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 梅雨ネタです。短刀中心にオールキャラでほのぼの。CP色はなしです。



 しとしとと続く雨。現世では避難勧告が出ている地域もあるらしく、日ごろテレビにかじりついている短刀たちは日に日に顔を青ざめさせていた。


『あした天気になぁーれ』


「主君! てるてる坊主を作りましょう!!」
「……はい?」

 突如転がり込むようにして執務室に飛び込んできたのは“秋田藤四郎”だった。確かに彼は興奮すると落ち着きがなくなるが、それにしても。“てるてる坊主”とか久々に聞いたわ。

「こんなにも雨が降っているんです。困っている人たちも沢山いると聞きました。だからてるてる坊主を作ってお天道様にお願いしましょう!」

 フンフン、と興奮冷めやらぬ様子の秋田の背後から、例の如く“お兄ちゃん”気質な薬研がヒョッコリと顔を出す。

「悪いな、大将。どうにも秋田は現世の様子が気になるらしくてなぁ。とうとう“皆でてるてる坊主を作ればきっと雨もやむはずです!”って言いだしたんだよ」
「はは〜、成程ね。秋田くんは優しいねぇ」

 幾ら付喪神と言えど神は神だ。お天道様にその願いが通じるかどうかは分からないが、まぁ気休め程度にはなるだろう。

「いいよ。丁度仕事もひと段落したし、一緒に作ろうか」
「本当ですか?!」

 キラキラと丸い瞳を更に丸くしてこちらを見つめる秋田に「うん」と頷き返す。素直な子供は可愛いものだ。日頃ろくでもない大人、もとい爺太刀を相手にしていると特に染み入る。

「みなさーん! 主君から許可を貰いました! 一緒に作りましょー!!」
「ん? 皆?」

 皆って誰だ? と思ったのもつかの間、すぐさまドタドタと廊下を駆けてくる足音が大きくなってくる。うーん。割と多いな?!?!

「あるじさーん! ボク主さんの顔のてるてる坊主作るねー!」
「あ! ずるいです乱! 主君のてるてる坊主を作るのは僕です!」
「二人共落ち着きなさい! ここは主様のお部屋ですよ!」
「いや〜、流石に短刀は早いですよねぇ。ってことで、お兄ちゃん刀こと鯰尾藤四郎、ズバッと登場です!」
「鯰尾兄さん! 遊んでないで一緒に止めてください〜!!」
「あはははは、ごめんごめん。ほーら乱〜、乱れるのは戦場と寝相だけにしろ〜」
「ったく、本当に乱はしょうがねえな」
「わーん! 何でボクばっかりなのさ〜!!」

 どうやら秋田の言う『皆』とは藤四郎たちのことらしい。今日は遠征と手合わせ以外は休みにしたから、皆暇なのだろう。

「さってと、ほい! じゃあ皆落ち着いて! これからてるてる坊主作るよ〜」
「はーい!」

 パン! と手を合わせれば一瞬で静かになるのは流石と言うべきか。そしてやるべきことを提示してやればすぐに『よい子のお返事』が返ってくる。もしここに一期一振がいたらさぞいい笑顔を見せてくれただろうな。なんて考えながらも「ここじゃ狭いから」と大広間に移動する。

「皆〜、マ〇キー持ってきたよ〜」
「やったー! 可愛くデコレーションしようよ!」
「主君、素材は何を使いますか?」
「いらねえ布の代わりにガーゼでも使うか?」
「折り紙って手もありますよ? この間テレビで見ましたし!」
「うーん。何でもいいんじゃない? それぞれ好きなやり方で作ればさ」

 世間はどうかは知らないが、私は小さい頃からティッシュを使って作っていた。人によっては布だとか折り紙だとかタオルだとか様々だけど、用途は同じなのだ。だったら自分が一番『作りたい』と思う素材で作った方が楽しいだろう。現に乱は既にティッシュに色を付けて可愛いデコレーションとやらに勤しんでいる。

「主君はどれをお使いしますか?」
「私はティッシュかな〜。濡れない場所に吊るすなら一番簡単に作れるしね」
「それじゃあ俺っちはガーゼの切れ端でも取ってくるかね」
「じゃあ俺は折り紙にしますか。沢山作っちゃいますよ!」

 それぞれが布だったりティッシュだったりとで作り出していく。私は宣言通りティッシュだ。それにしても久しぶりだなぁ。てるてる坊主を作るなんて。ぐるぐると手の中でティッシュを丸めつつ、楽しそうな短刀たちの姿を眺める。

「見て見てー!! ピンクのスカート! ボクとおそろいだよ!」
「わー、綺麗に塗ったねぇ。流石乱。上手だよ」
「えへへ〜。で、コレがボクで、コッチがあるじさんね!」

