめる翡翠の瞳を見つめ返しながら、うなじを辿った指をそのまま滑らせ鎖骨の窪みを撫でる。
まるであの日の行為の続きのような動きにサクラの鼓動は跳ね、我愛羅の手が触れたところからじわじわと全身に熱が広がっていく。
思わず身震いするサクラをじっと見つめる我愛羅の瞳は熱っぽく、あてられてしまいそうだと思う。

少しでも動けば途端に捕らわれてしまいそうな緊張感に、サクラの喉がこくりと上下すれば、タイミングがいいのか悪いのか。
襖の外から仲居がお食事は済みましたでしょうか。と声をかけてくる。
途端、張りつめていた空気が一気に霧散し、我愛羅はああ。と何事も無かったかのようにサクラから手を離し仲居に返答する。
そして入室してきた仲居と何か言葉を交わしているが、サクラは全く耳に入らなかった。

(な、何ドキドキしてんのよ…十代の娘じゃあるまいし…それに相手は我愛羅くん…別に何ともないわよ)

まるで呪文のようにそう自身に言い聞かせ、何時の間にやら閉じていた目を開ければちょうど部屋から仲居が出ていくところだった。
そうなると再び二人きりになる。跳ねた心臓を落ち着かせたばかりなのに、と狼狽えそうになっていると、すっかりいつも通りの空気を纏った我愛羅がサクラの名を呼ぶ。

「サクラ」
「え、な、なに?!」

咄嗟に返事をしたせいで僅かに声が裏返ったが、我愛羅は気にした様子もなく今日は祭りがあるらしいぞ。と告げてくる。
祭り、とサクラが繰り返せば、祭りだ。と我愛羅が応える。
気付けばサクラは行きたい。と口にしていた。




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