 そう言って乱が見せてくれたのは、にっこりとした笑みが描かれたてるてる坊主だ。胴体部分にはハートが沢山描かれており、それが私だというのだからちょっぴり気恥ずかしい。

「わ、わ〜、ありがとう。ハートが沢山だぁ〜」
「えへへへ〜。これはボクからあるじさんに向けての想いだよ。あるじさんだーい好き!」
「うわっ!」

 突然抱き着いてきた乱を両手で抱き留めれば、途端にその体が宙に浮く。

「全く。ちょーっと目を離すとすぐこれだ。油断も隙もない」
「うえ〜ん! 折角薬研がいない時を狙ったのに〜」
「ざぁ〜ん念でした〜。今日の鯰尾くんはお兄ちゃんなので、皆の引率、そして主の身辺警護も任せられているんだなぁ、コレが!」
「おぉっとぉ、それは私も初耳だぞ〜?」

 初耳とはいえ、どうせ薬研あたりが『俺っちがいない間、乱のこと頼んだぜ』ぐらいのことを言ったのだろう。鯰尾に猫のように抱き上げられて乱はワーワーと騒いでいる。微笑ましい光景だ。そうこうしている間にも秋田も折り終わったのだろう。顔と胴体の部分を色違いにした二つのてるてる坊主をこちらに持ってくる。

「主君、見てください! 初めて折ったんですが、上手に出来ました!」
「え! 初めてにしては上手だねェ〜! 秋田は手先が器用なんだね」
「えへへ! 頑張りました!」

 まるでレインコートを着ているような折り紙のてるてる坊主は、ニコニコと笑っており何とも秋田らしい。ついでにとほっぺたをピンクのペンで塗ってやれば、秋田も喜んでペンを走らせる。

「こっちが主君で、こっちが僕です!」
「わぁ。秋田もセットで作ってくれたんだね。ありがとう」

 何故毎回私までセットにされているのかは分からないが、気持ちはありがたい。この調子でいくと他の皆も作ってたりして。なーんて軽く考えていたら、予想通り皆ニコイチで作っていた。
 嬉しいけどちょっと恥ずかしいぞ! でもありがとうな!!

 そんなこんなで意外とてるてる坊主作りを楽しんでいると、騒ぎを聞きつけたのだろう。ぞろぞろと他の刀たちも大広間へと集まってくる。

「お! てるてる坊主か? いいな! 俺も作ろう!」
「あ、ちょっと鶴さん。散らかさないでよ?」
「……俺は一人で作る」
「伽羅ちゃんまで……もう。僕も混ぜてよ!」

「おや、てるてる坊主ですか? 誰の案かは知りませんが、たまにはいいものですね。僕たちも作りましょうか」
「兄さま、僕余っている紐取ってくるね」
「和睦ですね……」

「ほー。てるてる坊主かぁ。久しぶりに見たぜ」
「懐かしいよなぁ。よっし! 俺らも作ってみるか」
「兼さん、同田貫さん。こっちにペンがあるよ」
「おーし! 誰が一番うまく作れるか勝負だぁ!」
「はあ? こんな勝負誰が、と言いたいところだが……どうせ暇だしな。その勝負乗った!!」
「二人共勝負事好きだよね。ついでだし何か懸ける?」
「お前が一番楽しんでるよなぁ。国広」

「あなや。道理で賑やかだと思ったぞ。てるてる坊主とは懐かしいなぁ」
「……お守りを作るよりかは簡単そうだが……」
「たまには茶を煎れる以外の楽しみも見つけるべきだな。よし、俺達も作ろう」

 そうして結局遠征に出かけている刀以外全員でてるてる坊主を作り始めた。そしてあっという間に大量のてるてる坊主が量産された。もはやライン工場である。てるてる坊主いかがッスかァ〜? と売り出しにでも行きたいぐらいだ。

「何じゃあ? 何しゆうがか」
「あ、むっちゃん。おかえり」

 本日の遠征は打刀で組んでいた。戻ってきた陸奥守は肩や袖についた雫を払いながら縁側に腰を下ろし、背負っていた荷に肘を乗せながらこちらを伺い見る。

「おお! てるてる坊主じゃあ! こりゃあまっこと懐かしいぜよ!」
「えー? 何々〜? 皆でてるてる坊主作ってたの?」
「へえ。風流なことをしていたんだね。どれどれ? 僕にも見せておくれよ」

 陸奥守に続き、加州、歌仙が揃って顔を覗かせてくる。だけどそんな彼らの背後からいつになく怖い顔をした長谷部が足早に近づき、三人を見下ろした。

「おい。気になるのは分かるが、先に荷を持っていくのが先だろう」
「長谷部殿の言う通りです! 見てください! 鳴狐など先に行っておりますぞ!」
「俺ももう行くぞ」

 どうやら鳴狐はまず会得した資材を倉庫に持って行ってくれたらしい。相変わらず仕事の速い刀である。続いて山姥切も倉庫に向かい、陸奥守たちも慌てて立ち上がった。

「まはは、すまんすまん。それじゃあちっくと行ってくるぜよ」
「皆早すぎだって! ちょ、主! すぐ戻ってくるから、まだ片さないでね!」
「全く。忙しないねぇ。もっと優雅に行けばいいのに……」
「優雅とのんびりをはき違えるな。では主、後程」

 それぞれ性格が出るよなぁ〜。と去って行った遠征組たちに苦笑いしつつ手を振っていると、後から来た刀たちも続々と完成品を机の上に並べ始める。

「主、どうだ。大包平を模してみたんだ」
「うーん……芸術は爆発だ! って感じだね?」

 大包平を模した、というだけあって頭頂部の、髪……を意識しているんだろう。赤く塗られたそこはもはや『大☆爆☆発!』って感じの、ある意味では猟奇的に見えるデザインで塗られている。
 ……うん。大包平頭割られてないよね? 大丈夫だよね? とりあえず褒めてみたら(?)、鶯丸はエッヘン! と言わんばかりに満足げな笑みを浮かべる。うん。それでいいんだな。君は。

「爺も出来たぞ」
「ありゃ。三日月さんは顔を書かないんですか?」

 三日月が作ったてるてる坊主には顔がなく、とてもシンプルな出来だった。だけど逆に首を傾けられる。

「ふむ? 俺が覚えているのはコレだったのだが……」
「昔は顔を描いてなかったのかな?」

 顔を描くと縁起が悪いとか? なんて考えていると、聞こえていたのだろう。鶴丸が「ああ、」と声を上げて教えてくれる。

「昔はな、今みたいにこういう便利な道具がなかっただろう? だから雨に塗れると墨が滲んで泣いているように見えるから縁起が悪い。ってことで描かなかったんだ」
「へぇ、そうだったんですか。それは驚きです」
「なぬ?! こんな豆知識で驚きを与えてしまうとは! 俺の知識も侮れんな!」

 声を上げて笑う鶴丸に苦笑いするが、成程。言われてみれば確かにそうだ。今は油性ペンがあるから雨風を気にしなくてもよくなったけど、昔は墨しかなかった。
 こんなところでも時代の流れって感じられるんだなぁ。
 しみじみ感じ入っていると、大典太も三日月同様、のっぺらぼうのてるてる坊主を見せてくる。

「だが晴れたら顔を描いていたように思う。あくまでぼんやりとした記憶でしかないが……」
「おお、そうであったな」
「へぇ〜。てるてる坊主にも作法みたいなものがあったんですね」

 何だか選挙に当選したらだるまの目を塗るみたいだ。そんなことを考えていると、倉庫から刀たちが戻ってくる。

「主、ただいま!」
「遅ればせながら、ただいま戻りました。主」
「はい。会得した資材の一覧だよ」
「皆おかえり。それから歌仙さんありがとう。助かるよ」

 受け取ったタブレット端末の操作は、打刀の中では基本的に長谷部と歌仙が行っている。陸奥守は「サッパリ分からん!」と匙を投げるような発言をしたが、コツコツと勉強している最中だ。教えているのは加州と長谷部だ。鳴狐と山姥切も問題なく操作出来る方ではあるが、どうやら鳴狐の方はタッチペンじゃないと反応が薄いから極力触りたくないらしい。山姥切は単純に「長谷部や歌仙の方が使いこなせているから」任せているということだった。適材適所って奴だろう。
 そんなわけで歌仙から受け取った端末を確認していると、帰ってきた彼らもてるてる坊主作りに参加するらしい。ペンをよこせだのなんだのと余計に騒がしくなった。

「はい。主、お茶を煎れたよ」
「あ、ありがとう」
「はい。それじゃあコレは没収〜」
「何故に?!」

 お茶を煎れてくれた燭台切にお礼を言ったのもつかの間、手にしていた端末を奪われ驚く。本当、流れるような動作だったからビックリしたわ。

「ほら。今は皆で楽しむ時間だから。こういう時に仕事を持ち込むのは野暮だよ」
「あー……すみませんでした」
「いえいえ。コレが終わったらちゃんと返すから。今はゆっくりしてね」

 気遣い屋な燭台切らしい。ありがたく淹れてもらったばかりの茶に口をつけると、身体の内側がじんわりとあたたまっていくのが分かる。あー……気にしてなかったけど、どうやら雨が続くせいで体が冷えていたらしい。確かにちょっと肌寒いもんな。そんなことにも気づかないとは……引きこもってばかりだとダメだなぁ。こっそり反省していると、バサリ。と突然頭に何か被せられる。

「ふぁ?! 何?!」
「寒いんだろう。着ておけ」
「あ。大倶利伽羅。って、ジャージ? いいの?」

 いつから聞いていたのか。っていうか見ていたのか。大倶利伽羅が羽織っていたジャージの上着を貸してくれるみたいだった。でも私デブだからな。着られるかな。

「妙な心配をするな」
「アテッ。すんません」

 大倶利伽羅に軽く頭を小突かれる。どうやら何を考えているのか分かったらしい。意外と人のこと見てるんだよね。大倶利伽羅って。

「大丈夫。主はほら、結構小さいから」
「うん。燭台切それフォローになってねえわ」

 若干悲しい気持ちになりつつも袖に腕を通せば、以外にもちゃんと腕は通ってくれた。よ、よかった……とりあえず大倶利伽羅の腕よりは太くないってことで……。

「でもやっぱり大きいね。丈余っちゃってるわ」

 ぺろぺろと余る袖口を揺らせば、何故か「んんッ」と大倶利伽羅が咳払いする声が聞こえる。ついでにヒラヒラと数枚桜が散ってきた。え? 何で?

「……フォローしたけどちょっと複雑な気分だよ、伽羅ちゃん……」

 何故か微妙な顔をしている燭台切も気にはなるが、それよりも。

「……何か、妙に静かじゃない……?」

 さっきまで縁日みたいに騒がしかったのに。何故か水を打ったように静まり返っている。正直振り向きたくない。
 だけどそんな重たい気持ちになったのも一瞬だった。この“てるてる坊主大作戦”を思いついた秋田が真っ先に動いたからだ。

「か、亀さん大作戦決行ー!!!」
「は?! 何それ、ってギャアアア?!?!」

 説明しよう! 『亀さん大作戦』とは、私の体に皆の衣装の一部を被せることである! って何でやねん!!!!(※喪女審神者参照)

「デジャブデジャブ! ものっそいデジャブ!!」
「はあ。また洗濯ものの山みたいになってますねぇ」
「洗い甲斐があるねぇ」
「私のことまで洗わんでくださいよ?!!」
「おら、寒いならちゃんと着とけ。貸してやるから」
「いやだ兼さんったら男前!」
「おうよ! もっと褒めろぉ!」

 結局またいつもみたいに騒がしくなったけど、皆が上着を貸してくれたおかげでちっとも寒くなくなった。っていうかむしろ暑い。皆もう遊んでるだろコレ。

「さってと、それじゃあ皆さん、出来上がったてるてる坊主吊るしていきますか!」
「おー!」

 本日のお兄ちゃん刀こと鯰尾の一言により、それぞれが出来上がったてるてる坊主を手に軒下に吊るしていく。
 乱が作った色鮮やかなものから、三日月と大典太が作ったシンプルなものまで。多種多様なデザインのてるてる坊主が本丸を彩っていく。

「沢山作ったねぇ〜」
「うん。流石にこれだけあれば雨も止むだろうね」

 ゆらゆらと揺れるてるてる坊主たちを眺めていると、いつものように小夜が隣に座ってくる。その小さな体と一緒に見つめる先には、未だに楽し気に笑いながら軒下で騒ぐ皆がいる。

「あーあ。もっと可愛くデコればよかったなぁ〜」
「あ! それじゃあ今度はお花とか飾ってみようよ!」
「お! いいねいいねぇ、それ採用!」
「君たち、花を無暗に散らしてはいけないよ?」
「これは甲乙つけがたい出来だよなぁ〜」
「意外と顔を描くのが難しかったよな」
「じゃあこの勝負は引き分け、ってことで!」
「お、左文字たちは紐の色を変えて洒落た感じにしているのか」
「ええ。暇な時間はよく編んでいるんです。特に宗三が」
「ちょ、江雪兄さま!」
「フフフ……色合いが味噌なんですよ」
「にーいーさーまー!」

 例え雨が降っていようと、皆の賑やかさが色あせることはない。微笑ましい気持ちで眺めていると、言い出しっぺである秋田がくるりと振り返ってくる。

「主君! 明日晴れたら、一緒にお出かけしましょう!」

 その笑顔が何だかお日様みたいだったから、思わず「秋田が隣にいれば雨でもいいかなぁ」と返してしまった。途端に秋田は照れたように笑い、皆からはずるいだのなんだのと野次が飛んでくる。
 うん。それでもやっぱり、

「明日晴れるといいよねぇ」

 久々にお日様を拝みたいもんだ。と小ぶりになってきた曇り空を見上げた。


end

大雨が酷い地域もありますので。祈願も込めてのネタでした。



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